第84話 かぐや姫と氷姫

(お兄ちゃん、やっとお墓参りができるよ)


 日本を奪還した世界連合。

かぐやは真っ先に墓参りに行くことにした。

一心は忙しいため後日ということになったので今日は一人車でやってきた。


「剣也のも作ってあげないとね。黒神家の横につくってもいいかな……」


 少女は悲しそうに、一凛の花を持つ。

花屋もない今ではこんな花しか飾ってあげられないことが少し心苦しい。

それでもたった一凛だけど……日本を取り返したことを知らせたい。


 まだ何も終わっていないけれど。


 それでも一言伝えたい。


「あれ? 誰かいる?」


 少女の視線の先。


 二人の銀色の髪がいた。


 臨戦態勢になるかぐや。

銀色とは、敵である可能性もある、もちろん日本人として生きるハーフもいるのだが。


 薄暗い夕暮れに照らされたその銀色の少女を見た。


 黒色の髪の日本人の少女が。



「帰ろっか、レイナ……ん? 誰か歩いて──」


 剣也とレイナの視線の先。

 

 黒い髪のショートカットの女の子。

気の強そうな猫目の少女は、こちらを見ていた。


「かぐや…ですか?」

 

 あまりに突然のことで思考が回らない三人。


 目が合ったのはかぐやとレイナ。

剣也はレイナの陰になって顔が隠れる。


 しかしかぐやが口を開く。


「こんなところで何してるのよ。墓参り? そこは黒神家の墓よ。私に仇討ちにでも来たわけ? 」


 その一言にレイナは思い出す。


「そうですか、そういえばそうでしたね。あなたでした」


 今まで聞いたことがないほどに、静かに低いレイナの声。


「レ、レイナ?」


「パパが死んだ原因は」


 突如レイナが剣也の視界から消える。


 その踏み込みはまるで武道の達人の踏み込み。


 レイナの蹴りがかぐやの顔面を襲う。


 しかし。


「そう、謝らないわよ。こっちだって命がけ───」


 かぐやがしゃがみその人を殺さんばかりの蹴りをかわす。

返す刀でレイナに蹴りこむ。


「だったんだから! 私は間違っていない!」


 レイナはその蹴りを片手で受けて一歩下がる。

二人はそのまま殴りあう。


 しかし女の子の殴り合いではない。

髪を引っ張り合い、見苦しい戦いはそこにはない。

まるで舞のような、正しく武術の殴り合い。

女子高生の殴り合いには見えない、花すらある二人。


 まるでKOGでの戦いだった。

本来KOGとは、武道の延長。

それゆえに一流の騎士達は武道に通ずる。


 オシリスがそうであったように、ジークがそうであったように。


 一流のパイロットたちは生身でも白兵戦最強レベルのものが多い。

かぐやとレイナも例に漏れず、その戦いはまさしく訓練された軍人の戦いだった。


「わかっています! パパがあなたを恨んでいないことも! それでも、それでも簡単には許せない!」


「そう。私だってあんたたちを許せないわよ! お兄ちゃんを、それに……。大切な人を奪ったあんたたちなんか!」


 二人は殴りあう、思いのすべてをぶつけ合う。

このままだと殺し合いに発展してしまいそうな勢いで。

血が飛び散り、見ているだけで痛そうな戦い。


「ちょっちょっと……どうしよう……」


 それを見るひとりの少年。

女の子同士の全力の殴り合いなど見たことがなくてどうすればいいか困惑する。


「あなたのお兄さんを殺したのは私じゃありません!」


「それをいうならあんたのお父さんを殺したのは白蓮でしょ!」


 二人は殴りあう、同じ痛みを持つ少女が思いをぶつけて。


 それを墓の陰からただ見つめる剣也。


「はぁはぁ。わかっています。あれは戦争。パパも命を懸けて、誇りを懸けて戦った。あなた達だってそうです。だから恨むなと、そういった! でも私の心はそうはいっていない!!」


「はぁはぁ。それはこっちのセリフよ。どんだけ私達が奪われてきたと思ってるのよ! お前達に! アースガルズ軍に! その場にいなかったから関係ないなんて言うつもり?」


