第61話 甘々な日常、そして最後の日常
「何をそんなに怒っているんだ、剣也」
もぐもぐとレイナが作ったチョコレートケーキを食べまくるロード。
遠慮というものを知らないな、これが皇族か。 殴ってもいいか?
「いや、これほんとに美味しいな。私はぶどうの次にチョコが好きなんだ。ほら、脳を使うから糖分がね」
「そ、それはよかったです。ロード様」
「こいつに様なんてつけなくていいだろ」
「これでも主君なんだけどな、主従関係はどこに……レイナ君、なにかいってやってくれ」
「剣也君、続きはまた今度してあげますから……ね?」
レイナが剣也に笑顔で微笑む。
「まじですか!」
「なんだ、いかがわしいことでもしていたのか、それはすまなかった。ちゃんと避妊はしろよ」
「剣也君を喜ばせてあげたくて……初めてでしたけど頑張りました」
「いや、言い方!」
チョコレートケーキを談笑しながら食べる剣也とレイナとロード。
この光景だけを見れば、放課後の同級生が某ファーストフード店でだべっているようにも見える。
そんな優しい空間が三人を包む。
しかし、一人は世界最恐の王子、一人は世界最強の騎士。
世界を動かす力すら持っている二人の少年。
ただ今だけは、ただその時間だけは、そんなことは忘れてただ甘いお菓子を楽しんだ。
こんな時間がいつまでも続けば、世界は平和になるはずなのに。
しかしそんなことは夢物語、世界は苦しみと憎しみに満ちて、その代償に彼らは自由をもらっているのだから。
甘々な日常、でもこの日が最後の日常かもしれない。
…
「で? 大事な話って?」
「あぁ、緊急で明日、お前の任命式を行う。皇室放送でな。まぁ事前に決まっていたから準備はできているのだが、本当に聖騎士試験落ちなくてよかった……それにお前に出席してもらう」
「でなきゃだめか?」
「でなきゃだめだな」
「えー…」
「いつものように、軍服でいい。私は少し豪華な服だがね、動きづらくてかなわんが、まぁ式典なので仕方ない」
「そんな大々的にやるのか?」
「帝国中の貴族が集まるよ、なんせ私の騎士の任命式だからね。結婚式並みにくる」
皇族の騎士任命式は、相当伝統深いものがあるらしい。
今ではKOGのパイロットが騎士となるが、古くは剣で戦っていた時代からこの制度はあるという。
皇族の騎士となったものは、唯一の主君をその皇族と認め命を賭して守ることを誓う。
皇帝すらその騎士には命令できなくなり、すべての決定権はその仕える皇族のみが持つこととなる。
それゆえに、皇族は死別以外で騎士と別れず、多くの妻を持つ皇族にとって伴侶以上の関係ともいえる。
絶対の忠誠を誓うもの、それが皇族の騎士。
「俺そういうところ初めてなんだけど……」
「なに、私の前で跪いているだけでいい。私が剣を君の首に充てるから、そのまま無抵抗でいろ。命を捧げるという意味だ」
「そのまま刺すなよ」
「お前が反抗的でなければな……と冗談は置いておいて、今日はそのあとについて話に来た」
「そのあと?」
「そのあと、父上が演説をなさる。これは黙っていろよ。そこで運命は始まる」
「そうか……いよいよか」
「あぁ、まだ兄上も知らないがそのあとどんな手を打ってくるかわからない」
「なぁ、オーディンってどんな奴なんだ?」
「兄上か? そうだな……正しく皇族。姉上とはまた違った異なる人種に対して全くの感情を持っておられない。狡猾で強く、カリスマもある」
演説でしか見たことがないそのオーディンの印象を聞いた剣也。
ロードから返ってきたのは、あの時感じた印象そのままだった。
「だから今日から警戒しろよ、レイナ君。すまないがKOGに乗るまではちゃんと見といてくれよ。バカだから」
「了解です! 目を離しません!」
「暗殺でもあるまいし……」
するとロードがため息をつく。
当たり前のようにそういった搦手もありうるのに、どこまでも能天気な剣也に呆れる。
とはいえ、剣也では警戒してもどうせ無駄なので言っても心労するだけかと諦める。
「では、私は戻る。迎えをよこすからな、ヴァルハラ城で行うのでそのつもりで」
「何気に初めて入るな……あのでっかい城か」
帝都ヴァルハラ。
その中心にそびえる中世の城。
見た目は中世だが、中身はしっかりハイテクの建物。
とはいえ、パーティー会場などは中世ヨーロッパという感じだったはず。
パンフレットで見た。
そしてロードは迎えの車に乗り込んで剣也達と別れる。
「じゃあ今日は備えて寝よっか」
「……はい」
何か言いたそうなレイナは赤くなって下を向く。
それを不思議と思ったが、特に何もないようなのでシャワーを浴びて寝室へ。
「明日ついに、始まるんだな」
寝巻に着替えて、剣也はベッドに横になる。
いよいよ、始まる帝国剣武祭。
一体どんな戦いが待っているのか……。
トントントン
「ん? レイナ? いいよ、はいって」
するとノックの音と共にレイナが入ってくる。
「どうし……レ、レイナ!?」
ネグリジェ姿のレイナが現れる。
薄い服の下には同じ色の下着が見える、どちらも色は紫で統一されて白い肌に良く映える。
童貞には刺激が強すぎる、美しすぎるプロポーション。
胸には多分谷間が見えた、これがレイナの標準装備。
いつも眠るときは別だし、朝起きたらいつも軍服なので剣也は知らなかった。
「今日から一緒に寝ましょう。ロード様にもお願いされましたから」
「え、え? ちょ、え?」
「あんまり見ないでください。少し恥ずかしいです……」
語彙力を失った剣也。
あられもない姿の、いやあえて言おう、ドチャクソエッチなレイナの姿に視線を泳がせて、どもりまくる。
見ないように頑張るが、悲しいかな、男はババアのスカートがめくれても目が行ってしまうのはもう習性と言っていい。
それがレイナほど美しい肉感的な女性であればなおのこと。
恥ずかしそうにたわわな胸を両手で抱えるレイナ。
なぜ恥ずかしいのに、そんな服を? 標準装備とはいえ、どうしてそんなドチャクソ…。
フリーズする剣也、するとレイナは無言で、近づきベッドへもぐりこむ。
布団に入って、顔だけ出してにっこり笑ってこちらを見た。
「おやすみなさい、お兄ちゃん」
ボンッ!
理性は死んだ。
~翌朝
チュンチュンチュン
小鳥がさえずる音がする。
朝日が部屋を照らし出し、その眩しい陽光が二人を照らす。
「おはよう、世界。いい天気だな」
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