第73話 世界連合結成

「さぁ、始めましょう! 世界連合の結成へ向けて!」


 そしてカミール含め、EUの代表団が次々と挨拶と合わせて握手をする。

他にも多くの各国代表がいるが、数は100人近くにもなるので隣の大会議室で待機する。


 ここには、EU側のトップとしてカミール、アジア連合側のトップとして玄武が机をはさんで対面する。


「改めまして、よろしくお願いします。私はカミール、私の言葉がEUの言葉と受け取ってもらって結構。今は一刻も時間が惜しいですから」


 急かすように自己紹介は手短にすませるカミール。

年は40後半の眼鏡の男、EUの政治のトップを担う外交官で、有能な男だった。


「そうですな、時間がない。一週間ですからな、あの国に付け入るスキがあるのは」


 そして玄武が話し出す。


 世界は知っている。


 アースガルズ帝国が帝国剣武祭という武の祭典にて、次期皇帝を決めていることを。

そして今まさにその戦いがはじまっていること、ロードの騎士とオーディンの騎士が一騎打ちにて皇帝を決めることを。


「我々アジア連合に戦争を挑むと言っているオーディン、そして」


「我が国の半分近くを滅ぼしたロード・アースガルズ。どちらが皇帝になっても最悪ですな。できればオーディンの方がまだましでしょうが、ロード・アースガルズは真に化物ですから」


 両者の代表は頷いた。


 時間は残されていない、だからこそ急いでこの場を設け本来、年単位の協議をすっ飛ばして代表だけで決定しようとしているぐらいなのだから。


「では、書面でも通告している通り再度お聞かせ願えますか? アジア連合はEUとの合併を望んでいると」


 カミールが本題を話し出す。

それを聞いた一心達は頷き、玄武が口を開く。


「それについては、アジア連合として決議を取り、そして決定しています。我々はEUに属するすべての国家がアジア連合の仲間となることを歓迎すると」


 その答えを聞いたカミールは立ち上がり、握手をする。


「では!」


「はい、今日この日をもってアジア連合は名を変えます。EUとの合併を経て。世界連合に!」


「感謝します、玄武さん! これで世界は救われるでしょう、かの帝国に支配される未来から!」


 硬く握手を結ぶ両者の代表。

ここに、国土面積でいえばアースガルズすら凌駕する巨大な連合国家が誕生した。


 両国の目的はただ一つ。


「アースガルズに敗北を!」


 世界最大の君主国家、アースガルズ帝国への反撃。

この星の、何十億という人間すらも支配しようとするたった一人の皇帝という存在への対抗手段のための連合国家。


 世界連合は誕生した。


 しかし今日の議題はもう一つある。

そのために急遽代表を集めて会議を行ったのだから。


「ここまでは書面通り、しかし帝国剣武祭が始まった今こそ、一転攻勢にでるべきです。あの国は必ず戦争を仕掛けてくる、ならば今この隙を狙わない理由がない」


 玄武の提案それは。


「そして、標的は決めています。占領されている日本を世界連合軍によって取り返すのです」


「え!?」


 それを聞いたかぐやが身を乗り出す。

一心がかぐやを落ち着けるが、一心自体も内心は緊張している。

なんせ、これは昨日の夜決まったことだったのだから。


 世界連合としての初の出兵。

その対象の国が日本だということはEU側もまだ承知していない。


「日本……理由をお聞きしても?」


「ええ、一心。きてくれるか」


「はい」


 そうすると一心が玄武に呼ばれて一歩前にでる。

玄武の隣に立ち、カミールと目が合う。


「彼は日本の代表です。黒神一心。旧日本軍の将軍にして、最大レジスタンス『アマテラス』のリーダー」


「黒神一心です。よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします!」


 カミールと一心が礼を返す。


「まず、理由はいくつかありますが、一番は地理的要因でしょう。あの国は、周りが海で攻めるのは難しく、守るのはたやすい」


「それは理解していますが……なるほど、今の時期だからこそですか」


「はい、今帝国剣武祭開催と同時に大軍で日本に攻め込みます。皇帝が不在であり、指揮系統が乱れている状態の帝国では対応は難しいでしょうな」


 玄武の提案は、帝国剣武祭開催中の皇帝の不在を狙うというもの。

現在はオーディンが指揮を執っているものの、帝国剣武祭中はオーディン、ロードのどちらも指揮を執ることはない。

指揮を執るという事はその戦争の指揮を執ること、つまりは戦争が終わるまでは皇帝と同じ権力を持つこととなる。


 そんなことお互いが許すわけがない。


 ならば、日本は捨ててでも先にどちらが皇帝になるかを決定づけるのが優先。


 だからこその電光石火の侵攻が必要となる。


 準備のことを加味すると決行は。


「帝国剣武祭の朝、出撃開始ですな」


「なるほど、確かにあの国を取れるのならば、これから起きるアースガルズ帝国との戦争では最大の天然の要塞と化すでしょう」


 カミールもその案に賛成する。


「そして我が連合の一番の目的は、アースガルズの打倒、そのためには今支配されている1~13番の特別区すべて解放することが目的です。ならば13から順に取り返そうではありませんか、日本人の彼がいれば大義はある」


「大義……民を納得させる最もらしい理由ですね、しかしこれが大事。国民も納得するだろう、これは侵略戦争ではなく、解放戦争なのだと、独立のための」


 カミールは納得する。

地理的要因に加えて、解放戦争の名目を付けることができる戦いだと。


「では、本日。世界連合の各国代表で決議を取りますが、よろしいか。大義はこちらにあるのでね」


 そして玄武が決議を取ることを提案する。


「もちろん」


 頷くカミールを見て、玄武は視線を一心へと移す。

 

