第109話 両手に剣を、両手に花を
「一体……何が起きた」
玄武含め、世界連合の面々がレイナ、かぐやに守られながら安全な場所へと移動した。
周りを見渡せば交戦したであろう、世界連合のKOGが全て瓦礫となっている。
交渉施設は崩れ、そして100を超える敵KOGはすべてたった一人のKOGを見据えていた。
こちらがあつめた戦力は、同数の100機。
そのどれもが正しく訓練を積んだ精鋭達、しかしアースガルズはその次元の話ではない。
毎年何千人とアースガルズの才能が集まるすべての養成学校、その頂点に立った十人ほどがなれる聖騎士。
そしてその聖騎士の中でも戦場を駆けて腕を極め、敵に畏怖と尊敬で呼ばれる存在。
それが聖騎士長、たった一人で戦況を変える存在。
その聖騎士長が30名、世界中すべての拠点を防衛していたものをロードはこの地に集めていた。
「いいのか、ロード。世界連合は、この間にすべての国境を押し込むぞ。ヴァルハラまで到達するかもしれない」
「承知の上だ。それにいくら領地を取られたとて私がいれば問題ない。すぐに取り戻すよ」
「そうか……じゃあ」
剣也が剣を構えて、ロードに向ける。
体調は万全、心の覚悟もできた、技に関しては世界一。
心技体すべてが揃った剣也が集中の極みへと踏み入れる。
(もっと……思い出せ、オシリスさんとの戦いを)
さらに深く、もっと、奥へ。
扉を開いて全能感が体を包む。
ゆるりと構えていた聖騎士長達が、殺意の波動を感じて身震いする。
全力で、構えて死を覚悟するほどに集中する。
「ここでお前を倒せばすべて終わるんだな」
「いいや、ここでお前を倒して始まるんだ」
そしてロードはそう言い残し、KOGの中に消えていった。
空を飛び立つ剣也、そして100体のKOG。
両手の剣を勢いよく振り切って、世界に剣の領域が生まれる。
聖騎士長達は感じ取る。
しかし、一切引く気はない。
「ロード……俺も覚悟ができたよ」
そして世界の頂点を決める戦いが始まった。
…
「逃げてください、ここは戦場になります」
かぐやとレイナはすべての非戦闘員を避難させる。
瓦礫が崩れた施設から玄武達が避難し、輸送船へと連れていく。
「君達はどうする、あの最強の軍団に勝てるわけが……あれは100で一国すら一日で落とす戦力だぞ」
「そうですね、でも、彼なら」
「剣也なら」
「「きっと勝てる!」」
避難が済んだレイナとかぐやは剣也のもとへと向かっていく。
…
「さて、ソード君が相手か、まさか戦うことになるとはな。あまり乗り気にはなれんな」
聖騎士長の一人、そして三英傑の一人であるオルグ・オベリスクもこの日本に来ていた。
そして、もう一人。
「舐めてかかるわけにはいきません。彼はオシリスさんをも超える本当に世界最強の騎士なのですから」
もう一人、ラミア・シルバーナもまた目の前の少年を見つめていた。
直後まき散らされる殺意の波動と、剣の領域。
その範囲にいたすべての聖騎士長達が剣を構える。
もちろん、オルグも当てられる。
その闘志に充てられてオルグの闘争心が燃え上がる。
「……これほどか! ラミア! すまんが、先ほどのは嘘だ! 一番目はもらうぞ!」
闘争心を煽られたオルグ、その巨大な剣をもって一番槍を務める。
「はぁ、わかりました。援護します」
そしてラミアも追従する、合わせるように他の聖騎士長達も剣也を取り囲む。
そして戦闘が始まった。
「くっ!」
剣也はオルグの一撃を受ける。
その巨大な剣を、その両手の剣で。
「簡単に止めてくれるわ!」
「よく言いますね、こんなに重いのは初めてですよ!」
「あの日からソード君とは一度手合わせしてみたかった! できれば、模擬戦がよかったがな!」
一対一なら負けるつもりはない、しかし仮にも三英傑。
他の聖騎士長達にも気を配りながら倒せる相手ではなかった。
それでも剣也は異次元の力を発揮する。
集中の極意をもってして、聖騎士達を切り伏せる。
縦横無尽に、別格の動きを持って翻弄する。
しかし。
「はぁはぁはぁ、あの時とはレベルが違う……」
数分の切り逢いで、すでに剣也は消耗していた。
周りには数体のKOG、剣也が倒した聖騎士達。
逆に言えば、まだ数体しか倒せていないということ。
「くそっ!」
一息つく間もなく、聖騎士達が剣也を襲う。
「全員がマスターレベル。一人ひとりの練度がまるでジークさんだ」
一般兵なら多対一でも隙を狙って少しずつ減らせる。
しかし、この相手ではその隙すらもほとんど皆無。
「それでも、数体倒された。やはりすさまじい強さですね」
ラミアは冷静に分析する。
聖騎士達も一瞬たりとも気を抜けない、それほどに今の剣也は極まっている。
少しでも隙を見せようものなら一瞬のうちに下にいる仲間達のように瓦礫の仲間入りだった。
「ほんとに! 嫌なところばかり狙ってきますね!」
「これも止めますか。あなたの癖はつかんだとおもったんですけどね、驚異的な反射神経だ」
ラミアが隙をつく、そしてオルグが力で押す。
その二人を起点に他の聖騎士長達が剣也を包囲し剣戟の嵐を巻き起こす。
剣也の消耗は著しく、敗北の二文字が脳裏に浮かぶ。
「しまっ─!?」
ほんの些細なミス、指が滑りほんの数ミリレバーがずれた。
しかしそのミスは致命的なミス、剣也以外はミスとすら思わないほどの些細なずれ。
極限の状態だからこそ顕現してしまった。
「すまぬな、ソード君! これも戦争だ!」
オルグが振り下ろす巨剣、剣也には見えていた。
走馬灯、世界がスローに感じる、しかしどうあがいても振り下ろした両手の剣はもう間に合わない。
「そうね、これは戦争。だから横やりだって入るわよ!」
しかしその巨剣は、真っ赤な剣によって止められる。
「ほう! お前は世界連合の」
剣也の右には真っ赤なKOGが、オルグとの間に入って剣也を守る。
「かぐや!」
「ごめん、遅れた」
そして剣也の左には、美しい機体。
剣也の隙を突こうとしたラミアの一撃は止められる。
「あなたはジーク先輩の……」
「全員無事です、剣也君。それとあなたの隙は私が埋めます」
ラミアの一撃を受けきった白銀の雪に、桜吹雪が舞い散った機体。
白銀の氷姫こと、レイナ・シルフィードも到着する。
「二人とも助かった!」
そして剣也は両手で剣を構える。
そして美しい両輪の花も剣を構える。
まるで剣也を守るように。
両手に剣を、そして両手に花を。
「剣也、こいつは私が!」
「剣也君、この人は私が!」
「「倒します!」」
そして目の前には、世界最強の軍団を。
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