第59話 三英傑

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前書き

すみません。

やっぱりどうしても読み飛ばしが発生してしまうので二話更新はやめておきます。

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「息子が世話になっているね。私はオシリス・ハルバードだ」


「は、初めまして! ソード・シルフィードです!」


「うむ、座り給え」


 そして着席を促された剣也はその椅子へと座る。


「お前がジークの息子か! あのアホは元気か? がはは!」


 体が剣也の三倍ぐらいありそうな、まるでゴリラのようなおっさん。

特徴は声がデカい、体がデカい、名前はオルグ・オベリスクというらしい。

話し方からジークさんの同期だとしたら多分30後半ほどだろうか。


「今日の試験見させてもらった、素晴らしい戦いだったが……武勇だけでは認められんな。もう少し勉強もしなさい」


 するとその隣、めちゃくちゃ美人の金髪長髪のお姉さん。

落ち着いている雰囲気と眼鏡から大人の雰囲気を感じる。

若いとはいえないだろうが、とても美人なので全然20代でもいけそうだが三英傑というのならやはり30代なのだろう。


 名前はラミア・シルバーナというらしい。


(これが噂に聞く三英傑、確かにただ物じゃなさそうだ……)


「そう緊張しなくていい、少し質問をするだけだ。毎年の私達の仕事なんでね」


 基本的にオシリスさんが質問してくれるようだ。

ラーミアさんは冷たい目でこちらを見て、オルグさんは満面の笑みでジークは元気かしか聞いてこない。


「父は、13番地区で元気にやっております!」


「そうかそうか、あいつも引退なぞせんかったらいずれ四英傑と呼ばれておったはずなのになー。儂とあいつはライバルという奴だったんだぞ!」


 やはりオルグさんはジークさんに特別な思い入れがあるようだ。

ライバルというその目は少し寂しそう。

きっと好敵手と書いて友と呼ぶ、そんな関係だったんだろう。


「ジークさんは、私の世代では憧れですから……まさかお子さんがいらっしゃったなんて」


 ラミアさんはジークさんのことを良く知っているようだった。

ジークさんの後輩だったようだ。


 その目はどこか恋する乙女のような目をしている。

ジークさんは正直めちゃくちゃイケメンのダンディおじさんなので現役時代はたくさんの女性を泣かせたんだろうな。


「どこの馬の骨が……くそ、相手は誰だ。殺してやる」


「え?」


 剣也にはよく聞こえなかった。

聞こえなかったが、なぜかめちゃくちゃ怖かった。


「それでは面接を始めようか……」


 そしてひとしきり自己紹介のようなアイスブレイクの時間が終わり面接が開始される。

圧迫面接を想像していた剣也は意外と話しやすい雰囲気で安心した。


「そうだな、色々聞きたいことはあるが……なぜ聖騎士を目指す?」


 志望動機を聞かれる剣也。

自己分析も何もしていないし、テンプレ回答も容易していない。


「ロード様の騎士となるためです。聖騎士長しかなれないと聞いておりますので」


 だからシンプルにそう答えた。


「ふむ、やはりそれは本当なのだが、噂程度に流れていたが今日のロード様を見て確信したよ。おめでとう」


「ありがとうございます」


「では、聖騎士長としての手続きをしよう、ジンよりも強いのだから問題ない。いいな、二人とも」


「かまわん、かまわん! 強いものは大歓迎だ!」


「いささか性急かと思われますが……国際情勢を鑑みると仕方ありませんね。力を持つものには相応の役職を与えなければ」


「そんな簡単になれるものなんですか?」


「あぁ、聖騎士長を任命するのは私達三名、もしくは皇族の役割だ、試験も何もない、私達が許可すれば今日にでも名乗ってもらって構わない」


「あ、そうなんですね」


 そして剣也はこの日聖騎士長として任命された。


「ということは、はは。ジンの最年少記録が塗り替えられてしまったな。あいつに勝てる学生が出てくるとは思わなかったが」


「す、すみません」


「何を謝る、あいつが弱いのが悪い。いつかリベンジすると燃えているからな、私としては感謝しているぐらいだ! あいつは才能はあるが、敵がいない。このまま戦場にでれば足元をすくわれかねないとおもっていた。しかし最近家ではお前の話ばかりだ、仲良くしてくれているんだな、ありがとう」


