魔蟲王と帰還

 買い物帰りの二人。彼らは路地裏に結界が張られていることに気づく。


 隠蔽型の結界。その結界の性質は彼らがいたある世界の物に近い。それに気づき彼らは結界の中に突入する。


 そこにいたのは・・・


「はあ・・・はあ・・・」


 ボロボロになって立っているのもやっとという状態のベルゼブブの姿と


「出来損ないの実験体のくせにしぶとい」


 それを冷徹に見下ろす天使の姿だった。


 彼の両隣にもほかに五体の天使がいる。


「忌々しい、逃げたお前があちこちで暴れたおかげで我々の「楽園」にどれだけの損害がでたか。この上、目撃者の消去すら邪魔するか。この前逃げられたおかげで楽園の情報が漏れたと考えるべきなのに」


 天使は手をあげて告げる。


「漏れた目撃者を探していましたが、こうやって見つけたからにはお前を処分が最優先。その体内にある魔神ベルゼブブのデータを回収させてもらう。これまでやってきたヒーローごっこはここで終わり・・・」


「誰がヒーローごっこしているといった?」


 その天使に対してベルゼブブは吠える。


「俺はただ探していただけだ。お前たちが虫けらのように扱っていたみんなを。俺の家族を、兄弟を!!俺が脱出できたのはみんなのおかげだ!!だからこそ、今度は俺がみんなを助けたい!!そのために戦っている」


 己の戦う理由。それは単純明快だったのだ。


「あいつにも家族がいる。それを消すというのは残された家族が悲しむ。お前たちがあいつを狙うというのなら・・・俺が戦う。それが戦う理由だ!!」


 救いたい者たちがいる。繋がりを知っているからこそ、他人とはいえそれを引き裂くような真似を彼は許せないのだ。


「実験体同士が下らない情をもって。お前たちの命は我々のものだ。故にその命を返してもらいますよ。いらない奴に我々が管理している命を持たせる理由などありませんから」


 ベルゼブブの戦う理由を下らないと切って捨てる天使。


「我が力天使マギエルの名においてこの者の命を御許へとかえす」


 剣を手にベルゼブブに迫る天使――マギエル。


 振り下ろされる剣がベルゼブブを捉える直前。


 それは割って入っていた。


「があっ!?」


 吹っ飛ばされるマギエル。


「ごめん・・・勇兄。我慢できなかった」


 ベルゼブブの前にいたのは翔矢だった。手にはショートソードくらいの大きな穂先を持つ槍が振られていた。


 翔矢はそれでマギエルを切り飛ばしたのだ。


「いや、星兄も許してくれる。それに翔矢がしなければ、僕があいつを斬っていた」


 翔矢の行動を責めない勇矢。彼もすでに剣を手にしている。


「がっ、馬鹿な、この区域は結界で封鎖していたはず・・・」


 マギエルは胴体に走る切り傷を抑えながら翔矢をにらみつける。


 傷からは光が漏れ出している。


 ベルゼブブはボロボロのまま翔矢を見る。


「なぜ・・・」


「礼はするっていった。それにあんな外道放置できなかったから」


「ちぃ、人間が生意気にも傷を・・・」


 マギエルは手から光を放ち、傷を癒そうとする。


「どういうことだ?」


 だが、その傷がふさがることはなかったのだ。


「神滅牙槍ゲイグニルの力だ。これで傷つけられた相手は俺の許可なしではその傷を癒すことはできない。神殺しの権能の一つだ」


「ゲイグニル・・・だと?!」


 その名を聞いたマギエルが必死で傷を治そうとする。だが、傷は全くふさがらない。


「馬鹿な!?原初にして最凶のあの武神具の使い手が現れたというのか?そんなこと信じられな・・・」


「マギエル様。お下がりください!!」


「こいつは我々が!!」


「聖なる槍の一撃を受けるがいい!!」


 驚くマギエル。その彼を庇うように四体の天使が槍を手に突進してくる。


 ベルゼブブを庇いながら迎え撃とうとする翔矢。だが、それを片手で止めるのは勇矢である。


 彼は突進してくる天使たちに向かって余裕を持って歩いていき・・・


「お前はすでに終わっている。僕たちを敵に回した時点で」


いつすれ違ったのかわからないくらいにいつの間にかその天使たちの背後に立っていた勇矢。


 それに驚き振り向く天使たちは自分の体が突然両断されていたことに遅れて気づく。


「お前ら外道にしてはマシな末路だと思え。苦しみを感じないまま逝くのだからな」


「なっ・・・あ・・・」


 そのまま光となって消滅していく。


「やはり、グラーヴィズナも有効か」


「最強の武神具まで!?なんで使い手と共に・・・」


 マギエルは悲鳴と共に飛び上がる。


「かなうわけがない。理不尽の権化と呼ばれた武神具。その中で最凶と最強の使い手がいるだなんて。急いであの方に報告を・・・」


 そこまで言いかけてマギエルは言葉を止める。


 彼の胸をどこからともなく現れたゲイグニルが貫いていたからだ。


「がっ・・馬鹿な!?」


「理不尽の権化。うまいこと言う」


 いつの間にか背後にいた翔矢が告げる。


「俺は狙った獲物を逃がさない主義だ。必ずこうして仕留めることは覚えてくれ」


「がああぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 絶叫とともに貫かれた箇所から光となって消えていくマギエル。


「目撃者は記憶処置か、そうでなければ即滅に決まっている。お前たちのような輩にどちらを選択するべきか、迷うでもなかった」


「そうだね。情報漏洩という点でも問題なし。あとは・・・」


 ボロボロで辛うじて立っているベルゼブブを見る二人の兄弟。


「・・・すぐに診てもらった方がいいね。星兄さんならこういったことも得意だったはず」


「おい・・・俺はお前たちを巻き込むつもりなど」


「そんなの後。すでに巻き込まれたし、それに恩は必ず返すって言ったよ」


「恩にもなっていないのにか?」


「気持ちが大切ということだ。そっちだって大切な目的がある。そのために死ねないのなら、こちらの手を取るべきだ」


 勇矢は手を差し伸べる。


「君の勇気と優しさ、そして吠えた愛は心に響いた。だからこそ、あなたに手を差し伸べたい」


 その手に対してベルゼブブはためらいを見せる。


 巻き込んでいいのかまだ葛藤していたのだ。


 だが、その最中に限界を迎えていたのか倒れそうになった。


 倒れそうになる体を支えたのは翔矢だ。


「とにかく連れて行くから」


「…どのみち、限界だったか。頼む、このままでは・・・皆を助けられない」


 そう言って勇矢の手を取るベルゼブブ。


それは彼なりのけじめだった。手を借りるのなら差し出された手を取るべきだという思い、残った力でその手を取ったのだ。


 そのままベルゼブブは気を失う


「うん、星兄さんや翔矢が気に入るのもわかる。死なせてはいけない男だ」


 そして、ベルゼブブの体が変わっていく。纏っていた昆虫の様な外骨格が消え、中から現れたのは・・・




「蓋を開けてみれば、まさかの雷斗君・・・だったというわけか。通りで翔矢や私を知っているわけだ」


 星矢はベルゼブブこと黒宮 雷斗を見ていた。


 翔矢は非常に動揺していたが、ともに居た勇矢が冷静に対処してくれたおかげで、今は落ち着いている。


 それでいて、巻き込みたくないという発言の理由も納得していた。


「…そして、これはひどい」


 魔導書を通して出た情報を見るにその体はボロボロであった。


「よくもまあ、この状態で・・・」


「・・・っ」


 気を失っていた雷斗が目を覚ます。


 冷静に今の状態を見て、色々とばれていることもすべて把握。その上で彼は冷静に問う。


「・・・どれだけ寝ていた?」


「一時間ほど。それとなるほど・・・魔神と無理やり融合させるなんて無茶なことをやられているようだね」


 星矢の言葉に息を呑む雷。


「そうか・・・この体についているのは魔神っていうカテゴリーか?」


――――蟲の王。七つの大罪の悪魔が一柱、魔神四強の次に有名だったわ


 突然現れたエキドナの納得した様子の三人。


「守護神にも匹敵する存在。不完全なままデータだけを融合させるか。だが、これなら・・・」


 そして、クライムが体を見て何やら術式を展開。色々といじり始める。


「ベルゼブブは一度滅ぼされ、人格がないままデータだけで封印された。それが幸いだったな。方法はなくはない」


「・・・意外だな。お前が進んでそんなことをいいだすか」


 星矢の言葉にクライムは少し沈黙。


「もともとはこれが我の役割だった。だが、あいつらは我を裏切った。我が友を殺してしまった。それが許せなかった・・・」


「そうか」


「その怒りはすでにない。我は世界に対して挑み、そして敗れたのだ。怒りはそこで区切りとすると」


 クライムは告げる、


「だが、世界の行く末は気になる。故に蘇った。その際に勝手に体を使ったこと、謝罪する。その上で聞きたいことがある。契約をそのままにしているのも問いたいことがあった故」


 それは星矢に対する問い。


「・・・エキドナとの契約をかわし。我を止めた第七の契約者よ。聞きたかった。お主の目的は?どうしてお前はこれだけの力を得た?」


 最終決戦の際に彼が下した直接の介入。それをみられていたことに驚きつつその問いに真っ直ぐに答えることにする。


「単純だよ。あの二人・・・いや、風花を含めると三人か。彼女たちを護りたい。あの子たちの幸せを願っているだけだよ」


 それは彼が転生してから最初に決意したこと。それをずっと彼は実行しているだけなのだ。


「そうか。なら我はその邪魔をしてしまったわけだな」


 クライムは星矢がどうして介入してきたのか、その理由を察した。


「そういうこと。まあ、君の信念もわかる。あの時のことの元凶とはいえ、それ以上責めはしない。そちらはその信念のために己の命、そして全身全霊をかけて挑んだ。それを尊重している」


「そうか」


「だが・・・このままで終わらせると言ったら話は別になる」


 星矢はクライムに迫りながら告げる。


「二人にあの姿をみられてしまった。その補填を君にお願いしないといけない。基本存在しないことで、うまく暗躍できたからね」


 星矢にとって最大の問題は第七の契約者の存在がばれたことだ。


「これよりこちらの計画は次の段階に進まないといけなくなる。まだ十分な戦力とはいえないのにね。だからその補填をお前にあてる」


「我の力を欲するというのか?」


「ああ。契約をしたのだろ?」


 星矢は手を差し伸べる。


「なら責任はとってもらうぞ?私の目的のために、魔王軍を創設する手伝いをしてもらう」


 星矢は次の段階へと進もうとしていた。


「魔王軍だと?」


「まあ、その前に彼の治療からだけど。彼には恩があるし、弟の友人だ」


「・・・治療しながら、プランを聞かせてほしい、確かに復活のためにお前に干渉した責任はある。協力できるかわからんが・・・」


 本当に真摯なクライムに苦笑する星矢。


 かつて古代文明を滅亡させ、現代でも世界滅亡の危機に陥れた魔王とはとても思えない。


「手伝ってもらいたいという理由の一つに君の人柄もあるのだけどね。治療はどのようにする?」


「分離はできぬ。なら答えは一つだろう?」


 クライムの答えは単純である。


「完全に融合させ、ベルゼブブそのものにする・・・か」


「だが、その方法だと人間の姿を捨てることになる。何か別に力を一時的に託す器があれば・・・」


 その問題に対して、三人はそろって同じ結論に至ったのか顔を見合わせ、互いに契約している書を出したのだ。


 三角形に並べられる三つの書。


 書が共鳴を興し、その中心から光が集まる。そして生まれたのが・・・新たな書であった。


 漆黒の色をした魔導書である。


「これなら器になるだろ?」


「魔導書・・・そうか。お前たち、武神具だけでなく創世の書の契約者でもあったのか。規格外の力が集結しているのがよくわかる」


 クライムは生み出された魔導書を受け取り、吟味する。


「申し分ない。後は魔導書そのものとうまく適合させればいい。ついでに属性をきめておけばいいだろう。ベルゼブブは雷と毒だ。そのように調整して新たな書とすれば・・・この適合率の高さから本人の適性も雷と毒なのは疑いようがない、これなら契約者と同じ状態に持っていくことが容易に・・・」


 その上で今後の治療の道筋を色々と考察、つぶやく様子を見せている。


「そうか・・・今ので確信したよ。それがお前なのだな。研究者でもあり、そして医者。それも救うことが生きがいの男・・・」


「・・・だからこそ、救いたかった人がいた。それを奪われたことが許せなくてな。このやりとりも繰り返しになってしまうな」


 その本質すらも否定しないクライム。


「改めてよろしく頼むよ」


 そんな彼に手を差し伸べる星矢。


「ああ。こちらこそよろしく頼む。我が初めての契約者――星矢よ」


 それを取るクライム。ここに契約は完全な物となった。





 目覚めたら白い天井が彼女――月菜の目に飛び込んできた。


「・・・私は」


 まだ目覚め切っていないぼんやりとした意識。


 まず思い出すのは黄金の光をまとった謎の存在。


「・・・そうだった。私は怪我を・・・」


 そこで彼女――月菜は思い出していく。


 因縁の相手である魔王クライム。その復活の阻止のために生まれ育った街に戻ってきたこと。


 そこで契約という形で復活を果たしたクライムを発見。双子の姉である陽菜も駆けつけたところで、もう一つの因縁の相手――死神の手によって陽菜を庇い重傷を負ったこと。


 出血、朦朧としていく意識を必死でつなぎ止め、上を見れば死神がクライムの命を狙い、逆に返り討ちに会った光景が映っていた。


 クライムが契約を交わした相手はすでに別の存在と契約を交わしていた謎の契約者。


 おそらく七番目に確認された月菜達と同じ存在。


 死神は黄金の魔王と呼び、怯え、必死で逃げようとしていたのだ。


 尋常な相手ではない。


「あいつを探さないと」


 その謎の契約者を探さないといけないという結論に至り、月菜は起き上がる。


「怪我は・・・もう治っているのね」


 必死で治してくれた陽菜とアリスの相棒であるリリスの姿を思い出す。


「行かないと・・・」


 彼女が窓を開け、そこから外に出ようとした時だった・・・。


「あーやっぱり!!」




 時は少しさかのぼる。


「いきなり連絡があった時はびっくりしたわよ」


「ごめん。でも病院の手配ありがと」


「いいのよ。私も風花も探していたのだから」


 陽菜と海花が病院の廊下を歩きながら、月菜のいる病室に向かっていた。


 すでに月菜が運び込まれて一日たっていた。


 眠ったままの月菜のことが心配で学校帰りに陽菜が訪ねてきたのだ。


 怪我自体はすでに治っている。


「それより・・・本当なのね?クライムが復活したこと。それと契約した奴がいることも?」


「信じたくないけど」


 陽菜は遠い目をしながら振り返っていた。


「しかも、魔神四強の一角――黄金のエキドナの契約者でもある」


 二人の後ろをついていくアリスがその契約者のもう一つの脅威を伝えてくる、


――――クライムと同等―またはそれ以上の力を持つ魔物たちの神。四柱の最強と呼ばれし者がいた。


 三人と契約している者たちも脅威を口々にする。


――――私がその下――七大罪が守護神クラスと同等。四強はその上――クライムと同等といっていい。


 七大罪――色欲を司る魔神であるリリスがそう告げる。


―――――お前も変わったものだ

 リリスの真摯な態度に他の守護神達が驚いている。


――――我が母上が人間と契約することもそうだが・・


――――リリス。お前が人間と契約を結ぶこともそうだが。


 フェニックスとバハムートはそろってリリスに語り掛ける。相当長い年月の付き合いがうかがえる。


―――あなた達も子孫ができたら判るわよ。愛しい子孫たちがあの子を除いて皆殺しにされた怒りと共にね


 その衝撃に事実に陽菜と海花は驚く。そろってアリスの方を見ると、アリスは淡々と頷くだけだった。


 悲痛なものは感じられなかったが、逆に淡々とした態度が痛々しかった。


「・・・バハムートとリリスさん・・その話、もう少し詳しく・・・」


 いろいろと聞かないといけないことがあり、海花が問いかけて、言葉を止める。


「!?」


 陽菜が突然何かに気づき、走り出したのだ。


「ちょっと!!病院内で走らないで!!」


 走り出した陽菜が病室のドアを開ける。


 そこで見たのは窓に足をかけて外に飛び出そうとしていた月菜の姿だったのだ。


