第30話 白い稲妻

「やっと沈黙したか…」


 戦闘の一部始終を見て居たロードが立ち上がる。


「ジリアン、それに娘では相手にならないはずです。全盛期の私ですら勝てない」


 その戦いを映像で見ていたジークとレイナが声を漏らす。

しかしレイナだけは、疑問をずっと浮かべている。


(まるで剣也君のようでした……レジスタンス…日本人…まさか!)


 その時レイナは気づいた。

毎日のように戦ってきたレイナには、剣也の癖も戦い方もみるだけでなんとなくわかったから。


「でも、これでエネルギー切れだ。あれほどの戦闘技術、惜しい人材だが……あの戦いぶりでは寝返ってくれるのは期待できないかな」


(それに、あの戦い方どこかで見た気がする…)


 ロードは戦術には疎い。

しかしその驚異的な観察眼で戦いの癖を見て何かを紐づけようとする。

どこかであの戦いを見た気がする、しかし情報量が足りず剣也とは紐づけられない。


「そうですな、命すら懸ける強い意志。そう簡単になびくことはないでしょう。ああいう輩は……!?」


「どうした? ジーク」


「いえ……もしかしたらもう、死んでいるかもしれません。戦場で幾度も見てきましたから」


 ジークが想像するのはあまたの強敵達。

彼らは捕虜になるぐらいなら自害を選んだ誇り高い戦士達だった。

ともすればあのKOGのパイロットも。


「うそ……ロード様! どうか寛大なご処置を! 命だけは!」


 その発言を聞いたレイナが取り乱す。

剣也とあのパイロットを紐づけかけているレイナが動揺する。


 まだ剣也と確定したわけではないが、何とか命を助けることはできないかと。


 その時だった。


「ロード様! 先ほどアースガルズ軍の輸送車両が一台通りましたが補給でしょうか?」


 指令室へと通信が入る。


「補給? そんな話は聞いていない。間違いなくわが軍だったのか?」


「はい、わが軍の輸送車であることは間違いないので、包囲網を通しております。IDも確認しておりますが……真っすぐとポイントEへと向かっていたので一応ご報告をと」


(なんだ? 味方?)


「ID? 誰だ?」


「えー、IDは…第13番特別区KOG研究所の……田中一誠…2級アースガルズ人です」


「田中だと!?」


「知っているのか? ジーク」


「はい、この国のKOGの研究員です。おい、その輸送車はKOGを積んでいたか!?」


「?…わかりません。しかし輸送車はKOGを運ぶときに使用するものでしたが……」


 その報告を聞いたジークがすべての点をつなげる。

余りに強いレジスタンスのパイロット、つまりは日本人。

そして田中の機体は、研究中のあの機体。


 その機体を操れる存在など一人しかジークには思いつかない。


(まさか!? そういうことか? 君…なのか、剣也君。君がレジスタンスの…パイロットなのか…)


 ロードとジークが映像を見る。

沈黙しているKOG、そして背後からもうスピードで近づく一台の輸送車を。



「怖いな……少し力を入れるだけなのに」


 剣也は覚悟を決めかねていた。

死ぬ覚悟で戦った、しかし自ら命を絶つのはまた違う勇気が必要だった。


 それでもこのまま帝国に捕まればどんな目に合うかわからない。


 だから。


「ふぅ……よし」


 力を入れる、その時だった。


 背後から猛スピードで近づいてくる一台の車両。

そこからスピーカーで聞こえるのは、聞き覚えのある声。


「私だ! 田中だ! あれを持ってきた! まだ戦えるな!」


 その声ですべてを理解する剣也は、銃を投げ捨てて急いでコクピットから外に出る。

目の前にその速度のままドリフトし、止まった車両に飛び乗った。


 蓋が開き中へ入る。


 なぜ田中が来たのか理解はできなかったが、それでも今はこれにかけるしかない。


 あの機体なら。


 剣也の相棒のあの機体なら、この戦況すらも。



「ロード様? わが軍の車両が到着しましたが、あれはあのパイロットを捕獲するようでしょうか?」


「わからん! ジーク! あれはなんなんだ!」


 ロードは突然のイレギュラーに声を上げる。


「わ、わかりません。憶測ですがわが軍が研究していたKOGかと…」


 突然のことでジークも混乱していた。

しかし一つだけわかることがある。


 もしも。


 もしもあそこにいるのが、剣也君で。

そして持ってきたKOGがあの最新鋭のKOGなら。


 戦況は。


「建御雷神 起動!」


 一変する。



「ジーク! 後で話を聞かせてもらうぞ!」


「はっ!」


「全部隊へ伝達! 包囲網を破棄! ポイントEへ向かえ!」


 全軍に告げるロード。

残り70機近くのKOGがすべて剣也のもとへ。

その声は動揺しているように思えた。


(これか……これが胸騒ぎの正体か)


 輸送車から現れた白いKOGを見たロードが身震いする。

直観が警鐘を鳴らす、あれは危険だと。

あの異常なまでの技術をもったパイロットが、量産期ではなく専用機それも最新鋭の機体を使ったのだとしたら。


「全軍をもって、その白いKOGを討伐しろ!」



「田中さん。助かりました。色々聞きたいことがありますが…」


「あぁ、今はまずこの窮地を乗り越えよう」


 KOGに乗った剣也が田中に通信する。

田中は輸送車の中から通信している。


「調整は済んでいる。最高の出来だよ、この子の初陣だ。名前は決めているかい?」


 田中から依頼されて名前を考えていた剣也。

ならば付ける名前など決まっている、たった一つ。

前の世界で相棒として、何度も乗った。

この機体で世界チャンプにすら上り詰めた剣也の愛用機。


「はい、ピッタリの名前を用意してます。このKOGの名前を」


 そして剣也は操縦紺を握りしめ大きな声で名前を呼ぶ。


「建御雷神! 武神と呼ばれ、そして雷神と呼ばれる神の名前です。この電光石火の機体にピッタリだ!」


「建御雷神……この国の神話からか。いい名前だ。ありがとう、剣也君」


 そして剣也はKOGを起動させる。


 輸送車が開き、白いKOGが姿を現す。

まるで白く輝く稲妻のように純白の機体が顔を上げ立ち上がる。


 見据えるは黒い敵。

立ち向かうは、白き稲妻。


「いけ、剣也君。あいつら侵略者共の…」


「いくぞ! 建御雷神!」


「度肝を抜いてこい!」

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