第13話 KOG奪取作戦開始

「ほらほら! 朝だよ! みんな布団たたんでご飯の準備だ!」


 食堂のおばちゃん、もといよしえおばさんがフライパンとお玉という凄い昭和を感じさせる起こし方で子供たちを起こした。


 訓練された軍人のようにてきぱきと布団を片付ける子供たち。


 あっという間に机の上にご飯が並んでいく。

ご飯とみそ汁、卵焼きと海苔。

質素な食事で、量も少ない、しかしとても温かい。


「さぁ、みんなで。いただきます!」


「「いただきまーす!」」


「賑やかな食事だな」


「そうね、朝は毎日戦いよ」


 かぐやと剣也は子供たちが暴れまわる中、食事を食べる。

ここにいる全員が親がいない。

なのにこんなに元気に走り回る、親がいないのにこんなに元気に耐えている。


「剣也?……いや、なんでもない」


 かぐやが剣也を見る。

朝から潤んでいた涙が、しっかりと零れ落ちるのを見た。

その涙が何を意味するかは剣也自身もよくわからない。


 彼らの気持ちが少しわかるから? 自分に重ねたから?

それとも家族のように一緒に朝食を食べる雰囲気に?


 剣也にはわからなかった。

嬉しいのか悲しいのかも。



「では、作戦を発表する!」


 大広間で剣也とかぐや含め、多くの軍人達が席に座る。

発表するのは、一心だった。


「まず、本作戦の目的だがKOGの奪取にある」


 作戦は、こうだ。

旧東京湾へと本日の夕方に到着するアースガルズ帝国の輸送船を襲撃する。


 輸送されているKOGを起動し奪取、すぐにその場を離れる。

戦力の増強と、敵へのダメージを与える作戦。


 そもそも敵の国のKOGを動作できるのか? と剣也は思ったがそれは協力者がアースガルズ帝国にいるそうで問題ないとのこと。

起動キーは全員に与えられている。


「質問よろしいでしょうか!」


 すると一人の軍人が手を挙げる。


「輸送船とはいえ、KOGによる護送が想定されますが、どのように対応するのでしょうか」


「こちらのKOGも出す」


「一機しかないKOGを!? しかしかぐやさんはまだ戦えるほどの操作は……」


 かつて奪取することに成功した一機しかないKOG。

ここにいる軍人達はみな操作はできるレベルまで練習はしている、だから奪取もできる。

しかし実践では一度も操作したことがないため戦えるレベルではないそうだ。


 そのためにかぐやはKOGのパイロットとして学んでいる側面もあるらしい。


「あぁ、本来は私が操作するつもりだったが、最後のピースが昨日そろった、御剣剣也君。前へ」


 すると剣也が呼ばれる。

元より作戦会議室で全員から懐疑的な目で見られていたものがさらに視線が集中する。


「かぐやから聞いている。君はKOGの操作があの氷姫すら上回ると」


「なんですって!?」


 軍人達が声を上げる。

氷姫の名前はあまりに有名で、この国では軍神の次に強いとすら言われている。


「頼めるか…剣也君」


 一心は昨日剣也の目を見て決めていた。

かぐやが連れてきた男、かぐやが認めた男。

そして。


「かぐやを、この国を守るという大役を」


「任せてください」


 剣也は了承する。

そのために来たのだから。


「そ、そんな新参ものに! そもそも誰ですか!」


 軍人達がそうだそうだ、騒ぎ立てる。

その言葉を手で制する一心。


「彼はかぐやを守ると誓ったものだ、命を懸けて。意味は分かるな」


「そ、それってつまり……」


「あぁ、そうだ。彼は我々の家族だ、かぐやの大切な人だ」


 その一心の言葉の意味を理解、もとい勘違いする軍人達。

勘違いさせるつもりでいった一心の思惑通りに。


「ならば何も文句はありません。剣也君、すまなかった。よろしく頼む」


「いえ、頑張りますので、よろしくお願いします」


 次々と軍人達と硬く握手を結ぶ剣也。

おめでとうと言う言葉と共に。


 それを理解できないかぐや。


「は? え? なに? え? 何が起きてるの?」


 話がよくわからないかぐや。

しかし一人の軍人が、かぐやへと祝福の言葉を述べる。

その言葉ですべてを理解した、父が軍人達に剣也を認めさせるために言ったことを。


「かぐやさん。結婚おめでとうございます」


「はぁ!?」


 その言葉で理解した。

彼らは剣也とかぐやが恋仲なのだろうと勘違いしていることに。


 そして次々と祝福の言葉が伝えられる。


「お嬢! おめでとうございます!」


「ちょっと…ちが」


「式はいつですか?」


「ち、ちがうの」


