第76話 軍神の由来
「きたか、すさまじい数だな……ロード様に報告はいっているだろうが、援軍はしばらく望めん」
ジーク・シルフィードは前線に立つ。
彼は引退した身、本来ならば自ら戦場にいくことはない。
しかし日本を預かる身として、攻撃されようとしている今はそんなことを言っている場合ではない。
それに。
「この作戦が失敗に終われば戦争は終わる」
敵戦力はこちらの数倍近い大部隊。
防衛戦とはいえ、いずれ押し切られる戦力差。
それでも援軍を考えれば三日耐えれば可能性はあった。
「避難は、まだ済んでいない。本国からの援軍もいずれ到着する。お前達3日は持たせるぞ」
「耐えてみせます、多分死ぬことになるでしょうけどね」
「よく言った。頼りにしてるぞ。お前達しかいないんだからな」
「だって、ジークさん2級アースガルズ軍人全員解放しちゃうんですもん、戦力足りませんよ」
「背中から撃たれる危険を排除したまでだ」
「そういうことにしときます、はぁ、2階級特進か……ちゃんとアースガルズに戻ったら遺族手当はずんどいてくださいよ。娘もまだ小さいんすから」
ジークの部下達がジークの言葉に笑う。
ジークは防衛線を築く際に、2級アースガルズ人、つまりは日本人全員解放した。
そのせいで、戦力は半減とまではいかないまでも減少している。
「はは、すまんがそれは他の者に頼んでおくよ」
そしてジークは一歩前にでる。
戦場に出るのなら自分の部下達よりも前に、それが彼の戦いの流儀だから。
「私よりも先に死ぬことは許さん。だからお前達、死ぬなよ! 背を預ける」
「……わかりました、了解ですよ。ついていきます! 最後まで!」
そしてジーク達、13番地区駐在軍も飛翔する。
目の前には世界連合軍、そして一機の赤いKOGが突撃してくる。
数にして万を超える空と海を覆いつくす大部隊。
そしてジークが全部隊に命令を下す。
「総員戦闘開始! なんとしても守り抜け! 絶対に死守だぁ!! 私が死ぬまで守り抜け!!」
「了解!」
ここに、日本奪還作戦は開戦した。
…
「はぁぁぁ!!」
「な、なんだ、この機体は! う、うわぁぁ!!!」
少女は戦う、烈火のごとく。
真っ赤な機体が炎のように燃え上がり、敵KOGを打ち取っていく。
「これで……5!」
少女が持つ赤き剣を振り切って、5体目のアースガルズKOGを討伐した。
世界連合の一番槍として突撃した少女は、すぐに囲まれ10体ほどに囲まれた。
しかし。
「私の目から離れすぎるなよ、姫。守ってやれんぞ」
アジア最強の男がかぐやを援護し、囲まれないように敵を倒す、
その蒼い機体は、青龍と呼ばれるかぐやのカグツチと同程度性能の機体。
しかしパイロットの腕は、白蓮に軍配が上がる。
世界最強の一角は伊達ではない。
「いらないわよ、総司令殿のお守りなんて」
「全く強情だな……まぁそこも良さか、とはいえ敵も防衛に徹している。すぐに突破できるほどは甘くない。姫が明けた穴はすぐに埋まってしまったしな」
そしてあらかた周りの敵を一層して、一息つくかぐやと白蓮。
一度弾薬の補充に母艦に戻る二人。
突撃し一度は崩した敵防衛線は再度築かれる。
アースガルズ軍の練度はすさまじく、日ごろの訓練の力が遺憾なく発揮される。
…
「今日はここまでか……」
時刻は深夜を過ぎ、海上は闇に包まれる。
世界連合軍は、その日の攻撃を一時中断し、休息に入る。
そして翌日も猛攻は繰り返される。
しかしその日も前線を崩すことは叶わなかった。
「すさまじい反撃だな、攻撃三倍の法則を実感する。数は倍以上のはずだが、こうも押しきれないか」
「私が戦った戦場では、押してたわ、でも他の戦場で押し返されてる。敗北して撤退している戦場も。一体……」
二日目の夜、母艦でかぐやと白蓮、トールをはじめ軍人達が作戦会議を行う。
「白蓮。これ以上長引くと、アースガルズの援軍も到着してしまう。明日、全戦力を投入するべきでは?」
そのトールの提案に、白蓮は考え込む。
白蓮とてそれぐらいはわかっている、これ以上長引くことは得策ではない。
「敗北した戦場の映像を見せてくれ」
(異常に強い部隊がいる、そこが私達が押し切ったはずの戦場を押し切ってくるのか。そのせいで前線を破れていない……)
そして映像を見る白蓮たち。
その映像に映るのは、普通の部隊、そして先陣を切る少しだけ装飾が違う通常のKOG。
ただしその動きは。
「強い……量産機でこれは……こいつが原因だな。この装飾は将軍か、どうみるトール」
