第113話 TRUEルート

「なんということだ……」


 剣也が全てKOGを切り伏せて、ロードを連れてアースガルズへと飛び立った。

追従するようにかぐや、レイナも飛んでいく。


 それを玄武は、世界はただ見つめることしかできなかった。


 この日世界中が見守る中ロードの処刑は失敗に終わる。

たった一人、世界最強の騎士の手で、定められた運命は変わり、NEWルートが誕生した。



 一月後。


「帰ったか、剣也。これで最後だな」


「あぁ、これですべて倒した。まったく、殺さずに全部倒せなんて無茶な命令だよ」


「お前にしかできない。それに虐殺はだめなんだろ? だがオーダー通りだ。よくやった」


「あぁ。じゃあ始めるか」


「あぁ、始めよう」



「玄武さん! ロードから皇室放送を見てほしいと!」


「わかった」


 あの日ロードが剣也に連れられてアースガルズに戻ってから世界は静けさを取り返した。

世界中に散らばっていたアースガルズの軍隊はすべて撤収し、戦争は終結。


 そしてアースガルズは突然の内戦に入った。


「内戦がおわったのか、つまりロードは何かをやり遂げたのだな」


 玄武は決めかねていた、なぜならあの日ロードと剣也から一月待ってほしいと連絡があった。

時間稼ぎかと思ったが、時間を稼ぐ必要は全くなく、世界最強の騎士と世界最高の指揮官を揃えたアースガルズは戦力でいえばやはり上。


 ならばその理由とは。


 内戦の理由とは。


 しかし剣也達からはただ一つ、信じてほしいとのこと。

それを真に受けて信じるほど玄武もバカではないのだが、かといって攻め込む余力があるかと言われるとそうでもない。


 それに玄武はあの日あの二人の会話を聞いていた。

あの少年達の胸を打つ心の叫びを聞いて世界を滅ぼすとはどうしても思えなかった。


 だから、世界連合としては、愚策かもしれないが待つことにした。


「さて、鬼が出るか蛇が出るか……」


 そして全世界を見つめる中、皇室放送は始まった。


「……久しぶりだな、アースガルズの国民達、そして世界連合の国民達よ。今日は重大な発表がある」


 そこにはロード・アースガルズがいつもの煌びやかな服ではなく、まるで普段着のような服装で現れた。

そしてその隣には、世界最強の騎士、御剣剣也、そして二人の少女も。


「今日、我が帝国の内戦は終わった。私の考えに反対する貴族は全て解体し、地位を剥奪した。これでやっと前に進める」


 ロードはこの一月剣也と共にアースガルズ中で戦った。

相手は、貴族と呼ばれるアースガルズを牛耳る者達。

皇帝といえど、すべてを牛耳っているわけではなく貴族達と反発することもあった。


 表立って反抗はしないが、戦力でいえば、五分であるのが全貴族と皇帝だった。


「貴族を解体……ロードは何をするつもりだ」


 玄武達が見据えるその映像の先。

そしてロードが大きな声で宣言する。


「本日をもって、アースガルズ帝国を解体する!」


「なぁ!?」


 その発言は全世界へと駆け巡る。


「アースガルズ帝国は解体し、植民地だった国はすべて返還、独立を認めよう、もちろん、その手助けも行う。級等制度も廃止し、元2級以下のアースガルズ人すべてを解放し、十分な補償を行うことを宣言する」


「まさか……本気なのか……ロードは帝国を終わらせる気なのか」


 しかしその次に続く言葉はさらに信じられないことだった。


「そして、我が国は民主主義国家として生まれ変わる、私はただの一般人へとなり下がった。この服はその証拠だ。ただし、第一回の選挙までは便宜上私が代表として行動することを許してほしい。だから本日をもってアースガルズ帝国は解体する、新しい名前はまだ決まっていない、国民投票によって決定することとした。そして最後にこれが最も重要だが……我が国は一切の軍事力を放棄する」


