第19話 軍神と世界チャンプ

「さて、どれぐらい強いんだろうか、俺の力はこの世界ではどこまで…」


 油断はしない、最初からフルスロットルで迎え撃つ。

KOG専用装備の剣を構えて迎え撃つ。


 それ目掛けてジークが間合いを詰めて切り込んだ。


 一挙手一投足すべてが洗練されており無駄がない。

だからこそ。


「ふふ、これは……驚いたな」


 ジークの一撃を受け止める剣也。

はじき返したかと思うと、反撃の一撃まで入れる。

分かっているからこそ読み合える。


「さすがは軍神ですね」


「簡単に止めておいてよく言う」


(強い、プロレベル。いや、これなら世界大会の上位陣並みだぞ!?)


 日常的にランク戦で相手をしている日本サーバのマスター達にも決して劣らない。

むしろ大会に出てくるプロレベルにすら感じる。


 一進一退の攻防が行われる。


「ははは! 本当に強いな。実は本国の聖騎士長と言われても信じるぞ!」


「どうも!」


 銃撃、剣戟、死角への移動と、高度な読み合い。

ハイレベルの戦いだったが、長い戦いの上決着の時は来た。


 片方のKOGが膝をつき、勝者が画面に表示される。


「実践から離れて久しいとはいえ……日本人が私を倒すか…」


 御剣剣也 WIN!


 勝ったのは剣也。

ギリギリの戦いを制したのは剣也、聖騎士長というこの世界のトップクラス相手に得意なシュミレータとはいえ勝利した。

ジークは全盛期ほどの輝きはないとはいえ、それでも強者。


 レイナとは比べ物にならないほどの。


「ふぅ、久しぶりに全力で戦った……本当に強かった。でも」


 レイナとかぐやを教える毎日から全力をださずに、基礎練習ばかりを繰り返していた剣也。

そのおかげで能力は向上したが、今日のようなひりついた試合は久しぶりだった。


 集中しすぎて心臓の音が聞こえる。

この世界に来てKOGの操作に対する態度の変化で最も強かったのは没入感だろうか。

一度のミスが本当の死へと向かうこの世界に来て剣也の集中力は。


「成長…してるのか。この世界で」


 ただのゲームがうまいは、命を守る技術へと昇華して才能を開花させる。

まだ年齢的にも若い剣也の伸びしろは高かった。


 軍神も実践から離れており最盛期というわけではないだろうが、それでもこの世界のトップ層。


 そしてシュミレーターから降りた軍神が再度握手を求める。


「素晴らしかった、特殊な訓練でも積んでいたのかな?」


「えー…はい。そうですね」


 目を逸らす剣也を見てジークは察する。

何か言えない事情があるのだと、彼もまた戦争の犠牲者なのだから。


「人にはそれぞれ事情がある。それ以上は聞かないでおこう」


「…ありがとうございます」


「あ、あと」


「はい?」


「このことはレイナに内緒で頼む。親としての威厳が…な?」


 罰の悪そうな顔でウィンクと共にお願いするジーク。

その顔は、軍人というよりもまるで近所の陽気なおじさんにすら見えた。


「はは、わかりました。だまってますよ」


 ジークの人柄の良さを肌で感じて、前の世界でも好きだったキャラをもっと好きになる剣也。


「剣也君? やっぱりここでしたか」


「あぁ、準備ができたか、レイナ。じゃあ行こうか御剣」


「はい!」


「え? もうやったんですか? どっちが勝ちましたか?」


 すると剣也とジークが顔を合わせる。


「秘密!」「秘密だ」



「うん、このだし巻き美味しい! レイナが作ったの?」


「そうです」


「レイナは意外と料理がうまいぞ、毎日やっているからな。得意料理は和食だ」


(生活感全然ないのに……しかも和食)


◇想像するのは、エプロン姿のレイナ。


台所に立つレイナを後ろから抱きしめる俺。

 