「では、一心。君に頼みたい。君こそが適任だ。そのために呼んだのだから」


「はい! お任せください!」


 そして流れるように会議が終わり、大会議室へ。

玄武とカミール、そして一心が壇上へと上がる。


 それを固唾を飲み込んで見守る各国の代表団。

数にして200人以上の代表が集まる、大小さまざまな国家の王族、大統領、総理大臣。


 そして玄武が口を開く。


「先ほど決定した内容を発表する。我らアジア連合とEUは共に歩み手を取り合い、アースガルズ帝国へと立ち向かうことを同意した」


「それって…」


 会場では、ざわめきが起こる。

今日決定する内容はすべて事前に把握はしている。

しかしそれが確定するかどうかは、今日この日までわかっていなかった。


「つまりは、我らは今日この日をもって同士となる。主義主張、文化も異なり、政治形態も経済形態も異なる。過去相まみえた国も愛するものを奪われた国でもある、いまだ恨みを持つことはわかっている。しかし今我々は窮地に立たされている。

最大最悪の敵が、今まさに世界を支配し、永遠の服従をもって我々を、世界を征服しようとしている。しかし我々は抗うだろう! この過去類を見ない最大の連合国家によって!」


 そして玄武が拳を掲げながら高らかに宣言する。


「ここに、世界連合の設立を宣言する!」


 各国代表が一斉に立ち上がり拍手を送りその決定を祝福した。


「そして今日、世界連合として最初の議決を行いたい! では最初の議題の説明をお願いする」


 そして玄武が壇上に上がる。

世界中の目が一心へと集まった。


 一心は、深呼吸し呼吸を整えゆっくりと話し出す。

今思っていることを何も隠さずすべてこの場にぶつけるために。


「私は黒神一心。日本人です」


 その一心の壇上に、会場がざわめく。


 すでに滅びた国家の人種の壇上に。


「我が国は、6年前。帝国の侵略を受けました。正当な理由はなく、ただ国土を拡大するために。そして民は蹂躙され、私の家族は殺されました。妻も、妹も、息子も……そして日本という国はなくなった。

何万、何百万という国民は死に、生き残りはほとんどが奴隷としてアースガルズ帝国へ連れていかれ、今なお死んだほうがましだと思うような目にあわされている。

私は軍人です、戦う覚悟も死ぬ覚悟もできていた。しかし奴らは戦うすべを持たない人々を殺しつくし、子供も女性も関係なくすべてを奪った。敗戦後、行き場のない怒りと絶望に、私は何度も自死すら考えました。

しかし踏みとどまったのは、ひとえにたった一つの想いがあるからです。残されている者達、私の部下、そして今なお苦しんでいる国民達。そして…」


 そしてかぐやを見る一心。


「この子。たった一人の残された家族。今やアジア13神に数えられる私の自慢の最愛の娘。その日本人全員のために、私は日本を取り返したい。この子達が笑って暮らせる国を、未来を取り返したい!」


「お父さん…」


「私が話しているのは、過去の話です。確実に起きて、私がこの目で見てきた地獄の話です。しかしこれは今は未来の話になろうとしている。奴らは世界を征服しようとしている!」


 オーディンの演説を見たものも多い。

アジア連合を支配すると言ってのけたオーディンの演説が脳裏に浮かぶ。


「だからこそ!」


 一心の心からの叫びが会場に響く。


「抗わなくてはいけない! 我々の敗北はどれだけの不幸が世界を包むか想像もできない! 戦いましょう! 待つのではなく、自由のために!

今日世界連合は設立されました。人類史上これほど巨大な組織は存在しなかった。この力はきっとあの帝国をも打倒できる!」


 会場の代表達の目の色が徐々に変わっていく。


 一心が提案しようとしているものを理解し、心が向く。


「だから私が世界連合の最初の議題としてあげるのは! 日本の奪還です!」


 そして一心は頭を下げる。

胸に閉まっていた想いをすべて告げて。


 代表達は立ち上がり、拍手を一心へと向ける。


 一心が壇上から降り、そして玄武が変わりに壇上に上がる。


「我々ならできるはずだ。EUのあなた方ならわかるでしょう。かつて自由のために戦って生まれた国であるあなた方なら! 戦う意味が、抗う意味が。すでに我々アジア連合の意思は決まっています」


 その玄武の掛け声とともに、アジア連合全員が立ち上がる。


 その全員がEU側の代表達を見る。

つまり、アジア連合は日本奪還に全面的に賛成だということ。

 

 そして。


「サプライズですね。今この場で世界の行く末を決めろと……しかしこの場に来た時から決まっていますよ、玄武さん」


 EU側の代表、カミールがゆっくりと立ち上がる。

先ほど事前に話は通しているのだが、今はパフォーマンスの時間。


「EUは全ての軍事力を出し惜しみせず、戦うことを宣言します。そのための世界連合なのですから」


 その言葉に続いてEU側の代表もすべて立ち上がる。


 そしてカミールは、一心を見て頭を下げる。。


「一心さん、自由のために戦い続けたあなたに心からの敬意を、自由の国の代表として、そして一人の男としてあなたを尊敬する」


 一心も頭を下げて礼を返す。

カミールは頭を上げて、大きな声で宣言する。


「戦いましょう。我々の、そして未来の子供達の自由のために。そしていつか成し遂げられた日を祝日にし、こう呼びましょう!」


 カミールは笑顔を一心に向ける。


「ワールドインデペンデンスデイ。世界独立記念日と」


 一心は深くカミールに頭を下げたまま頭を上げることができない。


 顔は見えないが、涙が床に落ちるのがかぐやには見えた。


「賛成多数! よって、世界連合決議第一号、可決。目標は日本、目的は」


 そして玄武が高らかに宣言する。


「日本奪還!」

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