第35話 ニチア同盟

「君を見つけたんだ。剣也君」


 ロードが真っすぐと剣也を見る。


「俺?」


「あぁ、本国の聖騎士長にも勝るその操作技術、私は君ほど強い騎士を見たことがない。まさか100対1でねじ伏せられるとは。なぁ、ジーク」


「はい、御剣はすでに世界最強の一角かと……アジア連合の白蓮、EUのトール。今、世界最強と呼ばれる者達と比べても遜色ない、もちろんジリアンや、引退した私とは別格の本当の聖騎士長達、三英傑と比べても。いや、むしろ彼はそれよりも」


「そう…だから剣也君」


 ロードが立ちあがり剣也に右手を差し出す。


「私の騎士になってくれないか、そして私が皇帝になる助けになってくれ。世界をよりよくするために。

君にはその志があり、それを為すための力もある。だからもう一度この手を握ってくれないか」


 ロードの誘い。

養成学校で出会ったときから決めていた。

あの観戦した日から、ロードの中で剣也を引き込むことは決めていた。


 そして今日レジスタンスとして活躍する彼を見た。

ならば目的は日本のため、そして命を懸けることができる高い志を見て彼しかいないと決めていた。

何かを為すために自分の命を懸けることができる剣也の意思こそ何よりも得難い才能だと。


 剣也はその右手を見つめた。

すぐには手を握ることができなかった。


「その手は本当に世界をよくするのか」


「誓おう、私が世界を平和にすると」


 その目を見る剣也。

真っすぐ返すロード。


 なぜだろう、信じてしまうのは。

この燃えるような瞳には、強くて熱い意志を感じる。


「血まみれの手か、重いな」


 あの日ロードが血にまみれた手と言っていたその手。

その意味するところを理解した剣也。


 この手を握るということは、世界最大の国。

その支配者を決める戦いに参戦するということ。


 流れる血は想像できない。

もしかしたら今日の比じゃない量が流れるかもしれない。

この世界の頂点を決める戦いなのだから。


「一つだけ約束してくれ」


「聞こう」


 剣也は立ちあがる。

そしてレイナを見つめる。


「レイナ、そしてレジスタンスとして戦うかぐやが。二人ともが幸せに暮らせる世界にすると約束してくれ。それを誓うなら。握ろう。その手を」


「ふっ、そうか。その二人か……それが君の戦う理由なんだな。君という人間が少しわかったよ。わかった。約束しよう。第100代アースガルズ帝国皇帝として。命を懸けて」


 その返事を聞いた剣也はその手を強く握った。


「裏切ったら殺すからな」


「あぁ、その時は君が私を殺せ」


「ふっ。本当に変な奴だな、皇族のくせに」


「はっ。君に言われたくはないね、イレギュラー」


 笑い合う二人、固く結ぶ両手。


 剣也とロードが手を結ぶ。

今日戦場で相まみえた二人の天才。

戦術と戦略、マクロとミクロ。

その極みに到達した最強の二人が手を結ぶ。


 ロードの目的は皇帝になること。

世界を変えるために。

なぜロードがそうまでして世界を変えようとしているかはわからない。

でも不思議と剣也はロードの言葉をすんなり信じられた。


 そして剣也の目的は、二人のヒロインを守ること。

ロードは皇帝になることを条件に二人が幸せに暮らせる世界にすると約束した。

ならば世界大戦を止めてくれる、そもそも起きないかもしれない。


 だから。


「契約完了だな、ロード。俺とお前は対等の同盟だ」


「あぁ、もちろんだとも。私達は対等な契約者なのだからな、剣也」


 ロードと対等な関係を結んだ剣也。

まるで友人のように、名を呼び合う二人はまさしく対等な関係だった。


「そして、ジーク、レイナ、そして田中一誠だったな。君達はどうする? 協力してくれるのか?」


「私は……EUであなたに助けられた恩があります。それにもとよりあなたほど皇帝に適任の方はいない、どうか世界にこれ以上血が流れないように……」


 ジークが跪いて首を垂れる。

つまりその意味は。


「ありがとう、ジーク」


 ジークはロードに付いたということ。


「私は……オーディン様のこともよくわかりません。でもパパがその道を選ぶなら。それに……」


 レイナが剣也を真っすぐ見る。


