第106話 交渉

「おはよう、良く休めたか三人とも」


「はい!」


 一心に呼ばれ養成学校へ。

そこには田中と一心が座っていた。


「それはよかった。私は徹夜で建御雷神の修理をしたからもう眠くて眠くて」


 コーヒー片手に、目の下にクマを作っている研究員。

疲れている顔が良く似合う人だが、不名誉この上ないポスドクに感謝しかない。


「ありがとうございます、田中さん。これでいつでも戦える」


「私にはこれしかできないからね」


「では、始めようか」


 そしてカメラが付き、映像が映し出される。

その向こう側には、世界連合の面々が映し出される。


「玄武さん、今日は忙しいなかお時間をありがとうございます」


「かまわんよ、しかし世界連合として足並みは揃えてほしかったが……」


 そして玄武が剣也を見る。

ロードの騎士叙任式で見たその顔、そして人工的な銀色の髪。


「お前さんが、件の騎士か」


 その鋭い眼光は剣也を見る、細い目の奥に品定めするような目で。

そして、その後ろには同じように鋭い眼光を見せる二人の騎士。


「剣神ソード・シルフィード。まさか日本人だとはな、いまだに信じられんよ、かぐや、君が言っていたのはその男か」


 世界連合最強の騎士兼 総司令官 白蓮。


「一度戦ってほしいものだ、正直私は君に憧れている」


 二番手 副司令 トール。


「ええ、白蓮。どう、あなたよりもいい男でしょ」


「悔しいが、まさか本当だとはな。私はあの時剣を交えずして敗北したが、私では歯が立たないだろう」


 白蓮がかぐやの言葉を肯定する。

あの日白蓮の中で優劣は決まっていた。


「はじめまして。御剣剣也です。なんといったらいいか……あの時はすみませんでした」


「万の兵を止めておいて……案外殊勝な態度だな。だがそれはいい。もう済んだことだし、死人すらでていないからな」

 

「一心から大方の話は聞いている、だが君の口から聞きたい。君は我々の味方か」


 そして玄武はその目を見開き剣也に問う。

嘘は許さないと、心まで見透かすように。


「……ロードを止められるのは俺だけです」


「答えになっていないぞ、剣神」


 その剣也の問いに白蓮が返す。

味方か敵か、問いは単純なのに剣也にはうまく答えられなかった。


「言い方をかえようか。お前さんはロードの敵か、味方か。ロードの騎士として活動しておったんだろう」


 その返しを見て、玄武が質問を変える。

全員がその答えを聞こうと剣也を見る。


「俺はロードの……」


 そして真っすぐと答えるのは、昨日自分で決めた覚悟の言葉。


「騎士です、でもロードと戦います。あいつを倒して、止める。そして世界大戦を終わらせる。そのために俺はここへ来たんだ。だから俺は戦います」


 その真っすぐすぎる目に玄武は少しだけ笑みを浮かべる。


(今まで手練手管の嘘つき共を見てきたが……馬鹿らしくなるぐらい正直ものだな)


 玄武の目をして、その剣也の裏を探るのが馬鹿らしくなるほどにその言葉には感情が乗る。


「わかった。ならば歓迎しよう。ロードを倒し、世界大戦を終わらせる。その目的が一致しているのなら、いい」


「父上、いいのですか? ロードの騎士といっているのですよ!?」


「あぁ、瀬戸際なのはこちらなのだから。だが一つ聞かせてくれ。剣也君」


 玄武はいつも確信を突く。

そしてその問いもまた、剣也を知るためには最も有効な問いを。


「なんでしょう、玄武さん」


「どんな世界を望む、君は何のために戦う」


 剣也は少し驚いた顔で、それでも笑う。


「この二人と」


 そして剣也がかぐやとレイナを引き寄せる。


「ただ笑える世界を」


 玄武が見るその二人の少女、かぐやのことは知っている。

アジア13神のエースパイロットだ、そしてもう一人は。


「白銀の氷姫、アースガルズのエースパイロットか」


「はい、私は剣也君の味方です。そして同じ世界を望むものです。パパが、ジーク・シルフィードが望んだ世界を」


 その答えに白蓮は、少し複雑な表情をする。

自分の親を殺した相手と仲間になるのは、どういう気分なのだろうと。


「……その言葉に嘘偽りなしと判断する。今日より御剣剣也、レイナ・シルフィードの両名を世界連合日本軍の一員として認める。ともに戦ってくれ。いいな、カミールさん、そして二人とも」


「問題ありません」


 カミール、トール、白蓮。

世界連合のトップ達が剣也を世界連合の一員として認めると公言する。


「これからよろしくお願いします」


 剣也とレイナも頭を下げる。


「では、御剣剣也君。早速で悪いんだが世界の状況は想像を絶するほどに悪い。ロードが戦線を引いた今。君にはすぐに戦場にでてほしいのだが」


 そして玄武が早くもロードに戦場に出てほしいと命令を下そうとした時だった。


「白蓮さん! し、至急お耳にいれたいことが!」


 一人の軍人がその通信に割り込んでくる。


「かまわん、ここにいるものは皆仲間だ。話せ」


 そして軍人が一瞬ためらうように全員を見渡す。

しかしその命令のまま伝えようと思ったことを話し出す。


「……はい。それがアースガルズが……いえ、ロード・アースガルズが……先ほど使者を通してですが」


 その本人自身も、ましてや世界中が信じられない言葉を。

 