「軍事力を放棄!? それでは他国に対しての守りが」


「これに関しては新たに憲法というものを定めた、これによって我が国が今後軍事力を持つことはできない。そこに記載されることは、法律よりも、代表の言葉よりも、何よりも優先され、変更は国民の2/3以上の賛成をもってのみ可能とする」


 次々とロードが話す内容は信じられないものばかり。


 しかしそれは民主主義国家のそれだった。


 ただし、軍事力の放棄に関してはあり得ないと玄武も驚く。


「そして、旧アースガルズ帝国軍は、今より名前を変え独立する。名を世界騎士団と名付けた。世界騎士団は我が国から完全に独立しており、どこにも属さない軍事力、いや抑止力となる! アースガルズとは上下関係は一切ない。我々はこれと契約し、我が国の治安維持を依頼する。その代表である世界騎士団初代隊長は、日本人の御剣剣也が名乗りを上げてくれた。そしてレイナ・シルフィード、黒神かぐやの両名を副隊長に置いた」


「そうか、そういう形か」


 玄武は理解した。

旧アースガルズは、この日解体され軍事力は放棄する。

ただし、世界騎士団との契約によって他国からの侵攻に関しては守られるのだろう。


「世界騎士団の理念は一つ。力による支配を許さない。正義の力として世界の治安を守ること。それこそが理念であり、存在理由だ。一切の侵略行為は行わないし、許さない」


 そしてロードが、まるでお願いするように。

皇帝としてはあるまじき行動として、立ち上がり頭を下げる。


「そして最後に、仮ではあるが、国の代表として、お願いしたい。我が国は世界連合への加盟を申請する。ぜひ、受理していただきたい。以上だ」


 そして映像は終了した。


「……なんという…」


 玄武達は信じられないものを見たという思いで空を仰ぐ。

しかし、そんな暇はなかった。


「玄武さん! ロード・アースガルズが……今こちらに向かっていると! KOGもつれずに、たった一機のヘリで! ぜひ会って話がしたいと!」


「父上……」


「まったく、少しは考えさせてほしいというのに……いいだろう、迎えろ」


「良いのですか!? また裏切られるのでは?」


「……KOGもなしでか? 話ぐらいは聞いてやろう。覚悟のないものはこなくていい。こんなおいぼれ殺したところで彼らに利はないよ」


 そして玄武達は、ロードを迎え入れる準備をした。



 空から二人の少年と、二人の少女が降り立った。


「受け入れ感謝する。玄武殿。私はまだ名もない国の代表、ロードです」


 ヘリポートで待っていた玄武。

そして玄武は握手を求めるロードを見た。


(これが一月前と同じ人物か……まったく若さとはこれだから)


 その輝き未来を見据える瞳に玄武は、少しだけ笑みを浮かべて握手に応じる。


「玄武さん。まだあの時のこと謝っていませんでした。でも今日きっとわかってもらえると思ってます」


 剣也が一歩前にでる。

あの日ロードの処刑を止めたことは世界連合へ打撃を与えた。

それを謝る、しかし間違いではなかったとも伝える。


「あの日殺さなかったことが、正解だったと証明できるのかな?」


「必ず!」


 亀のような男は、そのまっすぐな少年の二人の瞳を見てゆっくりと頷いた。


「楽しみだ」



「それで世界連合に加わりたいと」


「はい、そして今日は提案もさせてもらいに来ました。先に結論だけ申します。世界連合にも軍事力を一切放棄していただきたい」


 その発言は、すべての代表達を驚かせる。


 玄武だけは冷静にその発言を聞いて、質問を返す。


「……そして世界騎士団に加盟しろと?」


「はい」


「いきなり、現れたと思ったら随分と横暴ではありませんか? ロード殿」


 カミールがその発言を指摘する。


「皇室放送でも発言しました、我が国は一切の軍事力を放棄し、そして世界騎士団と契約した。しかしこのままでは何も意味をなさない、だから世界連合の各国にも加盟していただきたい。お願いします」


