第14話 異世界の騎士
「剣也君はここで待機、相手のKOGが出た場合戦闘を開始してくれ」
「わかりました」
基本的には輸送船の占拠を一心達で行う。
白兵戦なら練度の高い一心達が、ただの輸送船の見張りになど負けることはない。
しかしKOGが出てきた場合は戦況が一変する。
そのための剣也、そのためのKOG。
…
「はじまったんだな……」
心臓の音を身近に感じ、今まさに戦場にいることを理解する。
まさか自分が命のやり取りを行うとは思ってもいなかったが。
「銃声……人が死んでるのか」
実感はない。
しかし銃声が聞こえてくる。
つまりは人が死んでいる。
もしかしたら今日握手した誰かかもしれないし、一心さんかもしれない。
その事実をなんとなくは理解して胸がざわつく。
「かぐやまで来ることはなかったのに…」
かぐやは乗り込んではいないが作戦に参加している。
船の操縦や、雑務をこなしていた。
今は操縦室にいるはずだ。
このまま終わって欲しい。
そう思ってすらいたのだが、そう甘くはないようだ。
「なめるな! 負け犬共が! こいつが出たらもう終わりだ!」
一体のKOGが輸送船へと降り立った。
ならば剣也がすることは一つ。
「作戦、開始します!」
無線で一心へとつなぎ作戦の開始を報告する。
(俺は今から人を殺すのか……本当に?)
決心がぶれたわけではない。
かぐやを守る、相手を倒す。
その決心がぶれたわけではない。
今でもレジスタンスに入ったことが間違いだとは思っていない。
でもここで人を殺す理由まで俺にあるのか?
俺にアースガルズ人を殺す理由があるのか?
でもやらなければ一心さん達が死ぬ、かぐやの大切な人が死ぬ。
だからって……。
そんな答えのない自問自答を繰り返す。
現代日本で生活していた剣也が数日のうちに戦場に来て、人を殺す。
その行為に実感が持てない。
それでも今はやらなければかぐやの守りたい人達が死ぬ。
だから戦う、今はそれで充分だと思ったし、無理やり納得させた。
(顔が見えないのだけは救いか)
KOG越しに闘えるのだけが救いだった。
覚悟がなくてもこれなら今までやってきたことと何も変わらないから。
そして剣也は空を飛び看板へと降り立った。
「なんだ? まさかお前らがKOGを!?」
剣也と相対するのは正しくパイロット学園を卒業した正式なパイロット。
学生とは一線を画す正規兵。
しかし。
「なんだ!? こいつの動きは! まさかエース級!?」
一瞬で間合いを詰めて一撃をもらったアースガルズ帝国のKOG。
「なめるな!!」
標準装備の剣を抜いて切りかかる敵。
しかし剣也が抜いた剣に簡単に受け止め流される。
「嘘だろ……こいつ…まさか!」
心はまだ揺れている、しかしKOGの動きだけは身体が勝手に動いてくれた。
考えるよりも先に体が勝手に反撃をしてくれた。
「聖騎士級か!?」
そして返す刀で一刀。
切断面が焼け焦げて、KOGは爆発した。
仮に中に人がいたのなら、いや間違いなくいたはずだった人は。
「……俺が殺したのか」
爆破した残骸を見る剣也。
人の影すら見えないその残骸を見て何も感じなかったことに違和感を感じる。
しかし事実だけはしっかりと剣也の心をえぐった。
「作戦終了! 帰還する!」
護衛のKOGが敗北したことにより輸送船はあっさりと降伏した。
「よくやった剣也君」
「……はい」
(元気がない、殺しは初めてか……いや、それが普通…か)
一心は無線越しに剣也の声が小さいことを理解した。
ケアが必要なのはわかるが、今は時間に余裕がない。
「積んであるKOGを全て起動! 目的地へと航行せよ!」
そして十機のKOGが空を飛ぶ。
剣也はそのあとに追従する形で目的地へと飛んで行った。
拠点へと飛ぶが真っすぐではなく迂回して山から少し時間をかけて帰る予定。
「じゃあ、我々も戻るか」
「うん! お疲れ様。お父さん」
かぐやの操縦の元残りの一心達の部隊も拠点へと帰る。
そして作戦は終了した。
◇同時刻 アースガルズ帝国第13番軍事養成学校 校長室
「それにしてもロード様がなぜこの国の養成学校に?」
「それを言うなら君もだろ。軍神とも呼ばれた聖騎士長クラスのKOGパイロットが」
机をはさんでチェスをやる二人。
アースガルズ帝国には、パイロットのランクがある。
見習いーつまり学生ーからはじまり、騎士と呼ばれるのはは一般的なKOGパイロット。
その上には騎士長と呼ばれる部隊長が控える。
これが基本。
しかしエース級と呼ばれる戦況を変えうる力を持ったパイロットには別の称号が与えられた。