「停戦交渉を行いたいと」



「場所は日本の元第13番地区養成学校を指定させてもらおう。相当な譲歩だと考えるが?」


 玄武とカミールが映像越しに会話する。

その相手は自分達の一回り二回りも年若い少年。

ただし、玄武とカミールは全く舐めることなどできない。

その少年の一言一言に言霊が乗り、プレッシャーを感じる。


 ロードの使者が告げたのは停戦交渉。

直後通信し、今はその交渉場所の指定をしているところだった。


(これがロード・アースガルズ。オーディンとは格が違うか。まだ20にもならないというのに)


「それはとてもこちらとしては、ありがたい提案ですが……なぜいきなり? あなたが停戦を求めるなど信じられない」


「勘違いしないでもらいたい。停戦交渉だ、停戦するわけではない。こちらの条件をのめないのなら戦争は継続する。私も一方的過ぎたと反省しているんだよ、まずは私の目指す場所を知ってもらわなければなと。私は快楽殺人者ではないのだから」


 その発言に玄武は眉をしかめる。

到底信じられない、それでもこのまま世界中で大虐殺が起きるのを座して待つのも悪手。

正直世界連合は敗北への道を進んでいたのだから。


 戦争は泥沼化し、億の人間が死ぬ未来がより鮮明になっていた。


「……そしてもう一つ。ソード、いやもう全て話しているか。御剣剣也の同席を指定させてもらう」


 その発言を黙って後ろで聞いていた剣也が映像ごしにロードを見る。


「失礼ですが、ロード代表。あなたの言葉すべて信じることなどできない。だから交渉の場にこちらも相応の戦力を用意させてもらうが、問題ないか? むろん剣也君も同席するがKOGにのってもらう」


 玄武は交渉場所に戦力を用意させてもらうと提案する。

いつ裏切られるとも限らない、だから剣也も同席させると。

ロードは考えるようにして、目を閉じる。


「いいだろう、では双方戦力はKOG100機まで。かつての日本の経済領域には、世界連合、アースガルズ共にその戦力以外入らないことを提案する」


「100機……」


 ロードの提案する内容は100機のKOG。

一国を落とす戦力としては心もとない、ただし何か起きた場合十分抑止力になる戦力だった。


「いいですよ、俺がいれば何も問題ない。玄武さん任せてください」


 その発言に、剣也が前にでる。

今は代表達の会話なので黙っていた、しかしロードの発言に前に出る。

そして映像ごしにロードと目が合う。


「そうだろ、ロード」


 しかしロードは目線だけ向けて何も答えない。


 玄武は思案する。

仮に停戦が決裂しても、この世界最強の騎士がいればロードをその場で捕獲、もしくは殺せるのではないか。

100機という戦力では、いかにこの世界最高の指揮官でもできることは限られる。


(本当に交渉が目的とでもいうのか……)


「いいでしょう、その条件で交渉の場を設けようではないですか」


「日時はそちらが指定してもらって構わない。では……以上だ。連絡を待つ」


 そして映像が終了した。


「今の通りだ、剣也君、レイナ君、そしてかぐや君、現在日本にいる三名は戦力として参加してもらう、KOGは100機になるように調整しよう。白蓮、トールはその間他の国境の警備。交渉と偽られ侵攻されてはたまったものではないからな」


「わかりました」


 玄武の言う通り、交渉の場は極東の島国、日本。

そこに仮に将軍級の戦力を集めれば他の国境の守りは薄くなり奪われることを意味する。


(それが狙いやもしれんな)


 玄武が最も警戒するのは、だまし討ちとして世界中を一瞬で制圧されること。

ロードの力ならそれもありうると考える。


 だから警戒は怠らない。


 それはアースガルズとて同じこと。

世界中にアースガルズの戦力はあり、世界最大の国家の防衛に費やす力は伊達ではない。

本国を守るために防衛の要となる実力者達は満遍なく世界中に配置されているのだから。


 もろもろの準備を含めて、交渉の日は一週間後となった。

 

 メディアも入り世界中に放送されるその交渉の場。


 ロードが嘘をついたのなら世界中から求心力を失わさせるように、事前準備は怠らない。



◇一週間後


「では、剣也君。頼むぞ」


 交渉の場へと向かう玄武とカミール。

そして日本の護衛を行う剣也、レイナ、かぐや含む世界連合日本軍。


 そして。


「きたか」


 浮遊航空艦から降りてくる一人の少年。


 この日世界の運命を決める交渉が始まった。





★あとがき

完結に向けてなろうの方にも投下しました。

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