第50話 友達

★★★★★★★★★★★★★★★★★★

まえがき

二日前二話連続更新したので、

PV的に読み飛ばされている方が多いです。

良ければ確認してください。

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 俺は何をしているんだ。


 こんなことをしたらどうなるかぐらいわかっているのに。


 ロードの騎士としてマイナスな行為だ。

もしかしたら軍にいられなくなって目的を達成できなくなるかもしれない。


 じゃあ、見過ごせばよかったのか?

あの時のように? ただ泣きわめいて、力なき人達が殺される姿を見ればよかったのか?


 今は力があるのに、自分が行動するだけで助かる命があるのに。


 瓦礫の山、鉄の山。

硝煙と、火薬が入り混じり、砂埃が舞う荒野。


 ただ一人巨人の騎士はそこに立つ。

すでに避難は完了し、そこには剣也と剣也に阻まれたアースガルズ軍しかいなかった。


「ほぼ壊滅しただ…と…相手はたった一機だぞ? そんな馬鹿な」


 ネズ少佐は、戦場を見て顔を青ざめる。


 今日は大部隊ではないが、それでもKOGは数にして20機ほど。

そのすべてが手を抜かれ壊され、戦闘不能になる。


「バカげている。何だその強さは。ロード様の騎士とはいえ、おかしすぎる」


 後の言葉が続かない、ネズ。

しかし直後現れた人物の登場にさらに驚く。


「彼のところまで連れて行ってくれるか? 私の騎士なんでね」


「へぇ!?」


 目の前に止まった車両から降りてきた戦場に似つかわしくない綺麗な服。

その少年の顔は、帝国に住んでいれば見ない日はないかもしれない。


 この国の今の実質NO2。

世界を支配する一族の第二王子。


「ロ、ロ、ロ、ロード様!!??」



「はぁ、さてどうしよう。もうさすがに言い訳もできないな……」


 戦闘が終わり、しばらくその場で立っていた剣也のKOG。


 これからどうすればいいのか、検討もつかない。


 すると一台の車が近づいてくる。

思わず身構える剣也、そして目の前に止まる車両。


 そこから何かを持って降りてくる一人の少年。

その少年を残して車両は去っていく、つまり今この場には剣也と。


「ロード!?」


「全軍下がらせた。攻撃も停止させている。安心して降りて来い、剣也。話をしよう」


 その一言は剣也を安心させた。

ロードの一言を信じる剣也は言われた通りにKOGを降りる。


「ロード……すまない」


「いや、これはお前の性格を知っていて、戦場へ向かわせた私の落ち度だ。多少の戦闘は覚悟していたが、まさか兄上が子供まで皆殺しを命令するとはな。そこまで落ちていたのかあの人は……」


 するとロードが持っていた袋から果実を取り出す。


「昔はまだ尊敬できる部分もあったんだがな……食え、口に何か入れれば少しは落ち着くだろ。私の好物だ」


 それは紫色でたわわに実った。


「え? ぶどう?」


 好きなものをぶどうという人は少ないだろう。

剣也も好きかと言われれば好きだが、それほど強い思い入れはない。

そのまさかの選択に、張りつめていた剣也の気持ちもほぐれていく。


「うまいな、これは良いぶどうだ」


「わかるのか? 確かに最高級品だが…」


「いや、まったくわからん。うまいということしか」


「はは、だろうな。しかし思えば、私達はお互いのことを知らなすぎる。私がぶどうを好きなことも、その理由も知らなかっただろう? 互いに命を預ける身だというのに」


「あぁ」


「だから今日、誰にも話していない私がぶどうが好きな理由を話す」


「ぶどうが好きな理由? それってロードの過去ってこと?」


「あぁ、変には思わなかったか? なぜ私が皇族なのにこれほど良いやつなのか」


「自分でいうか」


「姉上と比べれば誰だって良いやつだろ」


「ふっ。そりゃそうだ」


 そのブラックなジョークに少し笑いが出てしまう。

ロードが持ってきたぶどうを頬張り、KOGにもたれながら二人でまるで仲のいい友人のようにだべる剣也とロード。

いつの間にか剣也の警戒は全て解ける。


 それを見てロードもどんどん言葉が崩れていく。


 しばらく談笑したあと、真剣な声で剣也を見る。


「じゃあ、話そう。私の過去を。私はね……」


 ぶどうを頬張り、ぶどうを見ながらロードは過去を話し出す。


「ぶどう農家だったんだ」


◇ロードの過去


「ロード、収穫手伝ってくれる?」


「はーい!」


 ここは、EUの端。

アースガルズ帝国は近く国境からそれほど離れてはいなかった。


「ロードも、もう8歳ね。ワインが飲めるまではまだまだだけど…」


「僕、ワインよりぶどうのままの方が好き! ワインは苦いもん!」


「あらあら、子供にはまだわからないか……」


 収穫しながらパクパクとぶどうを頬張る少年は、母と二人で暮らしていた。

母の名はスカーレット、母は息子が大好きで、息子は母が大好きなどこにでもいる母子家庭。


 世界は平和で、空は青く、天気が良い。

こんなに気持ちの良い朝は原っぱで昼寝するに限る。


 少年と母は、気持ちの良い日差しを楽しんでいた。


 その日までは。



「進行開始!」

 

