第8話 アマテラス

(剣也君いただきましたぁぁ!!!)


 剣也は心の中で叫び、小さくガッツポーズをする。

内心嫌われるんじゃないかとドキドキしていたが、何とか認めてもらえるボーダーラインぎりぎりだったようだ。


 そして試験は終了した。


 結局日本人達は剣也以外すべて負けたが皆大きな声で敗北を宣言した。

その声は胸を張っており、卑下するような気持ちはどこにも感じなかった。


 負けたのは確かに悔しい。

それでも剣也が勝利したことで一泡吹かされたアースガルズ人を見れただけ気分がよかった。


 まるで自分のことのように喜んでくれる日本人達に剣也は照れながらも笑みを返す。

前の世界では、ボッチまっしぐらだったがこの世界では少し違うみたいだ。


 試験が終了しその日の訓練は終了した。


 そこから剣也の作戦は開始された。


 その名も。


「なぁかぐや。二人でご飯食べに行かないか?」


 好感度アップ大作戦。


「はぁ? あれぐらいで私が気を許したと思ってんの? この変態」


 作戦は失敗に終わった。


(おかしい……今の好感度ならデートに誘えたはずなのに)


 度胸はある、しかし恋愛経験はない。


 VRラノベゲームならば簡単にこいつらほいほいついてくるのに。

くそっ! 何処で間違えた! チョロインのくせに!


 間違えたのは現実とゲームの差

彼女たちには無数の選択肢があり、ゲームのようにルートは決まっていないこと。

そんなことを恋愛弱者の剣也は知るはずもないのだが。


 しかし剣也の努力は無駄ではなかった。

しゅんとなる剣也を横目で見ながらかぐやはそっぽを向きながら答える。


「き、今日は予定があるけど……あ、明日ならいってあげてもいいわ…よ?」


(チョロインいただきましたぁぁあ!!!)


 よかった俺は間違っていなかった。

ありがとう、あまたのギャルゲー達よ。

殆どやったことないけど。


「わかった! じゃあ連絡先を交換しようか」


 そして剣也とかぐやは連絡先を交換した。

交換といってもKOGデバイスのメッセージアプリでだが。


(こいつには色々聞きたいこともあるし……それに助けてくれたお礼ぐらいは…)


 かぐやは連絡先を交換しながら考えていた。


 そして二人はその日は学校を後にした。

剣也は一度自宅へと戻り、今後の作戦を練ることにする。


 一方かぐやは、寮ではなく人気のいない方へと進んでいく。



◇かぐや視点


「ただいま、お父さん」


「かぐやか、良く戻った。苦労を掛けるな」


 東京から離れてここは、無法地帯。


 まるでスラム街のような町が広がる。


 占領され統治されたこの国は、東京周辺を除き首都機能を失っている。

インフラもろくに整備されないまま放置され、不自由な生活を送っていた。


 政府を作ることもできず、ろくな統治もされず。

団結し、立ち上がろうものなら容赦なく死という形で弾圧される。

しかし彼らは手を取り合って生きていた。


 その中でまるで隠れ家のような建物。

大きな広間には持っているだけで処罰される日の丸の国旗が掲げられている。

その中央上座に一人の男が座っていた。


「日本のため、お前には大変な苦労を掛けてすまない。虐められたりしなかったか?」


「ううん、大丈夫。私もアマテラスの一員として命を懸ける覚悟はあるから」


「……母さんが聞いたら泣いてしまうな、本当に立派になった」


 その男の名は黒神 一心。

かぐやの実の父であり、旧日本軍の中将。

今は亡きこの国の防衛のかなめだった男。


 そして。


「私もアマテラスの長として命を懸ける覚悟だ。決戦の日は近い」


 いまだ日本の魂を捨てきれないレジスタンス。

日本をもう一度取り返し、虐げられているこの国の国民を救おうとする組織。


 日本の神、太陽の神としてもう一度この国を照らせるよう願いを込めて作られた組織。

それがアマテラス。


 植民地の規模でいえば世界最大のレジスタンスグループだった。


「いよいよ、取り返すのね。この国を」


「あぁ、アジア連合とも話はついている。この国の実権を取り返し占領することができれば連合に加えてくれるとな」


「そう、じゃあ頑張らないとね」


「あぁいい知らせだ。そういえば何か学校であったか?」


 今日学校で何かあったか。

父と娘の会話としては普通だが、意図するところは世間話などではない。

かぐやは思い浮かべる、すぐに出てくるのはあのにやけ面。


 一瞬でも心奪われたのは今でも腹立たしいが彼の力は本物だった。


「一人面白いやつがいたわ。もしかしたらこちらについてくれるかも」


「ほう、どんなやつだ?」


「少なくともここにいる誰よりもKOGが強い。もしかしら白銀の氷姫よりも」


 思い出すのはあの戦い。

明らかに剣也の方が実力が上だったと今なら素直に思える。

あれはわざと負けたのだと。


「そうか……たまに生まれるんだ。時代の節目には化物の類が。氷姫はその類だったのだが、偶然か運命か。我が国にもいたか、麒麟児が」


「うん、それに」


(優しかった)


