第82話 レイナとジークの過去1/2
「私、私。全部思い出して……」
レイナは全ての記憶を思い出した。
自分の本当の父がジークであること。
そして自分の母が日本人であったこと。
「私、一度も。パパに……パパを大好きなのに……一度も!」
レイナは剣也の胸で泣く。
どこか距離を感じていた父。
それは自分が養子であることが原因だと思っていた。
でも違った。
「レイナ、今から一緒に行って欲しいところがある」
「え?」
どれだけ泣いたかわからない。
それでも少しは心が落ち着いた二人。
その片方が口を開いた。
「さっき田中さんにもらったんだ。ジークさんに何かあった時ここに来てほしいって」
剣也が開くのは一通の手紙。
そこには日本の大阪の住所と、『あー23ー124』という文字。
「それは?」
「わからない、でもきっと何かあると思う。だから今から行こう、日本へ。俺が連れていくから。田中さんが協力してくれる。もう国交は断絶していく方法はKOGぐらいしかないけど。俺なら安全に連れていける。誰が来ても君を守れる」
レイナは静かに頷いた。
そして田中の協力のもと、建御雷神に乗り込んで日本へ向かう剣也。
…
大阪、旧日本の大都市。
しかし今やすべて廃墟となって人は済んでいない。
スラムは存在するようだが、見渡しても人がいるようには見えない。
「この住所の場所は……あそこか? 山だな」
剣也がその住所の通りの場所に進む。
そこは山だった。
木が生い茂り、森を切り開いた場所にある人工物達。
着陸し、見えないように木の陰に隠す。
そして、着陸し近づくにつれわかる。
「ここはお墓か……」
山を切り開いて作られた見渡す限りの墓。
いくつあるかわからないその墓は比較的新しい。
「剣也君……ここって」
「多分、アースガルズとの戦争での戦死者達のお墓なんだと思う、じゃなきゃこんなに全部同じように作られてないし、新しくない」
一面に作られた多くのお墓は、すべて比較的新しい。
「ここに何があるんでしょうか……」
剣也はあー23ー124という文字を思い浮かべる。
その数値が表しているのは区画。
今、剣也達がいる場所は『うー13ー670』と墓石に彫ってある。
「行こう、レイナ」
剣也はレイナの手を握り、目的の場所へと向かっていく。
そして目的の場所につく。
そこには他の墓石と何ら変わらないお墓。
そして、彫られている文字を見た瞬間、レイナが涙と共に膝をつく。
「嘘……ここは……」
「レイナ、どうし──黒神……黒神咲子……これは」
二人の目の前。
底には、黒神咲子と掘られた墓がある。
剣也の思い人と同じ姓を持つ名前の。
「このお墓はママの……ママの名前が掘ってあります……」
「レイナのお母さん? これが? 黒神……そんな馬鹿な。一体どういう……」
「ママのお墓です。ここは、ママの。はっきりと覚えています。母の名前は黒神咲子、そして父の名前はジーク・シルフィード。私はその二人の本当の子供です」
(黒神……まさか。かぐやとレイナは血縁関係なのか?)
黒神の姓を持つかぐやを思い浮かべる剣也。
二人の関係を思い浮かべるが、その先はわからない。
しかしその墓に一つの包みが置いてあることに気づく。
最近置かれたような一つのまだ綺麗な箱。
レイナと顔を合わせて頷いた、剣也はその箱を開くと中には一つのタブレットのような端末。
「これは……動画か」
そして剣也は起動する。
画面に映るのは一つの動画ファイル。
そのファイルを開くと。
「パパ!」
ジーク・シルフィードが映る。
…
ジークがアースガルズから日本に向かってすぐ。
世界連合が夜にでも到着する日。
ジークはその墓に来ていた。
「咲子……すまない、私は……アースガルズ人として、ロード様のために日本人と戦う」
一人墓の前に立つ男は、一つの箱を置いてその場を後にする。
「それが……お前を救えなかった私の贖罪だから」
…
「パパ!」
「ジークさん!?」
剣也とレイナはその映像を見て、大きな声を出す。
しかしその映像の先のジークは何も返さない。
「映像……か。これがジークさんが残したものか」
「あー聞こえるか? 私だ。ジークだ。今この映像を見ているのはレイナと御剣だろうか。私が死んだらと田中に託したんだが」
「パパ……見てるよ!」
「レイナ、お前の記憶が戻ったら話そうと思っていたことを映像に残す。もしママのことを思い出せない、聞きたくない場合は見るな。だが記憶が戻ったのなら」
「レイナ……」
「聞きます。これが最後にパパが残した言葉なら」
そしてレイナと剣也はその映像をまっすぐとみる。
