試しの時
全世界がそれを見ていた。
街を消滅させて有り余る巨大隕石。それ一瞬で消滅させた魔王を超えし大魔王――ガーディドラゴン。
かつて世界を震撼させた魔王クライムと契約を交わした彼は宣言した。
世界を制すると。
強大な力を持つ彼の宣言に全世界が慄いた。巨大な隕石を一瞬で消滅させた魔法。
それを地表に向けて撃てばどうなるのか想像に難しくなかったからだ。
その脅威に立ち向かうのは六人の守護者達。
世界はその戦いの行方を、息を呑んでみていた。
アリスと玲央がこと、ガーディウィッチとガーディバロン。この二人が戦っているのはガーディファングと呼ばれ男。
小柄だが、その分動きがすばしっこい。
「ちぃ!!」
槍を自在に振り回し、両手に爪を装備した玲央を圧倒しているのだ。
「まともな戦いになりしゃしねえ」
後ろに下がる玲央。それができるのはマリアの魔法による援護なのだが・・・
「火力の低い魔法じゃ足止めにもならない。あの槍、術式の構成にまで干渉してくる」
ガーディファングの手にした槍は魔法すら分解できるらしい。
槍に触れるだけで、小さな魔法は粉々に分解されてしまう。
「なら大物をぶち込んでくれ」
「時間稼げるの?」
「稼げるじゃねえ・・・稼ぐ」
「お願い、こっちも変則的な手を使う」
二人はそう言ってガーディファングに向かう。
戦略こそはシンプルだが、効果的といえる。前衛と後衛を分けるという意味でも。
だが、相手は普通ではない。
「ホント接近戦は軽くあしらわれ・・・」
玲央の両手の爪をまるで水のように受け流しつついなすガーディファング。アリスの放つ無数の矢のような魔法を避けたり、叩き落としながらのその技量の高さに舌を巻く。
だが、そこで手札を切ってきたのがアリスだった。
「私がいるのを忘れないで」
彼女の側にはもう一人いるのだ。同じく魔術に長けたリリスという存在が。
脚元で巻き起こる突風。
「そうくる!?」
さすがにすぐに無効化できず、ガーディファングは空中でわずかに体勢を崩す。
そこにアリスが追い打ちをかけてくるのだ。
放ってきたのは一本の光の矢。
崩れた体勢のガーディファングは手の爪でとっさにそれをかき消すが・・・
「えっ?」
その後ろにもう一発、別の矢が重なるように飛んでいたのだ。
とっさに槍の柄で防ぐのだが、その二本目の矢は一本目よりも遥かに、重い。
おかげで槍を手にした両手が一瞬だが止まってしまう。
―――土属性の・・・質量のある一撃か!
さらに体制が崩れるガーディファングに対して、三発目の矢。
まさかの三連撃に目を見開くガーディファング。しかも、その矢が弾け、まるで散弾のように無数の矢が襲い掛かってくる。それに加えて巨大な岩。
岩の後ろからは玲央も走り出し、拳を繰り出している。
「俺もまだまだってことか。一応賢者の名はもらっているのになあ」
その無数の矢をすべてはたき落としたのは彼の尻尾だった。
岩を砕いたのは左手の爪。
玲央の拳を受け止めていたのはガーディファングの右足である。
まるで鳥の足のようになっており、それで玲央の攻撃を止めたのだ。
そのまま玲央の拳をつかんでいた右足に力を入れ、蹴るようにして後ろに退く。
「マジかよ。あれ、結構自信があったのに」
「反射速度が速すぎるのよ。対応力もあるし」
「いや、本当に二人同時だとこっちも大変だって」
ガーディファングは槍を軽やかに振り回しながら告げる。
「あんたから攻めていない、その点からして、あなたの役目って・・・」
アリスの隣にいるリリスが彼の戦い方から目的を悟る。
「もちろん、あの二人。試しの時の対象はあの二人だから。それ以外を介入させないようにするのが俺たちの役目さ。まあ、俺たちも今の自分自身の実力がとんなものか知りたかったからよかったけど」
試しの時の対象は正確には陽菜と月菜らしい。だが、それが分かったところで、その間の足止めと手合わせを二人がやっているのだ。
その圧倒的な実力を見せつけるように。
「まだまだ課題があるみたいだな。そちらの策に隙をみせちゃったし」
だが、恐ろしいことに本人は今の実力に満足してないのだ。
そのことに戦慄を隠せないアリスに対して、玲央は言う。
「あの槍に選ばれるだけのことはあるってことだ。こりゃ、とんでもないな。それにあいつ、槍の力をほとんど使っていない」
シンプルだが、的を射た言台詞に頷くことしかできないアリス。
槍はアリスの魔法の破壊のために少し力を使っているだけ。それ以外は普通の槍としてしか使っていないのだ。
「何とか押し通る!!そっちも援護まかせた」
「・・・はい!!」
「その意気、流石だ。ちなみに上の兄二人は俺よりも強い。それだけは言っておく。こちらも今の自分の実力、まだまだ確かめさせてもらう」
激突はまだまだ続く。
「試しに魔法をこっちも使ってみるか」
彼の周りに現れる炎の球と氷の矢。風の円刃、雷の槍 ダイヤモンドの槍の五種類がそれぞれ十発ずつ用意されていたのだ。
それを見て彼らは息を呑む。
「おいおい・・・こっちは賢者と呼ばれていると言ったじゃないか。魔法も器用貧乏ながら得意だぜ?」
「どこが器用貧乏!!?これだけの魔法を同時併用、一度に出す時点で普通じゃない!!」
アリスの悲鳴に玲央は悟る。
「あ~こりゃ簡単にいけねえわ」
相手がいよいよ本気を出してきたことに。
一方、海花と進もまた苦戦していた。
いや、正確には圧倒されていたのだ。
たった一人の剣士に。
「強い・・・」
「なんて奴なの?」
「そりゃ向こうの世界で勇者やっていましたから。でも二人とも強いよ。それだけは断言できる。戦士として最上位、人間としての限界も超えているレベルであることを保証するよ」
彼は剣を片手に手招きをする。
「だからこそ、その上の領域を知るといい」
その言葉に動き出した二人。
斧を振り下ろしながら突進を繰り出す海花。
その隙を覆うように四発の弾丸を放つ進。
長い間共に戦ってきたからこそできる連携。
まともに受けようとも海花はガーディアンズ一の怪力である。その一撃を受けてただでは済まない。
ましてや突進の加速も上乗せされ、威力は倍加している。
そこに進の正確無比な弾丸。しかも一発一発が電磁石による加速――レールガンとなった状態で撃たれている、
超速の弾丸と剛力の斧による攻撃の隙の無い連携に対するブレイブの答えはシンプルだった。
それは二発の斬撃。
同時に放たれたとしか思えない二つの剣閃が四発の弾丸を切り落としつつ、海花の斧の一撃を無力化しつつ、海花を吹きとばしたのだ。
弾き飛ばされつつ海花は舌打ちする。
「ちぃ・・・」
「まさに剣の結界だな」
速くそれでいて重い斬撃。剣圧だけで、地面が裂けるほどに。間合いに入った途端、それが幾重にも襲い掛かってくる。
そういった意味ではまさに彼の間合いは結界だった。
「攻撃の重さだけならそこのお姉さんの方が上だよ。だから斬撃は二発必要だった」
「それとこっちの弾丸を撃ち落とすことも兼ねた二重の斬撃。最も脅威なのはその瞬時に最適解を選べる君自身の思考ということか」
進の指摘は正しい。
初見の相手を追い詰めるような隙の無い連携を、無茶苦茶とはいえ二発の斬撃でしのいだのだ。
その瞬時の判断といい、それを躊躇いなく行える彼自身の技量といいすべてが規格外といえる。
「その気になれば私達瞬殺よね?」
「さすがにそれはできないさ。思いがけない手段をとってくることもあるから油断もできない」
彼には油断もなければ慢心もない、
「もっとも、グラーヴィズナの力を使えは別だろうけど」
二人はその言葉に息を呑む。
彼の手にあるのは古代文明の超兵器――武神具の中でも最強の聖剣なのだ。
それの力を彼は一切使わず、二人を圧倒している事実を忘れていなかった。
それを使われたら、瞬殺されるだろう。
だがそれをしない・・・その理由は明らかだった。
「本当に私たちを足止めするために戦っているのね」
「君たちはこの世界でも大切な存在だと・・・我が兄も考えているのでね」
彼は淡々と二人と相手を続ける。
その剣に一点の曇りもない。
「あなたは異世界で勇者とよばれていたのよね?」
だからこそ、海花は問う。
「一度世界を救ったこともある」
「それほどの漢がどうして世界征服を?」
進も問わずにいられない。
圧倒的な実力もある。それと同時にその立ち振る舞いは気高いものがあった。
勇者と呼ばれるのにふさわしいくらいに。
その問いに対して、ブレイブは構えを解き、少し考えるそぶりを見せる。
そして、すぐに答えが出たようだ。
「…愛のためかな」
予想外の答えに驚く二人。
「まあ、そうなるよね。でもまちがいなく、これは愛から始まり、そこに向かっている。そのために世界を制すると我が兄は動きだしたということだ」
愛という言葉は二人にとってあまりにも予想外すぎた。
「故に、僕たちの長兄は最強だ。僕でさえ敵わないと断言できるほどに」
ブレイブはその場か全く動かないまま再び構える。
「さあ、これ以上知りたいのなら、剣で語ることになる。その覚悟はあるか?」
彼からの圧が強まる。
「ごめん二人とも・・・すぐに援護にいけそうにないわ」
「本当に用意種等に準備していたということか」
2人も決意を固める。
「だからこそ…少しでも引き出すわよ」
「それしかないか」
少しでも相手からの情報を引き出すと。
「その意気やよし。来るがいい」」
勇者と二人の守護者の激突は続く、
試しの時。
かつて魔王クライムが世界に対して問うた言葉だ。
彼はかつて世界に絶望し、滅ぼすと決めた。一度目の復活の際に同じような世界に同じような最低を下すべきか、決めるためにその世界の守護者たちに問うことにしたのだ。
この世界は護る価値があるのかと。
その結果、世界は護られた。その問いに対する答えにクライムは満足している。
答えをもたらした者達は世界を護り続けているのだから。
そして、そのクライムが二度目の復活。
しかも契約した者がいる状態で。
その契約者は魔王すら超えた大魔王であった。
その大魔王がクライムの台詞を借りている。
試しの時を始めようと。
その相手は双子の守護者であった。
二人の弟達が言う通り、長兄であるガーディドラゴンは最強だった。
『はあ・・・はあ・・・はあ・・・』
ボロボロで荒い息をついている陽菜と月菜。
一方のガーディドラゴンは無傷。悠然と宙に浮いていた。
「流石だといっておこう。やはり君たちは強い」
「よくいう・・・」
「攻撃が全く当たらない」
二人の連携はすさまじいものがあった。
陽菜の目にも止まらぬ連続突き。その隙間を縫うように短剣を振るう月菜。
逃げ道も、そして防御すらも許さないレベルの二人の連携。
二人の実力を倍増どころか、それ以上に高めるほどだ。
だが、大魔王には当たらないのだ。
攻撃がすり抜けたと錯覚するように当たらない。
まるで幽霊を攻撃しているかのような感覚になる。
そのレベルのわずかな動きと左手の杖による払いだけですべての攻撃をかわしているのだ。
だが、間違いなく実体はある。
二人を問答無用で吹きとばすほどのすさまじい威力と重さを伴った杖による一撃がそれを教えてくれる。
「むしろ、左手を使わせている時点ですごいと思うがいい。並みの相手なら数をそろえても片手間でかわせるというのに」
あまりに規格外。
隕石を消滅させる術を始めとする暴力的な破壊力に始めは二人も注意を向けていたのだが、実体はそれよりも恐ろしい。
大魔王はすさまじい技巧派だったのだ。
武王の名は伊達ではない。
神技というレベルすら生ぬるいほどの。
存在そのものが反則。
武神具もそうだが、彼自身も存在そのものが理不尽。
二人は互いにそう思い、それを無意識のうちに共有していた。
「こちらからも少し攻めることにしようか。でないと試しにならない」
その言葉に二人の間に緊張が走る。
彼の周りに浮かぶ黄金の光。
まるで夜空の星々のような輝きたちに目を奪われそうになる。
だが、その無数の輝き一つ一つが凶悪なまでの威力を誇る滅びの光である。
ホタルの光のような小さなもの一つだけでも、先の戦いで天使が瞬時に消滅するほどの威力があるのだ。
それが無数にあるだけでも悪夢というのに十分だろう。
それを前にして、二人の戦意がなえることはない。
「その意気…さすがは守護者だ」
満足そうに頷くガーディドラゴン。
「このような実力差があるのにもかかわらず、怯むことはなく、勝てる可能性を見つけることを捨てない姿勢・・・クライムの試しに答えを叩きつけたことはある」
「それはそう・・・負けるわけにはいかないから」
陽菜の言葉に月菜も頷く。
「私はまだ答えを見つけていない。この手にある罪に対する答えを。その償いも」
彼女の口からでる償いの言葉。
「そうか・・・ならここで答えを出してもらおうか。そうでないと、今のままではいささか脆いのでな」
大魔王の圧が強まり、二人は勝負を仕掛ける。
各々の持つ武器に力を込めたのだ。
炎を纏わせた陽菜の剣。
月菜はダガーを柄頭で合体。弓とし、氷の矢を生成。
二人は放つ。炎の刃と氷の矢を。
――――不死鳥の炎斬<フェニックススラッシュ>!!」
―――――神狼の氷矢<フェンリルアロー>!!
二つの攻撃が魔王に向かっていき・・・
――――黄金竜の顎<ドラゴンバイト>
黄金に輝く右手の顎が粉々に噛み砕いた。
あっけなく迎撃されたことに驚いている暇などなかった。
「おせっかいついでに忠告してやる」
その言葉と共にガーディドラゴンの姿がいつの間にか二人の目の前にあったからだ。
いや、正確には違う。
二人の位置がいつの間にかガーディドラゴンの目の前まで瞬時に移動していたのだ。
{!?}
「・・・皆を護るのはいい」
二人に向けられるのは右手。
「だが、お前たちは誰が護る?お前たち自身の幸せは・・・」
その右手に二人はとっさに飛びのく。
何しろその右手は天使を一撃で噛み砕く竜の顎なのだから。
「よくかわした、というべきだが・・・甘い」
「ぐっ!?」
その右手が押し出されるとともに二人にかかるすさまじい圧。
二人はすさまじい勢いのまま地面に落下していった。
「加減が難しい」
ガーディドラゴンに変身していた星矢は唸っていた。
それは己自身の力の増大。
クライムとも契約した分、その力が大幅に増加していたのだ。
――――贅沢な悩み・・・といいたいところだけど、そんな状態で試しの時だからねえ
―――力になれてもらうほかないだろう。だが、全力を出す分には問題ないのだろ?
「当然だ。だが、あの二人のために迂闊に出せない。右手なんて、引っ張たり押し出すだけであれだぞ?」
もともと必殺だった右手の力。それも今や、右手で空を押すだけで離れた相手が吹っ飛ぶほどのレベルに。
おまけに空間を引っ張ることで瞬間的に相手の目の前に移動することも、その逆すらもできるようになっていた。
ますます強力になっていく力に星矢はため息がでてくる。
「だが、なんとかこの状態の私に勝ってもらわないと。少なくとも守り切ったという事実を見せないといけない」
星矢は自ら悪役になっていた。
「そうでないとこのまま世界征服・・・しないといけなくなるからな」
世界征服すらも彼女達のためだったりするのだ。
「もうあいつらに大切な物を失わせたりはしない」
そのための二人の試練。
「そのために二人には大切なことに気づいてもらわないといけない。そして、月菜が守護者であることを世界に認めてもらうことを・・・ん?」
星矢は落下した二人を見て、驚きに目を丸くする。
「なんで風花がここにいる?」
それは星矢にとって想定外のことであった。
「陽菜…大丈夫?」
「痛いけどなんとか・・・。そっちも大丈夫そうね」
地面に激突した二人は痛みが走る体を何とか起こす。
「強い・・・」
「うん」
圧倒的だった。
クライムすら超えるほどの力を、ガーディドラゴンは間違いなく持っている。
魔王すら超える大魔王にふさわしいほどに。
どうするべきか?
月菜は焦る・
どうあがいても勝てないような相手だが、あきらめるわけにはいかないから。
陽菜はあがく。
もう、誰も失いたくないから。
「・・・・・・!?」
二人の感覚が側に人間がいることを知らせてくる。
そして、その人間を見て絶句したのだ。
それは風花だったからだ。
「・・・・・・」
風花はまっすぐに月菜を見る。
かつて彼女は操られていたガーディフェンリル——つまり変身していた月菜によって目の前で両親も伯父も伯母も殺され、自身も重傷を負わされていた。
その時の心の傷をまだ抱えているはずだった。
その時の憎しみを、悲しみを月菜に対して抱いているはずだった。
「あっ・・・ああ・・・」
変身した状態で遭遇してしまい、情けない声が上がってしまう月菜。
一方の風花の様子がおかしい。
「お父様と・・・お母様の・・・仇・・・」
彼女も憎しみを抱きつつも恐怖で震えていたのだ。
それに気づく月菜とその理由を知っている陽菜。
陽菜の知っていることが月菜に伝わっていく。
殺されたことでトラウマを・・・ガーディフェンリルに対して抱いているかもしれないと。
仇だと思って探している可能性が高いとも。
「・・・・・っ!?」
そのことを伝わるのと事態が動いたのは同時だった。
「・・・お前たちは我々の邪魔になる」
風花の後ろに天使が現れたのだ。
ボロボロの様子から。先ほどの戦いで落下して生き残っていた個体らしい。
その剣が風花に向けて振り下ろされようとしていた。
だが、その間に割り込んできた影に驚き、彼女は目を見開く。
剣をダガーで受け止める月菜の背中に。
「守護者共が・・・」
「彼女は・・・やらせない」
静かな声。その声に聞き覚えがある風花は驚く。
「えっ?」
「はあああああ!!」
同じ聞き覚えのある声が天使を斬り飛ばす。
「があっ?!
荒い息とともに陽菜と月菜が風花を庇う。
「くう・・・そ・・・」
二人は光となって消えていく天使を見る。
背中に風花を庇ったまま。
その光景に風花は大きく深呼吸をする。
己の中にある憎しみと恐怖を吐き出すように。
冷静に・・・あるがままの事実を受け入れるために。
「・・・ずっと疑問に思っていた」
風花は話しかける。
「どうしてあなたが私の父様と母様を殺したのか?」
それは疑問。
「・・・まさかと何度も思ったし、そのたびに何度も否定した。でも、今確信した」
とっさに誰かを助けるほどガーディフェンリルは守護者だった。
「あなたは自分の意思で殺した訳じゃないのね?」
それに驚く二人。
「私に襲い掛かろうとしたとき、あなたは止まった。必死で何かに抵抗していた。それが不思議とわかったの」
憎しみと悲しみ、そして恐怖。それを抱きながらも彼女はずっと疑問に思っていた。
どうして、ガーディフェンリルは風花を襲ったのか?
その答えを彼女は得ていた。
「・・・それでも、私があなたを斬り、ご両親を殺したのは変わらない」
苦しそうなその声に風花は己の疑問が正しいことを確信する。
「・・・憎しみと恐怖に負けない聡明で強い心を持つ娘よ」
上空から話しかけてくるのはガーディドラゴンである。
彼は風花の心の強さと聡明さを称えていた。
「褒美に余が知る限りの事実を教えてやる」
心の底から。
「・・・察しの通りガーディフェンリルは操られていた。契約したばかりで不安定なところを突かれただ。この支配を盤石なものとするために、あえて自意識が残ったまま精神的に強いショックを与えようと君たちを襲わせた」
その言葉におどろく三人。
大魔王は多くのことを知っていることに。
「それを行ったのは、お主たちが死神と呼ぶ男。その名はタナトス。先ほど逃げたあの忌々しき天使の一人のことだ」
その事実が本当なのか風花は月菜を見る。
「・・・・・・」
彼女のダガーを持つ手が震えるほどに強く握られていることが答えである。
体を操られ、自意識だけ残すという最悪の手段を使われていたのだ。
彼女自身が深く傷つくほどの。
その事実を察し、風花は口元を覆う。
「・・・今のお主は操られることなどあるまい。それほどまでに強くなっている。クライムがそう教えてくれたよ」
その言葉とともに杖を上空にかざすガーディドラゴン。その上空に現れたのは巨大な黄金の球体であった。
「これはクライムが使っていたファイナルアタックのほんの一部を余の呪文で再現したものだ。一発だけだが、その威力は上がっているものだと思え」
かつての最終決戦を思わせる一撃。
あの球体一つで街が消滅するほどの威力がある。
『さあ、最後の試しだ。これをしのいで見せろ。お前たちの後ろにいる者を守り抜いて見せろ。お前たちの幸せの象徴をな』
『!!?』
その言葉に二人は思い出す。
彼女達の後ろに風花がいる。
二人にとって、従妹であり、実の姉妹の様に育った大切な親友。
「・・・・・・」
彼女は何かに気づき、呆然として二人を見ている。
先ほどの事実が衝撃的すぎたのだろう。全身が細かく震え、ショックを受けている様子。
「そんな・・・・なんで・・・なんで二人が・・・」
だが、その衝撃は別の何かも含まれている様子。
すぐに動ける状態じゃない。
二人は決意する。すべてをかけて彼女を守ろうと。
その空気を風花は敏感に察したのだろう。
迫ってくる巨大な黄金の球体。
それを迎え撃とうとする二人。
「いや・・・」
彼女は泣き叫ぶ。
「死なないで」
その言葉に二人は驚く。
「死なないで!!××!!××!!」
最後の誰かの名前の部分は轟音でかき消された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます