第62話 騎士叙任式

「おはよう、世界。いや、違うな、おはようとは、起きた時に言う言葉だ。ならば一睡もせずに起きた時。人はなんというんだろう」


 朝チュンだと思った?

残念、徹夜チュンです。

理性は死んだけど、なんとか本能も道連れにすることには成功しました、3回ぐらい復活してきたけど。

まるでゾンビだな、若い性欲とは恐ろしい。


 途中でトイレにいって精神統一、もとい賢者にジョブチェンジを繰り返して何とかこの窮地を乗り切ることに成功した。


「おはようございます……よく寝ました。なんででしょう、剣也君の隣は安心しますね」


(うん、俺は一睡もできなかったけどね)


 レイナは安心して熟睡したようだ、寝ぐせがついているのが可愛い。

それに、昨日は夜だったので暗かったけど朝日を前にするともろに薄いネグリジェから下着が見える。


 剣也は思った。


 エッロ。

なにこれ、なんでこんなに細いのに胸おっきいの?

何が詰まっているの? 夢と希望? ちょっと触診させてもらっていいですか?


 しかしレイナは立ち上がり部屋を出る。


「では、私は戻ります」


「あ、おっぱい……」


「何か言いましたか?」


「い、いえ! なんでもありません!」


 そして

レイナは事実へ戻って言ってしまった。

シャワーも浴びて、軍服を着てぴっちり決めて今日の朝食を作ってくれる。


 剣也もさっさと準備をすませて、手伝いにいく。


「レイナ……寝るのは別にしないか?」


「え?……嫌…でしたか? そうですよね……ごめんなさい」


「そんなことないさ! 今日も一緒に寝たいな!」


 元気な声で剣也は答える。

睡眠なんかより、レイナの笑顔の方が大事だからね!

人間2,3日寝なくても大丈夫、それより理性が持つかが心配だ。


 そして朝食を済ませ、リビングでのんびりと過ごす。

剣也は爆睡しているが仕方ない。

するとお昼ごろに来るといっていた迎えの車がやってきた。


「リムジンだな。長すぎないか?」


「乗るのは初めてですか?」


「これあれだろ? 中でパリピ達がシャンパンあけて乱交するところだろ?」


「よくわかりませんが……そうなんですか?」


「いや、偏見」


 そして乗り込む剣也とレイナ。

運転手はセバスチャンといった感じのおじさんだった。

想像していた通りの内装で、ギャルを両手に挟んでうぇーいってしてるイメージぴったりだった。


「いつかギャルを両手に、うぇーい……いやキャラじゃないな。でもかぐやとレイナを……最高か?」


「ギャル?」


「この世界ってギャルはいないのか……ううん、なんでもない」


 残念、オタクに優しいギャルは存在しないようだ。そもそもギャルがいないので仕方ない。


 そうこうしているうちに、ヴァルハラ城のロータリーへ。

するとヤクザの集会も真っ青なほど黒塗りの高級車が立ち並んでいた。


 見渡す限りの高級車。

多分、全部貴族のものなのだろう、今日はアースガルズ帝国中の貴族が来ると言っていたし。


 関係者入口を通り裏道へ。

こういうときは、主賓はみんなと同じように入らないようだ。

お祝いされる人に、事前に会っちゃうとそれは確かにどうかとも思う。


「では、行ってらっしゃいませ」


 そして裏口で降ろされる剣也とレイナ。


 案内された通り進む。


「では、会場で待ってます。お兄ちゃん」


「あぁ、またあとでね」


 剣也だけは別室で待機。

その間に作法について簡単に説明を受けていたが、跪きながら誓いますというだけでいいのだそうだ。

最後に言う言葉だけ、なんで英語? と思ったけどそういう伝統なので気にしない。


◇昨日のロードとの会話。

「基本は誓います、そして最後だけYes,Your Highnessだ」

「Yes,Your Highness? なにそれ」

「正式な場で使う。了解しましたの意味だな。はい、殿下。みたいな意味だ。ちなみにHighnessは皇族を表す」

「ふーん、Yes,Sir! みたいなもの?」

「そうだ、ちなみに皇帝の場合はMajestyと言う。使う機会はないだろうがな」


 直後思い出すロードとのやり取り。

前の世界のアニメで聞いたことあるなと思ったが気にしない、正式な言葉なのだから問題ないだろう。


 しばらく別室で待機したあと時間になったようで剣也は呼ばれる。


 祝福の笛、ファンファーレと共に巨大な扉が開いて剣也が会場へと入場する。

赤いじゅうたんの先にはロード、そしてその周りには貴族達とカメラも入っている。


 それに、レイナの隣にいて、こちらを見て手を振るのは。


(ジークさん! 来てくれたんだ)


