第24話 強者と弱者
「姉上が当たりを引いたか。まったくこういうところでは勝ち目がないな」
他二つのスラムを制圧したロード。
しかし死人は出ていない。
丁寧に、そして無意味な殺戮を行わずレジスタンスの存在を調査。
そしてスラムの人間達を確保し、3級国民として扱うように命令を下す。
抵抗力のないスラムの人間達は、なすすべなくアースガルズ軍人に連れていかれることとなる。
あまりに迅速過ぎてスラムの人々には何が起きているかすら理解できなかった。
「では、行こうか。私達も」
その最悪の敵が進軍を始める。
常勝の指揮官、世界の支配者。
彼の前に敗戦はなく、ただの一度の敗北もない。
EUを壊滅寸前まで追い込んだ天才。
アースガルズ・ロードが剣也の戦う戦場へと向かった。
…
「ねぇ、ジリアン。ほんとにレジスタンスなんているの? 殺しても殺しても出てこないけど」
「軍服をきたものもいます。奪取されたKOGもそろそろ出てくるころかと……お、行ってる傍から出てきましたな」
殺戮を繰り返すユミルの前に現れた一体のKOG。
味方であることを識別する信号が発せられていないことからジリアンは、それが敵であることを理解する。
「劣等種がKOGを操作ねー。お前達には過ぎた兵器なのだけど。あら?」
目の前に立つKOGがからオープンチャットで通信が入る。
「お前達に聞きたい、なんで殺す。彼らは一般人のはずだ」
操縦者は、剣也。
皇族のユミルに投げかける。
怒りを抑えてできるだけ冷静に。
軍人なら死ぬ覚悟はあるはずだ、それにレジスタンスとして対立している。
戦うことを否定はしない、殺される理由もまだわかる。
でも。
コクピットから見える景色。
視界の中には何人もの死体、それを見て剣也は苦い顔をする。
「無抵抗の人間を殺す理由があったのか!」
「面白いことを言うのね。まず認識が間違っているわ。あなた達は劣等種。人の皮を被った豚なの。豚を狩るのに許可が必要なのかしら」
「俺達も人間だ、お前達と何も違わない」
「はぁ、話が通じないわね。劣等種だからかしら。せめて意思疎通できるぐらいの頭は持ってほしいのだけど」
「そうか……もういい」
「え?」
「もう……だまれ!」
キーン!
直後剣也がユミルのKOGの目の前へ。
そして巨大な剣での切り下ろし。
しかしその攻撃は間に入ったKOGの剣によって弾かれる。
「ユミル様、お下がりください」
「殺さないようにして引きずり出しなさい、ジリアン。私がそいつに教育してあげないと」
「申し訳ございません、ユミル様。 はぁっ!」
勢いよく剣をはじき返し剣也は少し距離を取る。
帝国の聖騎士長ジリアンは剣を構えて真っすぐ剣也を見据える。
その額には汗が流れる。
「そんな余裕が残されている相手ではなさそうです」
そして二人が切り結ぶ。
ジリアンはすぐに理解した。
この敵は強い、全力で戦ってもなお届かないかもしれないほどに。
「うそ……」
その光景を見たユミルは信じられなかった。
自身もKOGを操作するユミルはある程度の技術は持っている。
さすがに訓練を正しく行った騎士レベルではないが、それでも操作ぐらいはできるしある程度なら戦える。
だからジリアンの強さは知っているし、信頼もおいている。
彼が実践で苦戦するところなんてみたことがない。
なのに。
「なんだ! なんなんだ、お前は! 私は聖騎士長だぞ! 帝国のトップだぞ!」
「聖騎士長? 聖騎士長の中にも強さの差はあるんだな」
(ジークさんのほうがはるかに強かった。ジークさんとは現役の頃に闘ってみたかったよ。きっともっと強かったんだろうな)
冷静だったジリアンが焦りを見せる。
切り結ぶたびに感じるのは、技術の差。
一太刀ごとにどこかしらにダメージを負わされていく。
「な、なにをしてるの! ジリアン!」
「く、くそぉぉ!!」
「少しはわかったか?」
戦場に響く金属音。
巨大な剣同士がぶつかり合う、一本の剣はしっかりと握られ、もう一本は宙を舞った。
「まさか……負けるのか、私が」
その剣ははるか後方へとと飛んでいき、まっすぐと地面に突き刺さる。
「弱い人の気持ちが、暴力に蹂躙される人の気持ちが!」
そして剣也の一頭がジリアンのKOGを一閃。
半分に切断されたKOGは引火し、爆発し、沈黙した。
「申し訳ありません……皇帝陛…下…」
「え? ジリアン? なにをしてるの? ジリアン?」
ユミルはその光景が信じられなかった。
だからすでに動かなくなった黒ずんだKOGに話しかける。
「何をしているの? 相手は劣等種よ? アースガルズ人が負けるわけないのよ? ジリアン?」
「お前も可哀そうな奴なんだな、帝国の洗脳を受けた哀れな皇女か」
剣也のKOGがユミルに向かって歩いていく。
ゆっくりと確実に間合いを詰める。
巨大な剣を引きずりながら、死の音をまき散らして。
「ふ、ふざけるな! 私はアースガルズ・ユミル! 世界の支配者よ! 強者なのよ! 弱肉強食は自然の摂理じゃない! なんで従わないのよ!」
ユミルは後ずさる。
得も知れぬ何かを目の前の機体に感じながら。
その気持ちの正体がわからなかった。
いままで強者の側にいて、思った通りの世界になって。
世界は自分のものだとすら思っていたのに。
この感情はなんなんだ。
「し、従え! 私は皇女なのよ! 止まりなさい! 止まれぇぇ!!」
後ずさり瓦礫に躓いた皇女の機体は尻餅をつく。
「それが恐怖だよ。お前が気まぐれに振りまいて、奪ってきた人達が感じていたものだ。大切なものを守るための人間の当たり前の感情だ」
剣也の一刀がユミルのKOGの両足を叩ききった。
動けないユミルの機体はじたばたとその場で見苦しく暴れることしかできない。
「私が恐怖? 死ぬ? 私が死ぬ? 嫌だ嫌だ嫌だ!! まだもっと殺したい! まだもっと奪いたい! やめろぉぉぉ!!」
「お前の信念なんだろ? 弱肉強食は。なら文句はないよな。自分は弱者だったと! 納得しながら死んで行けぇ!」
「いやぁぁ!!!」
剣也の一刀がユミルの機体を両断する。
かと思われた。
キーン
金属がつぶれる音があたりに響く。
「へぇ?」
汗まみれで乱れた髪のユミル。
恐怖で髪が抜け落ちたユミルが見たものは銀色のKOG。
薄いピンクをちりばめて、まるで桜が雪の上に待っているような美しい機体。
「この機体は…まさか」
怒りで周りが見えていなかった剣也はその機体に気づけなかった。
しかしオープンチャットで通話される声で理解した。
「ユミル様、ここは私に任せてお逃げください。ロード様がご到着です」
「あ、あぁ! よくやった。よくやったぞ! お前、名前は!」
その桜色のKOGが巨大な剣を構えて剣也に向ける。
聞きなれた声だった。
毎日のように聞いた心地よくて抑揚がない声。
しかし向けられた、その刃には間違いなくのっていた。
今まで彼女から向けられたことはない、本物の敵意と。
「レイナ。第13番特別区軍事養成学校所属のレイナ・シルフィードです」
殺意が。
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