第57話 付け焼刃の戦略
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まえがき 今日更新分 1/2
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「まんまと嵌められているじゃないか、あのバカは」
「どういうことですか!?」
モニター越しに戦場を見るロード。
その戦略の天才の目は、一瞬ですべてを理解させる。
「この配置……多分こいつが指揮官なのだろう、名は…ブルー・タスマニア……あぁタスマニア伯爵家か」
「はい、彼は優秀でした。タスマニア家の名に恥じぬ程度には」
すると他の試験官も口をはさむ。
彼はブルーを知っているようで、戦略では優秀な成績を出していたと主張する。
「ほう、確か優秀な指揮官を輩出してきた家系ですな! その長男ですか、それは心強いのでは?」
「あぁ、優秀なのだろうな。マニュアル通りの穴だらけ……戦場を知らない指揮官か」
「ロ、ロード様とお比べになられるのはいささか可哀そうというものです。あなた様と戦場で戦いになるものなど世界を探してもいるかどうか……」
「抜けてきた地獄の差だよ。話を戻すと、この配置。この指揮官が最も戦場に多く影響を出せる配置となっている。この試験の意味を理解してみれば意図が掴めるだろ。つまりは」
…
「よし! 一機撃墜!」
「おめでとうございます! ブルー様!」
「はは、烏合の衆とはこのことだな、敵は戦略も何もないじゃないか! あちらには指揮官を名乗り出るような優秀な者はいなかったようだな!」
交戦が始まったが、しっかりとチームとして動くブルーに比べて対戦相手は適当なのか、一機で突撃してきたり、複数体だったりとバラバラ。
この戦場では、味方の位置と通信だけが情報として知ることができる。
相手の情報は目視確認するまでは一切不明となっている。
しかし目視確認している間のみマップ上に信号が表示される仕組みとなっている。
ブルーは5人ほどの身内のチームで戦場を動き回る。
他のチームが交戦しているところへ割って入り戦果をかっさらう。
「ははは! これで三機目だ!」
ブルーの読み通り、対戦チームは作戦会議の時間を有効に使えず各機勝手に動くことになっていた。
「これで私は聖騎士だぁ!!!」
ブルーはにやけが止まらない。
聖騎士となれば、名誉と地位が確約される。
伯爵家の自分としては聖騎士にならなければ恰好がつかない。
なので親からは是が非でも聖騎士となれと命令されている。
その悲願を達成するためなら汚い手も使おう。
勝てばいいのだ、勝てばすべて肯定される。
「さぁ、次だ!」
…
「ブルー君の戦略は見事と言えざるを得ませんな」
「このままだと彼がこの戦場の聖騎士になりますかな。ソード君はせめて戦ってくれなくては……」
「こ、これはまずいのではないですか? ロード様、いかにソードとはいえ戦えなければ……」
試験官達がブルーをほめたたえる。
それをみて焦るスターはロードへ意見を聞こうとする。
ロードは椅子に座りながら、モニターを眺めこめかみを指でつつきながら考える。
彼の癖だ、読み切るときの。
しかしロードの悪魔の頭脳をもってすればこの戦場を読み切るのに時間はかからなかった。
「………ふっ。いや、そうでもないな、まったく運がいいのか悪いのか」
Bチーム、そしてその対戦相手のAチームの戦場すべてを見るロード。
その未来を読み切った、その未来視でこれから起きることを理解したロードは笑う。
「まぁどうにかするだろう、あれでも私が騎士と認めた男だ、生半可な戦略などその理不尽な剣で叩き切る」
(かつて私が叩き切られたようにね)
「しかしこの状況では……」
「いや、戦場は動くよ。Aチームの勝利の方向へ。そしてブルー君は知るだろうな。付け焼刃の戦略などない方がましだという事に」
…
「お、おい! 敵が多いぞ! どうなっている!」
「ブルーさん! あっちからも来てます!」
「なんだと!?」
ブルーの戦う戦場に次々と敵が集まってくる。
その数は次第に増え、10、20…そして最後には30を超えた。
