第74話 火の神 カグツチ

 時は現在へ。


 少年が運命を切り開き、その友が皇帝となった時へ。


「私は戦う、世界連合から。あいつらは我が国へと戦線布告した。帝国は負けない、この私が約束しよう」


 ロードは帝国剣武祭を制して、自らが皇帝になったことをアピールする。


 それと同時に、世界連合からの戦線布告に迎え撃つと約束する。


 今日の朝、世界連合は日本に向けて出撃を開始した。

今はまだ海洋上だが、夜には13番特別区の首都に当たる旧東京での決戦は始まる見通しだった。


 そして帝国剣武祭は終わり、激動の時代へと世界は移る。



「ジークさん! 戦うんですか! 日本で! 日本人と!」


「あぁ、ロード様のご命令だ。戦うとな」


 田中はその事実を知った。

アジア連合とEUが手を組み世界連合となったこと。

そして、今まさに日本奪還のために侵攻が開始されたことを。


「し、しかし! 皇帝は! ロードは! 日本を返してくれると約束しました!」


「状況が変わった。ロード様は世界連合との全面戦争を選択されたんだ。そのための防衛だ」


「そんな……なぜ……嘘だったんですか…」


 落胆する田中の肩を叩くジーク。


「これから戦争になる、私はアースガルズ帝国軍人だ。今から日本の防衛にあたる。お前はどうする」


「どうするといっても……」


 するとジークが田中に歩み寄り、紙に何かを記載し田中に渡す。


「お前は残れ、ここからは戦士達の舞台だ。だからここに残って、御剣を頼む。それと……これを」


 ジークが渡したのは一枚の紙。

そこに書かれているのは。


「住所? これは日本の住所と……地図? まさかここは」


 その問いにジークは頷く。


「田中、今はまだ世界がどうなるかは私如きではわからん。だが御剣はこの世界を変える可能性を秘めた存在だ。あとは頼む。そしてその場所は……私のわがままだ。もし私に何かあれば御剣に……そこにレイナと一緒に行ってくれと伝えてほしい」


「ジークさん……」


 そしてジークは、KOGに乗り込み単機で日本へと飛び立った。


 日本を、世界連合から、日本人から防衛するために。


 戦力差は圧倒的に不利、ロードも動いているがすぐに軍を動かせるわけではない。


 それでも日本を預かる身としては防衛に徹する。



「まずは敵の情報の収集、どれだけの敵がいるかすらわかっていないんだ! そして13番地区の駐在軍の数の把握も急げ。時間はない」


「了解しました!」


 ロードも皇帝としてできる限りの対処を部下達と始める。


 しかし軍は最低限しか動かせない。

仮に大量の軍を動かしたとき、オーディンの強襲に合う可能性が高いから。


 有力な一部貴族や、オーディンの私兵含め多くの軍事力が忽然と姿を消した。


 ロードが皇帝となったと同時にどこか別のところへと移動したのだろうことはロードにもわかった。


(しかしここまでめちゃくちゃに……そういうところは抜け目がないですね、兄上)


 帝国剣武祭で負けた時のプランをオーディンは容易していた。

プライドの塊だが、最悪の事態は想定して動くほどにはオーディンは優秀な男ではあった。

追撃されないように、指揮系統をめちゃくちゃにするぐらいには。


 しかしそれが意味することは。


(必ずどこかでクーデターが起きる……)


 ロードだけが心の中でオーディンの反逆を想定する。


 だから今はオーディンとの戦い含めて、戦力は温存しておかなくてはならない。

そのため日本に送る軍事力も大した量は送れない、敵の戦力の把握もまだなので、防衛できるかどうかも分からない状態だった。


「国内の軍事力の把握もか……まったく兄上はめちゃくちゃにしていったな」


 今はまずは国内の動かせる力の把握からしなければならない。

それほどにオーディンが好き放題連れて行った人員の穴は、指揮系統含めアースガルズ軍をめちゃくちゃにするには十分だった。


「お前達! 寝る暇はないと思え!! 正念場だぞ。三日だ! 三日で立て直せ! でなければ援軍すら送れんぞ!」


「はっ!」



◇かぐや視点


「どんな気分だい」


「白蓮、あなたが言ってたのはこういうことね」


 海の上、輸送艦隊の上で、日本を見つめる少女に話しかける青年。


「あぁ、いいサプライズになっただろ?」


「別にあなたからもらうわけじゃないわよ、この手で取り返すんだから、それと」


 そしてかぐやは積んである20機以上のKOGを見る。


 その戦闘にある燃えるような火の色の専用機も。


「この火之迦具土神(カグツチ)で必ず取り返す。私の専用機で絶対に」


「あぁ、姫含めて今回はアジア13神全員でている、それにEUのトール含めあちらの強者もな、あいつは強いぞ。私とて勝てるかわからんぐらいにはな」


「そ。それは心強いわね。本当に全力なのね。世界は」


「あぁ、今日の戦いこそ反撃の狼煙だ。これで敗れるようなことがあれば世界はもうアースガルズに勝利することはできないだろう。だからこそ絶対に勝たなくてはならない。私とて命を懸ける覚悟だ」


 そういった白蓮は、いつものキザなイケメンではなく文字通りアジア連合の軍代表としての顔をしている。


 彼もわかっている、この戦いで負けることが意味することを。

だからこそ、まずこの奪還作戦は絶対に成功させなくてはならないと。


「わかってる。絶対に勝たないといけないのは。だから」


 それは少女にだってわかっている。

そういってかぐやは晴天の海の上から遠くに見える陸地を眺める。


 自分の故郷、日本。

大事な国、奪われた国、大事な兄を失った地、そして。


(剣也、絶対私が取り返すから……あなたが守ってくれた私が、だから見ててね)


 今も思う大好きな少年が自分を命がけで守ってくれた場所。


「絶対に日本を取り返す」


 その目には赤く燃える炎が宿る。

 

 同じぐらい赤いKOGを背に。

その赤はまるで、赤と白の日本の国旗、その日の丸を表すように赤く燃える火の神の名前。


 ならば、あとは白が揃うだけ。


 ただし、その白き稲妻が味方かどうかはわからない。

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