 二人はぶつけ合う。

大切な人を奪われた二人。

かぐやは、兄と剣也を。

レイナは父を。


 二人とも敵国に奪われた、そして目の前にはその敵国の軍人。


「はぁ、はぁ」「はぁ、はぁ」


 そして二人は見つめ合い、渾身の一撃を繰り出した。

全力の、決定的の。

それを見てまずいと思った少年は、慌てふためいてみる一人の少年は。


 勇気を出して飛び出した。


「ス、ストッ──ぐぇ!!」


「剣也君!?」

「はぁ? あんただれ………はぁ? 剣也君?」


 レイナとかぐやの間に入り、殴り合いを止めようとする一人の少年。


 レイナの蹴りが、かぐやの蹴りが、剣也の腹と背中をつぶす。

我々の業界ではご褒美ですと言えるようなレベルではない痛み、下手をすると肺がつぶれた。

当たりどころがよかったのと、二人が寸前で力を抜いてくれたおかげで意識を保っていられたのは運がよかった。


 達人レベルの二人でなければ、そのまま蹴りつぶされていたかもしれない。


「剣也君!」


「はぁ? 今なんて? あんたなんて言ったのよ……剣也って……剣也っていった!?」


 かぐやは倒れている少年を見る。


 銀髪だった。

それでもわかる、声が、面影が。


 剣也のように見える。


 いや、この距離だ、見間違えるなんてありえない。


「うそ……うそ……なんで、なんで!」


「ゴホッ! いててて、えーっと……なんて言ったらいいか……と、とりあえず久しぶり? かぐや。レイナ少し落ち着いてくれ、頼む」


 レイナを何とか落ち着かせる剣也。


 そしてかぐやの方を向く。

なんていうかも考えていなかった剣也は、とりあえず久しぶりと言ってみる。

ばつの悪そうな顔でそれでも苦笑いのような何とも言えない顔で。


 怒られるのか、殴られるのか。


 はたまた両方か。

半年近く連絡もなく放置していたんだから覚悟していた。

どんな罵声を浴びるかと、ボコボコに殴られても甘んじて受けるつもりではあった。


 でも、彼女はそんなことはしなかった。


「うそ、うそ……うわぁぁーーん」


 かぐやはただ泣きながら剣也を抱きしめる。


「ごめん、かぐや。連絡が遅くなって。どうしても連絡する方法がなくて」


「剣也は生きてるんじゃないかって、ロードの騎士は剣也みたいな人だなって。それにあの機体が、すごく強くって、でも剣也みたいになんか優しそうだなって、私…私、うわぁぁーーん」


