第40話 この世代の最強
「本日はアーズガルズ航空をご利用いただき誠にありがとうございます。当機は間もなく着陸いたしますのでシートベルトをお締めください」
席に着く剣也とレイナ。
空の旅は特に何も起きず、平穏な移動となった。
しかし周りを見渡せばほとんどが金色の髪のアースガルズ人。
銀色のレイナと剣也は、一瞬好機の目で見られるがそれほど特に気にされない。
というよりみんなレイナの美貌に見惚れているといった方がいいかもしれない。
どうだ、俺の妹は。血は繋がってないけどな、まじで可愛いだろ。
「まずは家に荷物を卸そうか、入学は明日からだよね」
「はい、転校生としてですが」
そしてアースガルズ帝国へ到着する二人。
レイナはすたすたと歩いていくが、剣也はあたりを見渡す。
(ここが、アースガルズ帝国。今の日本とは大違いだな)
見渡す限りにアースガルズ人。
空港を下りればまるで金持ちばかりの家やビルが立ち並ぶ。
ここは首都ヴァルハラ、アースガルズ人の中でも上流階級が住まう町。
日本でいうと東京と言ったらわかるだろうか。
この世界のことはあまり詳しくないが見るだけではっきりとここが都市だと分かる。
その中でも一際ネオン明るい夜の街を剣也達は歩いている。
(まるで夜の歌舞伎町って感じだな……いったことはないけど)
「けん……お兄ちゃん? いきますよ?」
「あ、あぁごめん」
すでに時刻は夜を迎えていた。
レイナに案内されてジークさんの本邸へ向かう。
街頭があるとはいえ、夜道は暗い。
その暗い夜道を通るとより一層ネオンが強いエリアがあった。
見ただけで分かる、そこは歓楽街だと。
都会につきものの夜の街。
「地図だとここを真っすぐですね」
「ここを通るのか……」
レイナがその歓楽街を真っすぐと突き進む。
我関せずとはこのことだろうが、無人の荒野をいくがごとしレイナに剣也はついていくことしかできなかった。
興味がないと言えば嘘になる。
でも遠目でも分かるその歓楽街の状況が剣也にはわかってしまった。
ここがどういう場所で、何が起きているかを理解するとあまり乗り気には成れなかった。
「そこのハーフのお兄さん、一発どうよ! 安いよ!」
案の定キャッチのお兄さんに声を掛けられる。
そしてその髪は黒色。
多分アジア人なのだろう。
町を見渡せば、多くの女性が露出の多い服で目を合わせて誘ってくる。
今までの剣也なら鼻の下を伸ばしていただろう。
とても綺麗なお姉さんだっている、正直エロいと一瞬思ってしまった。
でも素直にそうは思えなかった。
「日本人……それに他の人種も……きっとみんな」
「ええ、国を奪われた人たちです。3級国民の」
ここにいるのはアースガルズ帝国の3級国民と呼ばれる人々。
つまり職業の自由はなく、命令された職に就かなくてはならない人達。
結婚も、自由も感情すら奪われた人々。
「1000ルビ……スーパで買ったカレー粉と大して変わらないじゃないか」
アースガルズ帝国の通貨。
この前カレーを買ったスーパーの金額に照らせばルビと円は大差がない。
剣也が見た看板には一回1000ルビの文字。
それを見ただけでどういった扱いを受けているのかがはっきりわかる。
すると肩を掴まれて胸を押し当てられる剣也。
「どう? お兄さん! 今日お客がいなくて……助けると思ってね? じゃないと殴られちゃうの」
「すみません……」
「あ、もう先約がいるんだ。ごめんなさい」
一瞬ドキッとしてしまったが、レイナを見て離れていく。
年は同じぐらいで、クラスにいたら一発で好きになりそうなほど綺麗でアイドルとしてもやっていけるような女性だった。
去っていく背中。
その背中には化粧で隠しているが、大きなあざが剣也には見えた。
「ひどいな、ここは」
「すみません、配慮するべきでした。道を変えましょう」
「いや、いい。戦う意味を再認識できた」
もし、かぐやが負けていたら。
レジスタンスとして立ち上がっていなかったら。
ここにいたのはあの子かもしれない。
自由意志なら何とも思わなかった。
どんな職業につこうが、その人の自由だし、職業に貴賎なし。
でもこの町には、一見快適でゴミ一つないこの国は。
きっとみんなの命を削ってできている。
衣食住すべて、奴隷のような人々を使って。
私服を肥やしている、誰かがいる。
そして今もなお、その奴隷を増やそうと軍事力を拡大して。
世界すらも征服しようと、人の欲望はとどまることを知らないと証明するように。
…
「つきました」
そしてジークの本邸へと到着する二人。
その日は旅の疲れもあったためすぐに休む。
剣也はジークの部屋。
レイナはレイナ自身の部屋が用意されているようだった。
「じゃあ、おやすみ。明日は7時にはおきるよ」
「はい、おやすみなさい」
ベッドに入る剣也。
放置されていたわりにホコリもなく綺麗な家でジークのものであろう部屋で眠る。
