第108話 世界を変える覚悟
一人の少年が訓練施設へと入場する。
巨大な体育館のような施設は、今日この日のために会議室に作り替えられていた。
広い空間は、室内訓練用として作られた場所。
そこに机と椅子が並び、アースガルズの代表達、そして世界連合の代表達が座っている。
その一番前には、世界連合の代表。
玄武とカミール。
そして今空席だった席に向かってゆっくりと少年が歩を進める。
「では、はじめましょうか。ロード殿」
「あぁ、世界の運命を決めよう。今日ここで」
アースガルズ第100代皇帝。
ロード・アースガルズが座り、まっすぐと玄武達を見据えた。
そして始まるのが、世界の運命を決める話し合い。
全世界に放送される運命の戦いが。
…
「──以上が、アースガルズ帝国の要求です」
ロードの横で文官らしき男がアースガルズの要望を述べる。
「本気ととらえていいのですか? まさかこんな戯言を言いに遥か日本まで?」
カミールが怒りを少しにじませるような声で反論する。
アースガルズの要求は、ありえないレベルの暴論だった。
「すべての国家はアースガルズが指定する教育学校を16歳まで就業する。これに違反するものは人権を与えない。こんなことが許されるわけないでしょう。それに」
そしてもう一つ。
これが一番ありえないとカミールは机を叩く。
「すべての国家の決定は、自国の決議後アースガルズ評議会で再度決議し、皇帝の承認を経て可決される。これはもう征服と何が変わると?」
国家が何かを決定するたびに、アースガルズの許可がいる。
それはもう実質アースガルズが支配している国と一緒、カミールの主張はもっともだった。
「血を流さない、そして私の目的の達成のために。これ以上は譲れない。では決裂ですか?」
しかしロードは一切譲ろうとはせずに、玄武達を見据える。
その発言に黙り込んでいた、玄武が口を開いた。
「ロード殿。我々は今日は交渉することができると思っていたのですが、違っていたようですな。目的はなんですか、なぜこのような場を作ったのですか」
玄武は理解した。
こんな暴論を世界連合が受け入れるわけはない。
そしてロードは譲る気がない、ならばこの交渉の席は一体何の意味があるのかと。
他の目的があるのだと玄武は理解した。
「覚悟をみせるため」
「……覚悟?」
全く予想していなかった答えを返すロード。
その発言に眉を顰める。
しかし、ロードが逆に質問を行った。
「玄武殿、一つ問おう。世界を変えるために必要なものは何だと思う」
「……」
その質問に玄武は黙る。
しかしすぐに返す、彼なりの答えを。
「……力だ。人脈力、軍事力、交渉力、国力。ありとあらゆる力。世界を変えるために必要なのは力だ」
「……さすがは玄武殿、素晴らしく、そして的を得た答えだ。だが私の答えは違う」
「では、皇帝陛下の考える答えはなんというのですか?」
ロードが立ち上がり、大きな声で宣言する。
まるでこの時を待っていたと言わんばかりに高らかに、世界中に。
「覚悟だ。世界を変えるための揺るぎない覚悟。親を殺し、兄弟を殺し、そして……」
ロードが、手を上に掲げ合図のようなしぐさを行い、最後の答えを宣言する。
「最も殺したくない友すらも殺す覚悟!」
「なにを!?」
直後銃声がなり、代表達は身を下げる。
現れたのはKOG、養成学校の周りに配置されていたKOGが交渉の場へと突撃した。
現れたのは1体の専用機。
「やはりか!! 世界の信用を失ってもかまわんということか!」
カミール、玄武が叫ぶ。
ロードが裏切り、交渉など考えてなかったことを理解した。
交渉の場で殺戮行為、つまりは二度と言葉は交えないという意思表示。
世界全てを敵に回す覚悟の現れ。
そしてその専用機から銃口が向けられる。
死を覚悟する玄武達は目を閉じる。
銃声が鳴る、そして。
キーン。
剣の音が鳴る。
弾いたのは剣、そしてもちろん弾いたのは白き騎士。
そんな暴挙を許すわけはなかった。
なぜならそこには。
「ロード、お前の覚悟は受け取っている。こうなることも」
覚悟を決めた世界最強の騎士が待機していたから。
敵KOGを見た瞬間、電光石火の早業で屋根を突き破り、空から落ちて銃弾を切り落とす。
そしてそのまま剣也は剣を構え、そして向けた。
「ロード、お前は俺が……止める!」
しかしその剣を向けられてもなお、ロードは想定通りという顔をして淡々と話す。
「あわよくば全員殺しておきたかったが……それは欲張りというものだな。本来の目的に切り替えようか」
「目的? 玄武さん達を殺すのが目的じゃなかったのか」
ロードの目的は、交渉と偽って玄武達を殺すことだと思った。
だから剣也が待機して、そんなことはさせないようにしていた。
だが違った。
「ふふ、ははは。違うぞ。こんなおいぼれ共、何も怖くない、殺せれば少し楽になるその程度だ。こいつらだけならこんな小細工せずに力だけで私は世界を支配していたよ」
そしてロードが指をさす。
その指の先には、一体のKOG。
白く美しく、両手に剣を持った剣神。
剣也をまっすぐと見据えるロード、つまりロードの目的は。
「私の目的はただ一つ」
そして施設を破壊し次々とKOGが乱入していく。
施設は壊れ、ロードを守るようにアースガルズのKOGが傘になる。
剣也含めかぐや、レイナもすぐに合流し代表達を瓦礫の山から守り切る。
壁は壊れ、外にでる。
「まさか……」
そして周りには、すぐに駆け付けた世界連合のKOG100機。
そのすべて敗北し、瓦礫となっている風景。
そして。
「お前のためだけに世界中に散らばっている者達を集めたんだ、防衛線も軍事拠点もすべて放棄させてな」
通常機の見た目の張りぼてを剥がし現れたのは100機の専用機。
そのすべてが、多種多様の見た目と武器を持ち、圧倒的な力の差で世界連合のKOGを撃破した。
「すべて、専用機? まさか……」
ロードが用意した100機のKOG。
そのすべてが専用機として、剣也を見据える。
「ここにいる全員が一流の騎士だ。聖騎士長30名、そして上位聖騎士70名。我が帝国の最強の100人を連れてきた。一般兵など相手にならんぞ」
ロードの覚悟。
そして世界中の拠点を奪われようとも、ここで剣也を倒すという覚悟。
「私はお前を過小評価しない。たとえ本国が奪われようとも、お前の方が重要だ」
「それは光栄だな、そこまでしてくれるなんて」
「当たり前だろ。私ほどお前を恐れて、そして認めているものはいない」
ロードがゆっくりと前に出る。
「なぁ、知っていたか? 私は極度の負けず嫌いで、あの日のこと一度たりとも忘れたことはない。だから、リベンジマッチだ。今日は私が挑戦者だな」
そしてロードが、剣也に向けて手をかざす。
その手に合わせて、すべてのKOGが剣也を見て武器を構える。
「始めよう、最後の戦いを。私を殺す覚悟はできているな、そして」
世界最強の国の最強の100機が、全力の殺意を乗せて。
「殺される覚悟もだ」
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