第114話 番外編 二人目の敗北者

「ロード様! またこんなに書類を散らかして!!」


「ん? あぁソフィ。おかえり、視察後苦労。書類は……すまない、そのままにしていてくれるか。すべて場所と内容は暗記しているんだ」


 書類に埋もれるロード・アースガルズ。

その部屋は書類でいっぱいで、散乱している。

第二次世界大戦が終わり、世界騎士団ができてすでに15年近くが立っていた。

 

 ソフィはあたりを見渡す。

すべて暗記しているなどにわかには信じられないが、この人ならやりかねないとも思った。


「はぁ、世界は平和になったのですからもう少し休まれては?」


「なに、この命最後まで捧げる。そういったのは私だからな、身を粉にして働かなくては」


「相変わらず忙しいですね」


「あぁ、休む暇もないよ」


 するとソフィがロードに近づく。

そして。


くんくん。


 すっぱい匂いに顔をしかめる。


「ロード様、最後にお風呂に入ったのはいつですか?」


「ん? 三日前だが……誰にも合わないからな。いいだろ」


「私が今日戻ることはしってましたよね? それに今日何の日か知ってますよね!」


「あぁ、それが?……どうした、ソフィ、そんな怒った顔をして」


「もう! 知りません!」


 するとソフィが何かに怒りながら勢いよくドアを閉める。


「なんだったんだ?」


 悪魔の頭脳、世界最高の指揮官は、こと自分のことに関しては頭が回らない。

いや、回さないという表現の方が正しいだろう。



「もう! このままじゃ私行き遅れちゃうじゃないですか! 今日私の誕生日なんですよ! どう思いますか、剣也さん!」


「はは、あいつらしいから何とも……」


 自由の国 フリーダム 御剣邸。

ソフィは怒りのままに俺の家へと乗り込んできた。


「剣也さんみたいな鈍感系主人公ならまだわかります! でも仮にも頭いいキャラでしょ! あの人! あーもう、私30ですよーー三十路だーー」


「いや、そんなメタい発現されても……でもあいつはさ、ほら色々あったから。愛ってものを信じ切れてないというか……」


「だから私が教えてあげようとしてるのに! レイナさーーん、どうすればいいですか?」


「色仕掛けですね」


「ちょ、レイナ!?」


「気づいてもらえないときは、色仕掛けです。ネグリジェを付けて胸を揉ませれば大体いけます。パパはそうすればすぐに襲ってきますから」


「やめて、レイナ。恥ずかしい我が家の事情を話さないで」


「色仕掛け……得意分野です。任せてください」


「いや、どうかな~~。やめた方がいいんじゃないかな~~」


 目をギラギラさせるソフィを見て俺は嫌な予感がした。

しかし、思い出すのは隔離塔での出来事。

そういえばこの子特殊な訓練を受けてるとかいってたな、今度レイナに教えてあげてくれませんか? 特殊な技を。


「ロードって性欲とかあるのかな」


「あります、お部屋をお掃除したときカピカピの──」


「それ以上はいけない」


 親友の恥ずかしい事情を赤裸々に話そうとするメイドの口をふさぐ。

やめてくれ、これ以上あいつのイメージを壊さないでやってくれ。


「あ、おかえり。かぐや」


 すると扉を開けてかぐやが買い物から帰ってくる。


「ただいま、剣也、レイナ。あれ、ソフィきてたの?」


「あ! かぐやさん! これはかぐやさんにも聞いておいた方がよさそうですね!」


「ん?」


 そしてソフィはかぐやにも事情を話す。



「押し倒しなさい」


「そんなこったろうと思ったよ!」


 ソフィが事情を説明してかぐやにアドバイスをもらう。

しかし案の定レイナと大差ないような回答が返ってきた。


「剣也とロードさんは、大体力は同等よ、私達なら簡単に倒せるわ」


「確かに! ロード様、力ありませんしね! 剣也さんと同じぐらい非力です!」


「はは、俺はKOG専門だから」


「ええ、だからパパなんて夜私に──」


「それ以上はいけない」


 あぶない、あぶない。

俺の性癖が暴露されるところだった、ってかこれがガールズトークなの? さっきから下ネタがひどいんだが。


「では、お二人の意見を加味して、ネグリジェで胸を揉ませて無理やり押し倒してみます」


「ソフィは可愛いから余裕よ!」

「応援してますね」


 女達の決意は固いようなので、俺はもう何も言うまいと窓から空を眺める。


(がんばれ、ロード。俺からはお前の無事を祈ってあげることしかできない)