 ジンの最年少記録を塗り替えてしまった剣也。

しかしその父は驚くほど優しくて、むしろ息子のやる気が上がって嬉しいとすら言ってのける。


(仲いいんだな……)


 少しほっこりする剣也。

三英傑と特別視されても結局は同じ人間なんだと嬉しくなる。

自分の子供が可愛いだけのダンディイケメン。


「それとな、ロード様の騎士となるならば、なんでも私に聞くと言い。先輩騎士としてな」


「え?」


「なんだ、知らんのか? 私はオーディン様の騎士だぞ」


「ほ、ほんとですか!?」


「あぁ、世俗に疎いとは聞いているがもう少し色々学ばなくてはならんな」


「はは、すみません……」


(オーディンの騎士……それってつまり…)


 その意味を剣也は理解した。

帝国剣武祭で、オーディンの陣営に勝利する。

それが剣也とロードの目的、ならばオーディンの騎士だというのなら、必ずと言っていいほど出てくるだろう。


 その時俺はこの人と命を懸けて戦うのか。


 優しく笑うその父親の姿を見て剣也は一瞬怯む。

命を懸けてこの人と戦うのを想像するのは難しかった。


「……互いに主君を持つ身だ。この先何が起きるかわからない」


 するとオシリスが剣也の様子を見てゆっくりと語りだす。


「その時私は全力を出す。君もそうだろ? 成し遂げたいものがあるのなら、命を賭して戦う理由があるのなら。我らは仕える方がいる騎士なのだから。ただ剣となれ、盾となれ、迷いを捨てろ」


「え?」


「そして願わくば遺恨を残さず勝者に賛美を。あるのは互いの正義のために全力を賭して戦ったという事実のみ。それが戦いというものだ。わかったな」


(そうか……この人は気づいているんだ……ロードとオーディンが戦うことになることを)


 帝国剣武祭のことを知るのは皇帝とロード、そして剣也達のみ。

しかしオシリスはなんとなく理解していたのだろう、オーディンとロードが決定的に違うことを。

その二人が進む未来に何が起きるかということを。


 だから剣也は真っすぐ答えた。


「はい!」


 オシリスはその返事に笑顔で頷いた。

そしてその日の面接は終了した。


 剣也は部屋を出ていく。


「オシリスよ、最後のは何の話だったんだ?」

「何か二人にしかわからないような内容でしたが……」


「ふっ。すぐにわかる。その時はもう目の前まで来ているのだから」


(面白い目をしていたな、ソード・シルフィードか……楽しみだ)


 三英傑が一人、オシリス・ハルバードは笑う。

歴代最強の騎士と呼ばれ、二つ名を剣聖と呼ばれた帝国最強の騎士は、好敵手の登場に胸を躍らせた。



「お、おめでとうございます。お、お兄ちゃん!」


「あ、ありがとう、レイナ!」


 聖騎士試験の帰り道、レイナと剣也はぎこちなく笑い合う。

ギクシャクしているし、気まずいのはあるのだが、それでもドキドキして少し楽しい。


 そんな青春を送っていた二人。


「そ、そうだ! 今日は聖騎士長になったお祝いをしましょう」


「え? してくれるの? 嬉しい!」


 少しのことでも大げさに喜ぶ二人。

今だ声が上ずっているのはご愛敬。


「でもすみません、こういう時お祝いするのはわかるんですけど……何をしたらいいか」


(剣也君を喜ばせてあげたい……でもどうすれば…)


「うーん」


 剣也の喜ぶ顔が見たい、嬉しいと思ってほしい。

レイナは意外と尽くすタイプだということを剣也はまだ知らない。


「な、なにをしてほしいですか? 私にできることなら……なんでもし…ます。何でも言ってください!」


 そういうレイナは剣也の腕を抱いて、下から剣也をのぞき込む。

キスできそうなほど距離が近い。

一切の非の打ちどころのない綺麗な顔が真っ赤に染まる。


(え? 今なんでもっていった?)


 見つめ合う二人、近づく心臓、火照る顔。


 二人の鼓動が早くなる。

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