 ロードは再度頭を下げる。


「し、しかし……」


「確かに今までの行動から私が信じられるものではないことは明白です。だから行動で、示していく。その一歩が皇室放送で宣言させていただいた通り、アースガルズ帝国の解体です。信じさせてみせる、必ず。世界中に。私の……いや、私と、剣也の意思を」


「……」


 カミールは言いよどむ。

その少年の目の輝きと、心の奥から信じてしまいそうなほどの真っすぐな熱に。


 それを見て玄武が少し笑いながら質問をする。


「この資料に書かれている通りだとするならば、世界騎士団は各国から人口に比例して人員を募り、各国の代表達の要請によって行動すると?」


「はい、その通りです。武力を持つのは騒乱の元、それを我々人類はもう十分すぎるほどに理解した。世界すべてに介入する巨大な力、世界騎士団による抑止力はもう戦争を起こさない未来を作ることができる。私はそう考えています。そしてその力の源はまた、世界だと。もちろん世界騎士団は正義の味方だ。災害や貧困などで苦しむ国民にも手を伸ばす」


「それは国単位で加盟しても?」


 玄武達が資料を見ていると、ひとりの男が手を挙げる。

今なお爪痕残る日本の代表として、一人の男が手を挙げた。


「ええ、黒神一心殿。日本が加盟してくれるのならこれほどうれしいことはない」


 一心はロードを見つめる。

一心にとって、アースガルズは今なお恨みを持つ相手。


 しかし。


「ならば日本は加盟します。もちろん本国で決議を取る必要はありますが、今我が国に政府はない。しかし必ず加盟しましょう。もう我々の国に自国軍を持つ力はないのでね」


 もう敵ではない。


 一心は同席していたかぐや、そしてレイナを見る。

もちろん事前に話を通していたのは戦略だった。

 

 二人の娘に頼まれた。

しかし、情で選んだわけではない。


 世界騎士団は日本の復興に必要だと心の底から思ったからこそ賛成した。


 それはまるで自衛隊のように災害時も派遣することができるからだ。


 その派遣に関しては加盟国の決議を取る必要はあるのだが、それでも爪痕残る日本の復興には必要だし、反対されることはない。

ただ本音でいえば、信じてしまったから。


 娘と息子、そしてその信じる少年を。


 すると玄武が質問する。


「世界騎士団の運営費は」


 玄武が粗を探すように。

しかしその顔は意地悪のような顔ではない。

まるで、周りに聞かせてやれと言わんばかりだった。


「かつての戦争の賠償金として、今後10年。わが国が負担することを決定しています。それ以降は加盟国の経済規模に比例して負担をお願いするつもりです」


「汚職や、機能不全に陥る可能性は」


「世界騎士団は入念な身辺調査、そして厳しい入団試験を課します。また行動は加盟国の全国民投票もしくは代表達の決定によってのみ行われます。どちらも容易することで、代表達だけに支配されることはありませんし、国民の意思をまっすぐと反映できます。つまりは国民すべてが騎士団員なのです」


 次々と玄武が指摘する。

そしてロードが答えていく。


 ロードの論理はどこまでも考えられており、玄武は嬉しそうな顔をする。


 そのやり取りで各国代表は理解を深めていった。


「最後に聞かせてもらいたい。なぜこんなことをする。アースガルズには一切利点がないはずだ」


 最後に玄武は指摘した。


 アースガルズにとってすべてがマイナスでしかないこと政策をなぜするのか。


 その質問にロードは、一切躊躇わずに言葉をつなぐ。


「世界の平和のため。そしてもう誰にも……大切なものを捨てさせないために」


 そのまっすぐな目は、真の平和を願う目だとその会場にいるものの感情に訴える。


(あまたの政治家と駆け引きしてきたが……まったく……一番苦手なタイプだな)


