第9話 どっちのルート?

 まず状況を整理しよう。


 剣也は現状を分析する。


 黒神かぐや。

俺の推しヒロイン、嫁にしたい。

確か実はエッチな子だった、誰よりも異性に強い意識を持っているゆえのツンデレ。


「かぐやはレジスタンスの一員だったはず……どうにかして仲間になろう」


 彼女を守るために仲間になる。

レジスタンスをやめろとは今日の仕打ちを見てとても言えなかった。

日本を取り戻さなければかぐやの幸せは来ないだろう。


「そしてレイナだが……」

 

 レイナ・シルフィード。

俺の推しヒロイン、嫁にしたい。

クールキャラでついぞ俺のやっていたゲームではデレることはなかったが、誰よりもまじめでKOGに強い思い入れがある。

今日の感じからしてある程度仲良くなれる道は見えた。


 対照的な二人の嫁(剣也の妄想)。


 片方は日本最大のレジスタンス『アマテラス』の長である一心の娘。

そしてもう片方は、この国の軍のトップ『軍神』と呼ばれるジーク・シルフィードの娘。


 本来敵同士の二人。

どちらかを救おうとすれば、どちらかが死ぬ。

二人の仲間になりたいが、そんな方法は思いつかない。


 でも必ず二人とも救わなくては。


「戦争が起きた理由も知らないといけないし、アースガルズ帝国軍の深くまで入る必要があるな」


 剣也は方針を決めた。


「これじゃ二足のわらじだな。アースガルズ帝国軍としても成り上がり、レジスタンスとして活動するか。二兎追う者は一兎も得ず……でも」


 日本人なら誰でも知っていることわざが剣也を戒めようと顔を出す。

しかしその顔にグーパンチをかまして引っ込んでろと罵倒する。


「二兎を追わなきゃ、二兎は得られないだよな」


 二人とも諦めるつもりはない。

目指すは二人ともが了承したいちゃいちゃ二股。

ゲームの世界だけのハーレムの実現。


 そんな妄想にふけっているとKOGデバイスが鳴り、メッセージが入る。


 誰だろうとメッセージアプリを開く。


===============

明日 朝07時 

教室集合 約束。

===============


「業務連絡!?……レイナらしいな」


 翌日剣也は始業の1時間以上前に教室へと赴いた。

少し遅刻してしまったが、許容範囲だろう。

ごめん、寝過ごした、だって今まで寝たいときに寝てたからね。

仕方ないよね。


 教室の直前に走り出し、さも急いだように息切れさせて教室に入る剣也。

 

 そこには一人の少女が立っていた。

両腕を組みながら足を組んで揺すっている様子は多分イライラしてるんだろう。

正直帰りたい、けどここで帰ったらもっと怖い気がする。


「遅い!」


「ごめん、少し遅れた…」


 規則正しい生活なんてやってこなかったから朝が弱い。

完全に夜型に移行している剣也の就寝時間は深夜4時。

日の出るころに眠り、太陽の日差しが苦手の吸血鬼みたいな生活をしていた。


「はぁ……寝ぐせぐらい整えてから来てください。それにバレバレです」


 剣也のボサボサの頭を見てため息を吐くレイナ。

急いだ振りすら見抜かれていた。


(こんな奴が私より強いかもしれないなんて……)


「じゃあ行きましょうか…」


「行くって?」


「自主練として教官に許可はとっています」


 レイナはカードキーとちらつかせてこちらを見る。


(クールキャラのくせに熱血戦闘マニアなんだもんな。それもまたギャップか)


 そして二人は昨日のシュミレーション戦闘を行える部屋へとやってくる。


「一つ約束してください。今日は全力を出すと」


「泣くなよ?」


「な!? 見くびらないでください!」


 プンプンとキャラがぶれつつあるレイナを見て剣也は笑う。


「何がおかしいんですか!」


「ふふ、レイナって2級だとかは全然気にしないんだなって」


「……別にあなた達が劣っていると思ったことはありません、しかし皇帝に逆らうほど愚かではありません」


 誰にでも冷たく、誰にでも平等。

孤高の氷姫は、差別を嫌い贔屓も嫌う。


 彼女の興味対象は一つだけ。


「さぁ、やりましょうか。あなたの実力を見せなさい」


 KOGが強いかどうか。


「あぁ、じゃあ何戦でも付き合ってやるよ」


(さぁ、泣かせてやるか)


 そして二人はシュミレータに乗り込んだ。

3,2,1…Fight!


~数時間後


「――であるからKOGの稼働時間は半日ほどでバッテリーの交換を行う必要があり――」


 今日は座学。

KOGの操作方法や、基礎理論などを学んでいる。

設定ではそんなことを言っていたが改めて聞くととても面白い。


 全然わからない単語ばかりだが重水素電池などまぁ雰囲気だけはわかる未来技術がたくさん使われているらしい。


 正直すごく楽しい授業だ。

隣からの刺すような視線がなければね。


「で? あんた何やったわけよ」


 隣のかぐやが小声で剣也に聞いてくる。

なんでそんなこと聞いてくるかって?


 隣で怖い銀髪のお姉さんがこっちを殺さんばかりの視線で睨んでいるからです。


 もう睨んでないかな? 大丈夫かな?

……まだにらんでますね。

目からビームでも出そうとしてんのかあの子は。


「ははは、ちょっとね」


 なぜこんなことになったかというと。

時間は少し遡る。



「ほーらほらほら! どうしたレイナ!」


「くっ! どうして! 何ですかこれは!」


 剣也はレイナをボコボコにしていた。

KOGに数多あるテクニックの一つのコンボ攻撃。


 流れるような攻撃の連続で簡単には抜けられない。

シュミレーターだからこそうまくいく技ではあり、様々な要因が組み合わされる現実ではうまくいかないだろうけど。

だが、抜け方を知らないとまぁそのまま死ぬ。


 御剣剣也 WIN!


「ははは! 俺の勝ちだな!」


「も、もう一度です!!」


 涙目でレイナが嘆願する。

圧倒的勝利に気を良くしてしまった剣也はつい調子に乗ってしまった。


 調子に乗ってまたはめ殺ししてしまった。

何度も、何度も。

ゲスな高笑いと共に、まるで魔王が人間をあざ笑うかのように。


 一度は経験があるだろう。

自分の得意な分野で好きな人と遊ぶと一切彼女を立てるようなことをしないこと。

一切の手加減なく相手し、彼女を不機嫌にさせてしまうことを。


 本来ならそんな経験一度は済ませて次はは気を付けようとするのだが…。

剣也には残念ながらそんな経験はない。


 初めての経験の剣也は、ひとしきり楽しんで、満足した顔を浮かべている。


 そして時間が来てしまったので終わろうかと提案する。


「ふぅ、満足。満足、じゃあ今日はこのへんで…」


 めちゃくちゃ睨まれた。

目に涙を溜めながら親の仇のような目で。

彼女にもプライドはあり、学生の中では帝国で随一の使い手とまで言われるのに。


 完膚なきまでにボコボコにされてしまった。



 それからずっとこれだ。


(さ、さすがにやりすぎたー、オタクの部分が出てしまった)


 自分の技を見せびらかしてしまう。

自分よりも弱い相手に対してのオーバーキル、というか自分が気持ちよくなるだけのプレイ。

もっと楽しく教えるように戦うことだってできたのに。


 そして強いストレスにさらされながら。その日の授業は終わった。


「いてて、なんか胃が痛い…」


 一日中ストレスにさらされた剣也は疲弊していた。


 そして予鈴の音と共に立ち上がり予定も忘れて帰ろうとする。


「剣也君!」「剣也!」


 するとかぐやとレイナが同時に声を上げる。


「私は彼に用事があるのですが? あなたは誰ですか」


 レイナとかぐやがにらみ合う。

かぐやはそもそもアースガルズ帝国民が嫌いだ。

レイナは……多分機嫌が悪い、俺のせいだが。


「誰ですかって? 剣也教えてやりなさいよ。今日は私と食事にいきたいからあなたのお守りはできませんって」


 剣也の頭上で、レイナとかぐやの間に火花が散る。


「なんなんですか、あなたは。剣也君とどういう関係なんですか……まさか恋人」


「だ、誰がこんな変態と恋人だってのよ、わ、わたしとこいつは……なんなのよ!」


(俺に聞いてる?)


 頭上で繰り広げられる女の戦い。

やめて、私のために争わないで。


「まぁまぁ、二人とも」


「剣也君、私とKOGで戦いますよね? 約束ですよね?」

「剣也? 私とデ、デ、デートにいきたいんでしょ!?」


(恥ずかしいなら口に出さなければいいのに)


 プライドからなのか、引くに引けなくなったのかかぐやがレイナに張り合う。

デートと言う言葉を自分で使って恥ずかしさで顔が真っ赤になる。


「デ、デート……」


 レイナはその言葉に一瞬怯む。


 剣也はあたふたと二人を交互に見るが、それを見てイライラしながら二人は声を上げて剣也に詰め寄る。


「どっちなの!」

「どっちなんですか!」

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