 かぐやと剣也は抱き締めあう。

かぐやは言いたいことをうまく言えないように、思いの丈を羅列する。


「全部説明させて、かぐや」


「うん……」



 そして剣也はあの日起きたことをすべて話す。

横ではレイナは目を閉じて、黙って話を聞いていた。


 剣也は話す。


 あの日100機を倒したこと、かぐやとの連絡方法がなかったこと。

そしてロードの騎士として帝国剣武祭を戦って勝利したこと。


 かぐやは涙をぬぐいながら剣也に抱き着いて話を聞いていた。


「そっか……すごいね、剣也は。全部倒しちゃったんだ」


「田中さんのおかげだけどね」


「でもよかった。本当によかった。半年間本当に寂しくて、辛くって……今でもまだこれが剣也なんて信じられない。だからね? 剣也………ん」


 かぐやは剣也にキスをせがむように見つめる。


「ゴホッゴホッ! んん!!」


 しかしレイナが私を思い出せと、咳払いする。

その時ふと視界に映ったのは、怒っているように見えるレイナ。


「そうね、まだ決着がついてなかったわ。剣也少し待ってて」


 そして再び立ち上がるレイナとかぐや。


「待って! 二人とも! お願いだから! ちょっと待ってくれ!!」


 それを必死に止める剣也。

剣也もわかっている、ジークの死というものが決定的に二人の間に溝を作っていることも。

剣也とて、世界連合に思うところがないわけではない、剣也だってジークのことが大好きだったのだから。


 でも剣也の中ですでに答えは出ている。

あの日、ジークの言葉を胸に込めながら世界相手に戦ったときに。


 答えは出ている。


 だから。


「お願いだから、争わないで欲しい。二人が戦うなんて絶対に嫌だ。もしそうなら俺は命を懸けて止める。死んでも止める」


 それだけは、絶対に嫌だった。


「かぐや、レイナ。座って欲しい。そして俺の話を聞いてほしい、お願いだから。ジークさんのためにも」


 その必死な訴えにレイナとかぐやはうつむきながらも剣也の両脇に座る。


「かぐや、ジークさんは死んだよ。世界連合との戦いで。白蓮の槍によって」


「ジーク…軍神ね……そう。私達が殺した、それについては謝らない。謝る方が失礼でしょう、だって私達は命を懸けて日本を取り戻した。軍神は命を懸けて守ろうとした。そこに謝罪なんて、戦士の戦いに泥を塗るようなことは……」


 そして剣也を、レイナをまっすぐとみて、言い放つ。


「できない」


 かぐやは、謝らない。

謝罪とは、間違いを認めるということ。

ならば、この一件は謝らない。

日本を奪い返すために戦ったことが間違っていたなんて思えないし、思ってはいけないから。


「私は何度でも、また同じことが起きても同じことをする。自分の故郷を取り返すために、今なお虐げられているみんなのために」


 その目は一切の迷いはない。


「かぐや……」


 するとレイナが口を開く。


「剣也君、すみません。落ち着きました。それに謝罪が欲しいわけではない。かぐやが全て悪いとも思っていない。それでも簡単には許せはしない。もうパパは帰ってこないんだから」


 レイナもかぐやの真っすぐな言葉を聞いて、自分の想いを話し出す。


 強く声を張って。


 しかし続く言葉は、小さな声で、まるで自分を責めるように話し出す。


「でも。それでも一番許せないのは……」


 そしてレイナは自分の胸に手を置いて辛そうに声を絞り出す。


「私の弱さです」


 あの時自分がもっと強ければ、かぐやに負けないほどに強ければ。

ジークが死ぬことはなかった、世界大戦だってそこで終わっていたかもしれない。


「私の弱さこそが、この結果をまねいた。だからわかっています。敵を恨むなということは。悪いのは私だから」


 自分のせいだとレイナは下を向く。


 しかし剣也が否定した。


「違う、レイナ。ジークさんが言っていたことはそういう事じゃない。違うんだ。もしレイナが強かったら……死んでいたのはかぐやだっただけだ。誰が強かったらとかそういう話じゃないんだ」


「……それは」


「ジークさんが最後まで言っていたこと、そしてこの映像でいっていたことは……そういう事じゃない。勝った方が正しくて、負けたほうが悪い。そんなことじゃないと思うんだ」


「じゃ、じゃあ、誰が!」


「ジークさんを殺したのは確かに白蓮だ。そして世界連合だ、その中にかぐやもいる。でも彼らだって日本を取り返すための行動だった、ジークさんだって……言いたくはないけど彼らの大切なものをたくさん奪った、殺してきた」


「……はい、パパは軍人としてたくさん戦ってきましたから」


 剣也はジークの言葉を思い出す。

そして想像はしたくないが、ジークさんもEU大戦で多くの人を殺してきた。

それは民間人含めて、命令で仕方なく。


「その殺し合いの螺旋の中でジークさんはきっと気づいたんだと思う。俺達はまだ若くて、経験が浅くて……全部は理解できないけど。大切な人を殺した奴を、自分を殺した奴を恨むなというのは、正直ピンとはこないけど。でもきっとジークさんは、わかったんだと思う。戦場で戦う兵士が悪いんじゃない、戦争が起きる世界が悪いんだって」