「それに?」


「ううん、何でもない!」


「そうか……しかしなんとしても仲間に引き込みたいな、頼むぞかぐや」


「頼むたって……本人のやる気次第だし、あの国への怒りでもないと」


「なくてもだ。それはほら……」


 すると一心が娘の足を見る。

すらりと伸びて魅力的。

健康的な四肢と母親譲りの美貌。


 十分魅力的だが、魅惑的とまではいかない幼い身体。

それを見てため息を出し、うつむきやれやれと仕草を取る一心。


「はぁ、胸がもう少しあれば誘惑も……うーん、惜しい。なぜそこだけ母さんに似なかった……あれ? かぐや?」


 目の前には指をぽきぽきならす娘。

笑顔なのに笑っていないかぐや。

冷や汗を流す一心。


「お前ますます母さんに似てきたな、胸以外は」


「殺す!」



「冗談はさておきだな、連れてきなさい。私が見極める」


 頭に大きなたんこぶを作りながら一心が取り繕う。


「糞親父に何が見極められるってのよ」


「さっきまでお父さんだったのにひどい!」


 かぐやはそっぽむいたまま一心を罵る。

人として尊敬しているし、親として尊敬するがたまにこういうところがある。

世が世なら家庭内セクハラだが、なんやかんや言いながらかぐやは父親が好きだった。


「と、とりあえずだな。近々大規模な作戦を予定している。お前も参加するように!」


「なにをするの?」


「戦力を整えるんだ、ある船を襲う。その結果次第でアジア連合は私達を認めてくれるだろう」


 アジア連合という世界を二分する巨大な連合国家。

そこへ日本を取り返し入れてもらう。

アジア連合としては、戦力の増強が図れる。

元よりアースガルズの侵略を受けているため戦力が増えるのは彼らも嬉しい限り。


 しかしごくつぶしを迎え入れるつもりはない。

そのため日本という国が死んでいないことを知らしめる。

そのためのテストとしての作戦だった。


「その作戦に、どうしても優秀なパイロットが欲しい」


 その目は真剣そのもので、かぐやはゆっくり頷いた。


◇剣也視点


「さてと、一気に色々ありすぎて疲れたな」


 まだこの世界に来て一日たっていない事実に驚く剣也。

いつもの体感では3日ぐらいたっているのだが、一日中KOGをしている毎日の繰り返しからすると刺激が多すぎた。


 人生は20歳で折り返し地点というが、同じような日々を続けていると体感速度が上がるというのだから不思議だ。


 自分の部屋の扉を開ける。


 あとから気づいたことだが、ここは2級アースガルズ帝国民の寮となっている。

軍人を志望したものに与えられる一室。


 最低限の設備が整っているが、まさか自分の部屋がそうなるとは思わなかった。

他の部屋も同じなのか気になる。


「ふぅ…」


 ソファに座り息を吐く。

久しぶりに外に出たので疲れた。


「でも俺本当にKOGの世界に来たんだな」


 今日会ったことは余りに衝撃的過ぎて鮮明にすべて覚えている。


 KOGを生で見て、かぐやに出会い、レイナと戦い。


 そしてこの国の現状を知った。


「世界観は一緒だけどゲームのように同じ出来事ばかりではないな、当たり前だけど」


 仮に剣也が主人公なのだとすると、かぐやを助けるエピソードはないし、レイナと戦うエピソードもない。

そもそもこの世界に主人公はいない。


 ただのパイロットとして学園を楽しむという形のゲームだからだ。


「全然楽しめそうな雰囲気はなかったけどな、グッドとか言うやつゲスの極みだったし」


 アースガルズ帝国民が悪いのか、彼らの文化が悪いのか、皇族が悪いのか。

生まれた時からそうなるように育てられた彼らだけを責めることはできないが。


「それでも、とりあえず止めなきゃな…」


 一つだけわかっていることがある。

それはいつか多分起きる未来の話。

多くの死者を出す最悪の出来事。


 アースガルズ帝国の皇帝が仕掛ける全面戦争。


 つまりは。


「世界征服ってほんと……やめてほしい」


 世界大戦の勃発。

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