第41話 力試し
「お前達、新しい仲間だぞ! じゃあ、二人とも自己紹介をしてくれるか?」
するとレイナが一歩前にでる。
こういう時一切怯まないのはすごいなと剣也は思いつつレイナが自己紹介を始めた。
「レイナ・シルフィードです」
「……」
「……」
静寂。
「え? おわり?」
すると一人の少年が立ちあがり声を上げる。
そんな自己紹介あるか? という顔でレイナを見る。
「なにか?」
「いやいや、もっとなんかあるだろ! 思わず突っ込んでしまったじゃないか、キャラじゃないのに!」
関西風のツッコミをする少年。
金髪眼鏡のインテリ系という見た目だがツッコミ担当というのが今の一言でうかがえる。
関西では、ボケ担当とツッコミ担当が分かれているそうだが、間違いなくツッコミ担当だろう。
「自己紹介とは自分を知ってもらう場であってだね、もっと出身地とか……」
「出身地は……すみません、よく覚えていません」
「えぇ……そんなことあるの?」
クラスに充満するよくわからない空気。
その空気を察してすかさず剣也が自己紹介をかぶせる。
「お、俺はソード・シルフィード。レイナの兄です! 出身は13番特別区。親はジーク・シルフィードで、男爵家です!」
「お、おぉ! よかった。二人とも寡黙だったらどうしようかと思ったよ。私はこのクラスの代表、まぁ年が一番上なだけだが…リールベルト、平民だがここでは先輩だぞ、よろしく」
そういってリールベルトが握手を求める。
剣也とレイナはそれに答えて席に向かった。
リールベルトさんは、なんというか堅物の委員長といった感じだった。
平民ということは貴族ではないので、多分エリートコースなのだろう。
少し残念な雰囲気を感じるが、多分エリートで優秀なはずだ。
「よぉ、久しぶりだな。白銀。辺境の地の養成学校に行くってんで驚いたが戻ってきたか」
すると一人の生徒がレイナをドスの利いた声で呼ぶ。
まるでレイナを知っているかのように、偉そうな態度で。
剣也は見たらわかる。
こいつがこのクラスの支配者だということが、スクールカーストというものに人一倍敏感だった剣也は直観で感じ取る。
このクラスで多分こいつが一番偉い、いや偉そうだ。
それにレイナと知り合いのようだが。
「あなたは……」
レイナはその方向を向き首をかしげる。
「誰ですか?」
(知らないのかよ! 絶対なんかあったような口ぶりだったぞ?)
完全にレイナの記憶から抜け落ちているその男。
そのレイナの返答に顔を真っ赤にして怒り狂う。
「忘れただと!? この国の公爵家のこの俺を!」
(公爵家って結構偉いよな。あんまり詳しくないけど…)
前の世界の知識だと確か一番偉い貴族が公爵だったような気がする。
「公爵家……あ、思い出しました。昔一度だけ戦ったことだありますね。確か名前は……ソイヤ?」
(よかった……思い出せたか…)
横で胸をなでおろす剣也。
登校初日から敵を作らないでほしい、レイナはオブラートという言葉をどこかに忘れていってしまった子なので内心ひやひやしていた。
「誰だその名前は! ゾイドだ! いいだろう、二度と忘れられないようにしてやる…俺と戦え! あの時の屈辱はらしてやるぅぅ!!」
(全然だめだった。…名前曖昧なら言わなければいいのに……しかも全然あってないし…)
「ほう! ではいい機会だ! みんなの実力を見せてもらおう!」
すると楽しそうに横で眺めていたスター大佐がニコニコしながら提案する。
まるで待ってましたと言わんばかりの表情だったが、それはそのはず。
「そういうと思ってな。実は今日は卒業生を何人か呼んでおる、現役の聖騎士達だ。存分に揉んでもらえ!」
最初からそうするつもりだったようでスター大佐は聖騎士達とぶつけてレイナと俺の実力を測るつもりだったようだ。
「大佐! 私は聖騎士のほうに入れてもらう! 私も今年から聖騎士だ、問題ないだろ!」
(なんと、ゾイドは公爵でありながら聖騎士らしい、学生で聖騎士なんて聞いたことないので、普通に超エリートのようだ)
「あぁ、構わんよ。今日の趣旨は久しぶりに本国へ来た白銀の氷姫の実力と、ジークの子の力を見るだけだからな」