 玄武は当てられて、熱をもらう。

能力が高く、それでいて本気で善。

玄武が最も苦手としてきた存在だと苦笑いしながらも、飲み込まれてしまう。


 なぜなら、その善性に過去の若くてもがいていた自分を見てしまうから。


 だから玄武は笑う。

そしてもう一度賭けてみる。

自分がいつの間にか見失った世界の形を、その若いエネルギーに。


「わかりました。世界連合としては決議を取りますので回答は控えさせていただく。しかし……」


 その亀のようなお爺さんは、まるで孫を見るような優しい顔でロードに言った。


「中武は、……私は加盟したい」


「父上!?」


「蓮。お前さっきからそんな嬉しそうな顔をしおって。入りたいんだろ? 世界騎士団。事前に話が通されているのは見え見えだ。知っておったような顔をしよって」


「な!? それほど顔にでてましたか……」


「わかっておるよ、お前が戦争のない世界を望んでいることを。大方かぐやにでも事前に説得されておったんじゃろ?」


「……はい、その通りです。ですがこれは! この仕組みはいつか真の平和が」


「蓮よ、わしはこの決定を最後に辞任する。あとはお前が引き継ぎなさい」


「え? 父上なぜ?」


「二十歳にもなっていない小童たちが世界を平和にしようともがいているんだ。儂ではその速さについていけんよ。だから蓮あとは任せる。やってみなければこの仕組みの粗もわからんだろう、だからもっと考えろ。ロード殿含め全員でもっと考えるんだ。それこそがより良い道を進むたった一つの方法だから、もがいてもがいて、進め、正解はないが、進むことだけは正解だ」


「父上………わかりました。精一杯引き継がせていただきます」


 玄武は深く頭を下げる白蓮を見て頷く。

そして視線をロードに映した。


「そしてロード殿」


「はい」


 玄武はロードのその煌めく目を見つめて、優しく笑う。


「いい目になられましたな。あの日とはまるで別人だ」


「はい、彼に。燃え滾るような熱をもらって生き返りましたから」


「うんうん、あの日の言葉は世界中が聞いている。胸打たれたものも多いだろう。その若さこそが世界を変えるエネルギーなのかもしれませんな。微力ながら応援しております。一度は世界の敵となったあなたの進む道は多くの障害があるでしょう。アースガルズ人は世界中から恨まれている、その怨念を晴らすことは並大抵の努力では難しい、それこそ数十年単位の時間が必要だ。それでもきっとやり遂げるはずですね。あなたと」


 そしてもう一人同じように目を輝かせる少年を見る。


「剣也君なら」


 ロードは立ち上がり、深く頭を下げる。


「この命尽きるまで、世界にすべて捧げる覚悟です。そしてかならず成し遂げると約束します」


 そして会議は終了した、旧アースガルズの世界連合入りは認められた。

アースガルズは解体され、世界1,2の国が世界騎士団に加盟した。


 双方軍事力を放棄し、世界騎士団の庇護下に入り、その軍事力の大部分を世界騎士団へと寄与した。

世界を統べる超大国が承認したことで、次々と各国も加盟していった。


 小国達も自国の軍事力では存在しても仕方ないと次々と軍事力を放棄した。


 実際圧倒的に安上がりで、安全保障をしてくれる世界騎士団。

なのに、その防衛力は世界一。

得は合っても、損はなかった、ただし自国の意思で攻め込むことは二度とできなくなった。


 それは発生する加盟国と非加盟国の小競り合いは一方的になることを意味する。


 現にその小競り合いは発生した。


 しかし、結果なにも問題なかった。


 それは一人の騎士が体現した。


 加盟した各国の小さな紛争を、ものの数時間で世界最強の騎士が介入しすべてを終わらせていったから。


 そのまっすぐな剣と強さと人徳。

徐々に世界中の国民達と代表達の心を動かし、いつの間にか世界連合にすべての国家が加盟し、世界騎士団にすべての国家が加盟した。


 非加盟国も、徐々に軍事力を持つ意味を失い、国民の後押しもあり次々と加盟していった。


 文字通りこの星に存在するすべてが同じ組織に入り、同じ理念のもと行動できる。


 そんな未来へ向けて。



 数か月後。


「ロード? いきなり呼び出してなにをするんだ?」


「これが私の最後の切り札なんだ。一緒にみよう」


 そこは巨大な何かを打ち上げる施設。

ロードに呼ばれて剣也はそこにやってきた。


「結構忙しいんだけど」


「まぁいいじゃないか。これが私の最後の政策なんだし」


 世界騎士団は順調に回りだし、世界中で紛争を終わらせていった。

もちろん火種に関しては徹底的な議論を行い、武力による変更をよしとしない世界が生まれた。


 過去の歴史の軋轢は今だある、世界騎士団だって一枚岩とはいかない。

それでも武力という一点での変更だけは許さない、鉄より固い血の掟。


 世界は話し合いのテーブルにつくことができた。


「今日この日、宇宙に人工衛星を打ち上げる。これにより世界どこからでも通信が可能となる。私はこれをスターネットと名付けた」


「スターネット?」


「そう、戦争はな。メディアを操った代表達が起こしたものだ。帝国もそう、皇室放送で国民達を煽り、嘘の情報を流した。国民達は被害者なんだ、正しい情報を与えられなかっただけの。だからそれを変える」


(もしかしてこれって)


「そして世界連合に加盟している国、加盟していない国、文字通り世界中すべての国民にこれを配る。このデバイスを」


 ロードが持つのはKOGデバイス。

もともとはアースガルズだけの技術だったがロードがすべて解放した。


 ロードはこの星すべてでそれを使えるようにしようと人工衛星を打ち上げようとしていた。


「このデバイスによって、国民総投票も行える。そしてSNSと私は呼ぶことにしたが個人が発信するサービスの時代が来る。国ではなく、個人が発信することで、政府によるプロパガンダは意味をなさなくなってくる。国民達は自分で考え、自分で情報を得て、自分で未来を決めることができるんだ。間違えてもいい。でも間違えるなら自分の意思で」


「お前はすごいよ、たった一人でそれ全部思いついたのか?」


「まるで知っているかのような口ぶりだな」


「ふふ……どうだろうな」


「変な奴だ。お、もう発射だ。うまくいくといいが」


「うまくいくよ、大丈夫。きっとうまくいく」


 そして衛星が討ちあがる。

この日この世界にネットが誕生した、SNSと呼ばれるサービスは世界の価値観を入れ替えた。

戦争に向いていたありとあらゆるエネルギーは、飢餓、貧困、復興にテクノロジーへと向けられた。


 この世界に隠し通せる悪などもう存在することを許されない未来へと向けて。


「よし、成功だ! あ、そうだ、剣也、やっと国名が決まったぞ!」


「やっとか! 長かったな」


「あぁ、国名はフリーダム。自由の国、フリーダムだ! あらゆる種族が入り混じり全員が平等の国」


「いい名前なんじゃないか、頑張れよ。第一代フリーダム代表 ロード君」


「この一年だけだがな。まだまだしておきたいことは山ほどあるんだ!」


「お前戦争より、そっちのほうがむいてるよ。めちゃくちゃ楽しそうだし」


「……そうだな。とても充実している。これほど楽しい日々はない」


 剣也とロードは向かい合い、笑顔を向ける。

平和を願った二人の少年は、その若きエネルギーを存分に発揮していった。


 少年がもがき、苦しみ、そして拾った世界。

誰もが見て見ぬふりをして、捨てられてきたものを拾い続けた少年達は新しい道を見つけた。


 二人の少年が見つけたNEWルートへと世界は進む。

二人でなければ見つけることができなかった優しい世界、それはきっとたった一つのTRUEルート。


「今までありがとう、剣也」


「今まで?」


 その発言にかつての悪い予感を思い出して怪訝な顔をする剣也。


「いや」


 それを見て罰が悪そうに少し苦笑いするロード。

ロードは拳を突き出して、剣也と目を合わせる。


「これからもだ」


 剣也も答えるように拳を出す。

とたんに笑いだす二人の拳がタッチする。

 



 そして月日は流れ……16年後。


 世界から戦争が無くなって久しい頃。


「さぁ、始まりました! 世界剣武祭決勝! 今年の世界騎士団最強を決める戦いです!!」


 全世界に放送されているその映像。

世界中が熱狂し、世界中が釘付けになる年に一度の剣武祭。


 Knight of the GIantを操作し、世界最強の称号を決める戦いだった。


「それでは赤コーナー! その銀髪の髪に美しい顔。世界の女性ファンが億を超えると言われるイケメン騎士!! ベル・シルフィード!! 若干16歳の天才騎士の登場です!!」


 キャァァ!!! ベル様!! こっち向いて!!!