「もう、剣也君、料理ができないでしょ!」

「いいじゃないか、今は君が…食べたいんだ。」

「もう! じゃ、じゃあベッドにいきましょうか。」

「そ、それって!」

「わたしをた・べ・て♥」

「喜んで!!」



「ぐふふ……」


「剣也君。変な顔ですよ?」


「1級と、2級は結婚できるぞ。むしろ推奨されている」


 帝国は、1級が2級と結婚することは推奨している。

その結果子供は1級国民となるからだ。

侵略した後その国を真に自国にする方法として最も簡単で強力な方法は、次世代をアースガルズ人とすること。

心から帝国民となった国はまさに帝国となる。


 だからアースガルズ帝国は1級との子供のみ1級とする法律を作った。


「いいんですか!?」


「バカ者! 許したわけではないわ!」


「剣也君は、私と結婚したいんですか?」


「はい、したいです」


「ちょ、調子に乗るな! 許さん! 許さんぞ!」


 そこに人種の違いなどない。

まるで本当にただの彼女の親とご飯に言っているような。

そんな雰囲気の食事会だった。


 まぁ、彼女できたことないんですけどね。


「そうだ、御剣。この後時間はあるか? 頼みたいことがある」


「?……はい。特に何もありませんが」


 剣也はジークの案内の元軍事施設に連れていかれた。

レイナはお留守番しているようで二人だけで車で移動する。


「なんなんですか?」


「あぁ、元々はレイナに頼もうかと思っていたんだがな。お前の方が適任だろう」


「適任?」



 食事を済ませた剣也とジークがついた先は、軍事施設というよりは研究施設。

中にはKOGの部品だろうか、工場とも呼べるような巨大な倉庫だった。


「田中! いるか!」


 扉を開けたと同時に名前を呼ぶジーク。

するとそこには白衣の研究者が、大量のエナジードリンクの空き缶と共に椅子を三つ並べて眠っていた。


「起きろ! 田中!」


「あ? あ、ジークさん。こんばんわ」


「またお前はこんなところで、まったく。どうして天才には変人が多いのか」


 ジークに天才、そして変人と呼ばれるその男。


「御剣、こいつは田中一誠。まぁいわゆる天才だ、ここの研究主任でもある」


「はは、ジークさんに拾われてここでKOGの開発やってます」


 なよっとした態度、腰が低く、無精ひげは何の手入れもされていない。

眼鏡をかけて目の下にはくまができていた。


「は、初めまして。御剣剣也です」


「あれ? 君は……日本人かい?」


「田中、この前言っていたテストパイロット。こいつを使うといい。同じ日本人だ、やりやすいだろ」


 そしてジークが剣也の背を叩きながら紹介する。

ここへ連れてきた理由を明かすとともに。


「……操作できるんですか? せめてレイナ君ぐらいじゃないと立つのも無理ですよ?」


 怪訝な目で剣也を見る田中。

すでに入学して2週間以上たっているとはいえ、新入生がKOGを操作できるのかと。


「問題ない。私よりも強いぞ、彼は」


「はぁ!? またまた、何を冗談を」


「まぁやってみようじゃないか」


「そこまでいうなら……」


 信じ切れていない田中は剣也を見る。

しかしジークが押してくるので仕方なく案内することにするが、この年で軍神に勝てるものなど本国にもいないだろう。


 だからジークの冗談だと思っていた。


「ジークさん。テストパイロットって?」


「あぁ、今田中のチームで開発中の機体があってな」


 日本に作られた最前線の軍事基地。

そこで研究される最先端のKOG、その開発者が田中だそうだ。

周りには日本人とみられるスタッフもいた。

多分田中さんのチームなんだろう。


「でも田中さんはなぜここの研究員に? 2級の僕が言うのもなんですが、2級がKOGの研究なんて…」


 すると田中さんが少し悲しそうに答えてくれた。


「私は、戦争前から…KOGの研究員だったんだ、アースガルズ帝国で働いていてね。今では2級国民だがかつてジークさんにはお世話になっていてね」


「なるほど…」


 戦争が終結して迫害の対象にはなったが、ジークに拾われこの研究所で働けることになったという。

アースガルズ帝国民全員が差別を推奨しているわけではない。


 むしろ反対派も大勢いるが、それを表立っていう事ができないだけ。


 だから戦争前から田中と仲良かったアースガルズ人だっている。


「さぁついた」

 

 巨大な扉を開いた先は薄暗い倉庫だった。


「これが第6世代KOG、名前はまだないが、間違いなく最新、最速の機体」


 田中が明かりをつけた

剣也達の前にはKOG、ただし黒色が基本のKOGのはずだが、その機体は白かった。


 まるで夜空にひかる白い稲妻のように。


「この機体は……そっか…」


 剣也はその機体を知っている。

誰よりも使った、誰よりもうまかった。


 誰よりも好きだった。


「この世界にもあったんだな、嬉しいよ……またお前にあえて」


 そこには、前の世界での剣也の愛用機。


 正式名称を『建御雷神』。


 日本製の第6世代KOG、日本の神の名を冠する白く輝くKOGが立っていた。

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