魔王軍の宣言



 その激闘は、多くの人たちが見ていた。


 あらゆるメディアを通じてだ。


 かつて敵対していた二人の守護者。その二人も他の四人と力を合わせ、街を守ろうとしているのだ。


 だが・・・あと一歩だけ足りない。


 必死で突撃し、隕石を物理的に押すガーディバロン。大地操作の応用を隕石にしているゆえに、大幅に隕石の落下速度が低下。

 

 その隙にマリアが魔法で砕く。


 それを妨害しようとする天使たち。


 それを防ごうと動く残りの守護者達という構図。


 既に隕石は四分の一が消滅している


 街への落下で既に一キロ斬っている。


「厄介だな。守護者っていうのは!!」


 ガギエルが陽菜と剣で打ち合いながら舌打ちする。


「我々上級クラスの力はあると予想していたがここまで強いとなると」


「鍛錬と実戦に困ることはなかったからね」


 鋭くも思い斬撃に吹っ飛ばされるガギエル。その隙を狙って光の矢が飛んできて・・・


「やらせない。あなたの矢はすでに見切った」


 月菜がいつの間にか現れ、短剣にて矢をはじき替える。


「あんた・・・月菜を撃った」


「・・・やりにくいな」


 エギエルが舌打ちをしつつ弓を構え、無数の矢を一度に放つ。


 それをかいくぐり両者は激突。


 他の雑魚とタナトスと海花と進が担当している。


 斧を振るい暴れる海花を進が手にした銃でフォローしながら戦っている形だ。


 タナトスはそれでも笑みを崩さない。


「このまま粘れば我々の勝ちです。このまま何もなければ・・・ですが」


 それは事実であった。隕石を破壊するペースを上げているが、結界におる守りとそれを守っている他の天使たちがいるために難航している。


「だが、こちらとて一歩でも気を抜けば終わりなのは間違いない、ですが・・・不確定要素がまだある。だからこそ・・・」


「激突する瞬間まで戦い、お前たちを殺す。今度こそ射抜いて・・・」


 エギエルが矢を放とうとした瞬間だった。


―――――余もまだまだだ


「なあ!?」


 謎の声と共に無数の黄金の雷があちこちに落ちてきたのだ。


 それは余ることなく天使たちに落ち、天使たちは次々と消滅しながら落ちていく。


「仕留め損ねていたことに気づいていなかったとはな」


「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁ?!!?」


 声の主はエギエルの頭部を背後から右手で鷲掴みしていた。


 姿を見たタナトスの口から悲鳴が漏れる。


「この程度の結界で余のことを誤魔化せると思ったか?タナトスよ」


「わかってはいたがこのタイミングで動きますか・・・黄金の魔王!!」


 其れは第七の契約者。タナトスが黄金の魔王と呼ぶ存在であった。


「おっ・・・おの・・・ぎゃあああああぁぁぁぁぁ!!」


 頭部を鷲掴みにされたエギエルが必至に逃げだそうともがくがそれすらもすさまじい握力による激痛で中断される。


「おいおい、お前は余の怒りを買った二番目の相手だぞ?その相手を我が顎にて捉えたのだ———逃がすわけがなかろう」


「エギエル様!!」


 それを見た天使たちが十体、武器を手に一斉に向かうが・・・


「温い」


 左手に持った杖を一閃。彼らが手にした武器を粉々にしながら斬り飛ばしたのだ。


「一度に襲い掛かるのならせめてその数の桁を一つ上げてからこい」


「・・・相変わらず理不尽な・・・えっ?」


 そこでタナトスは気づく。


 飛び回り、カメラをまわすヘリコプター。


 多くの人たちが出て、こちらを見ていることに。


「いつのまに認識阻害の結界が解除されているのです?!我が禁呪の一つ・・・あっ」


 タナトスは思い出す。


 結界という単語と黄金の魔王が持っている杖にだ。


「まさか・・・」


「ご明察。余の武神具の力よ。この杖、竜頭操杖-—ゲイギュリオンのな」


