第21話 拷問姫

「で? ゴミ共の場所は?」


「……いくつか候補がありますが、ただのスラムかどうかは判別できておりません」


 会議室で作戦を立案するジーク達とユミル。


「じゃあ、そのスラムのゴミ掃除ね、そしたら最後にはあぶり出せるでしょ。はい、作戦会議終了」


 ユミルの側近の一人のアースガルズ帝国民へ命令する。

ジリアンと呼ばれるユミル親衛隊の隊長、帝国への忠義に生きるジークと同列の聖騎士長だった。


 まだ年は若く眼鏡をかけている身長の高い男。


 まじめを絵にかいたような、それでいて帝国の聖騎士長に選ばれた若き才能。


(彼がジリアンか……才能はあると聞いているが聖騎士クラス。ユミルの騎士に聖騎士長達が誰もなりたがらなかったから繰り上げされた聖騎士長か…)


 ジリアンは、強いがその実力は聖騎士クラス。

本国の聖騎士長達がユミルの暴挙具合に嫌気がさし、自分達の代わりにとジリアンをユミルの騎士とした。


 それでも聖騎士自体がエース級、各国の養成学校で年に一人でるかどうかという逸材だった。


「了解しました。ユミル様」


「ユミル様! それでは一般人も殺すことになります! どうかご再考を!」


 護衛として部屋に立っていた一人の軍人が声を上げて反論した。


(しまった! 彼は…)


