第3話 入学式
この国は支配されている。
アースガルズ帝国という世界の半分近くを占める大国の帝国。
つまりは貴族が存在し皇族が存在し、皇帝がいる帝国だ。
時代背景をはっきり覚えているわけではないが、電光石火のごとく日本は占領された。
日本の自衛隊は世界トップレベル。
しかしそれは現実世界での話、この世界ではKOGがある。
戦車? そんなものKOGの前では相手にならない。
空を飛ぶ巨人の騎士の侵略能力は計り知れない。
無差別虐殺の戦略兵器ではなく、戦術兵器であるKOGはやはり格別の侵略兵器なのだろう。
侵略された日本。
それはすでに過去ではあるのだが、その結果この国では日本という名前が奪われアースガルズ帝国の植民地となった。
そういう設定だった。
ゲームの中だけの話。
しかしこの世界では現実だ。
「じゃあ、私はいくわ。次は気を付けることね、バカで変態の御剣君」
「あぁ、ありがとう。かぐや」
「し、下の名前で呼ぶな!!」
「あぁ、ごめん。かぐや」
「っ…ふん!」
赤くなったかぐやはそのままかかとを返して、背を向けて去っていく。
「かぐや……可愛かったな…」
その背中を見つめながら剣也は思う。
毎日かぐやと呼んでいたので今更黒神さんと呼ぶのも変なのでかぐやでごり押ししよう。
どうせなら剣也と呼んで欲しいから今度頼んでみようか。
◇かぐや視点
「なんなのよ、あいつ!」
異性に初めて抱きしめられたかぐやは不覚にもドキドキしてしまっていた。
しかも下の名前で呼び捨てにされるなんて。
「思い出したら腹立ってきた。……でもあいつ真っすぐと皇族見てたわね…」
皇族。
この世界を支配する支配者たち。
第2王子ロードはとても変わり者で慈悲深いと聞いている。
それでも皇族、支配者だ。
自分の前で頭を垂れない植民地の住人など問答無用で切り殺されても文句は言えない。
そもそも皇族を捌く法律などないので、気に入らないという理由だけで殺されても仕方ない。
なのに、あいつは真っすぐと見ていた。
「私達日本人にとって皇族は敵。そして畏怖の対象なのに…」
かぐやは、御剣剣也を心にとどめることにした。
バカな奴なのか、それとも大物なのか。
変態であることだけはかぐやの中で確定しているが。
「私達の仲間に……」
かぐやの目的にもしかしたら強力してくれるかもしれないと。
(あれ?)
そのときかぐやは自分の名前を呼ばれたことを思いだす。
「私自分の名前いったっけ?」
◇剣也視点
入学式は、グラウンドで行われた。
グラウンドといっても、運動する場所ではない。
周りにはKOGがたくさん立ち並ぶ、訓練場だった。
「うわー本当に動いてるよ」
この入学式のためなのか周りにはKOGが数体並ぶ。
その横にはパイロットと思わしき上級生がKOGの顔の横に立ち手を振っている。
入学する生徒は全体で300人ほどだろうか。
前に200人ほどの金髪の学生達、多分アースガルズ帝国民なのだろう。
この国を統治する人種が椅子に座る。
そしてその後ろには100人ほどの日本人と思われる黒い髪の俺達の集団。
この国で統治される人種が立って話を聞く。
明らかに差別されている、いやこれは上下関係をわからせるためなんだろうか。
その生徒達の前にある壇上に一人の男が上った。
周りがざわめく、有名人だ。
俺も知っている、帝国の一番槍。
軍神と呼ばれ、アースガルズ軍人からは尊敬され、それ以外の国からは畏怖される。
帝国の歴戦の戦士、KOGの一流パイロット。
KOGのキャラとしてもとても人気のナイスミドル。
確か年齢は30後半だったはず。
今なお衰えを知らない筋肉ムチムチのTHE軍人という厳ついダンディなおっさんだ。
「諸君! 初めまして。私はこの第13番特別区軍事養成学校の責任者、兼第13番特別区駐在軍の代表ジーク・シルフィードだ」
第13番特別区、日本という名前を言わない、言わせないのが帝国の占領した国へのルール。
日本という国を忘れさせるための処置なのだろう。
「私は実力で評価する。使えるものは使う。強いものは2級だろうが、使う。だから2級アースガルズ帝国民の諸君も頑張ってくれ」
2級アースガルズ帝国民。
これは正直聞きなれない言葉だった。
後で調べてみよう。
入学式は滞りなく終わった。
いくつか聞きなれない単語もあるが、すべての設定を暗記しているわけではないので仕方ない。
某ストリート戦士の格闘ゲームのキャラは知っているが各キャラの設定まで詳しい人は少ないのと同じだ。
入学式が終わると、さっそくクラス分けへと移行する。
入学証明書を見るとEクラスとある。
案内された通りにクラスへ行き、扉を開く。
そこには。
「かぐや!」
「近寄らないで、変態」
かぐやが同じクラスとして席に座っていた。
一クラス30人ほどだろうか。
学校というよりは大学のように教卓を一番下にしている。
「よいしょっと」
「はぁ? なんで隣に座るのよ!」
「初めまして! 俺は御剣剣也、よろしく!」
「そんな真っすぐな目で挨拶されてもなかったことにはしないわよ……」
第一印象を変えようとさわやかに挨拶したのだが意味がなさそうだ。
じとっとした目で呆れたようにかぐやは俺を見る。
「同じ日本人同士仲良くしようよ」
「あんたバカなのか、なんなのか知らないけど、日本って言葉ここではあんまり使わないほうがいいわよ。罰則の対象だから」
「日本っていっただけで? うそ…」
「あんた、何? コールドスリープでもされてたの?」
「知らないことが多くてさ、色々教えてほしいんだけど」
「なんで私が、めんどくさい」
そういってかぐやがそっぽむいてしまった。
さすがツンツン姫。そう簡単には心を許してくれないようだ。
ツンツンしているかぐやは可愛いな。
横顔を眺めながらオタクに戻りニコニコする剣也。
すると取り巻きに囲まれながら奴が来た。
日本人と思われる黒い髪の生徒が立ち上がり膝をつく。
(一応俺もしとこう…)
「楽にしていい、それに今後授業や訓練の妨げになる。この学校内に限り膝をつくことを免除する」
ロードが生徒達へ向けて伝える。
「感謝しろ、2級共!」
取り巻きが皇族の恩情に感謝しろと騒ぎ立てる。
元日本人達は顔を上げて席に着く。
「なぁ、かぐや。2級とかって何?」
「はぁ? あんたほんとに何も知らないのね、どうやって生きてきたのよ。そのデバイスで調べればいいでしょ」
するとかぐやが机の上に出していたKOGデバイスを指さした。
(検索機能あるのか…)
「ありがと!」
剣也は調べた。
元の世界とUIはほとんど変わらないようで使うことはそれほど苦ではなかった。
「えーっと………2級とは…検索」
そこには帝国が定めたあまりに非人道的な法律が表示されていた。
このアースガルズ帝国のトップはもちろん、第98代皇帝アースガルズ・オルゴード。
そして時点で皇族と呼ばれる二人の王子と一人の皇女。
次に貴族と続いていく。
貴族は公爵や、伯爵などがあるらしい。
多分これは中世ヨーロッパと同じ仕組み何だろう。
ここまでが特別な存在達。
そして次が、1級アースガルズ帝国民。
いわゆる一般人だ、基本的人権と自由を与えられている。
そして次が2級アースガルズ帝国民。
これは3級アースガルズ帝国民が軍人になった時や、帝国に貢献した場合なることができる。
2級同士には結婚の自由があるらしいし、ある程度の権利が与えられている。
そして3級アースガルズ帝国民。
これが悲惨だ。
彼らは主に侵略を受けた国民達で2級になる価値がないと判断された人たち。
職業の自由は与えられず、帝国から与えられた仕事を行わなければならない。
そして結婚、出産の自由は与えられていない。
「これじゃ…まるで奴隷じゃないか」
剣也はこの世界の一端を知った。
そして1級アースガルズ帝国民になるためには、親の片方が1級アースガルズ帝国民である必要がある。
つまり、選民思想へまっしぐらの世界の仕組み。
アースガルズ帝国に住むものなら誰しもが1級を目指す。
その結果侵略された各国の生き残りの血は薄れていく。
国とは人、真に支配しようと思ったら植民地の文字のごとく民を植える必要がある。
だからこの国の日本人という血を根絶やしにしようとしているんだろう。
その事実を理解した剣也は、日本人が受けてきた仕打ちを想像して心が痛んだ。
KOGデバイスを見ながらため息を吐く剣也。
しかし教室がざわめいて顔を上げることになる。
「おい、あれって、氷姫か?」
「まじか、あの長い銀色の髪はそうだろ」
「う、美しい。噂にたがわぬ美貌…」
教室に一人の少女が入ってくる。
腰まで伸びた銀色の髪はウェーブがかかり、片方に流す。
うなじが見えてとてもセクシーだった。
肌は白く、それでいて胸が大きくどちらかというと肉感的。
それでいて、まるで感情のない氷のような目は蒼く輝く。
プロポーションは抜群だった。
すたすたと姿勢を伸ばし、まるでモデルのように歩くその少女の名前を俺は知っている。
軍神と呼ばれるこの国の駐在帝国軍トップ兼校長のジーク・シルフィード。
そのシルフィード家のご令嬢。
白銀の氷姫と呼ばれるKOGの世界ではトップクラスの女騎士。
「レイナ……」
剣也が守るべき二人目のヒロインだった。
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