 剣也が行きついた答えは一つ。

悪いのは、戦士じゃない、騎士じゃない、兵士じゃない。

彼らもまた被害者で、戦場で戦うしか願いを叶えることができなかっただけなのだから。

もちろん、例外的な存在はいるだろう。


 それでも大多数は、平和を望みながら戦っている。

国を取り返すため、自由を取り返すため、皇帝に命令されたから、家族を殺されたから。

本当は戦いたくはないのに。


 だから。


「悪いのは、かぐやでもない。ましてや弱かったレイナでもない。手を下した白蓮ですらない。悪者なんていないだ。ジークさんが言っていたのはそういう事なんだと思う」


 思い出すのは、ジークが最後に剣也に言っていた言葉。


 彼らもまた悪ではないという言葉。


「レイナ、覚えてる? 帝国剣武祭で俺が戦ったオシリスさんを」


「はい、忘れるなんてできません。あんな死闘」


「あの戦いで、もし俺が負けていたら……レイナはオシリスさんを恨んだ?」


「……いえ。オーディンのことは許せないと思います、卑劣な方法を使って。でもオシリス・ハルバードは騎士として、最後まで己の命を、誇りを持って、身命を賭して戦った。あの死闘を私には汚すことはできません。思うところがないとは言いません。しかし恨みで殺そうと思ったりはしなかったと思います」


「うん、俺もそう思う。もしあの時死んでいても、俺はオシリスさんを恨んでいなかったと思う。それにオシリスさんが昔言っていた言葉の意味が今ならわかるんだ」


「言葉?」


 その時オシリスと初めて会った日のことを剣也は思い出す。

あの時は明確には理解できなかったオシリスという強者の言葉を。


「『遺恨を残さず勝者に賛美を。あるのは互いの正義のために全力を賭して戦ったという事実のみ。それが戦いというものだ』きっとオシリスさんもジークさんと同じ考えだったんだと思う。何度も戦場で命の取り合いをした歴戦の戦士達は同じ考えに至ったんだと思う。お互いの正義をぶつけ合う、そこに悪など存在しないということを。今ならなんとなくわかるんだ、ジークさんの言っていたことが、オシリスさんが言っていたことが」


 剣也は自分で口にすることで考えがまとまっていく。

なぜ自分はかぐやに対して怒りを感じていないのか、レイナのように感じていないのか。

はじめはただ自分がかぐやが好きだから有耶無耶にしようとしてると思っていた。


 でも今ははっきりとわかる。


 敵を恨むなという意味が。


「そうか、こういうことか。ジークさん」


 剣也の中で何かが腑に落ちる。

大好きだったジークを殺した白蓮ですら、剣也は恨みを持っていない理由を。

でもこの気持ちは、きっと言葉で言っても伝わらない。


 自分で気づかないときっと。


「剣也君?」


「ううん、で、どうだろう、レイナ。話が下手だけど……」


「剣也君は……もし私があの場で死んでいても恨みませんでしたか?」


 その問いは剣也も考えた。


 でも答えは決まっている。


「もし、そんなことが起きたなら……俺は命を懸けて、世界を平和にすると誓うよ。レイナを殺したのは戦争だから」


 剣也は真っすぐとレイナを見る。

その言葉には偽りはないと、示すために。


 その剣也の答えにレイナしばらく剣也を見つめる。


「きっとパパもそう言ったんでしょうね……」


 そしてレイナはかぐやを見る。


「パパを失った喪失感、今でも想像すると胸が張り裂けそうで、涙がでる。でもその痛みを知ってわかったことは」


 そしてかぐやと目が合うレイナ。


「あなたも同じ気持ちだったんですね。かぐや。あなたは誰を失ったんですか」


 かぐやが持つ一凛の花を、大切な人へ向けられたその花を。


 かぐやはその花をぎゅっと握って、絞り出すように声を出す。


「お兄ちゃんを殺された……大好きだった。私はお兄ちゃんが大好きで、忘れたことは一度もなかった。でもその大事な人をアースガルズ人に殺された。それに剣也も……そう思っていた。だからアースガルズは嫌い。でも」


 そしてかぐやもレイナを見る。


「レイナのことは……嫌いじゃ……ない。あなたのことは嫌いじゃない。だってあなたは私をしっかりと見てくれていたから。少しの間だけど……友達ってこんな感じなのかなって」


 かぐやは本心から言葉をつなぐ。

涙が出そうな声で、必死に零れないように力を込めて。


「私ね、あなたに会うまでアースガルズ全員が敵だと思ってた。全員が悪で、全員が敵で、倒すべき相手だと思ってた。でも……違った。世界は広くて、私が見ていた世界は狭くって」