「昔一度同じものを見た。作戦がうまくはまり、圧倒的数で囲むことができた部隊だったのに、ありえないほど粘られた。そしてその後やってきたロード・アースガルズに敗れたがな」
「そういえば、いたわよね。この地区にも元聖騎士長が、引退したとはいってたけど……」
「あぁ、間違いないな。噂程度にしか私は知らないが」
白蓮、トール、かぐやは同じ人物を思い浮かべる。
すでに前線は退いているはずだった人物を。
一時期世界中で恐れられた聖騎士長の名前を、しかし引退したという噂と共に二度と戦場で聞かなくなった名前を。
そして白蓮が目をつぶり思案する。
ゆっくりと目を開き、笑みを浮かべる。
「では、明日の作戦を発表する」
…
アースガルズ、首都ヴァルハラ。
「はぁはぁ、よし。これなら、この数なら問題ない。すぐに援軍の準備を! 明日には到着させろ!」
「さ、さすがはロード様。あの量をたった二日で…」
ロードも戦っていた、書類、備品、食料、武器、あらゆる計算を行った。
オーディンが攻めてきた時のシミュレーション含め、どれだけの軍隊を動かせるかの計算、どれだけの軍隊を動かせば勝てるかの計算。
オーディンがめちゃくちゃにしていった軍の再編成をわずか二日でまとめ上げたのはロードの才覚あってこそ。
「戦場で命を懸けているものに比べたらなんてことはない、お前達よくやってくれた」
「い、いえ……しかし13番地区はまだ陥落していないのですか……この数で…よく」
盤上に並べられた駒たち、報告されたときは一瞬で撤退すら考える敵戦力。
ジークが善戦しており、耐えられるとの報告があったからこそ防衛線は続けているし、続いていた。
その戦力差は13番地区のKOGはおよそ一万、対する世界連合は少なくとも5万はいると思われる。
護る方が容易いとはいえ、その差は圧倒的。
こちらの戦力を把握していないだろうことから、まだ行われないが、全戦力を一度に投入されればすぐにでも陥落するほどの差。
「ジークが粘っているんだ、あいつは守る戦いはめっぽう強い。この地区を奪われることの重要性をあいつはとても理解している」
「軍神ですか……」
「あぁ、ここを守り切れば世界連合の初陣は失敗し、大戦は終わる、これ以上血は流れない。だからこそジークは撤退しない。命を懸けて守ろうとする」
ロードはジークの二つ名の由来を思い出す。
「軍を率いているときに限れば、オシリスにだって引けを取らない帝国最強の守護者だからな」
軍の神、その男が率いた軍隊はまるで神兵のような働きをすることから名づけられたジークの二つ名。
(……無理はするな……ジーク)
するとロードのもとに一本の電話が入る。
「……あぁ、あぁ。なに? レイナ君が? 一人で……いや、いい。もう止められんし止まらんだろ…」
その一報は、レイナ・シルフィードが出撃したとの連絡だった。
専用機アフロディーテを用いて、たった一人日本へと飛び立った。
…
日本奪還作戦三日目 早朝。
世界連合が攻撃を開始した。
そしてジーク達も反撃を開始する。
「ジークさん……このままならいけますよ!」
「あぁ、お前達が頑張った結果だ。それに先ほど本国から連絡があり、数万機のKOG部隊の援軍が明日にでも到着する。今日耐えれば我々の勝利だろう」
「じゃあ正念場っすね。ジークさんと戦ったらありえないほど強くなった気分でした、これが軍神の力ですか?」
「ふっ。そんな馬鹿なことはない。お前達の力だよ、ただ私は」
そしてジークがKOGで飛び立ち、剣と銃を構える。
「お前達に背中を預けているだけだ。今日も頼むぞ!」
その背中は後ろにいるものに勇気を与える、その背中を守るために命すら懸けて戦える。
ジークの率いる部隊は、まるで神がかったかのような成長を遂げ、実力以上の力を出す。
「任せてください!」
そして軍を率いている時のジークは、一人で戦う時よりも格段に強くなる。
その軍神が今日も飛び立つ、敗北の戦場を勝利に塗り替えるために。
だが、その機体目掛けて同時に飛び立つ三機の機体。
青と赤と黄の三つの機体が同じ場所に、飛び立った。
その目的はたった一機、そのパイロットたちは、世界最強の一角、白蓮とトール、そしてかぐや。
その三人が見据える先は、ジークの機体。
「いくぞ、トール、かぐや」
「ええ」
「あぁ」
白蓮がトールとかぐやに命令する。
狙うはただ一つ、敵の支柱となっているたった一機のKOG。
「軍神を討伐する!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます