戦争開始
彼女達は変身した状態でタナトスの方へと向かっていた。
「あなた達と関わるのはこれっきりにしたいものですね」
「それはこっちのセリフだ!!
「あなたを放置することなんてできない」
怒りを隠そうとしない二人に対して、さらにうんざりした様子を見せるタナトス。
「あなた達と関わると、また黄金の魔王がやってきそうでね」
黄金の魔王の名に二人は誰を指しているのか察する。
タナトスが酷く狼狽えるほどの男。
「あいつは何者?」
その問いにタナトスはしばし考える。
「・・・あれは私を一度殺した相手。」
気まぐれなのか、意外にも彼はその問いに答えたのだ。
まるで己の内にある恐怖を吐き出すようにだ。
「星の海の向こうあるグランフィズナ。そこで私を滅ぼし、その世界を統一させた後、姿を消した三人の英雄の一人にて、王の中の王、黄金の魔王、または至高の魔王帝とされた存在」
タナトスはかつて魔王としてある世界を支配しようとしていた。それを阻み、心に深い傷を負うほどに圧倒的に蹂躙され、滅ぼした男なのだ。
「神の手と目をもち、無双の武力をもつ武王」
その武、まさに無双。
「敵対した相手を知略、謀略全てを駆使して蹂躙する覇王」
知略において、敵う者なし。
「全てを融和、争いを収め、平和を誑す聖王」
人を惹きつけるほどの慈悲にあふれていた。
「民を思い、世界を安定して回す賢王」
混沌とした世界を民が暮らしやすいよき姿に変えた男。
「そして、それに飽き足らず自身は天災いえるほどの力、そして黄金の書と黄金の竜と契約をした最強の魔王」
武だけでなくその魔力、そして契約者としての力も普通ではなかった。
「今でもその世界では黄金の魔王という二つ名と共に、五つの王の名を欲しいがままにする至高の魔王帝とされている男、古代故にすでに死んだと思っていたのに、まさか時空を超えて現れるなんて」
タナトスは深く嘆く。
「あいつさえいなければ・・・と何度も思っています。だが、こっちから仕掛けようにもあいつの素顔のデータは復活の際に失われている。でも・・・それでも恐怖だけは消えてくれない」
タナトスを一度殺した相手。それだけでも衝撃の事実だと言えた。
「・・・いい気味じゃないの。そんな怪物がこの街にいたなんて」
「ええ、私の最大のトラウマ。それがこの街にいる。だからこそ、決めたのです。この街ごと消滅させると。あの化け物を殺すのです。これくらいはしないと」
タナトスは告げる。
恐竜絶滅の原因となった巨大な隕石を召喚。それによって街ごとすべてを滅ぼすと。
「・・・そんなことさせるわけがないでしょう!」
それに対して月菜が怒りを爆発させていた。
「あなた…命をなんだと思っているの?!この街にはたくさんの人たちがいるんだよ?それをあなたは何と思っていないの!?」
月菜の訴えにタナトスは眼下の街を見、そして無感動に告げる。
「下にいる塵芥のことがどうしたので?むしろいい囮になりますよ。あれは民を見捨てないのでね」
「人はみんなそれぞれに大切な人がいるんだよ?それが失われる痛みがわからないの?」
「・・・そうですね。あなたが殺したのですから」
「・・・」
「自ら奪ってしまったがゆえに理解できたのでしょう?大切な人だということに」
タナトスの言葉を遮るのは飛んできた炎の矢だった。それをとっさに鎌で切り裂くタナトスは矢を撃ってきた相手を見る。
それは悲痛にうつむく月菜の肩を優しくたたく陽菜であった。
「納得したよ。あなたは倒さないといけないって」
陽菜は淡々と告げていた。
淡々と・・・感情をこめずにだ。
「あんただけは・・・絶対に許さない。月菜を・・・風花を・・・私たちの大切なものを奪ったあんただけは絶対に許さない!!」
「できるかな?あなた達程度にこの命を奪うことなど・・・」
タナトスの言葉がそこで止まった。
彼に向けて回転しながら飛んでくる何かによって
それをとっさに防ごうと鎌を振るうのだが、あまりの勢いに弾き飛ばされる。
「なっ・・・ぐ・・・」
飛んできたのは魚の鰭をくっつけて作ったような大斧。
それがタナトスを吹っ飛ばし、飛ばしてきた主の手へと戻ってきたのだ。
「やっと出会えたわね、お父様とお母様。伯母様と伯父様の仇」
それはガーディバハムートに変身した海花であった。
「あっ・・・」
その姿を見た月菜が声を失う。
海花からしたら、月菜は加害者。海花の両親を殺し、そして妹である風花を傷づけた加害者であるのだ。
「あなたは仇じゃないわ」
そんな月菜に対する海花の声は優しいものだった。