 世界中から大歓声のもと、銀髪の少年が歩いてくる。


 客席に手を振り、笑顔を向ける。

それだけで多くの女性が失神していった。


「あいつ本当に俺の子か? 女慣れしすぎてない?」


「ちゃんとパパの子ですよ。だって……私パパとしかしたことないですし♥」


「今日帰ったら次の子挑戦するか。ママ」


「うれしい! 野球……いや、バトルロイヤルできるぐらい頑張りましょうね!」


「100人!?」


 そんなイチャイチャする男と女が自分の息子を応援する。


 そしてもう一人。


「そして青コーナー!! アイドルとしても活動する世界騎士団のアイドル! フォロワー数なんと脅威の2億人!! しかしその実力は折り紙付き!! 御剣なぎさ!!」


 なぎさちゃーーーん!! 

客席には、ハッピと鉢巻、そしてサイリウムをもったオタク達が全力のおたげーを披露する。


 世界的人気アイドルの御剣なぎさ、しかしKOGの強さは世界の頂点に名を連ねる。


 みんなーー!! 応援してねーーー!

あなたの♥を一刀両断! 戦うアイドルのなぎさをよろしくねーーー♥


 うぉぉぉぉ!!


 オタ芸がより一層激しさを増す。


「あれ本当に私の子でしょうね、誰に似たらあんなのになるんだか」


「はは……大丈夫。ちゃんとかぐやのお腹から生まれてたよ」


「ねぇ、あなた。私も男の子が欲しいなーー。そしたら厳しく育てるの、いつかパパを超えれるように」


「いくらでも頑張ります!」


「じゃあ今日ね?」


「今日は私の日ですけど?」


「いいじゃない、剣也が決めて。ねぇ? あなた」


「いや、ちょっと……」


「剣也…どっち?」

「剣也君…どっちなんです?」


 二人の美魔女が剣也を誘惑する。


「じ、じゃあ、この試合勝った方で!」


 その発言を聞いた二人のママが立ち上がる。


「ベル!! 絶対に勝ちなさい! 勝たなかったらママと特訓ですよ!!」

「渚!! 勝て!! じゃないと、お母さんに勝つまで特訓よ!!」


 その発言を聞いた二人が青ざめる。


「ベル、譲ってくれない? お母さんガチっぽいんだけど。まじで嫌だ」


「それはこっちのセリフだ。お前うちのママが切れたらどれだけ怖いか知らんだろ。普段はあんなにおっとりしているのに、KOGに乗ったらそれはもうひどいぞ、鬼だ。だから」


 そして二人はKOGに乗り込んだ。


「「絶対に負けられない!!」」


「それでは試合開始!!!」



「二人とも大きくなったな……あんなに小さかったのに。これが年か。最近一年が早いよ」


 観客席に二人の男女が現れる。

仲むずまじそうな夫婦のように。


「ロード遅いぞ!! あ、ソフィ。もうすっかりお腹大きいね。いつ生まれるの?」


「予定では、あと二か月です。そしたら訓練してあげてくださいね。世界騎士団に入って欲しいんです。ねぇ~~あ、蹴った!」


「おいおい。私の後を継いでくれるんじゃなかったのか?」


「あなたはまだまだ現役でしょ? 16年連続当選のロード様!」


「何十年代表やらせるつもりなのか、国民達は……私はおじいちゃんになってしまうよ」


「はは、みんな望んでるんだ、お前を。白蓮さんも頑張っているしお前も頑張れよ。まだまだお前の罪は許されないようだしな」


「はぁ……この命尽きるまで世界のために尽くさせていただきますよ。で? お前こそ、世界騎士団の代表の座はいいのか?」


「俺より強いやつが現れたらいつでも譲るつもりだ」


「それは……お互いまだまだ引退できそうにないな。お、決着がついたか」


「決着!!! 優勝は……ベル選手!!」


 ベル様!!!

