第29話 戦術の天才
「なんだ? 突っ込んでくるぞ」
「たった一機でなにができるんだか」
「これが噂の特攻隊ってやつなんじゃないか?」
30体近くのKOGで守りを固めるアースガルズ人。
その包囲網にたった一機のKOGが突っ込んでくる。
軍人達は半笑いで迎え撃つ、余裕の表情を見せながら。
「はは、自殺志願者みたいだな。頭が足りないんだろう、お望み通り殺してやるよ」
そして一機のKOGが剣也に向けて銃を構える。
「じゃあな、劣等人…!?」
構えた銃が砕け散る。
全力でこちらへ向かってくる剣也の一発の射撃によって。
高速で移動しながら正確な射撃によってたった1発で撃ち抜いた。
彼らは選択を間違えた。
行うべきは30体全員での弾幕を張ること。
たった一機だということで油断していた。
相手は聖騎士長を倒した相手だというのに。
「か、かまえろ!」
全員がKOG用の銃を構える。
しかしすでにもう遅い、剣也は30体のKOGの懐へ。
「う、打つな!」
剣也を中心に囲むように30体のKOGが銃を構える。
しかし打つことはできなかった、なぜなら外した場合は後ろにいる味方に当たるから。
「全員、剣に切り替えろ! 囲んでつぶすぞ!」
そして剣也へと5体ほどのKOGが突撃を試みる。
「集中しろ、集中しろ!」
剣也は集中する、突撃に合わせてすべてのKOGの場所を把握し、背後からの攻撃にも意識が行くように。
「こ、こいつ、後ろに目でもあんのか!?」
囲まれながらすべての攻撃を捌く剣也。
しかしやはり5VS1では無謀かと思われた。
戦いはアースガルズ有利に思えた、所詮は一人。
数には勝てないと、戦いの上で多対一はそれほどに難しい。
しかし違和感に気づきだす。
「なんで、一発もあたらねぇんだ!?」
「5VS1だぞ!?」
「なんでこれも止めれるんだよ!」
「集中しろ、一発ももらうな。すべてを把握しろ…」
剣也は徐々に多対一に慣れてくる。
剣也の脳には、まるで上から見下ろしたように、世界が見える。
見えない部分は脳で補完する、動きを予測して、未来を見る。
それはまるで、ロードの未来視のように。
しかしロードと違うのは、マクロとミクロの世界。
戦略と戦術、その戦術の極みへと剣也は昇ろうとしていた。
この地獄のような戦場で、命を懸ける少年は覚醒する。
この世界、最強の一角へ。
しかしそれは今はまだ誰も知らない。
そしてついに。
「なぁ!?」
反撃を開始した。
「これで、1!」
一体のKOGが戦いの合間剣也の一閃で爆発する。
「よし、いける!」
徐々に盛り返しているようにすらみえた。
そもそもアースガルズ軍は5VS1など想定していないし、うまくコンビネーションが組めていなかった。
それも要因の一つ。
しかしそれ以上に。
「動きは最小限でよけろ、反撃は一撃で決めろ、一回のミスで死ぬのを理解しろ」
剣也の動きのレベルが違っていた。
「お、お前達何してる! 相手はたった一人だぞ!」
部隊長と思わしき隊長格の軍人が叫びをあげる。
苛立ちを感じながら剣也との戦闘に参戦する。
彼は騎士長と呼ばれる、騎士たちの長。
パイロット養成学園を優秀な成績で卒業したエリートだった。
だったのだが。
「隊長!!」
不用意に剣也の間合いに入り、ものの数秒の剣戟ののち耐えきれずに切り伏せられた。
歴戦の騎士は絶叫のもと灰になる。
「なんなんだよ、こいつは! どうなってんだ!」
まるで剣也の周りの一定空間に剣の絶対領域ができているかのように。
球状の領域すらアースガルズ軍人達には見えていた。
まるで、その領域に入ったものは、即座に叩き切られるイメージが軍人達の足を止めた。
優勢だと思っていたのに、すでに5体のKOGが灰になった。
剣也の守りは完璧だった。
このままなら守り切れる。
しかしその守りは簡単に崩された。
「逃がすか!! レジスタンス!」
かぐや達レジスタンスへとアースガルズ軍人のフォーカスが移動することによって。
