第56話 戦略の秀才

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まえがき(今日更新分の2/2です)

GW記念でしばらく二話ずつ更新します。

読み飛ばさないようにしてください。

前回二話更新したとき、読み飛ばされている方が

5000名ほどいらっしゃいますので……

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「チーム決めは、事前に配布した受験票に書いてある通りだ、では移動開始!」


 スター大佐の号令のもと、各自シミュレーション室へと向かっていく。

受験票に書いてあるアルファベットが何なのかと思っていたがそういうことか。

剣也はBグループに配属されたようだ。


 案内された部屋には大量のシミュレーションマシンが並んでいた。

さすがはアースガルズ一のエリート学校。

潤沢な資金にものを言わせた、最高の施設だ。


 そして俺たちはBグループに属する50名は、スター大佐に案内されるまま隣の部屋に移動する。


「えー、試験は順番に開始するため、このBグループは一時間後だな。それまでは各チームで自由に話し合ってもらって構わん、ではな」


 試験まで一時間ほどあるため、作戦会議を行うようだ。

スター大佐は外に出て受験生だけがその部屋に残される。


 席に着いた50名の受験者。

案の定静寂が部屋を包む、ここにいるメンバーは敵であり仲間となるからだ。


 しかし一人の少年が前にでる。


「私の名前は、ブルー・タスマニア。父は伯爵だ」


 教卓に出る少年に全員が注目を集める。


(こういう時真っ先に行動できるのすごいよな……)


 剣也にはできない芸当だ。

主体性というかなんというか、委員長タイプとでも言うのだろうか。


「私たちは聖騎士を目指す仲間であるが、同時にライバルであるのは理解している。しかし手を合わせなければ勝利はあり得ない。そこでどうだろうか、もし他に立候補するものがいないなら私が指揮をとらせてもらおう」


 するとそのブルーという男が指揮を執ると言い出した。

それに伯爵家らしい、貴族の関係はよくわからないがどうもみんなの反応を見る限り偉い人なのだろう。


「異議なし!」

「伯爵家の方が指揮を執ってくださるのなら歓迎です!」

「この場で伯爵家よりも上の家はないのでしたら、それがいいかと!」


 やはりアースガルズという国で貴族というのは特別のようだ。

男爵が一番下で伯爵はどうも二つ上のようだ、軍人が武功を上げて慣れる限界が男爵のようなので生粋の貴族なのだろう。


 あっさりとブルーという男が指揮を執ることが決定する。

するとそのブルーが真っすぐと剣也に向かって歩いてくる。


「初めましてだね、ソード君。ロード様の騎士と一緒に闘えるなんて光栄の極みだ。よろしく頼む」


「い、いえ。こちらこそ! 俺はこういう作戦とかには疎いので助かりました!」


「……そうか、疎いか」


 するとブルーが下を向いてにやりと笑った。

その笑みは剣也からは見えない、しかしすぐに顔を上げて親しみやすい笑顔を剣也に向ける。


「皇族の騎士なのだから強いのだろうが、今回の指揮は任せてもらおう。ロード様の足元にも及ばないがこれでも戦略の試験はトップクラスなんだ」


「それは心強い! お願いします!」


 そして次々と決定される作戦、そしてチーム分けや、配置をされる。

剣也はこういうことには疎いため、とりあえず従っておこうと言われた通りに動くことにした。



「では、時間だ! 存分に力を出し尽くすように!」


 そして時間が来て、スター大佐の掛け声のもとシミュレーション室へと向かう50名。

剣也のほうへウィンクしたように見えたが、おっさんのウィンクなど何も嬉しくない。

どうせお酒片手に観戦したいがために試験官をやっているんだろう。


 そして仮想の世界へと飛び込んで、運命の聖騎士試験が始まった。


「場所は、山岳地帯。慣れているマップだな」


 飛び込んだ先は山岳地帯。

ここは山、川、壊れたビルなどが立ち並ぶ最もオーソドックスなステージと言える。

事前に知らされていた通り。


 周りを見渡せば白いKOG。

分かりやすいように色は統一されているのだろう。


「では、作戦通りに!」

 

 そして剣也は言われた通り一人山を越えて待機する。


「さてと……合図をもらえると聞いているし、待つか」


 剣也の指示は、その圧倒的破壊力をもって後方からの急襲。

だから序盤は待機していて欲しい、そういう指示をブルーからもらっていた。


 それを真っすぐ信じてしまうぐらいには。


「ブルーさん、結構いい人だな」 


 剣也は化かし合いは下手だった。



「ふふふ」


「どうされました? ブルーさん」


 ここは最前線。

ブルーを含む、ブルーの配下の者が集まる。

伯爵家のブルーは、周りを身内で固めていた。


「いや、面白いぐらいに簡単にいったなって」


「ソード・シルフィードのことですか?」


「あぁ、話してみてわかったよ。あれはただのお人よしだ。武勇はすさまじいと聞いているが、所詮は騎士。戦術など戦略の前では無意味だよ。戦場では所詮一兵卒なのだから」


 ブルーの策略にまんまとはまった剣也。

人を疑うよりも信じてしまう少年は、簡単に騙された。

戦場のはずれ、武功を挙げられない場所で待機させられる。


「ブルーさん! 敵影見えました!」


「来たか、よし! 作戦通りに!」


 聖騎士になるために武功を挙げようとするブルーによって。


(戦略の試験通りにやれば負けることはない! 私は天才なのだから!)


 ブルー・タスマニア。

ヴァルハラ学校の戦略の試験をトップの成績で合格した秀才。


 しかし彼はわかっていなかった。


 机の上でしか戦ってこなかった少年は、シミュレーションとはいえ戦場というものを理解できていなかった。


 そして自分は天才ではなく、秀才でしかないことを。



「もう始まったかな?」


「おぉ! これはロード様! お待ちしておりました。こちらへどうぞ!」


 ここは試験監督達が戦場を一望できるモニターで試験を見る部屋。

スター大佐もさすがに試験のためお酒は飲んでいないよう。


 そこへ事前に連絡していた通りロード・アースガルズも入ってくる。


「さてと、我が騎士はどうなっているかな。まぁ彼なら問題ないだろうが……」


 そして戦場を見るロードは言葉を失った。


「なぁ、スター。あいつはあんなところで何をしているんだ? まさか作戦とは言わんよな? この私に理解できない?」


 戦いが始まっているのに、ただ一人戦場のはずれで待機しているKOG。

モニター越しにその騎士の名前が映し出される。


 ソード・シルフィードと。


「そ、それが……私にも…」


 そして戦場のすべてを眺めたロード。

くそデカため息をつきながらすべてを理解したロードは椅子にもたれて空を仰ぐ。


「……はぁ~。ほんとに君は…」



「指示はまだかなーー早く戦いたいなー」


 ただ一人、呑気に空を同じように仰ぐ自分の騎士を見て。

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