世界中で黄色い歓声が上がり、数人の失神者が緊急搬送される。


「あーベルが勝ったか。渚はアイドル活動で最近さぼってたしな」


「帰ったら、血反吐吐くまで訓練してやる。あのバカ娘」


「ほ、ほどほどにね……」


(すまん、渚。母さんは止められそうにない)


 そして剣也は立ち上がる。


「じゃあいってくるよ」


「久しぶりにみせてくれよ、剣也」

「楽しみですね、剣也さん」

「久しぶりにしごいてあげてね、パパ」

「あとで渚にもね! あなた!」


「そうだな、最近たるんでるし、久しぶりに本気だすか」


 そして剣也は会場に向かっていく。


「整備は万全だよ、剣也君。ついでにバージョンアップもしているからデータを取らせてくれ」


「田中さん……これ以上バージョンアップしてどうするんですか……」


「なに、君にしか使えないからいいじゃないか。これはもう私の趣味だ」


「まぁ俺としては嬉しいですけどね」


 そして剣也は田中にカードキーを手渡され、建御雷神Ver9.3へと乗り込んだ。


「優勝したベル選手には、ただいまより次期団長決定戦を行っていただきます!! 対戦相手はもちろん! 世界最強の騎士、世界の英雄!! 世界騎士団 初代にして現団長!! 御剣剣也様です!!」


 うぉぉぉぉぉ!!!

世界中から大歓声が上がる。

剣也のファンからの熱い声援が世界を包む。

世界的娯楽と化したKOG、そのKOGにおいていまだ無敗。


 世界大戦を終わらせた無敵の騎士。

16年連続で、いや、この世界にきてから一度たりとも土をつけられていない騎士の名前に世界が湧く。

そして空から白きKOGが現れた。

バージョンアップを繰り返し、もはや神の機体とすら呼ばれたKOGが会場に降り立つ。


「なんでこんな場所でまでパパにボコられないといけないのか……」


「何言っている。早くパパを引退させてくれ! じゃあ、久しぶりに本気をみせてくれよ、ベル。父さんも本気だすから!」


「本気? 本気ってまさか……」

 

 そしてその白き騎士が、両手の剣を勢いよく振り切って、本気のプレッシャーを世界にばらまく。


「ひぃ!!」


 白の領域が世界を包み、会場の観客は震えが止まらない。

この震えを感じるためだけに来ているファンもいるほどに、そのプレッシャーは全盛期のそれだった。


「じゃあ、ベル。準備は良いな」


「ば、ばっちこーーーい!!」


 そして空気が爆ぜる。

音を置き去りにして雷鳴が鳴る。

もはや視認することすら叶わずに、いまだ頂点へと昇っていく。


「パパ……本気だしす……ガクッ」


「勝者!!! 御剣剣也!! 今年も世界最強はかわらずに、圧倒的強さを見せてくれました!! 今年の世界騎士団団長は御剣剣也に決定!!!」


 うぉぉぉぉ!!


 大歓声のもと、世界剣武祭は終了した。



 自由の国フリーダム 御剣邸。


「ということで! 勝者はパパだったので、二人でご褒美です!」


「感謝しなさい……三人でなんてちょっと久しぶりね。今日は寝かさないわよ」


「うそだろ、そんな設定があったのか!?」


「ふふ、元々そう決めてたんです。今日はそういう日だと。もうすっかり子供を産んで三十路のおばさんですけど……いいですか?」


「何言ってるんだ。まだまだ最高にエロい!!」


「バカね……いつもいってる。じゃあはい、どうぞ?」


 ベッドで寝転がる二人の美女。

向かえるように大きく腕を広げてこちらを見る。


「じゃあ、お言葉に甘えて……とう!!」


 怪盗よろしく、全力ダイブ!