剣也がこじ開けた穴を一心達が突き抜ける。
その背後を追うようにアースガルズ軍のKOGが一機飛び立った。
「かぐや!!」
護りに徹していた剣也はかぐや達を狙ったKOGに突撃する。
すべての防御の構えを解いて、全力で。
だからそのKOGを倒すことには成功した。
「剣也ぁぁ!!!」
倒すことには成功したが。
目の前で爆破するKOGを見てかぐやが叫ぶ。
なぜなら、背後から剣也は打たれ片腕が爆破したから。
「早くいけぇぇ!!」
かぐや達に背を向ける剣也。
かぐやは剣也へと手を伸ばそうとするが、すぐに引っ込めて後ろを向いて走り出す。
その背中を横目で見る剣也。
(よかった、逃げてくれて)
そして再度アースガルズ軍へと向きなおす。
目の前にはいまだ大軍と呼べるほどのKOG。
その大軍を睨みながら地面に剣で一太刀いれる。
真っすぐな線が水平に引かれ、まるで境界線のような線を引く。
「この線だ。この線だけは超えさせない。たとえ死んでも絶対に」
自分に言い聞かせるように、そしてアースガルズ軍に宣言するように。
そこから剣也にとっての死闘は始まった。
片腕を失ってもなお守りに徹した剣也は死に体のはずなのに、まるで壁だった。
その遥か高き硬い壁をアースガルズ軍は抜くことはできなかった。
一機また一機と撃ち落されていくアースガルズ軍。
30体いた大軍は、すでに15体まで減っている。
「なぜそこまで……こいつは一体」
「まだだ、まだ戦える…」
剣也の目は死んでいなかった。
それでもすでに弾薬も切れ、片腕は動かない。
そのせいでエネルギーの消耗も激しく稼働時間も残されていなかった。
「だ、弾幕を張れ! え、遠距離からだ。し、仕方ない。持久戦だ! 奴に近づくな!」
もう一人の騎士長が命令する。
その指示はとても的確だった、しかしプライドが許せなかった。
相手はたった一人、そのたった一人に30機ものKOGが近距離戦では敗北を宣言するようなものだったから。
そして持久戦とは、レジスタンスを逃がすことを意味するから。
(恥も外聞も捨てる。あいつはそれほどまでに危険だ)
遠距離からの弾幕、銃弾の嵐。
これには剣也にはどうすることもできなかった。
剣也のKOGでは、間合いを詰める速度が足りない。
詰めようとするだけで、ハチの巣にされて終わるのが目に見えている。
今は倒したKOGを盾にしながら避けることで何とか耐えているがすでに時間の問題。
一発一発と、弾丸が剣也のKOGを傷つけていく。
「く…そ…でも」
かぐや達の姿はもう見えない。
どれだけ稼げたか集中しすぎてわからないが、逃すことには成功したようだ。
すでに十分時間は稼げた、これならもう逃げ切れるだろう。
包囲網は突破した。
「よかった…役目は果たせたか」
安心してしまった剣也。
そして銃弾を受けてKOGが機能を停止して止まる。
ゆっくりと地面に倒れる。
「とまった……ついにやったか!」
遠距離からの銃撃によってついに剣也の機体は停止した。
エネルギータンクがやられたことによるエネルギー漏れによる停止。
「これで、最後か……現実はゲームのようにはいかないな」
そして剣也は床に置いていた一心から預かっていたものを取り出す。
それは黒くて重くて重厚で、少し力を入れるだけで簡単に人の命を奪うもの。
自害用の拳銃だった。
弾はたった一発、その銃を見つめる剣也。
思い出すのはかぐやの泣き顔。
悔やむのは、彼女を笑顔にできなかったこと。
もし次があるのなら、あのツンデレ姫をドロドロに甘やかして笑顔にさせたい。
めちゃくちゃに、いちゃいちゃしたい。
デートもしたいし、エッチなことだって……。
「はは、とっても可愛いんだろうな……」
乾いた笑いで、妄想に失笑する。
頭に銃口を当てて目をつぶる。
引き金に指をかけ、力を入れる。
「ごめん、かぐや……君は生きてくれよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます