第46話 ロードの騎士


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

まえがき

面白いという一言だけでとても執筆の気分が乗ります。

いつも書いてくれている方ありがとうございます。

皆さんのおかげでストックも20話ぐらい溜まりました。


くすっと笑ってしまうコメントもたくさん嬉しいです。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「ロード!?」


 剣也が驚き名前を呼ぶ。

ロード・アースガルズ、この国の支配者の一族の登場に。


「ソード?」


 その発言にロードが微笑む。

その威圧する笑顔に、剣也ははっとなり言い直す。


「さ、様……」


「はは、さっそくやらかしているようだね、ソード。この様子だと全員倒してしまったのかな? みんな楽にしていい」


「ロ、ロード殿下! お戻りになられていたんですね」


「あぁ、もう13番の学校はやめてきたよ、また世話になるな。スター」


「い、いえ。お世話など……恐れ多いです。ロード殿下」


 スター大佐が真っ先にロードに話しかけた。

そういえばこいつ皇族だったな、あまりにフランクなんで忘れてた。

その扱いは、名ばかりの象徴などではなく、本気で羨望し、尊敬し、崇めている。


 剣也にはあまり理解できない感覚だったが、この国の皇族とはそういった存在だと再認識した。


「そうですか。そ、それで我が騎士とは……まさか、ソードが!?」


「あぁ、私には騎士がいなかった、選ばなかった。いつも父上にも早く決めろと言われていたがね。でもやっと決めたんだ。このソード・シルフィードを私の騎士とすることを」


「なんと! それはおめでとうございます! ソード! 大変な名誉だな! おめでとう! ジークも鼻が高いだろう!」


 それを聞いた周りのチャラ男や、ジンも驚きと同時に拍手を送る。

剣也の実力なら何もおかしくはないと納得していた。


「まじかよ、おめでとう! これ結構なニュースじゃね?」

「おめでとうございます、お兄ちゃん」

「す、すごいよ、ソード君! まさかそんな転校生がくるなんて!」

「殿下の騎士か。公爵家として、この国の代表の一人として祝福いたします。ロード殿下」


 この国では、皇族に仕えるということは大変な名誉だということ。

そして皇族にはただ一人専属の騎士がいる。

ユミルにとってのジリアンのように、それはこの国では最高の職業とされている。


 羨望と憧れの眼差し、地位でいえば三英傑と並ぶほど。


 ユミルは問題がありすぎてそれでもなりたがる人は少なかったが、ロードの騎士はアースガルズの全KOG騎士が夢見る職業だと言える。

EU大戦を生き抜いた戦士はそのカリスマに憧れて、まだ未熟な戦士達はその武勇伝に憧れた。


 無敗の指揮官、常勝の皇族。

ロードという存在は、皇族というステータスを除いてもなお光輝く全国民の憧れとなっている。


「ロード様の騎士とは、なんと羨ましい! しかしソードなら納得だ。おめでとう! 私も狙っていたのだがな……」


 ジンもその座を狙っていたようだが、ソードならばと納得する。

世界で最も恐れられる皇族、そして帝国では最も尊敬されるロードの騎士の座は全員が求めるもの。

しかし自分をボコボコにしたソードの技術を認めているジンは納得して拍手を送る。


「これで皇帝陛下も安心でしょう! ロード様のみ一向に騎士をお決めにならなかったものですから……」


「私は理想が高くてね、でもこいつならと。なぁ。ソード」


 そうしてロードはわざとフランクに剣也と肩を組む。


「あ、あぁ…いや、はい!」


 パフォーマンスなのはわかっている。

まるで首相同士が握手して写真を撮るように、有効の証を見せつける。

これがロードがやりたかったこと、まずは剣也を完全にロードのものと周知させる。


 今日この噂は光の速さで広まって、いずれアースガルズ中が祝福するのだがそれはまだ先の話、今はまだ噂程度の口約束。


「さて、じゃあ皇室放送をつけようか。予定では…もうすぐだろう?」


「ええ、リールベルト。準備をしてくれるか? あと10分ほどだ」


「はい!」


「あ、俺も手伝います!」


 こういう時はやはり平民のリールベルトが雑用をするようだ。

ゾイドは公爵というし、他は聖騎士達。

スクールカーストというやつなのか、軍カースト? 貴族カースト?


 そういう意味では、ロードより偉い存在が兄と父しかいないとはやっぱり君主制ってのは違和感があるな。


 現代日本の民主主義で育った剣也には理解はできない。

意味合いでいえば天皇と一緒なのだろうが。


「しかし、緊急皇室放送など久しぶりだな。戦時中はよく流れていたが…」


 スター大佐が立派な髭をさすりながらつぶやいた。


「どんな放送なんですか?」


「ん? 見たことないのか?」


「あぁ、ソードはジークに厳しく育てられてね。少し特殊で世間に疎い。私が説明しよう、ソード」


 すると用意された椅子に座りロードが話し出す。

皇族といえど、やっぱりこいつは結構フランクでみんなに慕われて馴染んでいる。


 そしてロードが説明を始めた。


 簡単に言えば、皇室放送とは、国営放送らしい。

N〇Kを思い出すが、前の世界では、インターホン越しにいつも親はいませんで乗り切っていた。

嘘ではないからいいだろう、実際テレビなんか見ないでKOGしかやってなかったし。


 そしてその国営放送だが、アースガルズ中に報道されるニュースや、軍事情報などすべてを仕切っている。

国営ということは、プロパガンダも簡単で前の世界のようにインターネットがないこの世界では真実は闇に隠される。


 皇族がアースガルズを握るためのメディアコントロール。

もちろんロードはそんなことは言っていないが、剣也はそう理解した。


 皇族が黒といえば、白いものも黒になる。

そうやって戦争に大義を与え、侵略に意味を与えてきたのが帝国の歴史。

メディアを牛耳るとは、それほどまでに強いのだろう。


「そして今日放送される理由は……まぁ私は知っているが、聞いていたらわかることだ。皇室の一大事だし」


 そして大画面に映像が映し出される。

視聴率驚異の90%以上、というかこの時は他の番組等は何も流れないらしい。

それに国民の義務として視聴は義務づけられている。


「アースガルズ国民の皆様、こんばんわ」


 するとテレビのニュースキャスターのような女性が現れる。

正直めちゃくちゃ美人だ、やはりアナウンサーとは美しくないといけないのか……どこの世界でも一緒なんだな、世知辛い。


「本日は緊急で皇室放送をお送りいたします。現地と中継が繋がっておりますので、皆さまどうかご清聴お願いいたします。ではどうぞ」


 そして画面が切り替わる。


 現れたのは、巨大な演説会場。

後ろにはアースガルズ帝国の国旗、巨大な盾と剣が映る。


 そしてその演説台には、一人の男が立っていた。


「アースガルズ帝国の国民達よ。第一王子オーディン・アースガルズより、皆に悲しい知らせがある」


 ロードと剣也が戦う相手。

第一王子、オーディン・アースガルズ。


 この世界で今最も支配者に近い男。

その男が口にした言葉は世界に激震を走らせた。


「我が愛する妹ユミルは死んだ。卑劣な罠によってアジア連合に殺されたのだ」


(なにを言っているんだ? ユミルは日本で死んだんだぞ)


 剣也は真相を知っている、その本当の真相すらも。

だからオーディンが言っていることが嘘だと分かる。

 

 そして強く拳を握り、机を叩き、オーディンが叫ぶ。


「私は必ず復讐する。あの卑劣な連合国家を! 奴らの悲鳴をもって、我が妹の鎮魂歌とするために!!」


 その目には偽りの怒りの炎を宿す。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る