 その反応に二人が笑う。

向かい合って、幸せそうに。

何の溝もなく、笑顔を向けて。


「二人が笑っているの最高に嬉しい。頑張ってきてよかった」


「ふふ、そうですよ。だってパパが望んだのは……」

「あなたが望んだのは……」


 そして剣也はうなずいた。


「うん! 二人とただイチャイチャできる世界だから! ということで……おりゃ!!」


「キャッ!」「フフフ……」


 世界にただ幸せな笑い声が響き渡る。

戦争はなくなり、すべてのエネルギーは人類の発展へと向けられた。


 世界は一つにまとまって、飢餓も貧困も戦争に使っていたエネルギーを全て回して無くなった。


 それはとても優しい世界。

望んでも手に入らないかもしれない理想郷。


 それでも最後まであきらめず、望み続けた少年は到達した。


 ただの引きこもりの少年は世界を変えて、この世界へとやってきた。


 その鋼のような意思をもって、すべての敵を叩き切り、目指した世界へと変えるために。


 運命すらも切り裂いて、不可能だったルートを選ぶ。

そのNEWルートは、TRUEエンドを迎えることができる唯一の道。


 諦めない少年だけに、すべてを拾おうとした少年だけに許された世界。


 この物語はここで終わる。


 だから最後にもう一度あなたに問う。


 問 ゲームのヒロインに恋をしてはいけないのか。


 そしてきっと答えはこうだろう。


 解 世界を変える覚悟があるのなら。



両手に花を、両手に剣を。 ~ロボットゲームのヒロインにガチ恋したら、世界が変わった~












あとがき


書き切った~~、少し長いので読了感を邪魔したくありませんから、また時間空いてるときでも読んでください。


この話に関しては、コメントすべて返えさせていただきます!

面白かったの一言だけで私は大満足するので、どしどし送ってください!!



前話「誓いの言葉」の最後、あの場面を書くためだけにこの小説を書いたと言ってもいいほどです。

自分はコードギアスに出会ったのが中学生、それから何度も何度も繰り返してみました。

その自分がオマージュした小説を書くとはあの頃では考えられませんでしたね。

何度読んでもあの最後は悲しくて、だから自分の物語だけはあの道を通らないようにと作り上げました。


悲しいですが、この物語はここで終わりです。

今のところ書籍化等のお話は来ていませんし、ちょっとギアス強すぎて難しいかなとも思います。

一応なろうの方にも全部投降しましたので、よければ★つけてやってください。そうすればもしかしたら書籍化、アニメ化なんてことも……。

https://ncode.syosetu.com/n6329hr/

誰よりもこの小説を絵で、映像で、みたいのは私だと思います、もし少しでも応援したいと思ってくださればお願いします。


では、これにて完結と相成りました。

できればフォローそのままにしてくれると嬉しいです。

実はもう次作のプロットを練っていて、数話ですが書きました。

この作品で宣伝しようかなと、そのときはSSも同時に上げますね。


あ、最後にユーザフォローだけしていってくれると新作の通知が行くと思うので、次の話も読んでくれる方はなにとぞ!!!

https://kakuyomu.jp/users/kazu-ta


あとついでに私の前作、ダンジョン物が書籍化決定してますのでその宣伝もしておきます。

主人公は同じ名前の御剣剣也で性格も同じです。きっと楽しんでもらえると思うので良ければどうぞ!

https://kakuyomu.jp/works/16816927859759369042


では、また次の作品でお会いできることを心より願っております。

最後になりますが、読者の皆様のおかげでここまで書き切ることができました。

そして、お金を払ってまでサポータになってくださった皆様本当にありがとうございました。


皆さまに心から感謝しております。

では作者のKAZUでした! また次回作でお会いできることを楽しみにしています! さようなら!!

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