 皇女の発言に意を唱えた軍人。

それを見たジークが自分の失態を悔いた。

この女の前では2級以下は全員隠しておくべきだった。


「あれ? あなた……2級よね? ちょっとこっちへいらっしゃい」


 一見優しい笑顔でその軍人を呼ぶ。

まだ若い20代の男は真っすぐと皇女の横へと歩いていく。


「なんでか教えてあげる。ペンを貸して頂戴。あとここに手を置いてくれるかしら?」


「?…は、はい…」


 そして軍人が胸ポケットに入っていたペンを渡す。

言われるがまま机に手を置いた瞬間だった。


「ぐわぁぁ!!」


 ユミルが、そのペンを思いっきり手に突き刺した。

まるで何事もなかったかのように笑顔で問う。

しかしその目は何も笑っていなかった。


「こういうことなの。わかる?」


「し、しかしユミル様! そこには子供も…ぐわぁぁ!」


「いないわよ、そこには人間なんて。あなたたちは人じゃないのよ? 家畜なの。私の気分次第でいつでも死ぬ存在なの」


 突き刺したペンをさらに痛めつけるようにぐりぐりと回す。

その軍人の苦悶の表情を光悦の表情で見るユミル。

美しい顔が醜悪な魔女のように歪んでいく。


「あなたは仮にも2級でしょ? 国を捨てて私達に尻尾を振ることしかできない負け犬でしょ?」


「ぐうぅ……ご、ご再考を!」


「ふふ、犬のくせに頑張るのね。ゾクゾクしちゃう。おい、お前達!」


「…はい」


 ユミルの後ろに立つ三人の男。

全員が美形でイケメンだがアースガルズ帝国民ではない。

過去にアースガルズ帝国に敗北し、国を失ってユミルの奴隷へと落ちた男達。


 その証拠に首には爆弾付の首輪をされており、ユミルの指示一つで首がちぎれる。


 彼らはユミルに抵抗しない。

目の前でユミルに歯向かい拷問を受けて殺された仲間達を見て心はすでに折れている。


「何回目で折れるのかしら、いつでもいいのよ? しっかり教育してあげるわね。これも務めだから」


 その男達に押さえつけられて男の両手が机の上に置かれる。


「ぐわぁ!!」


 何度も何度もペンを突き刺す。


 しかし誰も止めることはできない。


 この世界の支配者を止めることなど誰にもできない。

彼らこそがルールなのだから、止めることができるとしたらただ一人。


 一人の少年が部屋に入ってきた。


「姉上。一応それでも軍人ですからそれぐらいで。もっと楽しいこともご用意してますし」


「あら、ロード!」


 ペンを投げ出し興味は一気にロードへ。

姉は弟を気に入っていた、自分に都合の良いことしかしない弟を。


「今日はありがとうございます。わざわざ来ていただいて」


「いいのよ、指揮は任せるわね。じゃ、準備ができたら呼んで頂戴」


 そういってユミルは部屋を出てロードにすべてをゆだねる。


「はぁ、姉上がくるとはね。また余計な血が流れるな。こういう事には鼻が利くから困る」


「ロード様……不躾なお願いとはわかっています。ですができるだけ血を流さないように。どうか…」


 ジークの呼びかけにロードは頷く。

そして高らかに宣言し、周りの軍人は膝まづく。


「あぁ、できるだけ取り計らおう。別に僕は快楽殺人者じゃないからね」


(姉上と違って…)


 そして作戦が開始される。

時刻は早朝、剣也達が学校に行く時間と同時だった。



「おはよう、かぐや」


「お、おはよう!」


 いつも通りにかぐやの隣に座る剣也。

最近かぐやがあまり目を合わせてくれないのが少し寂しい。


「かぐや、なんかあった?」


「は、はぁ!? なんもないわよ!」


(なんで顔見るだけで顔真っ赤になってんのよ、私!)


 剣也のことなんか好きじゃない。

言い聞かせるように繰り返していたかぐや。

考えないようにすればするほどドツボにはまるのだがそんなことはいざ知らず。


「あれ、レイナは?」


 今日はいつもの朝練に行けないと連絡があったためゆっくり来たのだが、レイナは教室にはいなかった。


「さぁ……それに今日は自習って。なにかあったのかしらね」


 登校したは良いものの今日は自習として教官たちはいなかった。

やることもないのでマニュアルでも眺めるかと考えていたところだった。


「うそ……」


 かぐやのデバイスに連絡が入る。

その画面を気だるいそうに見ていた、かぐやの顔を青ざめた。

直後すぐにその場を立ち上がる。


「剣也、きて!」


 焦るかぐやに連れていかれて教室の外へいく剣也。


「どうしたんだよ、かぐや。急に」


「落ち着いて聞いて、今私達の本拠地にアースガルズ軍が向かってる」


「え!? 本拠地ってアマテラスの?」


「そう、今から私は向かう……剣也は?」


「もちろん向かうよ」


「……そうね。わかった」


 剣也とかぐやは教室を出て本拠地へと向かった。


 あれから毎日のようにKOGの実機訓練のためにアマテラスの本拠地に通っていた剣也。

胸騒ぎが止まらない。


「無事でいてくれ、みんな」



「さてと、じゃあ始めようか。ジーク」


「はっ!」


 移動要塞を兼ねた巨大な護送車。

まるで豪邸のような大きな車は戦時にもちいられる指令室の役割も果たす。

中は広く、快適に過ごせそのまるで玉座に座るのは司令官。


 つまり。


 アースガルズ・ロード。

悪魔の頭脳と呼ばれる常勝の王子。


「この近くのスラムは三つ。まずは…」


「じゃあ、私はここね。行くわよ、ジリアン」


「はっ!」


「…わかりました、姉上。残り二つは私が受け持ちます」


 横から口出しして勝手に決める姉。

しかし姉には極力逆らわないロードは特に重要でもないため譲る。


「姉上、まずは警告を……逆らうものは…お好きにしてください」

 

 せめて警告してからとユミルに頼む。

無駄だとは思っているが、一応はレジスタンスの制圧という名目だから。


「そう? わかったわ。じゃあね。ロード」


 そして拷問姫は出撃する。

それを後ろで見つめるロードとジーク。


 皇族なのに、KOGを操作する。


 なぜか?


 帝国において力がすべて、つまり今ではKOGの操作技術を刺す。

KOGの腕前だけで、貴族にすらなれる帝国ではそれほど重要視されている。


 それゆえ皇族であろうが、操作できるようになるのは伝統となっている。


 しかしユミルの動機はそれではない。


「ふふ、久しぶりの人狩り。楽しみね」


 貴族達がまるで野兎を狩りのを楽しむように。


 人間を狩ることを趣味とする。


 それが拷問姫、ユミルの楽しみだから。


「はぁ、仕方ないね。できるだけ早く終わらせよう、では作戦」


 玉座に座るロードが立ち上がり宣言する。


「開始!」

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