 黄金の魔王は手にした竜の頭を模した杖をバトンのように軽やかに回しながら答える。


「・・・解除に気づかせることすらできないなんて、相変わらず理不尽な・・・」


「覚えてくれていたようだな。そうだ・・・古代文明の最終兵器、武神具どれも理不尽なのだよ」


 黄金の魔王が右手にて捉えているエギエルを見る。


「ぎゃあああああぁぁぁぁぁぁ!!」


「余の怒りを買った二番目の存在よ。処刑の時間だ」


 掴んでいた右手が黄金の光に包まれる。その姿はまるで、竜の頭のようだった。


「逝ね」


―――――――黄金竜の顎<ドラゴンバイド>


 その言葉と共にエギエルは頭部を握りつぶされ、そのまま爆発。光となって消滅していくところを、側に現れた金の書が吸い込むようにして回収していく。


「こいつのデータはあとで色々と役に立ちそうだ」


 黄金の魔王のあまりに凶悪な一撃にガギエルは驚愕を隠せない。


「馬鹿な。上級天使を一撃、それも握撃でだと?」


「お前が三人目だな」


「ひっ!?」


 ガギエルの口から悲鳴が漏れる。


 怒りというものすら生易しいほどの凶悪な覇気。それを一点に受けているのだ。


 いつの間にか目の前にいた黄金の魔王がその右手でガギエルの頭をつかもうとし・・・


 飛来してきた鎌を杖で弾き飛ばし、その隙にタナトスがガギエルをつかんで其の場から離れたのだ。


「危なかった」


「すまない。お前がトラウマになる理由がよく分かった。こいつは・・・化け物だ」


「ええ。同じ気持ちを分かち合えた同志です。死なせたくないのですよ」


 そういうタナトスも恐怖を隠し切れず、全身が細かく震えていた。


「ほう、お前に仲間を庇うだけの情があったとはな。少し見直したぞ」


 黄金の魔王。タナトスが陽菜達に語ったことは誇張ではない。


 本物の怪物である。


「同じ契約者としてカテゴライズしていいのかわかりません。だが、部下たちがいるのなら」


 黄金の魔王の周りを取り囲む多くの天使たち。その数・・・三桁超えているのは間違いないだろう。


「ほう・・・」


 容赦もないが合理的な方法に関心した様子の黄金の魔王。余裕は全く崩していない。


「確かに、先ほど余に一斉に襲い掛かるならこれくらいの数は必要だといった。それは間違っていない。運が良ければ隙を突くことも可能だろうな」


 その口から語られるのは・・・タナトスたちに絶望をもたらすものだった。


「余だけだったらの話だが」


「えっ?」


 タナトスが間抜けな声を漏らしたと同時にそれは起きていた。


 黄金の魔王をかこっていた半数の天使が飛んできた無数の斬撃によって切り刻まれ消滅。


 もう半数はいつの間か黒い杭のようなものが貫通しており、それにより消滅。


 一瞬で全滅していたのだ。


 その消滅と共に黄金の魔王の両隣にそれは現れていた。


 一人は純白の鎧に綺麗な剣を持つ男。背中に天使のような翼、そして青いマントが靡く。


 もう一人は漆黒の鎧に大きな穂先を持つ槍を手にした男だ。先端が鏃のようになっている悪魔の尻尾が動いている。


 それを見たガギエルの脳裏に嫌な予感を覚え、タナトスの様子を見る。


「な・・・ああ・・・」


 タナトスの表情に浮かぶのは絶望である。青を通り越し真っ白になった顔色がすべてを物語っている。


「どうした?あいつらのことをしって・・・」


「残りの・・・三英雄です」


「逃げていいか?」


「私もそうしようと思っているところです」


 ガギエルの即断に、タナトスも支持を表明。


「久しぶりだね。タナトス」


 何しろタナトスが怒りを買っているのは黄金の魔王だけではない。


「まさか蘇ってくるなんて思いもしなかったぜ」


 三英雄の残りの二人、白銀の勇者に黒銅の賢者。この二人の怒りも買っているのだ。


 三人はそろって告げる


『さあ、お前をもう一度滅ぼしにきたぞ』


 それは正しく処刑宣告である。


「ガギエル・・・隕石のリミッターを外しなさい」


「だな」


 隕石が加速して落ちていく、一応彼らも離脱するために落ちる速度をある程度制御していたのだ。


 それを外し、引力によりさらに加速して降りていく隕石。


「あなたは王。この隕石を放置することなど・・・」


「ああ・・・その通りだよ」


 そのタナトスの勝ち誇った顔はすぐに恐怖へと戻る。


「久々に書の力を開放することになるな」


 黄金の魔王の周りに現れるホタルのような黄金の光の粒子。


 それを見たタナトスは叫ぶ、


「っ、やっぱりそうなりますよね!!ガギエル、撤退しますよ!!」


「引き際が肝心か。抜け目ないな、お前も」


 残った天使たちを一斉に向かわせつつ二人は姿を消したのだ。


 加速し、落下していく隕石を残して。


「・・・一度滅んで本当にこのあたりの判断が大胆かつ、的確になりよったな」


 隕石を囮にして逃走した二人。


「仕方ない、楽しみは後に取っておいてやろう。すまないな二人とも」


「倒すべき奴がいるって確認できただけでよし」


「この場合は次出会えたら即滅っていうことで」


『異存なし』


 要は早い者勝ち。出会ったら即座に滅するということが三人の中で決まった瞬間であった。


 そして、彼ら三人の視線は眼下にいる守護者たちに向けられる。


 すでに玲央も隕石を支えることを止め離脱している。


「ごきげんよう。守護者達。我々が持つ書について教えてあげよう。創世の三つの書。滅びと誕生を司る金の書。それが余の力だ」


彼の周りで次々と黄金の光が収束。杖を腰にさし、両手にして黄金の光をすべて集めていく。


 両手を合わせて圧縮。そのまま隕石に向かって手を開く。


 その開き方は・・・


 まるでドラゴンが必殺のブレスを放つ瞬間のようだった。


――――――滅びの黄金奔流<ラグナスレイブ>


 こうして圧縮された滅びの黄金が放たれる。


 放たれる圧倒的な黄金の光の溢流。


 それが巨大な隕石と向かってくる天使たちごと飲み込んでいく。


 その圧倒的なエネルギーは十秒近くはなたれ、放ち終えた後には…なにも残らなかった。


 巨大な隕石は跡形もなく消滅していたのだ。


 たった一発の魔法によってだ。


 その圧倒的な光景は全世界が見ていた。あまりに圧倒的な力を。


 すべてが消滅したあと残ったのは黄金の光の残滓が空から降り注ぐ。


「改めて自己紹介と行こう」


 黄金の残滓を背に黄金の魔王は守護者たちに向き直り、名乗りを上げる。


「余の名はガーディドラゴン。魔神四強の一角、黄金のエキドナの契約者にして、創世の書の一つ、金の書の契約者」


 ガーディドラゴンと名乗った魔王は世界を見回して告げる。


「かつてこことは違う世界にてすべてを統一せしものだ。そして、余はこの世界も統一しようと表舞台に出ることを決めた」


 世界を統一すると。


「それってまさか・・・」


「世界征服ってこと?」


 陽菜と月菜の言葉に魔王――ガーディドラゴンは頷く。


「そうことになる。この世界も統一する必要があるのでな。おまえもそれで異存はないよな?」


 その言葉と共にガーディドラゴンの後ろに現れたのは、かつて世界を滅ぼそうとした魔王――クライムの姿。


「ふっ、滅ぼすのでは無く、制すると来たか。しかも、一度異世界にて成したことがあるとなれば・・・」


 クライムは笑いながら契約者であるガーディドラゴンに語る。


「見せてもらうぞ。お前の覇道を。我が契約者よ」


 その言葉と主にガーディドラゴンの体にローブがまとわれる。クライムの全身を覆うものと同じだ。


 頭のヘルメットにもクライムの鳥の骨のようなパーツが追加される。


「・・・まさかクライムとも契約を果たすなんて」


 クライムの隣には黄金の竜――エキドナの姿もある。


――――どうじゃ?妾の契約者は・・・最高じゃろ?


 他二人も紹介をする。二人とも契約者であるのは明らかであった。


「僕の名はガーディブレイブ。かつて白銀の勇者と呼ばれていたものだ」


「俺の名はガーディファング。同じく黒銅の賢者と呼ばれていたぜ」


 しかも、二人の手にしている武器はとんでもないものであった。


「・・・グラーヴィズナ・・・あんたが持っているのね」


 一本は武神具の中で最強と名高い剣だ。クライムを倒した際、陽菜が使ったものだが、彼女は持ち手ではなかった。


 その最強の剣を手にしている契約者が目の前にいる。それだけでも衝撃だった。


 だが、もう一つの衝撃はガーディファングが手にしている槍。


 それを見た守護神達が怯えていたのだ。


 あれは神殺しの槍。原初の三つの一つにして最も凶悪な武神具だと。


 守護神などの相手に特攻の武器。それだけでも十分に脅威といえる。


「それに加えて、あの創世の書、魔導書たちのオリジナルの三つの書の使い手でもあるなんて」


 創世の書もまた武神具とは別の古代の超兵器といえるもの。その三つをもとに他の書が作られている。


 あまりに三つが強力すぎるがゆえに、大幅にスケールダウンする形でだ。


 その強力すぎる書が三つとも向こうにある。


「アンタ・・・・本気なの?この世界を制するって」


「余は言葉をたがえることはしない。言ったはずだ、余はこの世界も制する。統一してみしえると!!」


 ガーディドラゴンは世界に向けて宣言する。


「先ほどのラグナスレイブはその狼煙よ。だが、それを地上に向けて使うことはないことを約束しよう。制するための世界、そして民が滅んでも意味がないのでな」


 その言葉に違いなどない。あれは世界すら滅ぼすことができる危険な魔法である。


 それを単独で使える時点で極めて危険である。


「これより我々新生魔王軍が世界制覇のために表舞台に立たせてもらおう」


 そんな力を持つ男を首領とする軍団が動きだす。


 たった三人だが、とてつもない実力を持った契約者三人の登場に世界は慄く。


『そんなことさせるわけがないでしょ!!』


 そんな彼らに啖呵切れるのは世界を護りしものだけであった。


 双子の叫びに、ガーディドラゴンは満足そうに頷く。


「・・・やはりそうでなくてはな」


「っ?!」


 その返答が逆に恐ろしかった。彼女たちが反発してくることも想定済といっているようなものだからだ。


 そういったことに仕事と立場の関係で聡い海花は目の前の魔王の器の大きさとその計算高さに戦慄すら覚えていた、


「…どうやら、その世界を制覇するってことに対して、私たちも計算に入っているわけね」


「当然だ。世界を護りし者たちよ」


 ガーディドラゴンは告げる。


「私が最初の舞台にこのタイミングを選んだのは三つの目的があった。一つは・・・果たすことができなかったが、牽制と後に楽しみを取っておく形にしておけば悪くはない。今後のためのいろいろの情報も得た」


「もう一つは、己が制しようとする世界を壊滅させかねない隕石の消滅か」


「察しがいい。流石財閥のトップをその若さで務めるだけのことはある」


 海花の返答に満足そうなドラゴン。


「なら問おう、我々の三つ目の目的は何か?」


 その問いに海花だけではない、他の五人もすぐに気づく。


「俺たちってことか」


「少なくとも、我々に用事があるのは確定ってことか」


「流石は新人ながらも名物となり、同じく新人ながら期待のホープとされた2人よ。的確な表現だよ」


 ガーディドラゴンは告げる。


「我々は君たち守護する者たちを見極めに来た」


 後ろの二人も武器を構える。


「君たちも我々に問いたいことがあるだろ?故にこのような機会を作らせてもらった」


 彼の宣言に対して六人はもちろん・・・


「上等。世界を征服するなんてそんなことさせないわ」


「私たちはガーディアンズ。世界の守護者だから!!」


 陽菜と月菜の言葉に皆が続く。


 その光景に満足そうに頷き、ガーディドラゴンは宣言する。


「なら余にお前たちが世界を護るに値する者だと見せてみろ」


 マントを翻し彼は告げる。


「さあ、始めようか。試しの時を!!」

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