「かぐやへどうやって連絡を取ろう。ジークさんに聞いても敵同士だからわからないと言われたし」
かぐやへの連絡手段が思いつかない。
アジア連合のどこにいるかもわからないし、あの国は広すぎる。
広さでいえばアースガルズ帝国のほうがデカいがデカすぎて剣也にはよくわからなかった。
前の世界でいえば、アジアのどこかにいる名前だけ知っている人を探せ、ただし連絡手段はないし、戦争中で政府を使っての依頼もできない。
正直簡単に連絡ぐらいできるだろうと思っていたが、いざ考えてみるとこの世界では全然方法がなかった。
「今度ロードに相談してみるか、あいつならいい案思いつくだろ、頭いいし」
その日は眠ることにした。
明日から多分ハードな毎日を送ることになるだろうと。
…
翌日。
「おはようございます。朝食です」
「え? 用意してくれたの?」
「はい、料理は好きなので。今朝買ってきました」
「あ、そうなんだ……ありがと。いただきます!」
朝起きるとレイナが朝食を作ってくれていた。
前から思っていたがなぜレイナは料理が好きなのか。
正直ギャップしかないし、ゲームの中ならそういうギャップを狙ったキャラ付けだと思った。
でもこの世界にはすべてに理由がある。
きっとレイナにも何かあったんだろうな。
朝食を食べて二人で登校するレイナと剣也。
銀色の髪の兄弟は、首都ヴァルハラの中心にあるアースガルズ帝国のエリートパイロット学校へと向かう。
学校の名は、そのまんまヴァルハラ養成学校。
前の世界でも東京の大学だから、東大だったし、そんなものなのだろう。
「どんな学校なのレイナ?」
「そうですね……私も詳しくは知りませんが」
レイナが知る情報では各国の植民地にある学校とは、格が違うという事らしい。
有力な貴族や、エリート、そして才能が世界最大の領土と人口を誇るアースガルズ帝国中から集まる学校。
「うわ、すごいな。日本の学校の数段上だぞ」
「そうですね、規模は比にならないと思います。最も多く聖騎士を輩出していますから」
門構えからしてめちゃくちゃ高そう。
全部、金でできているんじゃないかと思うぐらいぴかぴかだった。
「まずは教員のいる部屋までいきましょう。パパが話を付けていると言っていました」
そして大勢のアースガルズ人が談笑したり、青春を謳歌している中二人が歩いていく。
まるで大学みたいだなと剣也は思う。
銀色の髪はそれほど珍しいわけではなく、相変わらずレイナを見て可愛い、連絡先を聞きたいなど男がざわめいているだけだった。
「失礼します。シルフィード家のものですが……」
「ん? おぉ! 来たか! よしよし! こっちだこっち!」
教員室に入るやいなや、大きな声で気のいいおじさんが剣也達に手を振っている。
めちゃくちゃ厳つくて片目は眼帯、顔には巨大な傷をした50代ぐらいのおじさんだった。
そんな厳つい顔で、すごい笑顔で手を振る姿がちょっぴり可愛いと思ってしまう。
「お久しぶりです、スター大佐。レイナ・シルフィードです」
(あ、レイナ知り合いだったんだ)
「おぉおぉ! レイナ! 前会ったときはこんなだったのに、こんなに大きくなって。あのバカはまだ13番に?」
「パパは、あのエリアを預かる身ですから」
「そうか、そうか。また会いたいんだがな…。で? そっちが噂の?」
「はじめまして、ソード・シルフィードです」
「よろしく、儂はスター・フリードリヒ。スター大佐とでも、スターさんでも好きに呼んでくれ。しかしまさかあいつに隠し子がいるとは。突然引退したかと思ったらもしかしてお前さんが原因なのか? 見たところハーフのようだが全然似とらんな……いや、家庭の事情にそこまで踏み込んではいかんな。すまん忘れてくれ」
(本当の子供ではないから当然ではあるが……)
スター大佐は、簡単に挨拶を済ませると立ち上がって教室へと案内してくれた。
言葉の節々からいい人そうなのを肌で感じる剣也。
多分ジークさんと知り合いだったのだろう、するとスター大佐が話し出す。
「ジークは儂の教え子だったんだ。儂も新人教官だったが、あいつは特別優秀で、その世代の聖騎士の中でも断トツに強かった」
「そうなんですか……」
「お前さんにも期待していいのかな? ジークほどとは言わんが、目指せ聖騎士! だな。がはは!」
「はは……頑張ります」
「よし、ついたぞ。ここが今日からお前達の学び舎だ。ジークから強いと聞いておるからな。儂が特別に口利きしてこのクラスに入れることにした。今年は異常だな、これほどの粒が揃うことは儂も初めてだ」
そして扉を開けるスター。
中にいるのは、数名の学生達。
そのどれもが鋭い視線を放ち一筋縄ではいかなそうな顔立ちをして、レイナと剣也を睨んでいる。
「ようこそ、ソード、レイナ。ここは特Aクラス。この世代の最強が集う場所だ」
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