 かぐやだって青春を戦争でめちゃくちゃにされた。


 友達だってできなかった、そもそも学校などなかったのだから。


 それを見て、レイナも言葉を返す。


「かぐや………私には友達がいません。記憶を失っていたのもありますが。私は周りをずっと拒絶してきた。でもあなたと一緒に訓練した日、一緒に学生として過ごした日々で私は思いました。もし、もしも」


 目に涙を潤ませて。


「友達がいるというのならこういうことなのかと」


 レイナとかぐやは見つめ合う。


 複雑な感情をお互いぶつけて。


「それに……」


 そしてレイナは立ち上がり、自分の母のお墓に立つ。

黒神咲子と書かれたお墓の横に。


「それにあなたは私の最後の血のつながった従妹です」


「え? 従妹?」


 そしてかぐやもその墓を見る。

黒神たかし、大好きな兄の横に立てられた黒神家のお墓達。

その黒神咲子という名前を。


「私の母は黒神咲子、あなたの父一心さんの妹です」


「うそ……ちょっとまって。……覚えてる、確かに咲子さんのことはうっすらとだけど……小さい頃に少しだけ。お父さんに妹がいるってことも」


「私が生まれる前に疎遠になってしまったと……それでも私とあなたは従妹です。かぐや。私にとってはあなたの父一心さんとあなただけが、最後の血のつながった家族……です」


「そっか……じゃあ、挨拶させて」


「はい」


 そしてかぐやも立ち上がり、レイナの横に立つ。

そしてお墓に向けて手を合わせる。


「あなたのお兄さんの娘、黒神かぐやです。初めまして」


 それに合わせて剣也とレイナも手を合わせる。


「ママ……私全部思い出したよ。ママが最後まで守ってくれたことも……全部。パパと一緒にはこれなかったけど……」


 それから少しの間三人は手を合わせてお墓に挨拶をする。


 もちろんかぐやの兄である黒神たかしのお墓にも、剣也とレイナは挨拶をする。


 死者への想いが、二人の怒りを静かに清め、冷静になった二人は向かい合う。


「かぐや、私達はまたあの日のように過ごせるんでしょうか。もう一度友達として」


「そんなのわからない。あなたにとっては父を、私にとっては兄を。どちらもかけがえのないものを奪った相手なんだから。それでもいつか、もし私達の心が同じ方向を向いたとき、そのときは……」


 そしてかぐやがレイナを見る。


「友達…に…」


 レイナはその目を見つめる。

思い出すのは父の顔、この手は父へと剣を向けた手。

すぐには許すことは、まだレイナにはできない。


 それでも、父の言葉を思い出す。


『だから今は無理でも……いつか心が許したとき、憎しみの連鎖をレイナで止めてほしい。それが最後のパパの願いだ』


 だから。


「すぐには……心が追い付きません。でもゆっくりですが、きっといつか。私の中で決着がついたら。その時は……そのときはもう一度」


 その手を見つめてゆっくりと握りしめる。


 涙が自然流れ、声が震える。


「わ˝た˝し˝と˝友達になって、かぐや」


「なんで、泣い˝て˝る˝の˝よ、あんたが。わ˝た˝し˝をう˝ら˝んでるあんたが」


「わ˝か˝ら˝な˝い˝です˝。だって˝……わたしにとっても初めてだったから、あ˝な˝た˝が」


 手を結んだ瞬間いろんな感情が織り交ざり自然と泣き出す二人の少女。

一緒にKOGで訓練した日々を思い出す、まるで放課後の部活のような時間を。


 二人のすすり泣く声が、夕暮れに消えていく。

まだその溝は埋まらない、もしかしたらずっと埋まらないのかもしれない。


 それでもその二人を見る剣也は、思った。


「きっと大丈夫」


(きっと二人なら、もう一度仲良くなれるはず。だって)


「二人はやっぱりすごく似ているから、性格も見た目も、遺伝子レベルで似てるから」


 泣いている二人を優しく抱きしめる剣也。

きっと乗り越えられるはずだし、ジークさんもそれを望んでいる。


 二人の涙をみて剣也は思った。


 もし戦争がない世界が、平和な世界がくるとしたら。


 きっとこの二人が心から許し合えた時なんだと。

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