第71話 その両手の剣には、二人への想いを
「面白いやつだ。女のために戦うのか」
「ヒロイン達のためなら、世界を変える覚悟です」
「その心意気やよし。どんなバカな思いも突き抜ければ、信念となる。ならば変えてみせろ。この世界を! その二つの剣で!」
剣也とオシリスが再度切り結ぶ。
先ほどの戦いよりも、さらに上の次元へと。
もはや、その戦いを理解できるものはその会場にいなかった。
見ているだけで、魂が傷ついていくような激闘。
金属音だけで、肌が、心が悲鳴を上げる。
「ありがとう、レイナ。君のおかげでもう一度剣を握れた! 君の声で、戦う理由を思い出せた!」
「!?……上がった!?」
剣也は切った、無我夢中で連撃を繰り返す。
その連撃にオシリスは怯む、間違いなく先ほどよりも速いから。
クリアになった脳が、最適解を次々と生み出していく。
「まだ隠していたか……ど、どこまで。ぐっ!」
「隠してなんかないです。本当に全力でした。でも思い出した! 戦う理由を!」
「ぐっ!」
「世界のために戦うなんて大それたことじゃなかった」
再び集中の極意の扉を開く剣也。
しかし今度はもう一歩先へ、その眩しいまでの扉の先へ。
その先には、二人の少女が剣也に微笑む。
奥にいたのは、剣也の心の一本の芯を支えてくれていたのは、二人のガチ恋したヒロイン達。
ツンデレなかぐや姫と。
「俺は俺の中にある一本の芯は! あの日から何も変わってない!」
クーデレな氷姫。
「ぬぅっ!! ははは! すごい、すごいぞ! ソード!」
徐々に押されていくことに気づいたオシリス、機体に傷も付きだした。
焦りを見せるオシリスは、楽しそうに声を荒げる。
この世界にいきなり現れて、半年でロードの騎士となって、帝国最強の自分と今戦っている。
過去は一切不明、出自も本当かよくわからないその騎士に問う。
どこか嬉しそうに、全力を出してもなお届かないかもしれない相手との死闘に喜びを感じて。
「なんだと言うんだ! お前は一体なんなんだ!!」
そして剣也は、答えを叫ぶ。
「俺は引きこもりだぁ!」
「馬鹿なことを! ぐっ!」
「でもこの世界に来て、かぐやに出会って、レイナに出会って、変わった! ただの引きこもりのゲーマーは、変わったんだ!!」
オシリスと剣也は極限の状態で、極限の剣戟を交わして、さらに高みへと昇っていく。
その極みに至った戦いは、普通の戦場ではありえないほどの経験値を蓄積させていく。
もはや誰も到達しなかった領域へ迫る二人。
しかし踏み入れたのは、踏み入れられたのは少年だけだった。
お互い経験値は入っている、なのに、踏み入れたのは剣也、オシリスだけは取り残される。
徐々にオシリスは剣也の速度に、剣戟についてこれなくなっていく。
「このゲームだった世界は現実だと知った! 泣いている人がたくさんいる世界だと知った!」
「それが世界だ!! 強者と弱者! いつだって世界は二つに別れる!! 支配される側とする側に!!」
交わす剣戟、押されるオシリス、その差はきっと。
「だから俺は変えるんだ!!」
思いの強さ。
KOGへの想い、二人のヒロインへの想い。
その想いは、今、極限の状態を乗り越えて、実を結び開花する。
もはや誰も到達できなかった武の極みへと、少年はたった一人で孤高に立つ。
でも孤独なんかじゃない、支えてくれた人がいる、愛してくれた人もいる。
自分を呼んでくれる人がいる。
それを見たオーディンは、震えて叫ぶ。
本能が叫ぶ、素人にだって見て分かる、あれはきっと剣の頂に立った者。
「なぜ……なぜだぁぁ!! なぜなんだぁぁ!! ロードぉぉぉ!!! お前の騎士は何だというんだ!!!」
そして剣也が戦い始めてからずっと。
倒れてからもずっと、微塵も剣也の勝利を疑わなかった少年は立ち上がる。
自分の騎士の勝利を信じ切った、ロード・アースガルズは立ち上がり叫ぶ。
「いけ! 剣也!」
「だから、変えるんだ、この残酷な世界を! ヒロインのために! 俺は世界最強の騎士になって! そして!」
「その二振りの剣で」
剣也の左手の剣がオシリスの剣を空高く、吹き飛ばす。
「運命すらも切り開け!」
「二人とただイチャイチャできる世界に変えるんだ!!」
剣也の右手の剣が、オシリスのKOG『グングニル』を貫いた。
