第110話 多くの人に守られて

「レイナ、かぐや! その人たちは三英傑の!」


「大丈夫です、剣也君」

「ええ、私達あの日誓ったから」


「「守られるんじゃなくて、共に戦いたいって!」」


 剣也の静止も構わずにレイナとかぐやは、それぞれが自分の相手を自覚する。

レイナはラミア、かぐやはオルグと一対一へと持ち込んだ。


 そして他のすべてを。


「……わかったよ、じゃあ残り全部」


 両手の剣を勢いよく振り切った。


 剣の領域が世界を包む。


「俺が倒す」


 風すら拭きそうなほどにプレッシャーが剣也を中心に放たれる。


「うわ、すご。剣也どんだけ強くなってんのよ」

「オシリスさんよりも遥かに……」


 レイナとかぐやもその剣気とも呼べるプレッシャーに充てられた。

そしてそれは敵も同じこと、かぐやとレイナが一対一で戦えるように剣也が残りすべてを牽制する。


 レイナとかぐや、そして剣也が背中合わせに戦う。


「ほう、儂の相手はお前か」

「よろしく、オルグ・オベリスク。私はかぐや。アジア13神、そして!」

「ぬぅ!?」


 かぐやがオルグの大剣を吹き飛ばす。


「剣也の彼女よ!」


 そして一方レイナ。


「ジークさんの娘さんですね。できれば戦いたくはないのですが、仕方ありません。これは命令なのですから」

「パパを知ってるんですか。なら比べてみてください」

「!?──鋭い!」


 ラミアにレイナが切りかかる。

0から100への全力移動、その練度はもはや。


「私はパパを超えられたか!」



「ロード。お前はそこにいるんだよな」


 剣也が見据える先、そこには80以上の専用機の後ろに巨大な浮遊航空艦。


「そこまでいくから、準備しとけ。思いっきり殴ってやるから」


 そして一瞬だけ後ろを見る。

かぐやとレイナ、二人の戦いを。


「二人とも、本当に強くなった。いまならいい勝負ができそうだな。だから……任せる!」


 守ろうと思っていた、でも本当は二人に守られているのはいつも自分だった。


「はぁ!!!」


「な!? こいつ、さっきまでよりも!?」


 一人の聖騎士長のKOGを叩き切った。

ガードをすり抜け、まるで剣也の剣がすり抜けたように。


「守られてるのはいつも、俺だった!」


 前の世界、死のうとすら思った。

でもいつも彼女達が止めてくれた、もちろん止めようとなんて思っていないだろう。

でもあの世界への執着がたった一人だった剣也を止めてくれた。


「今度は俺が守るって! だからあの時はそれで満足だった。自分の命でかぐやが守れるなら!」


 命を懸けて守ったとき、やっと恩返しができると思った。

でも実際はかぐやを悲しませてしまった。

復讐にとりつかれ、自分のためにかぐやは戦場に出てしまった。


 なにも守れていなかった。


「でも、結局守れていなかった! それに剣武祭の時だって! 結局君に! 君の声に俺は助けてもらった!」


 次々とKOGを落としていく。

ガードの上から、一太刀だって止められない。

その白き騎士の白刃が、聖騎士長達を一閃する。


「な、なぜ!? なぜ我々の攻撃が全て読まれる!?」


 まるで、世界全てを掌握したかのような全能感を剣也が包む。

何処から切っても、視線すら合わせずに無我の境地で、すべてを止める。


 もう上り詰めたと思った、でもまだ上があった。


 まだ剣也は成長する。


 限界など、存在しないと体現するように。


 それでも。


「でも結局二人がいないと、俺はだめだった! KOGがうまくなっても結局だめだった!」


 思い出すのは隔離塔。

自分を救うために命を賭して駆けつけてくれた二人。

もし彼女達がいなければ、自分はあそこでずっと何もできないままいただろう。


「強くなったと思ったけど、結局一人じゃなにもできない!」


 一振りで、一機、二振りで、二機を落としていく。

極みに達したと思っていた剣也は一振りごとにさらに自分が上達していくことを実感する。


 もはや、次元の違う存在へ、剣神の名を体現するかのように。


 それでも剣也は、そのたびに思い出す。


 田中さん、一心さん、ジークさん、オシリスさん、レイナ、かぐや、ジンさん…。

数え出したらキリがないほどにこの世界でたくさんの人に助けてもらった。


 綱渡りのような戦いを何度もした。


「だから、ロード! この世界は! 一人では生きてはいけないんだ! どんなに強くても、どんなに天才でも!」


 誰よりも剣也は自覚している。

極みに達したからこそ見えてくる。