「なぜ……何が起きている…」
効率的に戦場を駆け回って、各戦場では戦いを長引くように引き気味で戦わせた。
その結果ブルーがその戦場に間に合い、横から戦果をかっさらう。
それがブルーの戦略であり、統率された人数差を作るための戦略。
戦いは数、それは最も古くから続く戦場の真理。
そのために遊軍となって戦場を駆け回っていたのに。
なぜ。
「なぜ、敵の数がこれほど多いんだ! どうなっている!」
四方を囲まれたブルー、理由は単純。
…
「こ、これは……ロード様にはこうなることがお分かりでしたというのですか?」
「あぁ、Aチームは指揮官がいないのだろう、ただ目に付く者に立ち向かう烏合の衆。しかしマップは共有されているからだれがどこで戦っているかは全員が把握している」
「それは…実際の戦場と同じことです。シミュレータだけの話ではないのですが」
「あぁ、それ自体はね。だがブルー君は自分の手柄を優先し各戦場で戦いを長引かせた。そして戦場を上から下へと駆けずり回った。その結果敵が次々と四方から集まってしまったんだよ、ブルー君の戦場目掛けてまるで子供の球遊びのように」
ブルーが戦いを長引かせ、戦場を次々と変えていった。
その結果各地で交戦していたAチームが、まずいと思ったのか全員がブルーのいる戦場へと集まった。
まるで子供達が球の方向に一斉に集まるように。
球が転がったほうに全員で走っていく、戦略など何もない。
餌へ群がるハイエナのように、目的地へと戦士達は群がる。
つまりここではブルーの戦場へ。
正しい戦略の前には愚の骨頂。
しかし、その実、戦いは数であることを体現する力も併せ持つ。
…
「く、くそ! 全員集まれ! ポイントはD! 全員だ!」
焦るブルーはBチーム全員へと命令を出す。
そして次々と戦場へ集まるBチーム。
しかし戦いは数、KOGの技術的な力の差はないAチームとBチーム。
ならば数の多い方が勝つのは自明の理。
ブルーの指示は間違っていた。
まずは退却し、人数を先に集めるべきだった。
そうすれば数の上では有利だったのに、呼び出してしまった。
その結果が多対少を繰り返す結果となる。
三十体を超える大部隊に、次々と倒されていくBチーム。
数が集まる前に圧倒的人数差で敗北していき、合流した他のBチームも次々と敗北していく。
それを見てブルーは叫ぶ。
「う、嘘だ、私は間違っていない。間違っていない!!」
「ブルーさん! 指示をください!」
「こ、このままだと全滅です!! ブルーさん! う、うわぁぁぁ!!」
「お、お前らが悪いんだ! 私の言う通りに戦えないから! 私の戦略は完璧だったはずだ!! 私は悪くない!」
そして数十体に囲まれるブルー。
気づけば周りには彼一人、戦場は壊滅してBチームは数機しか残っていなかった。
「私は天才だぞ、天才のはずだ……なぜ…」
その叫び虚しく一閃のもと叩き落とされる。
…
通信の内容を聞いていたロードがつぶやいた。
「完璧な戦略などないよ、ブルー君。あるのは成功する確率が高いか、低いかだけだ。それを高めるのが私達の役目なのだから。シミュレーションでよかったね、これが戦場なら君は死んで、アースガルズ帝国は敗北している」
「これは……決まりましたか。Aチームの勝利が」
「ブルー君の戦略は悪くないと思っていたんですが、途中から利益を優先しすぎましたな。戦場でもこれでは指揮官の道は……」
「さすがでございます、ロード様。しかしこれでは……」
スター大佐がこれを読み切ったロードに感嘆の声を上げる。
しかしこれではBチームが敗北してしまうとその声は力がない。
多くの試験官がBチームの敗北は決定し、Aチームの誰が聖騎士になるかを算出し始めた。
スター大佐すらも、その試験を見る全員がこれはAチームの勝利が決定したと確信した。
ただ一人。
「さぁ、出番だぞ。我が騎士よ」
笑顔で楽しそうにモニターを見つめるロード・アースガルズを除いて。
…
「ん? 集まればいいのか? ポイントDに。なんか作戦と違うな……めちゃくちゃ遠いし」
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