 軍神ジーク。

息子の晴れ舞台なのだ、来ないわけにはいかないだろう。



「本日は、ロード殿下の騎士叙任式を中継しております、ロード殿下と言えば過去最大の大戦と言われたEUとの戦いで全戦全勝という偉業を行われた世界から恐れられる常勝の指揮官でございます!

その殿下の騎士は今までお決めになられていらっしゃらなかったのですが、今日この日! ついにロード殿下が騎士をお決めになられたということです!」


 皇室放送では、アースガルズ帝国中にロードの騎士叙任式が中継されている。

アナウンサーのようなキャスターが会場でカメラの前で放送する。


「そして、あー今ご入場されました。ソード・シルフィード卿です! かの軍神のご子息であり、今学生最強と称されるジン・ハルバード卿にも勝利し、世代最強と称される史上最年少の聖騎士長です!」



(うわ、こういうの苦手なんだよな……)


 アースガルズ中の何億という人間が剣也に意識を集中する。


 奥の玉座には誰も座っていない。

そしてその右にはオーディン・アースガルズ、そしてオシリス・ハルバード。

そしてその左にはロード・アースガルズ、その隣には誰もいない。


 ロードと目が合った剣也。

悔しいが安心してしまった。

いつものように、にやにやと剣也を見て笑っている。

いや、あれはバカにしているのか? 緊張している俺を。


 とたんにムカついてきた剣也は緊張など忘れて真っすぐと姿勢を正す。

それがロードによる剣也の緊張を解くためだとは気づかずに。


 レッドカーペットをまっすぐに、ロードの前で跪き、その腰の剣を抜いてロードへ差し出す。

目が合って剣を渡すとき、二人にしか聞こえないような小声で話す。


「わらうんじゃねー」


「しっ。聞こえるぞ。ふふ、だが似合わんな」


 膝をつく剣也を見て笑うロード。


 そしてロードが剣也の剣を受け取り、両肩に剣の腹を置く。

その瞬間会場のざわめきは消え、静寂が包みロードが口を開くのを待つ。


 ロードが口上を述べる。

大きく良く通る声が会場に響く。


「ソード・シルフィード、汝、ここに騎士の誓約を立て、我が騎士として戦うことを誓うか」

「誓います」

「汝、その忠誠を永劫に、大いなる正義のため、我が剣となり盾となることを誓うか」

「誓います」

「では、ロード・アースガルズの名において、汝ソード・シルフィードを我が騎士として認める。そして命ずる、我を助けよ。我が騎士ソード・シルフィード」


 そして剣也に向けて剣を向ける。

その剣にそっと口づけをし、ロードを見る。


「Yes,Your Highness」


 皇族に対する敬意を表す言葉を添えて。

 

 そして剣をロードから受け取り、立ち上がって腰に差す。

これにて騎士叙任式は終了した。


パチパチパチ


 乾いた拍手が鳴り響く。

その拍手を始めたのはもちろん、銀髪の少女。そしてパパ。

それにつられて次々と拍手が巻き起こる。


「これにて、ソード・シルフィードは私の騎士となった! 今後彼に仇なすものは、私に仇なすことと同義と心得よ!」


 アースガルズ中が祝福し、剣也を認める。

この日正式に剣也がロードの騎士となり、二人の半年に及ぶ計画は達成された。


 そして。


「そして今日皆に発表しなければならないことがある!」


 すると大画面が運ばれてくる。

何かを中継するかのような巨大なテレビ。


(ん? なんだあれは……)


 オーディンは聞かされていないし、ここにいる誰も聞かされていない。


 そして直後画面に映るのは。


「皆……久しいな。今日は皆に話すことがある」


 ベッドに伏せているオルゴール・アースガルズ。


 この世界の頂点が、話し出す。


 世界の運命を決める話を。

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