第9話 ハラダ護衛になる
ゴルゾフを倒し、周りを確認して、とりあえず安全と判断したハラダ達は、焚き火のある野営地まで戻ってきた。
『さすがに怖かっただろう』と捕虜の確認をしに来たが、その山賊の捕虜二人は、なんと幸せそうにいびきをかいていた。
夜が明けて本隊の様子を確認しに行ったサガレス隊の隊員から、『生存者はいない』と告げられたリズとサガレスは、なにやら話し合い頷き合ってから、ハラダの元にやってきた。
「皆様、世話になりました。私たちはこの事件の報告をする為、すぐさま王国に戻ります」
ハラダ達の顔を順に眺め、挨拶するサガレス。
「ああ、そうだな。ここは敵国だしな、それがいい」
ハンセンは頷くと、すぐ同意した。
「戦死した人の遺留品はどうするの? さすがにドラン王国に届けられないわよ?」
その急な話に、『戦死者を弔わないのか?』と疑問を持ったエリナが、ギルド職員として当然の質問をぶつける。
「今回は敵国での作戦。皆、戦死を覚悟の上で、身分がわからぬよう一般の防具をつけています。売るなり捨てるなり好きにしてもらって結構ですが、出来ればその遺品を報酬に埋葬をしてやってもらえませぬかな?」
一瞬、眉が下がり顔が曇ったサガレスだが、すぐ目力が戻る。そして、装備と引き換えに埋葬を頼んだ。
「そういうことなら、わかったわ。任せといて、山賊退治の義勇兵として葬るから」
「ありがたい。エリナ殿、頼みます」
サガレスはエリナに謝辞を述べる。
そして、ハラダに向き直ると神妙な顔で話しかけた。
「ハラダ殿。あなたを見込んで頼みがある。リズ様をこのまま、あなたの側に置いてもらい、守ってもらうわけにはいかないだろうか?」
サガレスの言に、目を見開き驚くハラダ。
「いや、今の私は冒険者。家も持っていないし、その日暮らしだ。貴族様をもてなすことなんて出来ないぞ?」
ハラダは、目の前でイヤイヤと、手を振り、やんわりと断る。
「いや、守ってもらうだけで良いのです。正直、あのランサットが再びリズ様を襲ったら、私共では太刀打ち出来ません。リズ様が力を取り戻すまでの間、なんとかお願いできないか? 受けてもらえれば、私は貴方の臣下になっても良い」
サガレスは突然、地面に片膝を付き頭を下げた。
驚き、サガレスに駆け寄るハラダ。
「いや、サガレス殿! 立って頭をあげてください。わかった! わかりましたから。私で良ければ、リズ殿の護衛を引き受けますから」
ハラダは、サガレスの突然の行動に驚いて、思わず依頼を承諾してしまった。
「よかった。これで我々は安心して帰れます」
満面の笑みで立ち上がり、ハラダに礼をいうサガレス。
そのサガレスに、ハンセンが質問をする。
「サガレス殿。師匠に『リズ殿の守人を任せたい』と言うならば、一つ教えて欲しい。『竜語を知り、封じられるほどの力がある』という、そこのリズ殿はもしかして……」
「ハンセン殿、それは、私の口から言えぬのです……」
申し訳なさそうな顔をして、口を濁すサガレス。
「サガレス良い、私が話す!」
その、ハンセンとサガレスのやり取りを、後ろで聞いていたリズが、サガレスを制して口を開いた。
「私は、ボルダ公国の守護竜 リズという」
ハラダは竜という言葉に、リズを二度見した。
「ええっ! 竜? 竜というのは本当に人に化けるのか!? ただの昔話だと思ってたよ!」
「師匠……驚く所そこですか? この国では割と一般的に知られていることなので覚えてくださいね」
少しズレているハラダに、あきれながらも『この大陸で竜の人化は一般常識だ』とハンセンは教えた。
「人によっては我々を古代竜とも呼ぶな。ランサットに<封竜石>を使われ今は力を出せないが、<崩印石>があれば力は戻る。そうなれば、ランサットなどには負けないし、他の誰にも負けないぞ」
リズは小さい体を目一杯反らせて、自画自賛する。なんとか、威厳があるように見せたいようだ。
(そんなことしなくても、竜が強いのは知ってますから)と、ハンセンは思うが口には出さずに、気になる<崩印石>のことを聞く。
「それよりリズ殿、封印を解く為に<崩印石>が必要とのことですが、それは何処にあるのですか?」
ハンセンの反応が、自身が思っていたのと違ったことにリズはすこし呆けて固まる。
「……ハゥッ」
威厳を示そうとした行動を、触れられずに流された。リズはそれに気づき、恥ずかしそうに質問に答えた。
「うむ……確実に在る所はわかっているが、そこには問題があって行けない。だから、『他に無いか?』と兄に聞いてくれと、さっきサガレスには伝言を頼んだのだ」
「その兄ってもしかして……」
エリナがサガレスの方を見て小声で尋ねた。
「ああ、リズ様のお兄様は、ドラン王国守護竜 クロード様なのです」
「やっぱり! 予想は出来たけど……」
(はぁ、敵国の守護竜か……面倒事に巻き込まれたわね)
驚きの事実を突きつけられたエリナは、心で愚痴を言いながら首を横に振った。
「一応、私はその近衛隊長を任されています」
エリナの一瞬の驚きを賞賛だと受け止めたらしく、サガレスはちょっと胸を張る。そして話を戻した。
「話を戻します。今回ランサットは、リズ様の緊急連絡が拡散されて、全てを改変出来ないと気付きました。そして何とか、都合の悪い情報だけ握り潰したようです」
「ほう? リズ殿の緊急連絡が、上手く分散されたのですな。でも、首謀者のことや<崩印石>のことはランサットに消されたと」
ハンセンがその状況を分析し、それに、サガレスが頷いた。
「そうです。それで、ランサット自身が『リズ様が誘拐された!』とクロード様に伝えます。そして、救出部隊を自身で直接指揮することで、疑いをもみ消そうとしたのです。しかし今夜の事件で悪事がバレて、ドラン王国にはいられなくなるでしょう」
それに深く頷くハンセン。
「なるほど、師匠これは大変なことになりました。ロアームと敵対するドラン王国、その竜信仰の象徴である守護竜の警護を引き受けたのです。これがロアーム国に知れたら良くて国外追放、悪くて死罪。絶対に秘密を守らねばなりませんな!」
そう言って『重要な任務だ』とハラダに説くハンセンは、かなり気負っているようだ
「そうだな。『武士に二言はない』と引き受けた以上。しっかり守人を努めさせてもらうから安心してくれ。一応、ロアーム国外逃亡さえも視野に入れておくか?」
「いや師匠、国外逃亡は辛いので慎重に行きましょう」
ハラダは、ハンセンの気負いを冗談で和らげようとしたが、逆に注意されてしまった。
「ギルドとしては立場上とても悩ましいですが、ハラダさんという優秀な人材を他国に逃がすわけには行かないので、秘密裏に協力するようマスターと協議します」
二人の話しを聞いたエリナは、秘密の協力を前向きに検討することを約束した。
「皆さんの言葉で本当に安心しました。リズ様。<崩印石>情報は帰還後すぐに連絡員を派遣しますので、もう少しお待ちください」
サガレスは礼を述べ、<崩印石>情報の連絡員派遣を約束し、ドラン王国に帰って行く。
その姿を見送ったハラダ達は、野営地の火の始末をした後、呑気に寝ている捕虜を叩き起こした。
そして、やっと帰路に着いたのであった。
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