第105話 この日々を守るために

「ちょ、ちょっと二人とも!?」


「ちょっとだけだから! 少し浸かるだけだから!」


「少し浸かるってなんだよ!」


「こ、ここまで来てごねるんじゃないわよ! 諦めなさい!」

「そうです、逃げられませんよ。この家に入った時点でもう決まっていたんです」


 ノリノリのかぐやとレイナに引っ張られて剣也は風呂場へと連れていかれる。

この二人が本気を出せばKOGに乗っていない剣也など簡単に手籠めにされるだろう。

それはそれでエッチだなと反応してしまうのは仕方ない。


「これが乱暴される気分か……」


 無理やり服を脱がされて風呂場に投げ込まれる。

下だけは、なんとか自分で脱ぐという主張は受け入れられてタオル一枚腰に巻き椅子に座る剣也。


「なんか申し訳ないな。俺が元気ないばっかりに」


 ロードが敵になったことを思い出すとまた暗くなりそうになる。


 それを察して二人は無理してでも剣也を元気にしようと嫌々こんなことをしてくれている。


 剣也はそう理解した。


ガチャ


「はぁはぁはぁ、剣也。あんた結構綺麗な腹筋してるのね。ジュルッ」

「ドキドキします。なんでしょうか、この気持ちは。これが本当の性欲ですか? あ、よだれが」


 頬を染めて猟奇的な顔をする二人の少女を見るまでは。

その日剣也は思い出す、彼女達は世界の頂点に名を連ねる肉体派なのだと。


「お、おちついて? 二人とも」


 じりじりと近寄る二人、タオルを胸まで巻いているとはいえちょっと刺激が強すぎる。

心なしか鼻息が荒い。


「レイナ、かぐや?」


じりじり


「ちょっと、何か話して? 二人とも?」


じりじりじりじり


「え? ちょっ」


じりじりじりじり


「う、うわぁぁーーー」


 そのあと剣也がどうなったかは、三人しか知らない。



「ふぅ。いいお湯だ……落ち着く……」


「すみません、ちょっと変になってました」

「わ、私もよくわからないテンションに……ぶくぶく」


「い、いやいいよ。もう。でも……」


 恥ずかしそうにお風呂に口まで使ってぶくぶくと泡をだすかぐや。

それを見て剣也は、しっかりと笑う。


「ありがとう、二人とも。元気でたよ」


「それはそういう意味ですか?」


「いや、違うから。一旦そういうのはおいとこう、ね?」


「失礼しました」


 しばらく静寂が三人を包む。

レイナとかぐやは剣也を見る。

剣也が何かを口に出そうとしているのを静かに待った。


 そして剣也は口を開く。


「……俺戦うよ」


 その一言は決意の言葉。


「ロードと戦う。それにソフィって女の子と約束したんだ。俺はロードと戦う、そしてあいつを止めるんだ」


 その表情はさきほどまでの暗い表情ではなく、覚悟を決めた顔だった。


「はい、私もあなたと一緒に」

「私も、剣也。がんばろうね」


 二人の少女も笑顔を返す、決意と共に。


 剣也は覚悟を決める。

ここまでされてずっとうじうじと悩むなんて男らしくない。


「よし! そうと決まれば、腹ごしらえだな! めちゃくちゃお腹空いてきた!」


 剣也は立ち上がる。

もう迷いはない、自分の力を信じて、世界の敵となったロードを倒す。


 ロードが間違っているかなんてわからない。


 それでも止めないと。


 それが、友達の役目だとも思ったから。


 そして剣也は立ち上がる。まっすぐと。


「剣也君♥」

「剣也! はやく! これ!」


 かぐやに手渡されるタオル。

剣也は思い出す、今いる場所を、自分の状況を。

身体は正直で、二人の最愛の人の隣で剣也は立ち上がった。二つの意味で。


「あ……」



 お風呂をでて、カレーを食べる。

涙が出るほどおいしいカレーは、すんなり剣也の身体にエネルギーを補給する。


「うま!」


「……悔しいけど本当に美味しい」


「剣也君何時でもリクエストしてくださいね」


 世界大戦が起きているとは思えないほどの団欒。

幸せな日常を感じ、そしてこのために戦うんだと再認識する剣也。


「……お腹もいっぱいになったし。久しぶりに安心したらめっちゃ眠い……寝よっか、かぐや、レイナ」


 満足げに剣也は、レイナとかぐやに提案する。


「そうね」

「わかりました。今日は疲れましたし、寝ましょう。かぐや」


「ん?」


 何か含みを持たせる言い方のレイナが、かぐやに耳打ちする。


 少し顔を赤らめるかぐや、しかし何か頷いた。


