第44話 本当の最強
「ほう! なかなか熱い男じゃないか! 負けん気は親父ゆずりか!」
スター大佐は立ち上がり大きな声を上げる。
ジンに勝てるはずもないのに、挑む少年の気概に興奮した。
かつての教え子、ジークをその姿に重ねて。
「私に勝負を挑むのか? そこ居る先輩方じゃなくて? 身の程は知ったほうがいいよ。まだ君は見習いだろ」
「一応兄なんですよ、あなたの実力を知っておかないと妹は渡せません」
「実力……はは、確かにまだ本気は見せていないけどね。君が引き出せると?」
「お兄ちゃんは強いですよ、私よりずっと」
するとレイナがジンに応える。
それを聞いて回りが驚く、チャラ男三人衆がまさかという顔で剣也を見る。
「レイナよりも強いじゃと? それが今まで無名だったと? 冗談か?」
スター大佐も、レイナの方が強いと思っていたのでその発言に驚き立ち上がる。
その反応に、ジンも眉を動かし剣也を見つめる。
「ほう……身内びいきではないといいけど、じゃあ戦おうか。レイナ。すまないが少し待っていてくれるか?」
そして二人は相対する。
剣也を見下ろすジン、見上げる剣也。
「俺が勝ったらレイナとデートはさせませんよ? 弱い男にレイナを任せるわけにはいかない」
「はは、私が弱い? そんなこと言われたのは初めてだよ。本当に」
笑い声から突如低い声になるジン。
内心では、怒りを感じていた。
「まさかとは思うが。勝つつもりなのか? この私に? 聖騎士長というものを理解しているのか? この世界で最も強い国の最も強い最高戦力というものを」
「どうでしょう、今の自分の立ち位置と実力は知っておきたいという気持ちはあります」
その言葉を聞いて顔をしかめるジン。
とはいえ、レイナの兄というのだからぞんざいに扱うのもどうかと考える。
「まぁいい。すぐにわかるだろう。ではやろうか」
向かい合う二人、見下すジンと見上げる剣也。
そしてシュミレーターに乗り込む二人。
画面を起動して、カウントダウンが始まった。
「ジン相手に威勢がいいな、レイナちゃんの兄ちゃんは。あいつは正真正銘化物なのに」
「ふん、ジンはこの世代最強だ。相手にもならず先ほどの態度を謝罪することになるだろうな」
「あわわ、ソード君。それは無謀だよーー。一緒に謝ってあげるからーー」
「さて、ジークの息子はどの程度か、せめて噛みつくぐらいは見せてほしいの、がはは!」
全員が見守る中画面に映し出される数字。
この世界の学生の最強と、あの世界の最強の学生。
ジン・ハルバートと御剣剣也の戦いが始まる。
3、2,1…FIght!
