第42話 レイナと聖騎士

「おいおい、可愛いからってさすがにそれは許せねーな!」

「俺達これでも聖騎士だよ? 年に20人ぐらいしかなれない帝国最強の騎士よ?」

「レイナちゃんこれは落とし前つけてもらわないと、お兄さん達許さないよ?」


「勝ってから言ってください」


「「はぁ!?」」


(煽り性能たけぇーー無自覚って怖い)


 無意識に敵を煽るレイナ。

本人としては思ったことを言っているだけなのだろうが。


 それにチャラい見た目のわりに3人は間違いなく聖騎士。

正直やられる前のモブとしか思えないが。


 この世界での聖騎士の立ち位置があまり剣也は理解できていなかったが、先ほどの話だと年に10人というと全部で200~400人ほどがいるのだろう。


 つまり前の世界でいうと、マスターと呼ばれる各サーバーの上位100人より少し弱い程度だということだ。


 前の世界のマスターと呼ばれる廃人集団。

それがこの世界の聖騎士と呼ばれる存在達、前の世界ではランクが上の人ほど現実を捨てていたがこの世界ではそのままステータスとなる。


 ランクが高いほど、現実のランクは低いとはよく言ったもの。

剣也も学生という身分がなければただのニートだったのだから。


 それでも大会の賞金などは結構な額をもらっていたが。


「じゃあ先方は私から行きますね、いいですか? お兄ちゃん」


「あ……はは、どうぞ。お好きに妹よ」


「い、いいのかい? レイナ君。私が先に出て様子を見たほうが……」


 リールベルトさんがおどおどとしているが、レイナは全く我関せず。

相変わらずいい人だが、多分実力的にはそれほど高くないのだろう。


 実は最強の一角だったりするのか、いやそれはないな。

オーラを感じない、そういう意味ならあのジンという人の方がよっぽど強そうだ。


 そしてシミュレーターに乗り込む二人。

 

 剣也もすでにどうにでもなれと投げやりになる。

本能的にああいうタイプのチャラチャラしている人は苦手だ。


「俺が勝ったらレイナちゃん。連絡先教えてもらうからね!」


 巨大なモニターに映る二人の機体。

そして酒を飲み赤くなっている大佐。


 カウントダウンが始まった。

レイナが本物の聖騎士と戦い、現在の立ち位置を知る戦いが。


 彼女がどれほど成長し、世界はどれだけ広いのか。


 カウントダウンが始まる。


 3、2、1……FIGHT!



 レイナ WIN!

 レイナ WIN!

 レイナ WIN!


「あ、あり得ねぇ……」

「これで学生かよ……」

「すでに中堅聖騎士クラスじゃねーか」


 チャラ男三人衆は、普通に敗北した。


 世界の広さ? うーん、普通に聖騎士って弱くね? と思ってしまう。

……がそんなことはない。

レイナと剣也が強いだけ。

彼ら聖騎士は間違いなく上位1%以内のプレイヤーなのだから。


 ただし剣也が0.001%未満というだけ。


 それでも圧倒的とは言わないまでも、しっかりと実力差を感じながら敗北した。

どうやら彼らは聖騎士の中でも新人も新人。

一番弱いレベルだそうだ、それでも見習いが勝てるような存在ではなく間違いなく最高レベルの戦士ではあるのだが。


「では、次はあなたですが、どうしますか?」


「少し腹が痛いからやめておこう」


 きりっとした顔でゾイドが腹が痛いとレイナとの試合を断った。

完全に嘘であるが、懸命な判断だろう、戦略的撤退だ。戦わなければ負けはない。


 こういうところは貴族らしいな。


「ははは! 白銀の氷姫は健在じゃないか! 昔、来て早々に先輩騎士をボコボコにしてたのを思い出したわ!」


 テンション高くスター大佐がひざをバンバン叩き大笑いする。

聖騎士達は悔しそうというより、驚きと畏怖の目でレイナを見る。

はっきりと実力差を見せつけられたと。


(レイナほんとに強くなったな……これは差を詰められたかな?)


 剣也と毎日のようにシミュレーターで訓練していたレイナは剣也に引っ張られすでに中堅の聖騎士クラス。


 学生の中では最強レベルと言っていいだろう。

この世界の学生のレベルを知らないが、聖騎士がトップレベルだというならすでにレイナはそのレベルを超えている。


「いやー、面白いものを見せてもらった。どうだった? ジン」


 するとその大佐の横に立って観戦していた堀が深い学生。

スポーツマンという感じのイケメンで、名前はジンというらしい。


「正直驚きました。大佐の娯楽に付き合うのも面倒だなと思っていましたが少しは楽しめそうだ。これを見越していたんですか?」


「あのまま成長していたならきっと聖騎士クラスにはなっとると思ってな、一応儂らにも面子はあるだろう? 転校生がこの学校の最強でいいのか? ジン」


「ふっ。それはだめですね。父上に怒られる」


 するとジンと呼ばれる男がレイナの前にでる。

フランクな笑顔でレイナに話しかける。


「レイナ…でよかったね、私とも戦ってくれるかい?」


「ええ、もちろん」


 それを見て優しく微笑むイケメン、横で見る剣也。

イケメンは微笑んだだけで似合うな、なんかムカついてきたぞ。


「それと私が勝ったら、デートしてくれないか。私は君に興味がでた。君はとても美しいし、戦い方に花がある」


「え?」


(はぁ?)


 二人とも不思議な顔をする。

しかし剣也だけはすぐに理解して、憤慨する。


(糞イケメンが! レイナにボコボコにされて身の程を知れ!)


 レイナにすり寄るそのイケメンに剣也は射殺すような視線を送る。

すでに彼し面なのはご愛敬、ガチ恋してるから仕方ない。


 突如歯の浮くようなセリフを言ってのけたジン、それがあまり違和感がないのが悔しいがレイナに負けて悔しがればいいと思った。


「わかりました。では戦いましょうか」


 負けたらデートの約束をしてしまったレイナ。


 でも今のレイナが負けるとは思えなかった。

しかしこのジンとかいう男の雰囲気もただ物ではない。


 先ほどレイナの戦いを見ていたのに、戦いを挑むという意味を剣也もレイナも理解していなかった。

今のレイナは学生としては最強レベル、並ぶものなど一握りしかいないだろう。

ましてや負けるものなどは、いるのかすら怪しい。。


 それこそ本当に世界最強の学生でも連れてこない限りは負けないはず。


「あぁ、それとまだ自己紹介をしていなかったな。私はジン・ハルバート、この国の男爵家で、そして」


 ただし彼がその。 


「聖騎士長だ」


 世界最強の学生だっただけ。

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