第48話 実地訓練
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まえがき、二話連続で更新しています
読み飛ばさないようにお願いします。
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「みて! ジン様よ! あ、こっちを見られたわ!」
「しかもあの横にいるのって……きゃーー! ソード様よ!! 可愛い!! しかも可愛いのに、ジン様より強いという噂よ!!」
「まさか二人って…はぁはぁ、どっちが受けなのかしら。はぁはぁ。私的にはやっぱり実はソード様が攻めで……はぁはぁ」
いつも通り学校を歩いているとわーきゃーわーきゃーという黄色い声援が聞こえる。
一人お腐れ様がいた気がするが、触れないでおこう、こちらまで腐る。
「ソード、君ももう有名人だな。どうなんだ、彼女の一人ぐらい。君ならすぐだろうに……ま、まさか私!? 光栄だが……」
「やめてください、俺はノーマルです」
ジンとソードが学食を済ませ、広場を歩いている。
この学校では、今や二人が最も有名な騎士だった。
ジンは言わずもがな、最年少聖騎士長。
そして世代最強として。
「変な妄想に使われるのが、これほど不快だとは思わなかった。ジンさんこそどうなんですか。モテるんでしょ?」
「私の恋人はKOGだよ。まぁ対するあちらは君に夢中で私には一向に微笑んでくれないけどね」
「はは、思いの強さと長さですかね」
剣也はジンと仲良くなっていた。
毎日のように戦おうと誘ってくるジンを、剣也はゲーム友達のように感じていた。
あの日イライラしていたが、やっぱり根は全く悪くなく。
無邪気で、自分に素直、そしてKOGが大好き。
それだけで剣也と仲良くなるには十分だった。
それにジンだけではない。
「おはよう、ジン君、ソード君」
教室に入ると、リールベルトさんがおはようと言ってくれる。
それにゾイドもこちらを認識し、簡単に挨拶ぐらいはしてくれる。
「おはよう、諸君! 今日は実地訓練の者も多いが準備はできているかな」
スター大佐も合わせて教室に入り、挨拶を済ませた。
今日は実地訓練が初めて行われる。
聖騎士試験のためには必須訓練だそうだ。
確かにシュミレーターがいかに強くても一度も戦場にでていないものを聖騎士とするわけにはいかないだろう。
「実地訓練って何するんだろう、レイナ知ってる?」
「いえ、ですが紛争地帯の平定などが行われてきたようですね。私は別日ですがお兄ちゃんは今日なんですか?」
「そうなんだ、うん。確かメンバーは…」
すると、スター大佐にメンバーが呼ばれる。
「えー、ソード、ジン、リールベルトが今日の実地訓練のメンバーだな。準備ができ次第指定の場所に行くように」
そしてその三名で、実地訓練へと向かう。
…
「ジンさんとリールベルトさんは、実地訓練したことあるんですか?」
「ん? あぁ、普通にある。なんなら私は実際の戦場にも出たことはある」
車の中でジンが答える、今は紛争地帯へと移動している。
今日の実地訓練は紛争地帯の平定だそうだ、アースガルズ帝国でもいまだ反乱は起きたりする。
日本で起きたレジスタンスのように。
ジンはすでに戦場にも出ているそうだが、彼は聖騎士長なのでそういった経験も多いのだろう。
「私もあるよ。まぁ私は小さい戦場だけどね」
リールベルトさんもあるようだ。
(まぁ、俺もあるっちゃあるか。ハードすぎる訓練だったが……)
思い出すのは100人切りした日本での戦い。
初めての戦場があんな地獄だったのは、剣也ぐらいだろう。
「到着いたしました」
運転していたのは2級アースガルズ民。
年下の剣也達に敬語を使うのは立場が異なるから。
基本的に彼らは雑用を押し付けられる。
それは半年近くアースガルズ帝国で過ごして嫌というほど見てきた。
だから剣也だけはそういった人に丁寧に接してきた、でもそれは。
「運転ありがとうございます」
「い、いえ。お気をつけて…」
(自分の気持ちが楽になりたいだけだな。偽善…か)
「まったくソードは変わっているな……2級にまで丁寧に接する必要はないのに…」
「うん……変わってるのかな…」
そして到着したのは、軍事キャンプ。
ここは都市から大分離れており、国境に近く、どちらかというと荒野だがぽつぽつと建物も見える。
そこでレジスタンスの本拠地があるから投降させるのが今日の目的。
その司令官らしき人物が手をこねこねしながら剣也達に向かってくる。
「これは、これは! 今日は実地訓練ということで、わざわざこんなところまでお疲れ様です! 私はこの地域を預かるネズ少佐です!」
やたら腰の低いネズミのような顔の少佐がごますりしながらやってきた。
いや、別に本当にごまをすっていないけど、煙がでそうなほど手をこねこねしている。
「今日は世話になる。よろしく頼む」
「これはジン様のような方が来られるような戦場ではございませんが、お会いできて光栄です」
ジンが挨拶を済ませ、ネズ少佐がごまをする。
確かにジンは軍の階級では遥か上、大将の次に偉い中将なのだからへりくだるのも当然なのだろう。
そして。
「おぉ! そちらにいらっしゃるのは、ソード様ですか!? お会いできて光栄です!!」
「どうも…」
剣也も噂ではあるがロードの騎士と言われている。
つまりは次期聖騎士長と同じ、むしろロードの騎士なので実質にはもっと偉くなる可能性もある。
だから。
「未来のアースガルズ帝国を担うお二人と同じ戦地に出れるなんて光栄の極みでございます!! 息子に良い土産話ができました!!」
ひたすらに二人にごまをする。
「リールベルトです! 今日はお願いします!」
「あぁ、よろしく」
「扱い!」
リールベルトだけは平民だからだろうか、聖騎士でもないので扱いが適当だった。
露骨だと思いながらも実力主義のアースガルズ帝国らしいなとも思う、ツッコミも相変わらずだ。
「どうされますか? 出陣されますか!? もし、良ければ私目が良いように報告しておきますよ。こんな場所ですがご緩いとされ……」
「いや、いい。KOGを3機借りるぞ」
ナチュラルにさぼりますかと聞いてくるネズ。
実地訓練とは本来面倒なので、手を抜く貴族やエリートも多いのだろう。
しかしここにいるのは。
まじめな委員長、そしてKOGジャンキーの剣也とジン。
ならば暇を持て余すなどありえない。
「了解いたしました! では」
そういって案内され、KOGに乗る三人。
画面に映し出されるポイントへ移動する。
「ソードは戦場は初めてだったな。力を抜くことだ」
「あ、あぁ…」
(なんだろう、胸騒ぎがする。聞く話だと抵抗された場合だけ応戦して鎮圧が主だったはずだけど……)
そして移動する剣也。
しかしその銃声、爆発音が嫌な予感を的中させる。
黒煙が舞うその戦場は、平定を目的などしていない。
明らかにそこで起きているのは平定など生温い行為ではなく。
「なんで……子供が死んでいるんだ」
その先で剣也を待っていたのは、あの日見た光景。
今でも思い出す、刺し伸ばされた手、助けを懇願する手。
力を持たない子供達。
そして今目の前にあるのは、降伏しているはずなのに殺される人々。
「な、なんで! 止めるだけじゃないのか!」
そして到着した瞬間聞こえるネズ少佐からの通信。
「先ほど一向に投降しないレジスタンスに対して、オーディン様からご命令がありました。そのまま読み上げますが…『その地域にいるのアースガルズ人以外すべて』」
抑揚のない声で、なんの悪びれもせずに読み上げる。
「『殺せ』とのご命令です」
虐殺の命令を。
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