第12話 この世界は地獄だ
「それから私は誓ったわ。あの国に復讐するって」
「そんなことが」
剣也は知らなかった。
彼女がレジスタンスであることは知っていても、なぜレジスタンスなのか。
彼女がどんな過去を持ち、生きてきたのかは知らない。
そのあまりに悲惨な。
まるで物語の中のような出来事に言葉が出なかった。
でもきっと本当にあったことで、元居た世界でも少し前ならよくあった話で。
「じゃあ、かぐやは」
「ええ、私はレジスタンス。日本最大のレジスタンスグループ。アマテラスの一員よ。軍には潜入しているだけ」
「……」
「驚いた? ごめんなさい。話すつもりはなかったけど……あなたは何か違う気がしたから…」
するとかぐやが立ち上がる。
「カレー美味しかった。今日のことは忘れて! 明日からは普通…はもう無理かもだけど、仲良くしてよね!」
少し悲しそうな声でかぐやは作り笑いをして帰ろうとする。
しかし剣也がドアへ向かうかぐやの手を握った、強く。
そしてはっきりと口にする。
「俺も入れてほしい。レジスタンスに」
「え?」
「君を守りたいから。俺もレジスタンスに入れてほしい。一緒に闘おう」
「え?……本気…なの…?」
「もちろん」
(そのためにこの世界にきたんだから、傍にいるほうが守りやすい)
かぐやは驚いた顔でこちらを見る。
元々可能なら仲間になって欲しい、そう思っていた。
でもそれは先の見えない未来、ほぼ敗北が決まっている帝国との戦争という道。
そんなところに簡単に誘うことなどかぐやにはできなかった。
その意味することは一緒に死んでほしいというようなものだから。
しかし剣也は自らの意思で言った。
私を守りたいと、レジスタンスになりたいと。
「死ぬかもしれないんだよ?」
「死なせるよりはいい(君を)」
「ふふ、やっぱりあんた変。でも剣也にも理由があるなら…」
そしてかぐやは作り笑いではなく、剣也に微笑んだ。
「わかった、仲間になって。剣也」
「任せとけ」
剣也も笑顔を返す。
剣也の目的の一つ。
レジスタンスへの参加が達成された。
そして剣也は立ち上がる。
「じゃあ、行こうか」
「行く?」
「アマテラスの本拠地へと帰るんだろう? 俺も一緒にいく」
かぐやは寮に住んでいない。
彼女の帰る場所は決まっている、アマテラスの本拠地。
ここから車で2時間ほどの距離にあるはずのスラムだった。
…
「かぐや運転できるんだね」
「簡単よ、これぐらい。KOGに比べればね」
かぐやの車に乗り込んで剣也達はアマテラスの本拠地へ。
周りには整備された道路と何もない景色。
5年の月日で瓦礫等は撤去されたが、別に何かが立つわけでもない。
ぼろぼろの軽自動車は、快適とは言えないがしっかりと役目を全うし二人を運ぶ。
「普通に車とかあるんだな」
「まさか車知らないとか言わないわよね?」
「いや、それはないけど。KOGがあるのに軽って」
「都市部では殆どみないけど、東京離れれば普通に多いわよ」
「ふーん」
風を感じながら剣也は外を見る。
気温はちょうどよく、春を感じるが桜なんてものはどこにもない。
撤去され整地された何もない道路が広がる。
するとかぐやが真っすぐ前を見ながら剣也に聞く。。
「ねぇ、あんたの過去って聞いていいの?」
「興味ある?」
「気にならない方がおかしいでしょ。KOGがあんなに操作できて、なのに世間のことはよく知らないなんて」
「そうだな。うん、いつか話すよ。でも今は待ってくれる?」
「……そ、わかった」
かぐやはそれ以上何も聞かなかった。
剣也もいつかは話そうと思っている。
でも今は話さない。
本人自身が信じ切れていないし、信じてもらえるとも思えない。
剣也の様子を見て普通じゃないと思ったかぐやはそこで話を止める。
本人が話したくないことを無理やり聞くつもりもない。
いつか話すといっているのだから。
…
「ついたわよ」
そこにはスラム街が広がっていた。
人口は多く、3級と呼ばれる日本人達が手を取り合って懸命に生きている場所。
剣也がその光景を見て感じる感情は。
(ひどい場所だ…)
文明人である剣也。
前の世界では、両親はいないがそれでも何不自由なく暮らしていた。
お風呂に入りたければお風呂を沸かし、喉が渇けば水を飲む。
お腹が空けば少し歩けばコンビニがある。
そんな当たり前がここにはない。
そのままかぐやに連れられてスラムに入ると次々と人が集まってくる。
「あ! かぐやちゃんお帰り!」
「ただいまー」
「かぐや姉ちゃんおかえり! 後で遊ぼ!」
「ただいまーごめんね、今日は用事があるの」
「かぐやちゃん、彼氏かい?」
「ち、ちがうわよ!」
スラムを歩くだけで何人もの人に声を掛けられるかぐや。
ここはレジスタンスの総本山、スラムに隠されてアマテラスの本拠地がある。
みんなかぐやが好きだし、かぐやもみんなが好き。
全員が手を取り合って家族のように生きている。
「人気ものだね」
「……そうね。みんないい人よ」
「それでどこに?」
剣也が真っすぐと目的地に向かうかぐやに問う。
「紹介したい人がいるの」
「それって……」
…
「私がかぐやの父。黒神一心、アマテラスのリーダーだ、お前がかぐやが気になっている男か」