 なにをひそひそとやっているのかわからないが、それでも眠さが限界にきた剣也は、顔を洗って歯を磨きに行く。

いつの間にかリビングに二人がいなかったが、今日は死闘を繰り広げたんだ。


 二人だってもう眠いんだろう。


 命を懸けて剣也を救ってくれた二人の神経は極限まですり減ってきっと今日は爆睡しているはず。


「ふわぁぁ~。俺も寝よっと」


 だから剣也も寝室にいく。

元ジークの寝室は、ヴァルハラにあった邸宅に負けず劣らずのキングサイズ。


 布団は綺麗に引かれて、気持ちよさそうだった。


 剣也は布団を勢いよくめくる。


 そして見た。


「……そんなこったろうと思ったよ」


 布団の中に忍び込んでいる二人の美女を。


「あはは、ばれてた?」

「今日は一緒に寝ましょう」


 案の定布団に潜り込んでいた二人。

レイナはあの日と同じネグリジェで、かぐやはスポーティな肌着で。


 正直どちらも好みだった。


「よいしょ」


「ちょ! え? ちょっ!」


「誘ったのはそっちだろ?」


 剣也だって、舐められてばかりはいられない。

二人の女の子に翻弄され続けるのは、誠に遺憾である。


 だからかぐやとレイナの間に無理やり入る。


「どうしたの? かぐや」


 かぐやを至近距離で見つめる。

攻撃力に自信はあっても、防御力は紙装甲のかぐや。

責めてるときは余裕だったのに、直後目をすごい勢いで泳がせる。


 それに調子を良くした剣也。

腕でかぐやを抱きしめるように、近づきキスできそうなほどに近づく。


「あ……ちょっ………ごめんなしゃい」


 プシューっという音と共にかぐやが真っ赤になってギブアップ。


 手で顔を隠し、オーバーヒート。


 剣也は内心でガッツポーズ。

今夜の勝負は剣也の勝ちだった。


 ただし。


むにゅっ。


「こっちにはしてくれないんですか」


 もう一人の強敵は、羞恥心など忘れている。


「お、おう!?」


「私は最後までOKですよ」


 背中に柔らかい感触を感じ、振り向く剣也、剣也が見つめても、一切怯まずその美しい目で真っすぐ見つめる蒼い瞳。

剣也が思わず目を逸らす。


 しかしレイナの攻撃は終わらない。

剣也の手を取って、そしてそのまま、自分の胸へ。

柔らかすぎる感触が剣也の手のひらに、思わず握ってしまったのは生物の本能なのだろう。


「あ……あ………ごめんなしゃい」


 そして剣也は片手で顔を隠し、煙を上げながらもノックアップ。

童貞はあっさりと敗北した。


「ふふ、冗談です。今日は寝ましょう。あっちの子ももう一杯いっぱいみたいですし」


 一枚上手をいった剣也、そして十枚以上上手をいかれる剣也。

三人の力関係は、ここではレイナが最強のようだった。


「レイナあんた、なんでそんな余裕なのよ」

「完敗です」

「KOGでは勝てないですけど、ここじゃ勝てそうですね」


 ベッドで川の字になりながらも三人は笑い合う。


「かぐや、会えてなかった半年のこと教えてよ」

「いいわよ、そうね。あれは白蓮が私に告白してきたところから」

「え?」

「まぁあいつ顔は悪くなかったのよね……剣也は死んだと思ってたし、私寂しくって、だから実は……一回だけ」

「うそ……だろ、これがNTR」

「嘘! 大丈夫。浮気はしてないわよ」


 初めて落ち着いた時間を過ごせる三人は合えていなかった時間を語り合う。


「帝国剣武祭でオシリスさんと戦ったんだ、本当に強かった」

「あの助けてくれた人よね、あの化物。びっくりした、ほんとに死ぬと思ったわ」

「うん、本当に体調が万全でも勝てたか分からない。今までで本当に一番強かった、それにすごくかっこいい人だった」


 三人は、自然に眠るまで語り合う。

話したいことはいっぱいあった、半年の間に本当にたくさんのことがあった。

半年のこと、剣也の過去のこと、レイナの過去、かぐやの過去。


 たくさん三人は語り合う。

笑ったり、悲しんだり、全員の記憶を共有する。


 それでも死闘のせいか、いつの間にか三人はそのまま眠っていた。


 翌日、朝日が三人を照らし朝を迎える。

世界大戦が起きているなんて信じられないようなさわやかな朝が訪れて三人は自然と目が覚めた。


「おはよう、二人とも」

「おはようございます、剣也君」

「おはよ、剣也」


 そして、運命が動き出す。

剣也がこの世界に来た理由、NEWルートにいけるかどうかの最後の戦いが。

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