「……そうか。では話す。お前の母。黒神咲子のことを。そして私の罪を」
◇時は遡り日本がアースガルズに敗北した頃。
「なぜ! なぜ教えてくださらなかったのですか!!」
EU大戦を最前線で戦い続けたジークが、上官の襟をつかみ食い掛る。
日本とアースガルズが戦争になったことを知らずに一年以上前線にいた彼は何も知らなかった。
日本が敗北したことも、戦争が終結したことも知らなかった。
いや、正確に言えば。
「皇帝陛下のご命令だ。お前には絶対に知らせるなと、いやお前だけではないな。前線の兵士全員にだ」
隠されていた。
情報統制は完璧で、皇室放送以外のメディアが発達していないこの世界では戦争すら離れていれば知りえない。
「な、なぜ!」
「お前に前線を離れられては困るからだろう、そしてお前が敵になる可能性もな」
「私の妻も娘も!! 日本にいるのですよ!」
「だからだ。ジーク」
「そ、そんな……」
「しかし皇帝陛下も病に臥せられた。EU大戦は終わる。だから私の判断で伝えた」
「……」
そしてジークは頭を下げる。
「失礼します、上官」
そしてジークは、日本へ向かう。
(咲子、レイナ……どうか生きていてくれ)
…
ジークは探した、戦争が終了しアースガルズに占領されることになった日本を。
その足とかつての同僚、部下、自分に使えるものはすべて使って愛する家族を探す。
しかし到着した日本は、記憶にある美しかった風景などどこにもなく。
「そんな……レイナ、咲子」
しかし時間が立つほどに捜索は困難を極める。
もはや二人の命は絶望的で、美しかった日本は見る影もなく蹂躙されていた。
桜は枯れ、建物は瓦礫の山となり、人が住める状態ではなかった。
丸一年、蹂躙されつくした日本はぼろぼろになっていた。
それでもジークは探した。
日本人の死体を見るたびに、胸が張り裂けそうな想いになる。
「咲子……、レイナ……」
虚ろな目で、髭もそらずにただ思い出の場所を探し続ける。
「すまない、すまない」
膝をつき遂に泣き崩れるジーク。
「私は何のために……お前達を守れなくて……なんのために」
ジークの中にあるのは、後悔と恨み。
愛する人を守れなかった後悔と、自分を前線で釘付けにした皇帝への恨み。
もうジークにもわかっていた。
半年だ、多分妻も娘も死んでいる。
それでもあきらめきれずに、ただ当てもなく彷徨うジーク。
そんなある日噂で、大阪に戦死者達の墓があることを聞いた。
ジークは大阪まで向かい、その墓を全て一つ一つ確認する。
そしてついに見つけたのは。
『黒神咲子』
という妻の名前。
「うわあぁぁぁぁぁぁ!!!」
その文字は、まだどこか心の奥で諦めきれなかったジークの最後の希望を消し去った。
「すまない、すまない。咲子!! すまない!! レイナ!!」
その墓に向かってただ謝るジーク。
静かに、その墓はジークを見つめる、それでも何も返してくれなかった。
夜、月あかりが照らす頃まで墓の前で泣いていたジーク。
「私はこれからどうしたらいいんだろうな、どうすればお前達は嬉しい? ここで死んでも会ってはくれないよな」
しかしそんな答えは返ってくるはずもない。
その時一通のメッセージがジークの端末に入る。
協力してくれていた部下からの連絡。
「先ほど、撤去したスラムでアースガルズ人とのハーフの戦争孤児を保護しました。銀髪の少女です。もしかしたら」
ジークは、そのメッセージを見て墓から飛び起きる。
急いで、その部下のもとへと向かう。
「はぁはぁはぁ! どこだ!」
「こちらです、ジークさん」
そしてジークは出会った。
見間違えるはずはない。
体中にあざだらけ、髪も美しいとは言えないほどにボロボロになっている。
その瞳は虚ろで、感情を移さずに、ただ生きていることを諦めたがっているような目。
「あ、あ、……レイ…ナ。レイナ!」
「よかったです、ジークさん」
「あぁ、ありがとう! 本当に! レイナわかるか? レイナ!」
しかし少女は呼びかけには答えない。
「どうも記憶を失っているのか、しゃべれないようです。何を話しても反応がなく……。スラムではひどい扱いを受けていました。半分日本人ですが、半分アースガルズ人なので」
「そうか……」
ジークはその少女を抱きしめる。
「もう大丈夫だ、パパだぞ。レイナ。もう大丈夫だからな!」
それでもその少女は何も返さない。
それを見た部下が頭を下げてその場を後にする。
ジークとレイナだけがその部屋に残される。
「絶対にもう離さないからな、私が絶対にお前を守るからな」
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