第43話 世界最強の学生
「聖騎士長のジン・ハルバートだ。よろしく」
「聖騎士長……」
それを聞いたレイナも動揺が隠せない。
聖騎士長とは、本来歴戦の騎士。
もちろん実力があればなれるし、ジリアンのように聖騎士相当の実力で聖騎士長にされた者もいる。
「スター大佐。なぜ聖騎士長がこんなところに?」
剣也も驚き、大佐に聞く。
聖騎士長がなぜ学生をしているんだと。
「彼は学生だ。ただし出自が特殊で英才教育というやつだな。今年聖騎士長になり、最年少聖騎士長となった……が、学校はきちんと卒業したいといってな。なんならもう儂より偉いんだが」
スター大佐の話だと、聖騎士で大佐と同程度の権力を持つらしい。
聖騎士長だと中将となるので、圧倒的に軍内での権力はジンの方が高いらしい。
「とはいえ、あいつの父親が儂の生徒だったんでな。儂には頭が上がらんのだ。がはは!」
「なるほど…」
すると握手してシュミレーターに乗る二人、悔しいがお似合いの美男美女と思ってしまった剣也。
そして戦いが始まった。
3,2,1……FIGHT!
(聖騎士長とは初めて戦いますね。一体どれぐらい……まずは様子見です!)
先手はレイナ、初めて剣也と戦った時と同じように死角へ移動し一閃。
しかしその鋭さは前の比ではない、研ぎ澄まされた一閃。
「なるほど、先輩方では勝てないわけだ。すでにベテラン聖騎士レベルか」
関心しながらその攻撃を簡単に止めるジン・ハルバート。
「当たり前のように、それぐらいは止めるか」
観戦する剣也もその一回の攻防でジンの力を理解する。
今だ底は見せていないのだろうが、それでも強者であることが理解できる。
レイナも猛撃をすべてあしらうその姿は、力の差がはっきりと見て取れる。
「ははは、さすがにジンには勝てないか! まぁあいつは特別だ。儂が見てきた中でも最高の環境で訓練し、とびっきりの才能を持っている正しく天才、いや化物だからな」
「どれぐらい強いんですか?」
「どれぐらいか……それは難しいが。お前達の世代では相手になるやつはいないだろうな。あれで全力の50%といったところか。聖騎士長ではまだ新参だが、いずれ三英傑にも届くだろう」
「三英傑?」
「なんだ、知らんのか? ジークは何も教えておらんのだな。この国の最強の聖騎士長の三人だ。全員がEUの大戦初め、本物の戦争を勝ち続けた本当の意味の強者だぞ。アジアの白蓮、EUのトールなんかと戦ってきたな」
「そうなんですか……」
(いつか戦ってみたいな。戦場ではなくシュミレーターで。それにアースガルズ以外にも強者はいるのか)
剣也だってKOGのバトルジャンキー。
人生のすべてを捧げて世界チャンピオンになったのは伊達ではない。
何よりもKOGを愛して、誰よりもKOGが好きだった。
そして何よりも時間を、青春を人生を捧げてきた。
ならば強者と戦いたいと思うのも当然のこと。
前の世界では、ついぞ剣也よりも強い人はいなくなってしまったから。
「ちなみに、ジンはその三英傑の息子だ。そういう意味では少しずるいわな、最強から英才教育を受け続けていたのだから」
「それならあの強さも納得です」
画面を見れば、あしらわれるレイナ。
そもそもの訓練年数が違うのと、環境が最高だったのならば勝てる道理はない。
才能だけならレイナが負けているとは思えないが。
「楽しいな、レイナ」
「そんな余裕はありません!」
「ますます気に入った、必死のその姿。本気になってしまいそうだ、でもそろそろいいかな」
そして見たいものは見たというようにジンが剣を構える。
レイナの底はジンには見えた、だからもうこれ以上はいらないと試合を終わらせようとする。
「素晴らしいかったよ、レイナ。この年でここまで。いつか君なら聖騎士長にも至れるだろう」
「素直に今は受け取っておきます。いつか必ずあなたよりも強くなる」
「それは楽しみだ。ならば今は私が教育してあげよう。公私共にね」
レイナと切り結んでいたジンが力を入れる。
レイナが体勢を崩して、その場でこける。
間髪いれずに、一撃を入れ爆破する。
鮮やかな連撃。
流れるようなその動きは極みに到達した美しさすら兼ね備える。
そして勝者が決定した。
ジン WIN!
画面に表示される勝者のメッセージ。
終わってみればほぼ全体力を残しての圧勝。
それほどの実力差だった。
そしてシュミレーターを降りるレイナとジン。
レイナは汗をかき、その長い銀髪が少し濡れる。
対照的にジンは涼しい顔をしていた。
「どうだった? 私は。君のお眼鏡にかなったかな?」
「そ、そんなこと。私よりは強いことはわかりましたが」
「いやいや、君は十分強かったよ。私は強いものが好きなんだ。しかし同年代で戦えるものはいなくてね……父上も忙しい方だし」
悔しそうにしているレイナ。
同年代に負けるのは、剣也以来。
それを見てジンは嬉しそうにニコニコしている、新しいおもちゃが見つかったような顔をして。
その様子から彼もKOGが好きだということがうかがえた。
剣也には少しだけ彼の気持ちがわかる。
好敵手がいなくなった対戦ゲームなど面白くない。
相手がいてこその対戦なのだから。
「さすがジンだな、圧勝か。しかしレイナ君も強くなっていて嬉しいぞ。昔のジークを見ているようだ。どうだ、ソード君、君もやってみる……あれ?」
いつの間にかスター大佐の横にいない剣也。
「では、いこうか。約束どおり、うまい店があるんだ。私たちはお互いの信仰を深めるべきだからね。しっかり私が教育してあげよう」
そしてジンはレイナの肩を抱こうとする。
馴れ馴れしく、まるで彼氏のように。
しかしその手は阻まれる。
「ん? 君は? ……あぁレイナの」
「すいません、先輩」
眉間にピキピキという音をさせ血管を浮き出させる男。
低い声で、ジンを威圧する。
イライラした。
理由は明白、大好きな少女が見知らぬイケメンに言い寄られている、肩を抱かれようとしている。
まるで自分の物のように、悪意はないのだろうが無邪気におもちゃで遊ぶように。
だから、その少女にガチ恋している剣也はイラついていた。
その気持ちをコントロールする術なんて知らなかった。
ろくな青春を送れなかった少年はその感情ですら初めてかも知れない。
だから怒りを込めてこういった。
「俺とも戦ってください、俺が勝ったらデートは無しですけどね」
仮初の兄は嫉妬の炎を瞳に宿して。
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