「かぐやが気になる?……もしかして俺のことが好き…」
「ち、ちがうわよ! 勘違いしないでよね!」
畳の広間で机をはさんで一心と剣也が向かい合う。
ここはアマテラスの本拠地。
「む? かぐや! なぜそいつの隣に座る! これではまるで旦那の紹介ではないか!」
「今日はかぐやさんにお父さんを紹介したいと言われてきました」
「な、なんだと!? かぐや!」
「ち、ちがーう!! こいつがアマテラスに入りたいっていうから!」
「でも娘さんを一生守ろうと誓っています」
「なぁ、あんた何言ってんのよ!?」
「覚悟はあるのか」
「この命に代えても」
「ちょっとやめて、もうやめて変なノリは!」
父と剣也のやり取りは真剣そのもの。
ただし横にいるかぐやは恥ずかしくて顔から火が出そう。
「いい目だ。アマテラスに入りたいと?」
「はい」
「かぐやはこの男は信じられるんだな?」
「うん、私は……信じていいと思う。少なくともこいつにスパイなんてできない」
一心は真っすぐと剣也を見る。
その目はあまたの戦場を潜り抜けてきた戦士の目。
人を見る目には自信がある一心が剣也を見定めようとする。
「わかった、明日の作戦でお前の適正テストを行おう」
「あ、明日の作戦!? いきなり!? それに適正テストなんてやったことないじゃない!」
「アマテラスのではない。お前の婿としてふさわしいかのテストだ」
「全力で挑ませていただきます。お父さん」
「お父さんと呼んでいいと言った覚えはない!」
「はぁ、もう勝手にやって……」
頭を抱えるかぐや。
しかし剣也のアマテラス入りは認められた。
素性は知れないがかぐやの紹介であり、何より一心にはその目が覚悟を決めた男の目に見えた。
「よし、じゃあ私は作戦会議に行く。今日はもう遅い、泊っていきなさい、かぐや案内してやれ」
「わかった」
そして剣也とかぐやはお泊り会へと。
むふふな展開かと思ったがそんなことは一切なかった。
「ここ?」
「そう、今日あんたはここに泊まるの」
案内された場所には。
「兄ちゃんだれ?」
「遊んで遊んで!」
「ねむいーー」
「かぐや姉ちゃんの彼氏?」
子供たちがたくさんいた。
「まさか高級ホテルでも想像してたわけじゃないでしょうね、そんな余裕はないわ。ここでみんなで雑魚寝よ」
「はは、大きな子供がきたね。私はこの孤児院のおばちゃん。よしえさんってお呼び」
すると、巨大なしゃもじが似合いそうな食堂のおばさんが部屋に入ってくる。
割烹着をきており、お母さんという感じ。
その日は子供たちにもみくちゃにされながら眠ることにする。
「ごめんね、寝づらい?」
「あぁ、誰かのケツが俺の手に……うぐっ!」
「私のよ!」
「いてて……かぐやはここで毎日寝てるの?」
「毎日じゃないわ、でも……ここの子はみんな戦争で家族を亡くしてるから。できるだけ…ね」
その顔は暗い部屋の中でもまるで聖母のようにすら見えた。
みんなが寝るまで遊んであげ、寝るときは優しく添い寝するかぐや。
まるで母のようにすら見える。
横では幼い子供をとんとんと叩きながら寝かしつけていた。
「そっか……じゃあおやすみ」
「うん、おやすみ」
◇翌日
(腰が痛い…)
あまり寝やすかったとは言えない部屋で大勢と共に起きた剣也。
(まるで修学旅行みたいだな…)
起きた剣也の周りには子供たちが布団を並べて眠っていた。
「こんな小さい女の子まで……確か名前はあずさだったか」
そういって横で寝ている少女の髪をなでた。
まだ年は6歳ほどだろうか、こんな小さいのに親がいないなんて。
剣也には痛いほど気持ちがわかる。
自らも親がいなくなった剣也には、甘えたい年ごろに両親がいないこの子供たちの気持ちがすごくわかった。
「パパ……」
その少女は、剣也の手を握って抱き着いた。
「ふふ、俺はまだ高校生だぞ」
パパと呼ばれる剣也。
横で寝る剣也を親と勘違いしたのかなと少し笑う。
しかし次の言葉で、意味を理解する。
「パパ…いかないで……あずさを置いてかないで……」
強く握るその手は小さく、震えている。
涙を流しより強く剣也の手を握る。
それを聞いた剣也から笑みが消える。
剣也は思い出す。
ここは孤児院、すでにこの子の父は死んでいる。
多分戦争で死んだんだろう、それを理解してしまったらとたんに浅はかに笑った自分を責めた。
「ん-おはよ……剣也どうしたの? 起きないの?」
「ごめん、今はもう少しだけこうしてあげたい」
剣也はその少女の手を握り、優しく頭をなでる。
表情が和らいでいくのが見えるが、今はこれぐらいしかしてあげられない。
剣也は少しずつ、少しずつ実感していた。
この世界を。
いまだにゲームのような気分でふわふわした感じだったが、一人ひとりの物語があり、それがリアルだということを感じさせる。
「この世界は、ひどいな…本当に」
来た当初は最高の世界に来た。
そう思ってすらいたのに。
今剣也がこの世界に感じる感情は一つだけ。
この世界は。
戦争で、たくさんの人が死んでいるこの世界は。
地獄だ。
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