その両手の剣には、二人への想いを確かに乗せて。
真っすぐ伸ばされた剣也の剣によって、建御雷神の剣によって。
赤と黒の巨人を貫いた。
「見事……」
そしてグングニルは停止した。
オシリスの右手ごと、グングニルを貫いて機能を完全に停止させる。
赤い血が付いた刃を抜く剣也、ゆっくり倒れるグングニル。
つまりこの瞬間、勝者は、世界最強は。
「…………け、決着!!! 劇的なまでの決着!! 長い死闘を制したのは!! かつてないほどの激闘を制したのは!! 帝国剣武祭を制した世界最強の騎士は!!! ソード・シルフィード!!! ロード殿下の騎士の勝利!!」
異世界の騎士、御剣剣也に決定した。
「うおぉぉぉぉ!!!」
会場がつぶれんばかりの歓声で沸く。
命を握られているかのようなプレッシャーから解放された気持ちと、心が震えるほどの戦いで涙するものすら現れた。
激闘に次ぐ、激闘。
制したのは16歳の最年少騎士。
帝国最強の騎士を下し、世界最強の称号を手に入れる。
あの日覚醒した剣也は、今日さらに上へと到達した。
誰も到達できない前人未到の極致へと、才能のすべてを開花させ。
およそ人が到達しうる極限へ。
「よぉぉぉし!!」
それを誰よりも喜ぶ男が一人、叫びとともに拳を握る。
ロードは盛大にガッツポーズし、まっすぐと戦場へと駆け出した。
建御雷神まで、まっすぐと、そしてレイナもジークも、合わせて飛び出す。
大歓声が鳴りやまない会場、ロード達は急いで観客席から闘技場へと走っていく。
「剣也君!」
レイナが梯子を上り、コクピットから剣也を出す。
激闘だった、もはや命が危ないと。
しかし中にいたのは。
「剣也君! 剣也君!!」
「あぁ、レイナ……ありがとう、レイナのおかげで勝てた…」
まだ元気な剣也だった。
「もう……心配しました、本当に……」
涙するレイナ、力なく笑う剣也。
「レイナ……ありがと、聞こえたよ。レイナの声」
「うっ、うっ。ほんとに死んじゃうかと……」
剣也を抱きしめて泣くレイナ。
そして。
「好きです。剣也君。大好き。もう離れませんから、絶対もう目を離しませんから!」
レイナは剣也にキスをした。
涙の味ですこししょっぱいほどに、熱いキスを。
「幸せで死にそう」
「今はそんな冗談はやめてください、ほんとに」
そしてレイナに担がれて、建御雷神を降りる剣也。
「よくやった、剣也。本当に! あとは任せて休め」
ロードと剣也は拳を合わせる。
「あぁ、もう限界だ。あとは……たの……」
「剣也君!?」
「大丈夫だ、レイナ。脈はある、気を失っているだけだ。私が運ぼう。まったく……本当にすごいやつだな、我が息子は」
「なんだ、レイナ君との仲を認めたのか? ジーク」
「認めるも何も……」
「パパ、私剣也君と結婚します。ずっと一緒にいたい」
娘のレイナを見るジーク。
その顔は真っ赤で、剣也を心配そうに見つめている。
氷姫などと呼ばれていた感情のない顔は、今や単なる恋する乙女でしかなかった。
氷は解けて、涙に変わり、熱く燃え上がるのは恋の炎。
「これですから。それにもう反対もできませんよ。こいつ以上の騎士がいますか?」
「ふっ。いないな。まさしく世界最強だからな」
それに笑い合うジークとロード。
そして、ゆっくりと寝息を立てる剣也をジークがそのまま緊急医療室へと連れていく。
オシリスも救助されて運ばれていた。
片腕を失い、出血多量で意識がない。
そして、取り残された一人の皇族。
今だ玉座から立ち上がれずに、わなわなと震えるだけ。
「負けた……?」
オーディンはしばらく立ち上がれなかった。
「なぜだ、なぜ負けた?」
オーディンは信じられないと繰り返す、そして。
「くそぉぉぉぉ!!!!!」
冷静なオーディンが絶叫する。
そしてもう一人、オーディンの横の美女。
「あ、あ、あ、ありえない……ありえない!! 私の作戦は完璧だった! なぜ! オ、オーディン様! これは何かの間違いです! オーディン様!」
その様子を見てオーディンは、剣を抜く。
「いや、いや!! なんで! なんでよ! なんでぇぇ!!! この私が、あんな穢れた血なんかのためになんで!!」
キャサリンは無様に金切り声を上げて叫ぶ。
そしてオーディンを見て、オーディンの靴を舐めだした。