それが聖騎士。
帝国を守る聖なる騎士として、尊敬と畏怖をもって呼ばれる。
世界中に13個ある養成学校で年に一人出るかどうかの逸材レベル。
さらにその上にあるのが聖騎士長だが、これは歴史上数える程度しか存在しない。
帝国の一番槍と呼ばれたジーク・シルフィードはその聖騎士長の一人だった。
才能ある聖騎士が、戦場で死線を潜り抜け成長した結果。
それが帝国の最強ランクの聖騎士長と呼ばれる存在だった。
「それにしてもお強い、まったくかないませんな。これでも結構趣味でたしなんでいるのですが」
「しかし所詮は盤上。現実の戦には程遠い」
「しかしお好きなのでしょう?」
「あぁ、頭の体操程度にはなる」
「はは、それで帝国一の腕前とは恐ろしいですな」
チェスをする二人、別にジークがロードは皇族だがらと手を抜いているわけではない。
第二王子ロード・アースガルズが圧倒的に強いだけ。
戦の天才と呼ばれ、悪魔の頭脳と呼ばれる皇族。
「でも私はKOGに乗れる君達の方がうらやましい。あちらはからっきしだからね」
「有能な指揮官は、時に万の兵より貴重です」
「そうだね、でも命令だけで安全地帯からというのは、せめてこの手を汚さないと。まぁ私が前線に出たら一瞬で死ぬけど」
「御冗談を……」
「それで君がここにいる理由は?」
「そうですな……未練…ですかな。女々しいことこの上ないですが」
それ以上は話そうとしないジークを見てロードは察して聞かないことにした。
「私の目的はね。探しているんだ。強いパイロットを、原石を」
「強い……パイロットですか? それで世界各地を転々と?」
「そう、目的のため。もしかしたらと世界中をね。でも見つけた」
「ほう、それは……聞いても?」
「ふふ、それは話せないな」
軽くあしらわれるジーク。
年は自分の半分にも満たない少年のはずなのに、まるで。
「まるで、皇帝陛下と話しているようです。娘と年も変わらないはずなのに」
「ジーク、人を成長させるにはどうすればいいか知っているか?」
「?…年齢ではないですよね」
「あぁ、人を成長させる最もいい方法は」
そして、ロードがチェスの駒を動かす。
「地獄に放り込むこと……だよ。チェックメイト」
すると一人の軍人が室内に入ってくる。
「失礼します! ジーク将軍…緊急のお知らせが…」
軍人はロードをちらりと見る。
「かまわん、そのまま話せ」
「本日到着予定の輸送船によるKOG10機が奪取されました。おそらく日本人、失礼しました。3級アースガルズ帝国民かと思われます」
「なに? 見張りのKOGが乗船していたはずだが?」
「敵方にもKOGが一機。護衛は敗北したと。映像からですが少なくとも聖騎士クラスの使い手かと」
その報告に軍神は顔をしかめる。
テロ行為自体はそれほど珍しくない。
しかしKOGを利用し、あまつさえ帝国の正規の訓練を積んだパイロットを超える腕前など初めてだった。
その映像は一瞬だったが、間違いなく一級品の技術を持ったパイロットであることはわかった。
「帝国がこれほど損害を受けたテロは久しぶりだね。皇族としての務めを果たそうか」
するとジークが立ち上がる。
「ロード様自ら?」
「あぁ、特別区を平定するのも私の役目だからね、それに気になることもある」
「了解しました」
立ち上がって、部屋から去っていくロードを見つめるジーク。
「あれで娘と同い年とはな……皇帝陛下が崩御されたら次はロード様であれば安泰なのだが」
ロードの父。
第99代アースガルズ帝国皇帝 アースガルズ・オルゴードは病に伏せている。
昨年から床に臥せてもう一年になるが、その影響により世界への侵略戦争は一時休戦。
アースガルズ帝国では跡目争いへと発展していた。
すでに皇帝はもう長くないとの診断を受けている。
皇帝には3人の子供がいる。
第一王子 オーディン・アースガルズ
第一皇女 ユミル・アースガルズ
そして、末子 ロード・アースガルズ。
三人の中で世界から最も恐れられている皇族。
悪魔の頭脳と呼ばれた未来視にも近い戦略は彼の現れた戦場で全戦全勝へと導いた。
世界を三分していたアースガルズ帝国と、アジア連合とEuropean Union。
そのEUの国土を奪いに奪って世界の半分をアースガルズ帝国にした存在こそが。
「戦の天才か……末恐ろしいな」
第二王子ロード・アースガルズだった。
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