「さてさて、初手はどのような……ん? 動かんな」
「二人とも動きませんね、様子見か? あれだけ挑発されたんだからジンが一瞬で倒すものだと」
観戦するスター大佐、そしてチャラ男達。
しかし戦いは静寂から始まった。
ジンの性格を知っているみんなは、身の程を知らない剣也を一閃のもと切り落とす。
そういった未来を見ていたが始まってしまえば一切動かない。
(いい感じだ……ここに座ると心が落ち着く。頭が冴える、何をされても対応できるそうだ)
剣也はコクピットに座り操縦桿を握る。
それが彼のスイッチであり、いわばルーティン。
集中の極みへ至るための彼の儀式。
そしてジンは。
「なんだ……これは……なぜ動けない、なぜ私は何も思いつかない」
ジンが動けない理由は単純だった。
何をすればいいかわからない。
それは今まで感覚で分かっていたどうすれば勝てるかのビジョンが何も見えないから。
どんな敵と相対してもこう責めればいいだろう、そういったビジョンはなんとなくは見えていた。
なのに、この敵にはそれが全く現れない。
いつもその感覚が自分を動かし、相手を倒す、それだけなのに。
なのに、その感覚が今鳴らすのはうるさいまでの警鐘。
立ち向かうなと、心が悲鳴を上げている。
「あの日から久しぶりにKOGに乗ったけど、あの時の感覚がまだ残っててよかった。今なら何をされてもすべて対応できる気がする」
あの100機との死闘を超えた剣也。
あの日、剣也は覚醒した。
集中の極みを自らの意思でこじ開けた。
その感覚は、いまだ剣也の中に残っている。
そして今KOGに乗った剣也の前にはまた扉が現れる。
その本来固く閉ざされた扉をまるで近所に出掛けるかのように。
自由にその扉を開くことができるようになった剣也。
その強さは、いまだ底が知れず、剣也自身もその先に何があるのかわからない。
扉を開いたその先に一体なにがあるのか。
しかし間違いなくわかっていることは、世界最強の引きこもりは、この世界で覚醒し、さらに上へと昇り詰めたということ。
「なぜ私は動けない、あの機体の周りに見える空間は……まさか間合いだとでもいうのか…あれがすべて?」
ジンが見ているものは剣也を中心に描かれる丸い領域、まるで蜃気楼のように揺れて見える。
それは剣也の剣の間合いが作る領域。
ジンは強い、その戦いの感覚はまさしく天才、化物と呼ばれるのも納得な存在。
だからこそ、目には見えないその領域がジンには見えた、あの領域に立ち入ったら真っ二つにされるビジョンすらも。
建御雷神の時に作り出した、剣也の絶対の領域。
のちに白の領域と呼ばれる無敵の空間は、集中の極みに入ることで剣也が対応できる範囲、つまり間合い。
もちろん建御雷神の時ほど領域は大きくはないが、それでも才あるものならば感じ取る。
あの空間に入ったならば真っ二つにされることを。
「来ないんですか? ジンさん」
「う、うるさい!」
オープンチャットで動けないジンに声をかける剣也。
動揺するジン、ありえないほど汗をかく。
対峙しているだけで感じるプレッシャーで疲弊する。
しかし剣也は全くの逆。
(自分でも不思議なくらい脳がクリアだ。あの時の全能感が戻ってくる。今なら…)
「く、くそ!!」
ジンが耐えきれずに剣ではなく銃をもって剣也を狙い撃つ。
近距離線は分が悪い、そうジンの直感が、警鐘を鳴らす。
その一発の弾丸は、さすがの聖騎士長のジン。
真っすぐと剣也の眉間を貫く軌道で間違いなく射貫くはずだった。
しかしその銃弾は。
(今なら……銃弾だって切って落とせる)
剣也の振り切った巨大な剣の腹によって、弾かれる。
もちろん見て切ったわけではないのだが、銃口から軌道予測しタイミングを合わせただけ。
それでも一見簡単に見えるそれは、芸当と呼ぶにふさわしい極限の技。
建御雷神ならば本当に真っ二つに切り落としていたかもしれない。
「なぁ!?」
ジンはその曲芸のような極限の技に驚き動けない、その隙を剣也は見逃さない。
そしてジンの懐へ、つまり剣也の無敵の領域へ。
「な、舐めるな!! 私は!! 聖騎士長だぁぁ!!」
剣に持ち替えるジン、その動きは迅速だった。
身体が勝手に動くほど練習し、極めてきた。
その無意識の反応は、最速と言っていいほどの動きを見せた。
ただし、剣也はその最速の上を行く。
KOGが物理的に、この場合は電子的だが最速を出すためのすべてが最適化された動き。
そして一閃、一刀。
ジンのKOGの首と胴体が離れて落ちる。
つまりその瞬間勝者は決まった。
「バカな……ありえない。私が負けた? なんだこの強さは……」
ソード WIN!
勝者を決めるメッセージが画面に表示された。
信じられないとジンがうつむき、操縦桿を握りしめつぶやく。
この日本当の学生最強は決定した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます