第4話 敗戦国

 現れたのが銀色の輝く腰まで伸びた髪をなびかせる少女。


「レイナ……」


 剣也はその姿に目を奪われる。


「レイナ・シルフィード」


 かぐやはまるで親の仇のように見つめる。

この国の軍事のトップの娘であるレイナ・シルフィードを。


 彼女は、意図せず剣也の席の隣に座る。

たまたま空いていただけの席ではあるが。


 剣也は彼女の方を向く。


「お、おい。あいつ話しかけるつもりか?」

「あの髪2級だろ?」


 レイナもその様子に気づいたのかこちらを向いた。


 吸い寄せられるような蒼い瞳に意識を奪われそうになる。

それでも懸命に耐えた剣也は挨拶だけでもと言葉を交わす。


「初めまして、レイナ」


「話しかけないでください、あなたに興味ありません」


 一瞬で撃沈した。

氷姫は健在で、ほとんどのことに無関心。

彼女の心は氷のように冷たかった。

 

 それからついぞ彼女がこちらを向くことはなかった。


「あんた、やっぱり根性だけはあるわね」


 かぐやが剣也を憐れむような目で見る。

撃沈したショックで泣いているのかと下を向く剣也を憐れむ。


「ふふ、さすがは氷姫…」


 しかし剣也の目は死んでいなかった。

むしろこれだよこれ、と言わんばかりに輝かせる。


「クールで孤高。まさにイメージ通り」


 いつかあの表情が崩れて笑顔を向けてくれることを想像すると笑みがこぼれる。

不気味な笑いをしている剣也を見てかぐやは引いた。


 すると教室に先生らしき、軍人が入ってくる。


「席に就け、5秒以内だ。はじめまして、ロード様。私はこのクラスを担当させていただきます、アルフレッドと申します。

ロード様のクラスの担当をさせていただけますこと光栄の極みでございます」


 ロード以外には命令、ロードだけにはへりくだった軍人の教官が話を始めた。


 やりづらいだろうな、いうなれば社長の息子が新人として入社してきたような感じだろうか。

上司としては扱いが難しいだろう。


 そもそもなんでロードは皇族なのに、軍人に?

変わり者という事はしっているが。


「私はアルフレッドだ。まずは入学おめでとう。そして2級アースガルズ帝国民の諸君。よくぞ勇気をもって軍人の道を選んだ。我々は諸君らを歓迎しよう」


 10人ほどの元日本人達が頭を下げる。


「そして導く立場にある1級の者は、彼らを良く管理し、良く指導するように。模範的な行動を期待する」


 暗に支配者は誰かと宣言する。

その言葉に目を輝かせるものと表情を暗くするもので綺麗に分かれた。

支配者と奴隷、その境で綺麗に別れる。


「では、まず本日からのスケジュール等を確認する。手持ちのデバイスでアプリをダウンロードするように」


 剣也はKOGデバイスを起動し、言われたようにアプリを起動する。


「君達は基本的には我が国のKOGのパイロットを目指してもらう。しかし途中で適正なしとなった場合は後方支援に回ってもらうことになる」


(基本的にはこの学校ではKOGの操作方法等を学ぶようだな)


 剣也はスケジュールを見て理解する。

そして今日のスケジュールを見て、驚愕する。


「このKOG適正判定って…」


「見て分かるように、今日は諸君らにKOGの適正判定を行ってもらう。このクラスの序列を決定する大事なテストだ。

励むように。審査は平等に行われるので2級のみんなも……まぁ頑張ってくれ」


 すると最後の頑張ってくれだけ明らかに悪意を感じる笑みを浮かべる教官のアルフレッド。

教室からふふっと言う笑い声も聞こえてくる。

その笑い声は日本人からは聞こえてこない。


 しかし剣也はそんなことよりも。


(乗れるの!? まじで!?)