 そしてソフィはいいアドバイスが聞けたと喜びながら御剣邸を後にした。



 ロードの執務室にソフィは再度現れた。


「ロード様! 今日はお家帰ってくださいね!」


「あぁ。大丈夫だ、もう少しで終わる」


「待ってますね!」


 そういって笑顔でソフィは執務室から出ていった。


「なんかいきなり機嫌良くなったな……本当によくわからん」



「さてと、まずはネグリジェですね。ドエロいのにしましょう。黒でいいかな」


 ソフィは準備を行う。

先にロードの家に帰り、使用人特権を使い、アロマを炊いて、間接照明をつけてエロい雰囲気の準備をする。


「ふふふ、これでロード様も……興奮してきた」


 いやらしい顔を浮かべるソフィ。

ソフィだって年頃、いやもう十分に年は重ねている。

それをロードのせいでずっとお預けを食らっていたのだから性欲も爆発するというものだ。


「性のつくものをたっぷりと……」


 ソフィは料理も完璧に仕上げる。

今日はスペシャルメニューだ、性がつくような食材をふんだんに使った料理をニコニコしながら作っていた。


プルルプルル


「はい! ロード様?」


 そこに一通の電話がかかる。


「あぁ、ソフィか。すまない、緊急の世界会議が入ってな、中武にいくことになった。今日には帰れないかもしれない。だから先に夕食は食べておいてくれ。すまない」


「あ、そうですか……わかりました」


ツーツーツー


「そっか……」


 ソフィは鍋の火を止める。

作った料理にラップをかけて冷蔵庫に閉まっていく。

飾り付けたものをゆっくりと片付けて、アロマ止めていつもの部屋に戻していく。


「お忙しい方ですからね。仕方ありませんね」


 自分に言い聞かせるように笑顔で片づけを進めていく。


「世界の代表のおひとりですからね、私なんかと……わたしなんか……あ、あれ? あれれ?」


 机を吹いていると、自分の目から涙がこぼれるのがわかった。

急いで拭いたが、気づいてしまうとどんどん溢れて机を汚していく。


「あ、あ、いけません。何を期待していたのでしょう、ダメですよ、ソフィ。ロード様は本当にお忙しいのですから」


 今日、中武に行ったという事は、間違いなく今日中に帰ってくることはできない。

つまり誕生日には間に合わないということ。


 もしかしたらお祝いしてくれるかも、そんな淡い期待をしていた自分の考えを正す。


「ロード様はきっと、世界のために走り回っているんです。私一人のためなんか……」


 すべての掃除を終えたソフィは、ベッドへと向かった。


「せめて、これぐらいは……」


 そういって、ロードの枕を抱きしめて眠る。

少しだけロードの匂いがしたような気分に浸れる。


「おやすみなさい、ロード様。今日だけ我儘させてくださいね、明日からまた頑張りますから……」


 そしてソフィは枕を濡らしながら眠ってしまった。


……


 轟音がなった。

ロードの自宅にまるで戦闘機が降り立ったような音が鳴る。


「え? え? なに!?」


 急いでベッドから飛び起きたソフィ。

数時間は眠ってしまったようだった。

慌てる髪を直しながら、外に出たソフィが見たものは。


「建御雷神……」


 世界最強、最速の機体。

世界騎士団団長、御剣剣也専用機だった。


「ほら、いけ。ロード!」


「あぁ、すまない。剣也。助かったよ」


「まったく、今日だけだぞ。俺をタクシー代わりにしやがって。じゃあ、一発決めて来い!」


 そして建御雷神のコクピットからロードが下りてくる。


 建御雷神が親指を立てて、二人に向ける。


「え? どうして? ロード様?」


「すまない、どうしても今日。間に合わせたかったんだ。まだ11時53分。ぎりぎりだが、ソフィがいてくれてよかった」


「そ、そのために。建御雷神を? 世界最強の機体ですよ!?」


「あぁ、無理を言ってな。剣也が全力で中武から飛ばしてくれたよ。友達料金だ」


「ふふ、もう……」


 するとロードが跪く。


「え!? え!? ロード様 え!?」


「ソフィ、その……なんだ。私は世界ばかり見てきた。世界を平和に、世界中の人を幸せに。それこそが、私の使命だとずっと考えてきた、あの日からずっと。だが、剣也に怒られたよ。本当に大切な人をまず幸せにしろってな。あいつはバカだが、まれに的を射る答えを言う。その通りだと思ったよ」


 ソフィは両手で目頭を押さえて、自分に跪くロードを見る。


「ソフィ、私はかつて世界を滅ぼそうとした悪逆皇帝で、敵も多い。でもそれでもずっと昔から君がそばで支えてくれていたことは知っているし、感謝している」


「そんな、私は……」


 そしてロードはポケットから一つの箱を取り出した。


「悪逆皇帝、無敗の指揮官、悪魔の頭脳、フリーダム代表、私にはいくつも肩書がある、切り離せない過去もある。だが今は、この時だけは、ただのロードとして、君を、一人の女性を、心から愛する男として言わせてほしい」


 ロードはその箱を開くと同時にソフィに告げる。


「愛している、結婚してくれ。ソフィ」


「は˝い˝! 喜んで!」


 涙を流しながらソフィはロードに抱き着いた。

そしてそのまま指に指輪をはめてもらう。


 この日二人は結ばれた。

それを見届けた剣也が、建御雷神が隠し持っていた花を持つ。


 両手に剣ではなく、両手に花を。


 そしてその大量の赤いバラを二人を囲むように置いて去っていく。


「ふふ、こんなにたくさんの花どうするんですか?」


「はは、プロポーズには花だろ?」


「多すぎます」


「愛の量だと聞いたことがある」


「ふふ……」


 ロードとソフィが結ばれた。

その日の夜、興奮と幸せが限界突破したソフィにロードが襲われたのは言うまでもない。


 この夜、ロードは二度目の敗北を知ることになる。


「ふふふ、ロード様……今日は寝かせませんよ」


「のぉぉぉ!!!!」


 


終わり 二人目の敗北者。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る