「あーやっぱり!!」


 その光景に月菜が目を丸くして驚く。


「どうして・・・?」


「・・・双子で契約者になったからかな?私達・・・繋がっているよ?」


「えっ?あっ・・・」


 月菜が陽菜の言葉にようやく気付く。


「まったく、変なところが鈍感なのは相変わらずで・・・」


「ちょっとまって。その、繋がっていることはわかるけどその・・・」


「戸惑っているのはわかるけど逃がさないよ。やっと捕まえたから」


 陽菜は月菜に迫り、そのまま抱き着いた。


「…無事でよかった」


 そして、そのまま泣き出したのだ。


「ずっと・・・ずっと心配していたんだよ?」


「こうなるから帰れなかった。だって・・・私は・・・」


「やれやれ・・・どうやらうまく引き留めてくれたみたいだね」


 月菜が戸惑っている中、病室にやってきたのは星矢であった。


「星矢?」


「やっとだよ。まったく・・・そして、この好機を私が逃がすと思った?」


 なかなか意地の悪い笑みを浮かべる星矢。その理由を月菜はすぐに知ることになる。


 また一人月菜を抱きしめてくるものが現れたことで。


「馬鹿・・・どこほっつき歩いていたの?」


「奏・・・姉さん」


 長女――奏が涙を流しながら月菜を抱きしめたからだ。


 そこにまた二人。


「月菜姉・・・」


「本当に月菜姉さんだ」


「琴音に天音・・・」


 次々と月菜の元にやってくる。


 そして・・・


「この馬鹿・・・」


 そこにやってくるのは風花である。


「風花・・・」


「ずっと待っていたんだよ?お帰り・・・」


「あっ・・・」


「まったく、家出娘を捕まえる方法としては完璧ね。久しぶり、月菜ちゃん。色々と話したいことがあるけど、今はただ・・・お帰りって言わせて」


「海花・・・さん」


 完全につかまった月菜の状況に呆れた視線を星矢に向けつつ、月菜を歓迎する海花。


 そこにさらに追い打ちとして・・・


「やっと帰ってきよったか。待ってたで」


「多くは聞かない。でも、無事でよかった」


 幼馴染である健太郎と未来もやってきていたのだ。


 二人とも月菜の帰還を喜んでいた。


 そこで月菜は悟る。完全につかまってしまったと。


 それが星矢の策であったことも。


「星矢・・・やってくれたわね」


「ずっと帰ってこなかった罰だよ。甘んじて受け入れるように。・・・・・・本当に元気でよかった」


 意地の悪い笑みのあと、優しい笑みを浮かべる星矢。

 

其れだけでずっと案じてくれたことが伝わってくる。


「降参・・・そして、ごめん・・・なさい。みんな」


 こうして、逃げる間もなく月菜は捕まる形になってしまった。




「そうか。元気そうでよかったよ」


「ホントホント・・・」


 その様子を病室のドアから見ているのは男四人である。


「ホント陽菜姉にそっくり」


「だよねえ。双子って感じがする」


 一組は月菜がいなくなった後に弟になった勇矢と翔矢。


「まあな。何とか再会だ」


「こちらで行方不明届けを棄却しておこう。ややこしい手続きはなんとかする」


 もう一組は契約者の同志といえる玲央と進。


「あれ?あなた達は・・・それと・・・誰?」


「えっと・・・久しぶりといっていいかな?」


「大きくなったよ」


 久しぶりといえる玲央と進はいいのだが・・・


「えっと・・・どう名乗ればいいのかわからないね」


「まあ、ストレートに行くしかないよ。初めまして月菜姉さん。この度弟になった・・・」


「・・・姉さん?って弟!?」


 月菜に家族が増えてしまったことを説明するのに少し時間がかかったという。



「・・・」


 その様子を見ながらアリスはその場を去ろうとする。


 よかったねと言いたげな笑みは少し寂しそうにも見える。


「ちょっと待ちなさい」


 その肩に手を置き、引き留めたのは海花だ。


「何?」


「あなたは私と来なさい」


「お姉ちゃん?」


 風花がその様子を見て声をかける。


「月菜ちゃんがお世話になったみたいだからね。・・・・・・あなたを一人にはしない。」


 アリスにとってそれもまた運命の出会い。


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