「そうだな、じゃあメンバーはゾイド君と、リールベルト君も来てくれるか、あとは……ふふ、ジン頼めるか?」
スター大佐がジンという青年を呼ぶ、なぜか悪そうな顔をして。
年は剣也達より少し上だろうか、落ち着いた雰囲気で静かにこちらを眺めていた。
不思議な雰囲気を持っている人だった。
金色の髪なのでアースガルズ人なのはわかる。
スポーツマンといえばいいのだろうか、堀が深くて同年代には到底見えない。
しかも正直何を考えているのかよくわからない。
それでも周りの反応を見る限り一目置かれる存在のようだ。
ゾイドもその意見に何も言わない、むしろ恐れているようにすら見える。
するとその寡黙な青年が口を開く。
「それは命令ですか? 大佐」
「はは、儂が君に命令などできんよ。提案だ」
「……はぁ、わかりました。大佐の頼みなら断れませんね」
ゆっくりと立ち上がり、剣也達のもとへ向かう。
「よし! じゃあ行くぞ、シミュレーション室へ! 実はもう先輩たちを呼んであるんだ。わくわくするな! 久しぶりの模擬戦だぞ!」
わくわくするスター大佐。
ビール片手に野球観戦するおっさんに見えてきたが、この世界ではKOGとは兵器であり、娯楽である。
前の世界では、ゲームとして世界的人気で大会の視聴者もとても多かった。だからその興行性は理解できる。
そのまま連れられてシミュレーション室につくと3人の軍人が談笑していた。
こちらに気づいたようで、一人の男がスター大佐に話しかける。
「大佐、呼び出しといて遅いっすよ。もう僕ら聖騎士で、国防の要なんすよ?」
調子のいい声で一人の聖騎士が立ち上がる。
なんだろう、どことなくヤリサーの大学生という感じがする。
残り二人も若い軍人のようで、なんだろう、チャラチャラしてる飲みサーのチャラ男って感じ。
「なーに言ってんだ。戦いもなくて遊び回ってるごくつぶし共が」
「はは、ちげーねー。ほんとは訓練ぐらいしかやることないっす」
「卒業生が在校生を育てる。そしてまた卒業していった生徒が次の世代を育てる。そういって回ってるんだ。今日も頼むぞ」
「大佐の頼みとあらば! で、そっちの子達とって……ジン!? そいつもですか?」
「いや、彼はまぁ一旦見学だ。今日のメインはこの二人。ジークの子供だぞ? 知ってるだろ? ジーク・シルフィード」
「ジーク……ってまさか軍神っすか!? うへぇー。超有名人じゃん。しかもめちゃくちゃ可愛いし」
(聞けば聞くほどチャラいな、ヤリサー三人衆と呼ぼう)
レイナを見て黄色い歓声を上げる三人。
お兄ちゃんはあんなチャラいやつらは認めません。
「よし、じゃあ早速始めるか! 在校生チームは、リールベルト、ソード、レイナの三人だな。聖騎士チームにはゾイド君とお前ら頼むぞ。せっかくだ、勝った方は負けたほうに昼食をおごろう! まぁ在校生が負けたら儂が奢ってやるから安心しろ。戦い方は好きにしていいぞ」
実質ノーリスクの提案をスター大佐が行う。
その提案内容から気前の良さがうかがえる、あれ? あの人お酒飲んでない? 顔が赤いぞ。
すでに観戦モードに入っているスター大佐。
「さてと、じゃあどうする、二人とも? 勝ち残りだと正直分が悪すぎるしな……」
勝ち残りで交代していくスタイルのチーム戦を提案しようとしたリールベルト。
しかしそれは見習いと聖騎士の力の差を考えればルールとして成り立っておらず何かいい方法はないかと思案する。
すると一人の少女が声を上げる。
「いいです、勝ち残りで。全員と戦ってみたいので」
「レイナ!?」
「はぁ!?」
「なんだと!?」
その一言に剣也、ヤリサー三人衆、そしてゾイドが声を上げる。
その言葉の意味を瞬時に理解した。
勝ち残りで全員と戦う、それが意味することはつまり。
「勝ち残りでいいです。せっかくなんで全員倒しますから」
KOGのこととなるとバトルジャンキーとなる氷姫。
その目をキラキラと輝かせ、無自覚で聖騎士チームの怒りを呼ぶ。
「楽しみですね。お兄ちゃん」
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