「今日あなたを失うかと思ったとき、とてもそれを怖いと思いました。それが何なのかよくわからない。だからその理由を知りたい。あなたの隣で」


「レイナ……」


 レイナも陣営に加わった。


 そして最後の一人。


 剣也の機体、建御雷神の開発者。

技術的な支援を可能とするその分野に関しては世界的権威。


 田中一誠に視線が集まる。


「個人的には、その意見に賛成です。剣也君のサポートもしたい。しかし私達日本人が協力するには一つだけ。一つだけ成し遂げなければならないことがある」


「君にはその機体のサポート、並びにその技術力は欲しい。だからぜひ陣営に加えたい、聞こうか。何が欲しい?」


「私達が欲しいものは昔から何も変わっていない。かつては守ろうとし、今は取り返そうとしているものは何一つ変わっていないよ」


 田中がロードに真っすぐ見て言い放つ。


「日本を……返せ、奪われたこの国を。私達に返してくれ!」


 田中の願いは一つだけ、そのためにレジスタンスになった。

たった一人の愛する人を失った戦争。

その戦争で奪われたものを取り返さなくてはこの復讐の炎は決して消えない。

この世界に溢れる日本人達の復讐の炎は消えない。

 

 だから田中の願いは立った一つ。


 日本の独立。


「……」


 ロードは思案する、いくつもの障害を頭で計算していた。


 しかし剣也の口が開く。


「かぐやを幸せにするには、それも条件だな? ロード。損得なしでな」


 それを聞いたロードがやれやれと手を挙げる。


「これは、大変な条件をのんでしまったようだな、わかった。いいだろう、私が皇帝になったらこの国の独立を認めよう」


「本当か!」


「あぁ、命を懸けて誓おう」


「わかった。ならば協力しよう」


 田中とロードも手を結ぶ。


「では、今日ここにいる5名、ロード・アースガルズ、御剣剣也、ジーク・シルフィード、レイナ・シルフィード、田中一誠の同盟を宣言する。

そうだな、ニチア同盟となずけようか、日本の日とアースガルズのアだ。安直だが同盟の名前とはそんなものだからね」


 ここにニチア同盟が結成された。

書類も証人も誰もいない、真夜中の同盟が、しかし世界の在り方を変えるための同盟だった。


「細かいことは、明日決めようか。今日はもう深夜だ。私でも眠いのだから戦場に出ていた君達はなおのことだろう、これでは正常な判断もできない」


 そしてその日は一度お開きとなる。


「あぁ、それと剣也君、田中君」


「ん?」


「君達死んだことにしたからよろしくね」


「はぁ!?」


「仕方ないだろう、田中君は名前がばれてしまったし、剣也はこれから私の騎士となってもらうんだから」


「田中さんはわかるけど、なんで俺もなんだ?」


 剣也がロードの発言を理解できないと聞きだす。


「ふぅ、もっと考えたまえ。剣也、戦場だけでしか頭が回らないのでは足元をすくわれるぞ」


「お前とたんに口が悪くなったな」


「はは、これが私の素だよ、信頼の証だと思ってくれ。これが対等な関係というやつだ」


(なにか違う気がするが……)


 一人たりとも友と呼べる存在がいないロード、その身分ゆえの孤独。

剣也自身も前の世界でもボッチだったため友人という感覚があまりわかっていない。

小学生の時は友達もいたと思うのだが。


 友達というものをよく理解していない二人。

でもなぜだろう、命を狙い合った仲だからだろうか。

一切の遠慮もなく、二人の間に壁はない。


 まるで旧友のように、歯に衣着せぬ言葉を交わせる。


「まず君は、今日からアースガルズ人として動いてもらう、その方が私の騎士として都合がいい」


「それは……わかった」


「そのために、一応軍に所属していた君は死んだことにする。別にいきなりいなくなってもいいのだが、死んだ方が簡単だし、欺けるだろ? ほかにも色々あるが…」

 

「なるほど……手続きはしてくれるなら、わかった。別に問題ない」


「あぁ、それとジーク。一つ頼まれてくれるか?」


「はっ!」


「剣也を君の隠し子だったことにしろ」


「はぁ?」

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