第98話 悪魔の苦悩
「ソードはおとなしくしているか?」
「はい、ロード様。全く問題ないです、おとなしいぐらいで私としては自信を無くすほどです」
剣也の監視塔の世話を行っているメイドのソフィはロードに定時報告を通信していた。
レイナに逃げられ、建御雷神も奪われた。
それでも剣也さえ確保していれば何の問題もない。
それでもロードは守りを固める。
帝都中の戦力はすべて剣也を奪われないように使われる。
剣也を殺すという選択肢は確かにあった。
「そうか、できるだけ……不自由をさせないでやってくれ」
それでも殺せなかったのは、なぜ?
ロードは再度自分に問う。
でも答えは結局出なかった。
思考を遮るようにメイドが質問を行う。
「ロード様一つよろしいでしょうか」
「あ、ああ。なんだ?」
「なぜ、ソード様を拘束するのでしょう。短い間ですがお世話させていただき感じるのは、反逆を志すような野心があるようには思えません。それにあの方ならばきっとこの世界大戦も……」
「……ふっ。そうか、お前にはそう見えるか」
そのメイドがロードに、剣也は反逆を志すような男には見えないと進言する。
剣神ソード・シルフィードならばこの世界大戦の勝利をつかみ取ることも可能だとも。
「私には?」
「いや、なんでもない。引き続き頼む」
「……了解いたしました」
そして通信を切るロード。
見据えるのは、100のモニター、100の戦場。
「剣也、お前だけだよ。世界中で、たった一人。私が尊敬し、恐怖し、そして勝てないと思った存在は」
…
一方 世界連合総本部。
「また敗北か」
玄武が頭を抱えるように、カミール含め多くの文官や軍事関係者と会議を行う。
「ただいまの損害率は全体の一割といったところです、玄武代表。まだまだ余力はあります。徹底抗戦するべきです!」
弱気に見えた玄武に、軍関係者たちが徹底抗戦を叫ぶ。
「一週間たたずに一割が敗北したのだぞ! あちらの損害は軽微だというのに!」
「代表、軍の一割です。まだまだいるでしょう。我々には何億、何十億という国民が! 国家総動員法を使いましょう」
国家総動員法、かつて日本が行った全国民が戦争に参加する法律。
戦争遂行のため労務・資金・物資・物価・企業・動力・運輸・貿易・言論など国民生活の全分野を統制する権限を日本政府が得た横暴ともいえる戦時下の特別法。
「……もうその方法しか残っていないか」
世界連合すべての国民達に戦争協力を強制させるその法律は、施行されるだけで世界中の国民の生活を一変させる。
自分のための生活ではなく、戦争のための生活を送る。
もちろん、贅沢もできずすべては軍事力へと変換される文字通り総動員の力。
しかしそれが意味することは。
「しかし、それは我々が滅びるか、アースガルズが滅びるか。血を流すのは国民なのだぞ」
「でも玄武さんそれしかないのでは? アースガルズは皇帝の命令のもと、すべてが決定される。つまりすでに国家総動員法を使っているようなもの。民主主義の我々では奴らのスピードにはかなわない」
カミールも玄武にその決定を促した。
アースガルズは、ロードの命令のもとトップダウンの形式ですべてが決定される。
世界連合のように、少しの決定のために会議をして議論をし、決議を行う。
そんなスピード感では、独裁国家にはかなわない。
ましてや、その独裁者がロード・アースガルズともなればさらにその速度は桁違い。
だから。
「わかった」
玄武も苦渋の想いで決定する。
そしてその日のうちに決議が行われ、翌日には決定する。
世界連合に属するすべての国家が、戦争を支援するためにすべてを提供する法律が施行される。
国民の反発はあった。
それでも、勝たなければすべてが滅びるのだから国民達も受け入れた。
文字通りの総力戦。
一般人すら巻き込んだ血で血を洗う地獄が世界に広がっていく。
その総力をもってしても。
~一週間後。
「これで一つ目だな」
アースガルズと世界連合の国境は破られ、最も国境に近かった小さな国が滅ぼされる。
徹底抗戦した軍はすべて倒れ、投降した人々は捕虜としてアースガルズに連れていかれる。
ロードは投降したものは殺すなという命令を出した、しかし抵抗するならば仕方ないという命令も。
しかし戦場で相手が抵抗するかどうかなどわからない。
明確に軍踏まえて投降しなければ、少なからず一般人にも犠牲はでる。
それをよしとしたロードの命令。
その占領した小国に浮遊航空艦ゼウスから降り立つロード。
そして周りを見渡した。
子供が死んでいた、そしてその母親らしき親も死んでいた。
軍人はもちろん、何人も何百人も死んでいた。
ロードは、その手で口を覆い吐きそうになる自分を必死で耐える。
(相変わらず小さな心臓だな……私は決めただろう、もう絶対に揺れるなと)
「少し歩く」
「この地域の生存者はいませんので、問題ないかと」
涙目になるが、その姿は誰の目にも見えないようにたった一人終わった戦場を歩く。
そして目の前の子供の死体を、川に流れる人々の死体をしっかりと見る、瞬きせずに真っすぐと。
自分が行ったことを理解するように、自分が何をやっているのかを心に刻み込むように。
でもその行為をするたびに。
「本当に私は……これでいいのか。本当に私がやっていることは間違っていないのか」
心がひどく重くなる。
死んでいったもの達の骸がロードの背中を強くつかんで離さない。
その重みにロードはその場で膝をついて、しばらく立ち上がれなくなる。
過呼吸のようになるロード。
胸を掴み、苦しそうに。
「はぁはぁはぁ」
それでも膝を強く叩く。
何度も何度も。
ロードは、強く自分の膝を叩く。
「何をしている。こんな姿をこの骸達に見せるのか? まるで本心ではないのですと。世界のためです、許してくれと!」
そしてロードは立ち上がる。
「世界中から恨まれて、最後には地獄に落ちる覚悟はしたはずだろう」
真っすぐと地面に立ち、ゼウスへと帰還する。
「いくぞ、次だ」
「はっ!」
ロードは再度立ち上がり、指揮を執る。
まだたったの一国を落としただけ、この何倍、何百倍の人々を今から殺すのに止まっている暇など彼にはない。
浮遊航空艦ゼウスは、再度空を支配する。
世界の支配者をその背に乗せて。
「進軍開始!」
彼を止めることなど誰にもできない。
世界の敵は敗北しない、その無敵の軍隊が世界を滅ぼさんと進軍する。
世界は絶望し、思い出す。
悪魔の頭脳、ロード・アースガルズという存在を。
…
同時刻。
「では、かぐや、レイナ、田中。準備はいいな」
「ええ、剣也を救って、剣也に世界を救ってもらいましょう」
「やっと会えます。あったらぎゅーしてもらいます。剣也君成分が足りません、禁断症状が……」
「ジークさんが言っていたのを思い出すね。剣也君は世界を変える力を持った少年だと、きっと今なんだ。彼が世界を変えるのは」
三者三様の想いを持って、東京湾の輸送船へと乗り込んだ。
船の大きさは、KOG一機を運べるサイズの小型船。
その船を先導するのはまるで日の丸印の真っ赤な機体、かぐやの愛用機『加具土命』
そしてその後ろには、真っ白な機体、剣也の相棒『建御雷神』そのコクピットにはレイナが乗る。
輸送船を操作するのは、一心と田中。
たった四人のパーティが囚われの身の剣也を救いに出発した。
アースガルズ本国、帝都ヴァルハラへ。
「さぁ、行こうか。囚われの姫君ではないが、魔王を倒す世界最強の勇者様を救いにな」
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