「オーディン様? ね? 私なんでもしますから! お願いします! お願いします!」
「死ね、役立たず!」
「い、いやぁぁ!! 死にたくなぁぁ!!!」
キャサリンは、靴を舐めながら串刺しになり絶命した。
赤い血が流れてあっさりすぎるほど、キャサリンは息絶えた。
その表情は、醜悪な魔女の最後にはふさわしい無様な死体。
そして。
「いい気になるなよ、ロード。今だけだ。今だけこの国を預けてやる。リールベルト。次はないからな」
ただ静かに首を差し出すリールベルトを見てオーディンは剣を収める。
「……はい」
そしてオーディンとリールベルト、その取り巻き達が会場を出た。
(ソード君。君とは次は戦場で出会うのかな……)
この日多くの有力貴族達が、ロードにつくことを決めた。
国民も、軍人達も、もはや感情がロードを皇帝に決めている。
それほどまでの激闘だった。
この戦いを無下にすることは誰もできなかった。
オーディンを指示していたものですら心変わりするほどの激闘。
力こそ正義、その精神を宿す帝国民達の心が動く。
だからこその帝国剣武祭、武の祭典。
その激闘を制した騎士の主君ロードを指示するぐらいには、心が震えた。
これで完全に戦力的には五分。
むしろ上回っている可能性すらある。
「ありがとう、剣也。これで私が皇帝だ」
そしてロードが、元の席へと戻る。
オーディンは既にその場にはいなかった。
「去ったのですね、兄上」
そしてロードはマイクを握る。
会場へ向けて宣言するために。
「まずは、我が騎士ソード・シルフィードに最大の感謝を」
剣也への感謝の言葉からロードの演説は始まった。
「この戦いを直接見たものも、映像で見ているものもいるだろう、その全員がこの激闘を、命を懸けた本当の死闘を見たはずだ。そして我が騎士、ソード・シルフィードは勝利した!」
再度歓声と拍手が会場から巻き起こる。
「そして、今我が兄オーディンはこの場を去った、そして皇帝陛下の宣言により今日この帝国剣武祭の勝者こそが次期皇帝に決定している! つまりは!」
そして一際声を張り、言い聞かせるようにはっきりと。
「私が、第100代皇帝! ロード・アースガルズとして、皆を導く!」
「うぉぉぉぉぉ!!!!」
そして会場は湧きに沸く。
次の皇帝が決まったことに、ロードというカリスマが皇帝になったことに。
不安の中にいた国民達は、ロードならば負けないと安堵する。
無敗の指揮官が、皇帝になったのならきっと戦争には勝利する。
「そして今日、私は皇帝として初めて皆に約束しようと思う」
そしてロードが語りだす。
囚われていた剣也は知らない、世界の情勢を、急変した世界を。
「私は誓おう、必ずアースガルズ帝国を守ると! 皆を必ず導くと!」
剣也が囚われている間にできたアースガルズの最大の敵。
すでに、宣戦布告をされたアースガルズ。
その敵はアースガルズと世界を二分する巨大な連合国家を作り上げた。
その敵は。
「世界連合から!」
アースガルズ以外のすべての国家が手を組んだ世界最大の連合国家がアースガルズに牙を剥く。
だが、今はまだ世界最強の騎士はそのことを知らない。
脳が焼き切れるほどの戦いをした騎士は眠りについた。
次の戦いに備えて、誰と戦うともわからずに。
あとがき
ここまで読んでくださった読者の方本当にありがとうございます。
よければ下の★で評価を頂けるととても執筆の励みになります。
皆さんからの熱いコメントとても嬉しいです。
元々最後5話ぐらいは連続投稿で駆け抜けるつもりだったのですが、中々間延びしてしまって申し訳ありません。
連続だと見逃す人が多すぎて……。
どうだったでしょう、剣也君の戦いは。
胸が熱くなったならとても嬉しい限りです。
今後世界はどうなるのか。
そしてかぐやとレイナとどうなっていくのか。
剣也は二人といちゃいちゃできる世界に変えられるのか。
では!
これにて第二章アースガルズ編を完結とし、明日から第三章 世界連合編が始まります。第四章を最終章としていますので、もう少しですね。
では、また第三章最終話でお会いしましょう。
KAZUでした。
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