 世界最大の帝国が、突如侵略を開始した。

空を埋め尽くす巨大な黒い影、帝国の最新鋭KOGがEUへと向かう。


 内部的な紛争や、レジスタンスに手を焼いていたアースガルズ帝国は大きな動きは最近はなかった。

しかしついに完全に統一され、統治され、戦力が整う。


 狙うは、世界を分ける巨大な連合国。

ヨーロッパ連合、通称EU。


 そして始まったのがEUへの大規模攻勢。


 のちに、最大の大戦と呼ばれるEU大戦の勃発だった。



「スカーレット!」


「兄さん!」


 ロードの母、スカーレットの兄ダニエルはEU軍の将軍だった。

EUは、すぐに攻勢にでて国境周辺で激しい戦いが連日起きていた。


 しかし戦況は悪い。

EUにもKOGはあるが、圧倒的なパイロット不足。

帝国はこの数年で、強いパイロットの育成に力を入れてきた。

EUもアジア連合からの援助で資金は潤沢だが、パイロットだけは一朝一夕で得られるものではない。


 そしてアースガルズの中でも聖騎士と呼ばれるエース級は動きは、この大戦で目覚ましい戦果を発揮した。


 のちにその中でも突出した存在達は聖騎士長と呼ばれるのだが。


「お前達は逃げろ! 前線は維持できているがいつ国境が突破されるかわからん!」


「いいえ残るわ。これでも兄さんの妹ですから」


「しかし……ロードが」


「いざとなれば、最後の手段を使います、そのためにはまだ前線にいたほうがいい」


 そういって、母スカーレットはロードに指輪を渡す。

まだ嵌められるほどの大きさではないためネックレスにして首からかける。


「お母さん、これは?」


「いつか話すね、あなたを守ってくれるお守りよ」


 それを見た兄も頷いた。


「……そうだな、それは本当に最後の手段だが……わかった。じゃあせめて基地へこい。いざとなったら力ずくでも逃がすからな」


「ええ」


 そしてその日から戦いは始まった。

国境付近で倒した倒されたの繰り返し。

しかし徐々に戦線は崩壊していく。



「くそっ!」


 兄とスカーレット、そしてロードが泊る宿泊施設。

そこで兄の怒声が響く。


「これでは…一週間、いや三日ともたんぞ…」


 寝る間も惜しんで机の上に地図と模型を置き模擬戦を繰り返すダニエル。

しかし何度やってもこのままだとこの地域の戦線が崩壊する。

ここが破られると、さらに他の国境沿いの戦線も次々と破られるため絶対に負けてはならない。


 そのあとに待っているのは地獄だがら。


 日々の連敗と明日の見えない戦いに苛立ちを抱えきれず、寝所で大きな声を上げてしまった。


「兄さん…」


「あ、あぁすまない。起こしてしまったな……」


「ダニエルおじさん? どうしたの?」


「少し悩んでいてね。ごめんよ、ロード」


 するとロードが兄の膝の上にに座る。


「これは?」


(少し気分転換をするか、もしかしたらいい案が浮かぶかもしれん)


 そう思ったダニエルは、丁寧にロードに地図と模型を教えていく。

その過程で何か妙案が思いつくかもしれないと。


「そうだ、すごいな。一回で覚えたか、これが敵で、これが味方。そしてここが絶対に超えられないようにする場所だ。守り切るための戦いだぞ」


「じゃあ、これは?」


「ここは、敵の基地があるところだな、ここを落とせば勝ちと言ってもいいが、まぁ無理だな」


「なんで?」


「ん? いや、ここに敵がいるだろ? これを超えなければ到達できないんだ」


「でも、ここを引いたらこの敵の駒がくるよね、目的がここなんだから。それでこの別の駒をこの山を回って横からいけばつくよ? そしたら敵も急いで基地に戻るよね? そのとき追っていけば挟めるよ?」


「もう、ロード! おじさんの迷惑だから寝るよ!」


 そしてスカーレットに手を握られ寝所に連れていかれそうになるロード。


「待て、スカーレット」


「おじさん?」「兄さん?」


 ダニエルは、子供の戯言だと笑い飛ばそうとダメな理由を考えていた。

しかしどれだけ考えても、明確にダメだという理由が見つからない。

守ることしか頭になく、戦力差的に攻勢にでることは無理だと決めつけていたから。


「そんな……いや、しかし。そうなれば敵も後退するしか……わざと国境を越えさせる? そんなこと思いついても恐ろしくて……しかし」


 ぶつぶつとつぶやき続けるダニエル。

考えても考えても、これ以上はない。

そう思わせるような、発想だった、地形を加味して別動隊の動きは絶対にばれないはず。

そもそも国境を越えさせるような罠など心臓を捧げるようなもの、ありえない。


 しかしだからこそ、この作戦はきっと。


「ロード……お前」


 そしてロードを見る。

戦争のことすらよくわかっていない少年。


 その少年は笑顔でダニエルに微笑んだ。

その無邪気で屈託のない笑顔の奥には、悪魔が微笑んでいることをまだ誰も知らない。

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