 KOGに乗れるかもしれないという事で、テンションが爆上げの剣也。

しかし次の言葉で叩き落とされる。


「試験は、シュミレーターで行う。基本的に操作は同じだがな。では行こうか」


(そりゃそうか。いきなり操作なんてさせないよな)


 一同が席を立ち次々と移動を始める。

しかし我らが日本人達の足取りは重い。


 不思議な顔で剣也は彼らを見る。

かぐやが悔しそうに拳を握っていた。



「そうだな…では、名前を呼ばれたものから前にでるように」


 そして呼ばれたのは、黒髪と金髪。

つまり日本人とアースガルズ帝国民。


 周りからは失笑の笑い声が聞こえてくる。


「事前に配布しているマニュアルは二人とも読んでいるな。あれを読めば操作はできるはずだ。では乗り給え」


 教室の中央、シュミレーターと呼ばれるKOGの仮想コクピットが2台用意されていた。

そして二人は乗り込んだ。


「なぁ、かぐや。なんで悔しそうなんだ?」


「下の名前で呼ぶな、変態。……見てればわかるわよ、この趣味の悪い見せしめをね」


 二人の対戦は、上のモニターに映されているようだ。

ステージは、山岳地帯か。

特にギミックもない地形だが、実際の戦争ならこのステージの訓練がいいだろうな。


 そして戦いが始まった。


 しかしそれは戦いではなかった。


「おいおいおい! 立つこともままならないじゃないか!」


「ぐっ!」


「さすがは負け犬だな。操作ぐらい覚えてきたまえ!」


「ぐわっ!」


 P1 WIN!


「あーそういうことか…」


 剣也はその映像を見て理解した。

これは戦いではなく、見せしめなのだと。


「さすがは、1級アースガルズ帝国民だ。素晴らしいぞ」


「はい!」


「それに比べて、君は……種として劣っているのだからせめて努力したまえ。立つこともままならないなんて…2級には2級の理由があるのだな…」


「っ……」


 シュミレーターから降りた二人が向かい合う。

片方は笑顔で、片方は拳を握って黙り込む。

それを見た教官が怒鳴り声をあげる。


「何をしているか! 2級は早く敗北を宣言して頭を下げんか!」


「ぐっ!」


 教官が拳を強く握っていた日本人の男の子の背を蹴った。


「まったくグズが! 時間を取らせるな!」


「負け…ました…」


「声が小さいし、言葉が違う! ちゃんとマニュアルに書いてあっただろう!」


「わ、私の負けです! 2級の私にご指導いただきありがとうございました!」


 目に悔し涙を浮かべながら大きな声で頭を下げて敗北の宣言をする。


「よし、では次!」


 そして次々と日本人が敗北していく。

敗北の宣言を、皆で笑いながら上下関係を刷り込んでいく。

アースガルズ帝国民が優秀だから? 

そんなわけはない。


「あいつらは事前に練習してるのよ、私達はこれが初めて。勝てるわけない」


 かぐやが悔しそうに拳を握る。


 これは、完全な縦社会の軍の中で最底辺である2級アースガルズ帝国民への洗礼なのだろう。

一人ひとり敗北を認め、どちらが上かを宣言させるための。


「ははは、気分がいいね。これから毎日君達はこうやって僕達に媚びへつらって生きていくんだ。

嫌なら3級に戻りたまえ。もっとひどい生活が待っているけどね。ははは!」


 横で一人のアースガルズ帝国民が悔しそうに見るかぐやと剣也を見て笑う。

おかっぱ頭に裕福そうな見た目のデブ。

見下すような目は見てるだけでムカついてきた。


「では次! グッド・セマカと黒神かぐや、前へ!」


 先ほど剣也達を笑ったアースガルズ人が前に出る。


「あははは! 君達は運がいい。ちゃんと指導してあげるからね!……そうだ。アルフレッド先生!」


 するとその男はゲスな顔で思いついたように手を挙げる。


「なんだね、グッド君」


「どうでしょうか、彼らが負けた時は土下座をさせてあげるのは!」


「なぁ!?」


 かぐやがそのゲスな提案に声をあげる。


「土下座? それはなんだね」


「このエリアの2級国民が最も丁寧に謝意を表現する方法です。膝をついて額を地面にこすりつけるのです! それはもう負け犬にピッタリの仕草ですよ!」


「ほう……面白そうだ。いいだろう。許可する」


 かぐやの意見は全く聞かずに二人で勝手に決められる。


「何か問題でもあるのか? 黒神」


「い、いえ……ありません」


「よろしい。では」


 二人がシュミレーターの前で向かい合う。

片方は仇を睨みつけるように、もう片方はあざ笑って見下すように。


 教官はわかり切った未来を見て。


「乗り込みたまえ」

 

 にやりと笑う。

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