第85話 女の戦い

★すみません、予約投稿できてなかった




「じゃあ、時間もないし……今後の話を。それで? 剣也達の目的はなんなの?」


 しばらく泣いた二人は落ち着いた。

座り込みゆっくりとかぐやが今後のことについて話し出す。


「ロードを皇帝にすること。そして戦争を終わらせる。あいつと約束したんだ。だから今この戦争は止められるはずなんだ」


「……ロード? アースガルズの皇帝よね。全然信じられないけど。でも……仮に本当だとしてもそれは無理ね」


「え? どうして」


「皇帝が全ての植民地を解放して武力を放棄するなら可能かも、でもそんなことはできない。世界中にばらまいた憎しみはもう止まらないわよ」


 アースガルズの大部分は占領した土地。

そして国力の多くは、奴隷や、その侵略して得た力。

それを手放すということは、弱体化するということ。


「抑止力を失った我が国がどうなるかは……想像に容易いですね」


「そんな……」


 抑止力である軍事力を失ったアースガルズがどうなるか、それは例えばいじめと同じこと。

相手が強いから反撃されないだけであり、相手が弱くなったとき虐められてきた相手がどう動くかは火を見るよりも明らかだった。


「できるの? そんなこと」


「……でも、話し合いぐらいはできるはずだ!」


「……そうね、でもそこから先は政治の話。軍人の私達にはわからないわ」


 そこから剣也は会話に詰まる。

自分にはどうすれば世界がよくなるかなどわからなかったから。


 だから。


「ロードに聞いてみる。今後どうするのか、まだあいつとちゃんと話せていないんだ」


「そうですね、じゃあ剣也君、今は帰りましょうか、私達の家に」


「え?」


「うん、レイナ。今は帰ろう、かぐや。また会いに来る、だから戦場には出ないでほしい。俺が君を絶対守るから」


「剣也……それは嬉しい。でもちょっと待って。今なんて?」


 かぐやは聞き捨てならないセリフを聞いた気がする。


「帰るっていっただけだけど」


「いや、その前」


 そのかぐやの焦る様子をみたレイナが勝ち誇ったように、かぐやに告げる。


「私達が一緒に住む家です。ね? 剣也君」


「はぁ?」


 その声は恐ろしいほど低かった。

かぐやの先ほどまでの笑顔が嘘のように、体を刺されるようなそのプレッシャーはオシリスにも匹敵する…かもしれない。

命の危険を感じた剣也、レイナを見て訂正するように促した。


「レ、レイナ! ちょっと……それは」


「なんですか? 剣也君。私のこと大好きですよね? そういってましたよね?」


 さらに煽るレイナ、どうしてだろう、少し目が怖い。

その言葉選びには間違いなく悪意を感じる。


 あれ? 和解する感じの流れでしたよね?


「え、えっと……それはそうなんだ……ぐぇ!?」


 剣也の襟をつかむ少女、まるで片手で持ち上げられそうなほど。

息が苦しい剣也は、その少女を見る。


 その般若のような少女を。


「ねぇ、剣也? なんなの? さっき似てるって言ってたのはそういうことだったの? あの時のキスはなんだったの? ねぇ? 私のこと大好きって言ったわよね。嘘だったの?」


「う、うそじゃ……」


「剣也君私ともキスしましたよね。幸せで死にそうって言ってくれて……。しかもちょっとだけ大人の…」


「はぁ?」


「ぐぇ! 死ぬ!」


 さらに首が閉まる剣也。

完全に宙に浮いている。


「ねぇ……私ね、剣也。鍛えたの。半年私死に物狂いで鍛えたの。あなたは何してたの?」


「す、すごい力だ。かぐや……お、おれは半年──」


「半年一緒に暮らしましたよね。今日も一緒に寝ましょうね、剣也君。同じベッドで」


「ぐぇ! レ、レイナ許して!!」


「け、けんやの……バカぁぁ!!!」


 そのまま力いっぱい投げられる剣也。

ギャグパートじゃなければ死にかねない勢いで壁に激突する。


 怒り狂ったかぐやを見て、レイナは少しだけ満足そうな顔をする。


「ふぅ。少しだけすっきりしました。これで少し溝が埋まりましたね。パパも喜んでいるはず」


(いや、確実に溝深くなったけど……息子死にかけですけど……)