「恥ずかしがらなくても、子供が楽しみですね!」


 しかし否定すれば、剣也への信頼が無くなる。

作戦に多大な影響を与える可能性もある。

一心の娘であり、レジスタンスであるかぐやの彼氏。


 その状況が彼らを信頼させているというなら強く否定できない。


 だからかぐやは。


「う、うわぁあぁーーーー!!」


 真っ赤な顔で走って逃げていった。



「じゃあ、剣也君行こうか」


「どこにですか?」


「それは決まっているだろ。作戦まであと10時間もないんだ」


 そして連れていかれるのは倉庫。


 中には、一機の黒いアースガルズ製の黒いKOG。


「やっと乗れるんだな。お前に…」


「これがカードキーだ。起動方法はわかるな?」


「はい!」


 軍から至急されたマニュアルを読んだが、起動方法は単純。

操作はシュミレーションと同じ。

そして背中からコクピットへとつけられた梯子を上り乗り込む剣也。


「座った感じはシュミレーターと同じだな。カードキーを刺してと…」


 すると起動画面が立ち上がる。


 アースガルズ帝国制なので、起動画面はアースガルズ帝国の国旗。


 しかし操作は今まで通り。


「ふぅ…よし!」


 剣也は操作レバーを握る。

何度も動かしてきた、しかしまさか本物に乗る機会が来るとは思わなかった。


 いつも通りに動かす。


「う、動いた。動いた!」


 真っすぐとKOGが動き出す。

コクピットは慣性制御がされており、揺れはほとんどない。

しかしそれでも一歩ごとに微細な振動を感じる。


 慣れてきた剣也は、少しずつ早く動かす。


 徐々に、徐々に。

それを見ていた軍人達が感嘆の声を漏らす。


「すごいもんですね、まるで人間のようだ」


「あぁ、すごいな、俺達では何年かかるか」


 KOGをまるで自分の手足のように動かしていく剣也。

いつしか剣也の動きは達人の武芸のような動きへ。

まるで踊っているかのように、バク転したり、剣を振るったり。


 自分の身体ですらできない極致へと至った剣也の操作技術。

シュミレーターの中だけではなく、現実世界でもその動きへと近づいていく。


「これなら、いけそうだな」


 一心は笑う。

かぐやの話にたがわぬ動きを見て、作戦の成功を確信した。


「すごい、すごい! ほんとに動く、思い通りに!」


 剣也は有頂天になりながらも細部の動きを確認していく。


「ちょっと飛びます!」


 オープンチャンネルで周りへと警告を出す。


 そして空すら飛んだKOGを動かす。

まるで自分自身が空を飛んでいるような錯覚に至る。


「すごい、本当にKOGはすごい」


 朝日を正面から浴びた剣也は感動する。

初めてVRで操作した時を超える感動を実感して。


 この世界は地獄だけど、それでも来てよかったと実感するほどには。


 朝日で、世界は輝いていた。



 そして夕方作戦が開始された。


「あーあ、必要ねーのに、見張り番なんてよ」


「ほら、居眠りすんなよ」

 

 そういって輸送船の見張りが入れ替わる。

巨大な船の操縦室で自動操縦されている中一人の男が座る。


「どうせ、なんもおきねーってのに。はぁーねむ」


 いつもと変わらない静かな海。

夕方で日も暮れそうだが、オレンジ色の夕焼けがうっすらと船を照らしていた。


 KOGを10基積んでいる輸送船。

KOGは一機ですら戦況を変えかねない兵器。

もちろんパイロットの能力に左右されてしまうがエース級が乗ると手が付けられない兵器と化す。


 だからこそパイロットを養成する専門学校が存在し、帝国はパイロット育成に力を入れている。


「ちょっとぐらい眠っても……」


 男が目を閉じた。

しかし直後大きな警戒音が鳴る。


「な、ななんだ!?」


 飛び起きた男がレーダーを見る。

そこには、連絡を受けていない一つの船が高速で接近していることが表されていた。


「お、おいおい。なんだ!?」


 すぐに男は無線で警告する。

敵対行為とみなすと宣言してもその船は応答しない。

そこでやっと男は理解した。


「まさか、これって……」


 しかし気づいたときにはもう遅い。

巨大な揺れが輸送船を襲う、一隻の船が進路をふさぎ密接した。


 その船には、旗が掲げられる。


 日の丸を掲げた白と赤の旗が。


 そして一心の号令のもと。


「作戦開始!!」


 KOG奪取作戦が開始された。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る