 どれほど強くても、この世界ではたった一人で生きていくことなんてできないと。

たった一人で世界は変えることなんてできないと。


「だから! 俺は! みんなと! みんなと一緒に変えるんだ! みんなが笑って手を取り合える世界に! そこには!!」


 そして半分以上のKOGを撃破する。

その剣の領域には自分以外は存在しない。


 白き騎士が生み出した白の領域は今完成した。


 彼の願いを込めて、その領域は完成する。


 そして、その願いとは。


「はぁはぁ……そこには。お前もいるんだ。ロード。お前もみんなと一緒に笑ってほしいんだ」


 聖騎士長達を切り伏せて、思いを体現するように。


 もはや聖騎士長100でもその白き騎士は止まらない。


 それを予測できたものなどいないだろう。

誰が想像できる、世界の頂点にいる100人をもってしても切り伏せられない存在がいるなど。

誰が想像できる、たった一人が武を極めただけの存在が世界を変えるほどの力を持つなど。


 想像できたものなどいなかった。


 そして剣也はロードを見る。

自分の想いを見せつけるように、そして。


 気づいた。

 

「あの赤い光は……」


 予測できるものなどいないだろう。


 たった一人、誰よりも彼を信じる敵を除いて。

 



「剣也、お前は本当にすごいよ。お前ほど強い男を私は知らないし、未来永劫現れないだろう」


 剣の頂の戦いをみたロードは震えた。

圧倒的なまでの強さ、自分の想像をいつも超えていく友の剣に。


 それでも驚きはなかった。

あの日100機撃破されたときは信じられないと叫んだ。


 しかし今はむしろこの光景こそが信じられる。


 自分の騎士は止まらないだろう。

どれだけ策を弄しても、どれだけ強敵を用意しても。


 さらにその上を行くのだろう、いつも想像を超えていくだろう。

その場で無理やり成長して、結局誰も届かない高みへと昇るのだろう。

なぜなら、あの日その剣にロードは世界を変える力を見たから。


 だから味方に引き込んだ。

そして自分を皇帝にしてもらった。

それが済めば用済みのはずだった。


 それでも捨てることができなかった。


 なぜだろう。


「だから……この結果も見えていたよ。お前ならこの戦力差でも勝ってみせると。だから」


 そしてロードは最後の命令をだす。


「剣也、すまない。卑怯な私を許せ──いや、恨んでくれ」


 ゼウスの砲撃の命令をだす。

すでに充填されている最大火力の最大出力。

その範囲は、半径50メートルの広範囲のエネルギー砲。


 その光を見たときにはもう遅い。

剣也をもってしてどうあがいても防御不可、そしてまだ周りには聖騎士長達。

彼らには伝えられていた、敗北を悟ったロードから、そこで剣也を逃がさないようにしろと。


 一定のポイントに次々と切られながらも剣也を誘導するように指示を与えられていた。

その指示を出していたのはもちろん、ロード。

剣也は気づかなかった、巧みに場所を誘導されていることに。


「……そうか。お前はやっぱりすごいよ」


 その光を見て剣也は全てを察した。


 味方もろともすべてを焼き尽くす神の怒りをもって、二人の道をここで永劫に焼き尽くす。


 それがロードの最後の作戦だった。

聖騎士達を犠牲にすることが前提の作戦、この戦力ですら敗北することが前提の作戦。

そして目に目いっぱいの涙を溜めて、ロードは命令を下す。


「……放て」


 剣也を殺す一言を。


「……俺の負けか」


 剣也は悟った。

集中の極限にいたからこそ、わかってしまった。


 完璧なタイミング、もはや今からではその光はもう避けられない。

どんな強さをもってしても、どんな技術をもってしても。


 そのロードの覚悟の光からは逃げられない。


「ごめん、レイナ。かぐや」


 ゆっくり目を閉じて、敗北を悟る。

不思議と悔しさはなかった、多分ロードならかぐやとレイナを殺さないでいてくれるかなと少しだけ淡い期待もしていたから。


 そして赤い光が剣也を焼き尽くす。

剣也は死んで世界はロードの手に落ちる。

世界最強の力をもって神のごとき軍団を切り伏せてなお、ロードの勝利は変わらなかった。


「剣也!!」

「剣也君!!」


 レイナとかぐやもその光に気づく。

しかし、すでにもう遅い、この距離では助けるばかりか自分達まで焼き尽くされる。


 その神の光が全てを焼き尽くし、世界は終わった。


 赤き閃光が、戦場を焼き尽くし、そのあとには何も残らなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る