「私だってきっちりと整理は付けたから。あなたが悪いわけじゃない。倒さないといけない仇はあいつだって」
大斧を肩に担ぎながら海花はタナトスに向けていた視線を月菜に向ける、
「月菜ちゃんはずっと苦しんだ、それだけで十分だから」
その言葉に泣きそうになる月菜。
「あっ・・・その・・・」
だからこそ勇気を振り絞って言葉にしようとする。だが、うまく言葉にできずに口ごもるのを支えるのは陽菜だ。
彼女の手を繋ぎ、視線と繋がった心から伝わる「大丈夫だよ」っていう気持ち。
それが月菜を後押しする。
「ごめん・・・なさい・・・」
ようやく口にできた言葉。
それは彼女がずっと言いたかった言葉だった、
「ごめん・・・なさい・・・ごめんなさい。私・・・私はずっと謝りたかった。伯父様を伯母様を・・・風花を私は・・」
謝罪だけでは意味がない・・・そう切って捨てるのは簡単ではあった。
だが、この言葉には月菜の精一杯の気持ちが込められていた。
事件の直後なら受け止めることができなかったかもしれない。
だが、しっかりと整理をつけた今の海花になら受け止めることができた。
その謝罪の気持ちを。
「昔の優しいままの月菜ちゃんでよかったわ」
嗚咽と共に出てくる謝罪の言葉に海花は月菜の頭をなでてやることで答える。
その言葉にさらに泣きそうにある月菜。だが、この場で泣き崩れることは許されないと自分を必死に奮い立たせる。
「うん。でも、少しは心も強くなったか。なら、続きはあいつを倒してからにしましょう」
「・・・っ、はい!!」
「よかったね。月菜」
そんな月菜に話しかけてくるのはガーディウィッチに変身したアリスだった。
「アリスちゃん。話の続きはこいつを倒したあとでいい?」
「うん・・・でも、本当にいいの?そりゃ、私は根無し草だからありがたいけど」
「他人ごとに思えないから。あなたを一人にはさせないわ」
「えっ?」
「海花さん?一体の話を?」
アリスと海花のやり取りに首をかしげる陽菜と月菜。
「それはこの戦いが終わった後の楽しみにしましょ?」
四人のやり取りにタナトスは手を出すことができないでいた。
「あら?ずいぶんと臆病なのね。今の私たちは隙だらけなのに」
斧を担いだ海花の挑発にタナトスは冷や汗を流しながら答える。
「だれが、隙だらけですか?そんなことしようとしたら馬に蹴られるし、獅子に嚙み千切られるわ」
その指摘のとおりである。
「無粋な真似をさせねえよ」
「そういうことだ」
残り二人のメンバーがすでに来ていたからだ。
「ったく、遅いぜ、月菜ちゃん」
ガーディバロンに変身した玲央が笑いかける。
「君のことはこちらも探していた。見つかってよかったよ」
ガーディイグリシオに変身していた進も笑いかける。
「月菜ちゃん。これから先も色々あると思う。くすぶっている気持ちもあると思う、だから、何かあったら遠慮なく俺を頼れ。これでも先生になったんだぜ?大船に乗った気持ちでいてくれ」
玲央の言葉に対して進も肩をすくめながら答える
「こちらは刑事だ。まだまだ新米だけどね。あの事件のことも調べもついている」
進は冷静に告げる。
「月菜ちゃん。君は確かに加害者なのだろう。だが、それはあいつに仕立てられた結果だ。自分の意思でやっていない。だから、君は被害者でもある。それも、誰よりもつらい思いをしている一番の被害者といっていい」
そして、進の視線はタナトスへと向けられる。
「ったく、相変わらず理屈だらけだな。お前は」
「そういうお前はどうなんだ?」
「単純だ」
玲央はタナトスを指さして告げる。
「一番の元凶をぶっ飛ばす。それだけだろ?」
「本当にシンプルだね。君は・・・でも、僕もそう思うよ」
二人はかなり対照的な性格をしている。
最初出会った時はなかなか反りが合わずに衝突ばかりしていた二人だ。
だが、二人は肝心な部分が全く同じだった。
それ故に、最高の相棒同志となったのだ。
それが・・・守護者としての心。
『さあ、お前のその罪、購う時が来たぞ!!』
正義の味方としての誇りを二人は持っていたのだ。
「ふっ・・・ならやってみせるがいい、ガギエル!!戦争の開始ですよ」
「承知した」
タナトスの言葉にガギエルも応える。
「主が下した天罰―――メテオフォールを受けるがいい」
四対の赤き翼を広げたタナトス。その側でガギエルともう一体の弓を持った天使が四対の翼を広げる。
その側で三対の翼を広げた者たちが六人、隕石の周りに陣取る。
そして、無数の一対の翼を者達――天使たちが各々武器を手にしてくる。
「我々天使たちの妨害を跳ね除け、能天使たちの張る結界を潜り抜け、上級天使たちの襲撃を防ぎつつ天罰を跳ね除けられるかな?」
タナトスが天使の翼を広げつつ守護者達に宣言する。
「無論、我々とて守ってばかりではない。お前たちを倒すことも主様の希望なのだから」
ガギエルの言葉を遮るのはすさまじき轟音であった。
隕石にぶつかる何かの爆発。それにより隕石の一角が消し飛ぶ。
「何?」
ガギエルの表情に初めて動揺が走る。
その爆発を行ったのは・・・
「隕石を砕くなら任せて。火力になら自信があるから」
ガーディウィッチになったアリス。その足元に魔法陣を展開させ、傍らに紫色の魔導書を展開、タクトを振るいながら術式を編み込み、もう一発先ほどの魔法を放とうとしている。
手にしたタクトの先端を振るい放つのは・・・
―――――エクスプロージョン
杖の先端から放たれる光の球、それが着弾するとともに大爆発を起こし隕石の一部が砕け散る。
「・・・まさか最上級の爆裂魔術、原子爆発系の技をこうも短い時間で放ってくるとは。しかも、結界を貫通する付与まで・・・」
「当然じゃない。この子はこの私――七大罪リリスの子孫。可愛い孫みたいな子なのよ」
アリスの側に現れるのは魔神リリス。
「あなた達が危険視していた魔女の民の最後の生き残りにして、すべてを継承した子。あの最終決戦ではまだ私は具現化できていなかったけど、今は違うわ。この子には私がいるし、仲間たちもいる。この程度の隕石など吹き飛ばしてくれる。魔女の里を滅ぼした報いと共に恐れおののくがいいわ!!」
「リリス・・・」
「私もあのタナトスには恨みがあるってわけ。協力するわ。私とアリスと一緒なら」
アリスは頷きながら再度発動準備を行う。
「一緒なら、あの隕石を砕くことができる!!」
「ちぃ、タナトス、生き残りをそのままにしたのは失策だぞ」
「魔女の民・・・リリス、あなたの子孫は本当に厄介です」
タナトスの罪状が一つ増えた瞬間であった。
「さて・・・こうなるとやることがシンプルで助かるな」
「ええ・・・」
迫ってくる天使たちに対して陽菜達は叫ぶ。
―――――第一神具召喚!!
陽菜の手にはフェニックスの尾羽を模した長顕――フェニックスソード。
月菜の両手にはフェンリルの牙を模した二本の短剣――フェンリルダガー。
それを手に天使を切り捨てる。
それとともに二人はさらに宣言する。
――第二神具召喚!!
陽菜の背中にはフェニックスの翼――フェニックスウィングが現れ、
月菜の両足にはフェンリルの後ろ脚を模した——フェンリルクロ―が装着
陽菜は空を羽ばたき、月菜は空を駆け、天使達の軍団に向かっていく。
「・・・戦争開始か」
その日、街の人々は驚愕の光景を目にすることになる。
真夜中に突然現れた巨大隕石、それを囲むようにして守る天使たちと、隕石に攻撃を加えながら天使たちと戦う守護者たちを。
しかも守護者は四人ではない、最終決戦で敵として戦った二人も共闘していたのだ。
互いに信頼し、隕石を砕こうとしているのが見てわかる。
「なんで・・・」
それを見て驚愕、屋敷を飛び出したのは風花であった。
「なんであいつが・・・」
両親,そして伯父、伯母の仇である謎の少女。
血まみれで倒れる四人を見て悲鳴を上げる風花と血に濡れた短剣を手に風花に迫る少女の姿と重なる、
彼女に傷つけられた背中の傷がうずく。
だが、同時に疑問に思ってもいた。
一瞬で殺せる状況だったのにダガーを振り上げたまま、しばらく固まっていたのだ。
全身を細かく振るわせ、その場から動かなかったのだ。その隙に風花はその場から逃げようとして、背中を斬られた。
目を覚ませば月菜が行方不明という状況。
はじめは混乱していた。だが、現場検証委立ち会う内に風花は違和感を覚えていたのだ。
殺した相手は守護者と呼ばれ、すさまじい力を持っていた、
それこそ、一撃で人体を跡形もなく破壊できるほどに。
だが、遺体は綺麗だったのだ。
しかも、逃げようとする余裕もあったのにだ。
無言で殺した相手なのだが、違和感がある。
「・・・うん」
ずっと考えて一つの答えを風花はだしていた。信じられない答えだが、それだとすべてがしっくりと来るのだ。
「見極めてみるか。風が・・・そう言っている」
その言葉と共に風花は走り出す。
仇のはずなのに、そう思えない守護者―ガーディフェンリルの元へと、
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