第26話 勝利と絶望

「ロード様!?」


「ジーク、レジスタンスに打たれたことにして処分しろ」


 ジークは驚きすぎて動けなくなっていた。

実の姉を足蹴にして、命令するその少年に恐怖すら覚えた。


「これを知るのは君と私だけだ。わかっているよ、君がこの国に特別な思い入れがあることを」


「!?……なぜそれを」


「少しだけ調べさせてもらった、悪く思うな。だから君も嫌いだっただろ? そのゴミのような女を。人間をゴミのように殺すこれを」


 同じ皇族とはいえ、実の姉をゴミと罵るその目は間違いなく本当にゴミを見るような目をしていた。


「……わかりました。このことは墓場まで持っていきます」


 仮に暴露したところでロードが相手では握りつぶされてなかったことにされるだろう。

ロードの策略に勝てるとも思わない。


 それにこの女はこの国にとって百害あって一利なし、いなくなれば世界は少しはましになる。


 そう思えるほどに腐っていた。

アースガルズ帝国に仕える騎士ですら死んだ方がいいとすら思うほどに。

ならばジークとしては黙っているほうがいい。


「じゃあ、戻ろうか」


「……はい」


~時はレイナが指令室へと戻った時へ戻る。


「さてと、地図と識別信号、わかっているだけの敵の位置も表示してくれ」


「はっ!」


 玉座に座ったロード。

その目の前には巨大なモニターが戦場をする。

青いマークが味方。そして赤いマークが敵を表す戦場の簡易的な地図。


 味方には部隊ごとにアルファベット、その部隊内で数値がついていた。


 それを見たロードが思案する。


 しばらく眺めるロード、しかし考えがまとまったようで立ち上がる。


 そして兵達に命令を下す。


「さてと、反撃といこうか」


 レジスタンスへの反撃の命令が。


~一方、ユミルの親衛隊。


「くそ! 劣等種がなぜKOGを!」

「旧時代の兵器まで持ち出しやがって!」

「囲まれているぞ! ジリアン様はどうした! 通信が途絶えているぞ!」


 一心率いるレジスタンスの総戦力が奪取したKOGと共にユミルの親衛隊を取り囲む。


 バズーカ砲や、戦車すらも出撃し砲弾の雨で親衛隊達を釘付けにする。


「よし! 右辺は前進して背後に回れ! 左辺はそのまま銃撃で敵を足止めしろ!」


「了解です!」


 一心の指揮は的確で、とても優秀な指揮官だった。


 戦時下では、KOGの圧倒的殲滅力の前に全敗したが今はこちらにもKOGがある。

それにリーダーであり隊長であるジリアンを失った親衛隊達は統率力を失い動けない。


 畳み掛けるように、戦力の集中投下を行う。


 そしてダメ押しの。


「な、何だお前は!!」


 剣也の合流。


 消耗した親衛隊のKOGの一機を一刀した。


「きたか! 剣也君!」


 ユミルは逃がしてしまったが、ジリアンを倒した剣也が合流する。


「一心さん、援護お願いします。俺が全員倒す」


 一心の前に降り立ったKOGから剣也の声があたりに響く。

その巨大な背中を見ながら一心が笑う。


(ふっ、なんて頼もしい。これではどちらが年上かわからんな)


 娘と同じぐらいだというのに、これほど頼れる存在になるとは。

かつて新兵だったときの頼れる先輩方に近いものを感じる。


「任せろ! 思いっきり暴れて来い!」


(また一皮むけたな、剣也君)


 怒りをコントロールし、帝国の聖騎士長を倒した剣也はさらにまた一段階上へ。


「俺はこいつらを……殺す!」


 自分に言い聞かせるように声に出す剣也。

しかし怒りに任せた衝動ではない、殺さないと守れないから倒す。


 人を殺すことに慣れたわけではない。

でも人を殺す覚悟はできた、殺される覚悟も。


 お互い命を懸けて戦っている。

こんな戦場で、話し合いができるなんてもう甘いことは言わない。


 だから。


「なんだ、こいつは!」

「なんなんだよ! この動きは!?」

「ばけもの!!」


「俺はちゃんと殺すよ。理解して、この手で、間違いなく。それが戦うってことだし、この世界に向き合うってことだから」


 一人また一人と剣也に倒される親衛隊。

背後からは一心の援護で逃げることもできない。


「これで…最後!」


 剣也の一閃が、最後のKOGを切り伏せる。


「ユミル様……申し訳ござい…」


 そしてKOGが爆発する。

すべての親衛隊が倒された。

剣也はKOGから降りて、指揮を執っていた一心達のもとへ駆け寄った。


 そしてその後ろからは。


「剣也!」


「かぐや!」


 黒上のショートカットの女の子。

その頬は少し煤で汚れていた、黒い涙を流しながら剣也の胸へと飛び込んだ。


「心配したんだから……」


「ありがとう、かぐや……」


 剣也とかぐやは抱き合った。

戦場という特殊な雰囲気が、二人の気持ちを高ぶらせる。

見つめ合う二人、ゆっくりと顔を近づける。


 高鳴る鼓動、頬を赤く染めるかぐや。


 目を閉じる。


 そして。


「キスをするのか?」


 野太い声が間から聞こえる。

かぐやと剣也の間にひげずらのおっさんが割り込んでいた。

名を黒神一心、かぐやパパである。


「す、すみません。つい!」


「お、お父さん!?」


「感動的な再開だが、今はそれほど余裕はないぞ? 盛り上がってしまう気持ちはわかるが……」


「バ、バカじゃないの!? ちょ、ちょっと目にゴミが入っただけなのに! 何勘違いしてんのよ! 変態!」


「えぇ…? なんでパパを…」


 かぐやに思いっきりビンタされた一心は頬に手を当てて唖然とする。

プンプンとまるで音を立てながらその場で剣也に背を向けるかぐや。


(わ、私なにしてんのよ! あ、ありえない! いきなりキ、キ、キスなんて!!)


 誰にも見えないように、真っ赤な顔で下を向きあり得ないと連呼するかぐや。


 雰囲気にのまれてキスしようとした自分が信じられないと、顔から火が出そうになるほどに熱くなる。


「はは、と、とりあえず一心さん。これで敵は全部ですか?」


「あぁ、そのはずだ」


「そうですか…すみません、ユミルは逃がしました」


「そうか……だがよくやった。お前のおかげで全滅は免れた」


 後ろの軍人達も剣也に感謝を述べる。


「お前達浮かれるな! まずは救助、そして避難、このスラムはもう使えない! 一人でも多く救うぞ!」


「おぉぉ!!」


 敵は去った。


 勝利したのはレジスタンス、しかしあまりにも犠牲は多かった。

喜ぶ気になど到底なれなかった。


 瓦礫の山、死体の山を見渡す剣也。

改めて戦いとは、悲惨だと強く、深く、心に刻む。


 それでも戦いが終わってよかった。


 そう思っていたのに。


「レジスタンスに告げる!!」


 拡声器で増幅した大きな声が剣也達に聞こえる。

聞き覚えのない声だが、多分アースガルズ軍人であろう声が聞こえた。


「皇女ユミル様は崩御された。皇族殺しは重罪である。よって貴様らに3級国民になる権利もない! すなわち、ここでお前達を」


 上空に現れた無数の黒い影。

100はあるであろう影が空を黒く塗りつぶす。


「殲滅する!!」


 そのすべてがKOG。

絶望を具現化したかのような真っ黒な機体の大軍。

第13特別区駐在軍の大部隊がロードの要請により現れる。


 剣也達を。


「うそ…だろ」


 殺すために。

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