第22話 虐殺

「じゃあ、ジリアン。開戦しましょうか」


「はっ!」


 山の上に10体を超えるKOG。

戦争するには心もとないが、レジスタンスを殲滅するには十分な戦力が整う。

彼らはユミル親衛隊。


 皇族だけが持つ親衛隊という私兵の軍団。


 そして先頭には、若輩とはいえ帝国が誇る聖騎士長の一人ジリアンが立つ。


 するとユミルが乗るKOGからあたりに響く巨大な声が響く。

KOGの拡声器によって見下ろすスラムへ声を届ける。


「えー、テステス」


「なんだ?」

「拡声器?」


 眼下に見下ろすスラムの住民たちが顔を上げる。


 突然流れる巨大な音声に耳を傾けた。

彼らは3級国民になれず、日本を捨てきれなかったはぐれ者。

かぐやの家族でもあり、剣也も家族のように慕っている。


「聞こえてるかしら。我が国に不法に住まう家畜達聞こえてますか」


「これって…」

「もしかしてアースガルズ帝国か」


「一応警告するように言われたので警告しまーす」


 ロードに言われたので、一応警告をするユミル。


「抵抗せずに投降してくださーい。3級国民になるなら命だけは助けまーす。今から時間を数えるんで投降してください。投降しなかった場合は拒否とみなします。5、4」


「は?」

「どういうことだよ」

「ママ…これなに?」


 その声は、スラム中に聞こえる。

そして運が悪いのか、良かったのか。

ここはアマテラスの本拠地があるスラムだった。


「一心さん!」


「あぁ! すぐに戦闘準備! かぐや、剣也君にも連絡しろ」


(この声は、まさか。皇族か!? しかも……拷問姫ユミル。最悪な奴がきた)


 一心率いるレジスタンスは武器を持つ。

KOGも拙いながらも操作できるものが増えたので迎え撃つ戦力は存在する。


「3,2,1…」


 カウントダウンが進む、一つ一つ。

警告する気なんてさらさらない、死の宣告が。


「0! はぁ残念ですね。では、はじめますね」


 KOGの中にいるユミルの顔は誰にも見えない。


 しかしその顔は、残念などとは一切思っていない。


 その顔は。


「皆殺しです♥」


 光悦の表情で、歪んでいた。



「飛ばすわ、捕まって!」


 かぐやは全力でアクセルを踏んだ。

これなら一時間ほどでつきそうだ。


「無事かな…」


 剣也の心がざわついた。

作戦で一度戦ったことはある。

人を殺したこともある。


 しかし攻撃されるのは初めてだった。


 しかも今度は正規軍。

確実な勝利など補償されていない。

下手をすれば死ぬ可能性すらある、初めての戦場、戦い。


「急ぐしかないわよ」


(間に合って……お願い)


 全力で飛ばすかぐや。

しばらく無言のまま進む二人、一時間ほど焦燥を感じながら目的地へと近づいた二人がみたものは。


「煙……それに、銃声が聞こえる」


 黒煙が上がる空、それに爆撃音と銃声。

スラムが戦場になっていることを表している。


 そして二人は、アマテラスの本拠地がある倉庫へと向かった。



「なんでこんなに時間がかかるわけ?」


 KOGから降りて特設の机と椅子に座りながら優雅に紅茶を飲むユミル。


「レジスタンスとはいえ、戦力を把握してからでなければ突撃は危険ですから。一時間ほどは様子見ですね」


「あなたは、いつも慎重ね。はぁ退屈」


 遠距離から攻撃し、敵の出方をうかがっているユミルの私兵。


「しかし、もう大体は見えました。出撃されますか? ユミル様」


「いいの!?」


「えぇ、お待たせして申し訳ありません。私がお守りしますのでお好きに動いてください」


 KOGに乗り込むユミル。

山の上から飛び立ったかと思ったらスラムへと降り立つ。


 スラムは遠距離射撃と爆撃によって既に燃え盛っているのだが、まだ多くの人間が避難の最中だった。


 中には軍服を着ているような人間もおり、避難誘導を行っている。


「まだゴミがたくさんいるのね、掃除しなきゃ」


 そのスラムへ、悪魔が降り立った。


「!?……KOG! み、みんな早くにげ…ぐっ!」


 KOGの標準装備の機関銃。

肩から射出されたその銃弾は、あっさりと一人の人生を終わらせた。


 その銃声の後、避難民たちは我先にと悲鳴を上げながら逃げ出した。


 思い出すのは過去の戦争。

奴らに女子供を助けるなんて道徳的なことは期待できない。

目につくものはすべて虐殺する帝国の軍人。


「あーたまんない。やっぱり楽しいわね。人狩りは! ん?」


「こ、降伏する! 抵抗はしない! だから!」


「あら、いい心がけね」


 その返事に一瞬軍人の頬が緩む。

しかし振り下ろされた巨大な剣にあっさりつぶされてその人生を終えた。


「でも私、豚の鳴き声は理解できないの。あぁ……最高。命を奪うというこの征服感たまんない」


 笑顔で答えるユミル、一人ずつ楽しむように。

ゆっくりと殺していく。

その顔はまるで絶頂に達した女性のように、絵も知れぬ快感で頬を染める。


「く、くそ! 舐めるな!!」


 ユミルの機体に向かってバズーカ発射される。

砲兵からの一撃。

しかしその砲撃は途中で爆発した。


「ユミル様には指一本触れさせん」


 帝国の騎士、ジリアンによって簡単に撃ち落される。

ユミルの守りは鉄壁で、こちらからの攻撃は一切通じなかった。



「一心さん! 早く俺達も! 戦いましょう!」


「ならん! 今出てはただの犬死だ。避難に徹しろ! 抵抗は最低限だ!」


 指令室で一心は、拳を強く握り血をにじませている。

攻撃を受けているのはわかっているが、相手は正規軍。


 それに皇女が来ているということは聖騎士長クラスがいるということ。


 だからレジスタンス『アマテラス』のメンバーは避難誘導と最低限の迎撃に徹している。

それでも被害は甚大で、何人もの軍人と一般兵が命を落としている。


「我々では、相手にならん。聖騎士長クラスに我々の操作技術ではKOGも鉄くずだ」


「じゃあ、このまま黙ってやられろって言うんですか!」


 それでも我慢の限界に達している軍人達。


「ここで戦わなかったら! 俺達の守りたいものを失ったら! それではもう敗北じゃないですか!」


「わかっている!!」


 一心が強く机を叩き乗っているものが地面に落ちる。

苛立ちと焦燥感を感じ今すぐにでも飛び出したいのを血がにじむほど口を強く噛み締めて耐える。


「でもまだだ。まだ耐えろ、もうすぐだ。もうすぐ」


 一心の待ち人はただ一人。

自分の愛する愛娘と一緒にいるであろう少年。


 出自も不明、なぜあれほど強いのかもわからない。

一見するとただの少年で、まるで戦争など知らない世界から来たような優しい少年。


 でも胸に熱い思いを持っている。


 折れない一本の柱を持っている。


 真っすぐな目で娘を、ここにいるみんなを守りたいと言ってくれた少年を。


「彼が来る!」


 この世界のイレギュラーを待っている。

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