 薄れゆく意識の中で剣也はレイナに突っ込みを入れた。

しかし、詰め寄ったかぐやに揺らされて再度覚醒する剣也。


「じゃあ全部説明してもらいましょうか? ねぇ、剣也。半年何をやってたか。何をよろしくやってたかを全部ね」


「ひゃ、ひゃい」


 剣也はただその圧力に頷くことしかできなかった。



 すべてを話す剣也。


「兄妹として活動していたのはわかったわ、そ、それで同棲することになったことも……必要性だけは理解してあげる」


「そ、それじゃ」


「じゃあ……剣也……私のことはもう飽きちゃったの? もう捨てちゃうの……」


 先ほどまで怒りに支配されていたかぐや。

しかし冷静になると半年一緒に暮らしていたのだ、剣也の心が移っても仕方ない。


 認めたくはないが、レイナは美しくて、それでいて……。


 そしてレイナをみるかぐや。

その銀髪の少女が主張する二つの双丘。


 悔しいがデカい、柔らかそうだと。

あんなのと半年も隣にいれば浮気だって……。


「違う!」


 しかし剣也がその言葉を強く否定する。

飽きる? 捨てる? そんなことはあり得ないと、大きな声で否定する。


 そしてかぐやの両肩を強くつかんで剣也は力強く言う。


「俺は君が好きだ。世界で一番かぐやが好きだ。それは最初からだ!」


「剣也……」


「でも」

 

 そしてレイナを見る剣也。


「レイナも同じくらい好きで大事なんだ……。そしてレイナを好きになったタイミングは君と同じ。俺を救ってくれたのは君と、レイナ。どちらも欠けてはいけないし失うつもりはない」


 その必死な言葉に心が一瞬揺らぐかぐや。

かぐやは知らない、意外と自分は押しに弱いということに。


 誰よりも一途だが、恋愛経験弱者のチョロインであるということに。


「な、なに堂々と浮気宣言してるのよ!!」


「二人とも絶対に幸せにする。命を懸けて、たとえ世界を敵に回しても」


 かぐやの肩を持ち、ぐいぐい迫る剣也。

彼にはその力があり、その真剣な目に見つめれるとかぐやは…。


「はい……って違う! 雰囲気に負けないわよ! レ、レイナはどうなのよ! 許せるの!?」


「アースガルズは一夫多妻制ですし、剣也君がどっちも同じくらい愛してくれるなら。許します。英雄色を好むと言いますし、ねぇ剣也君」


「まじすか!」


「なんでちょっとうれしそうなのよ!!」


(アースガルズって一夫多妻制なんだ、知らなかった)


 その報告に光明を見出す剣也。

ならばあとはかぐやを説得するだけだと。


「だめ? かぐや」


「だ、だめよ! そ、そんなの受け入れられないわよ! よ、よりにもよってこいつなんて!」


「どうしても?」


「ど、どうしても!! そ、そんなに二人じゃないとダメなの? 私一人じゃだめ? 剣也がしたいなら……何でもしてあげるのに」


「でもかぐやではできないこともありますよ? ねぇ? 剣也君」


 そういって胸を剣也の腕にこれでもかと当てるレイナ。

まるで、かぐやに見せつけるように。


「あんた、ケンカうってるの? 友達になりたいとか言ってたくせに」


「いえ、私はただ事実をいっただけです。あなたに剣也君を満足させられるのかを」


「で、できるわよ! あ、あんただってそんな経験ないでしょ!! ってさっきから近すぎるのよ! 離れなさい!」


「離れません。それに勉強します。剣也君のためならなんだって」


「そ、それなら私だってできるわよ!」


 よくわからない議論でヒートアップする二人。


「なんだろう、興奮してきたな」


 その言い合いを見て、シリアスな雰囲気を吹き飛ばし、ピンクの妄想を膨らませる剣也は空を見上げる。

ジークも空から多分笑っていることだろう、あなたの娘さんはこんなに元気になりました、少しエッチな感じですけど。


(あれ、なんだろう。ジークさんがぶちぎれてる気がする)


「剣也! どっちなのよ!」

「剣也君! どっちなんですか!」


「なんか昔こんなのやらなかった?」


 そして両肩を二人にそれぞれ掴まれる剣也。

両手に花とはこのことだ、ただしその花は。


(ちからつっよ)


 花というには逞しすぎる二つの大輪の花。

ならばコロンブス的発想、選ばなければいい。

ここは戦略的撤退を選択させてもらう。


「じゃ! 俺は腹が痛いか…」


「逃げられると?」


(ちからつっよ)


 レイナとかぐやに肩を掴まれて逃げること叶わず、痛い痛い、まじで。

半年の年月でこんなに立派に成長して、前もちぎれそうに痛かったけど、今はもうもげそうだ。


 逃げることは不可能と悟った剣也。


 だから。


「なぁ、二人とも落ち着いて聞いてほしい」


 そして剣也はひと呼吸おいて話し出す。


「俺が二人を好きな理由を、そして俺がどこから来たのか、何をしたいのか。全部話すよ」


 剣也は話すことにした。

レイナとかぐやに、剣也のことを全て。


 それが誠意だと思ったし、すべてを二人になら話したいと思ったから。

それは文字通りすべてのことを話すということ。


「剣也君のこと?」

「剣也のこと?」


「うん、驚かないで聞いてほしいんだけど……」


 そして剣也は話し出す。その第一声は。


「俺は違う世界から来たんだ」

 

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