復活の魔王と第七の契約者



 夜、街の上空で光が集まっていき形をとっていく。現れるのはかつて世界を滅ぼさんとした魔王クライム。


「・・・復活か。あんなことを言って蘇るのはなかなか業が深いものよ」


 復興している世界を見回し、クライムは考える。


「世界は救われた。復活したのならその行く末を見守る義務が我にはある。肉体の持ち主にはすまないがこのまま体を・・・」


 クライムはそこで言葉を止める。


「ずっと我を探っていたか、お前たち」


 彼が振り向くとそこにいたのはかつて最終決戦でしもべとした二人の少女の姿。


「・・・驚かないのね」


 契約者としての姿をした月菜は冷静なクライムにそう声をかける。


「転送の気配はあった。おそらく、あやつの仕業だろうな」


 クライムの脳裏にあるのは彼の動きを止める一撃を超遠距離から放った存在。


「・・・あやつ?だれなの?」


「第七の契約者・・・」


 クライムは最終決戦の時、致命的な隙をさらした場面と同じように上空を見上げる。


「あの場には七人目の契約者がいたということだ」


「あそこに他の誰かがいたと?それも私たちが把握していない契約者が?」


「奴の実力・・・我でも測れぬ。相当な猛者であっただろうよ」


 クライムはそう告げて二人と対峙する。


「すでに我は敗れた身。世界が出した答えを復活したとはいえ無下にせん。だが、その先を見届けたいとは思う」


 クライムは考える。


「少しこの者の肉体を間借りすることにはなるがな」


「あなた・・・契約したのね」


「それで瀕死から復活か」


 月菜はクライムが行った復活の手段を察し、隣の少女―ーマリアが苦い声を出す、


「だが、世界の脅威が復活した事には変わらん。そう思うのなら挑んでくるがいい。我も完全ではない。今なら倒せるかもしれんぞ?」


「いわれなくても・・・っ?!」


 月菜が言葉を止める。


「どうしたの?」


「何かがつながった感じがして・・・・えっ?」


 その答えは上空から降り立ってきた。


「…見つけた。やっと」


 その名は陽菜。契約者としての姿でその場に飛んできたのだ。


「陽菜姉さん?!どうして・・・」


 慌てる月菜を手で制する陽菜。


「詳しい話はあと。こっちも色々といいたいこともあるし、聞きたいことだって沢山だよ。でも、まずは目の前のこいつから」


「・・・その辺の切り替えのよさは姉さんらしい」


 陽菜と月菜は復活したクライムと並んで対峙する。


「・・・はあ。しかたないわ。今のクライムを止めるために共闘ね」


 アリスという少女も後ろでタクトの様な杖を構える。


「月菜の相棒・・・でいいのかな?色々とありがとう」


 あいさつ代わりに陽菜がアリスに告げるのはお礼だ。


「あなたのおかげで月菜は孤独にならずに済んだから」


「・・・受け取っておくわ。その上でお願い、クライムをそのままにしておけないから」


「いわれなくても、一度倒した者としてきっちりと始末はつけるわ。あいつの力はそれだけ危険なのだから」


 陽菜は手に剣を召喚し、それを構える。


「我は世界を滅ぼすつもりはない。だが、同時に我自身の危険性もわかっている。その上で、黙ってやられるわけにはいかんのでな・・・抵抗させてもらおう」


 クライムもまた全力で抵抗するつもりのようだ。


 緊張が走り、空気が張り詰めていく。


――――んん?なんだここ?


 一触即発の事態に、響き渡るのは全く別の声。


 その声に驚くのはクライムである。


「何?なぜ目を覚ました?」


―――…起きたら妙なことになっている。あっ・・・


 その人物はクライムの中からともに並んでいる陽菜と月菜を見て驚きの声をあげる。


――――大体状況は理解した。まったく、こっちが眠っている間に欠片に残っていたデータを契約という形で復元させてくるなんて驚いた


「ぐっ、身体の自由が・・・」


 クライムの体の動きが鈍る。


――――もともと私の体だ。起きたらこっちの意思で動くのは当然だろ?


「だからといって、なんだこの契約者は・・・」


 何やら一人二役の一人芝居をしているような様子のクライム。


「なんだかわからないけどチャンスなのは間違いないね」


 それを好機として攻撃しようとする少女三人。


――――――それは困りますねえ


 そんな三人に襲い掛かるのは閃光。


 それに気づいた月菜が陽菜を庇うように押し・・・その閃光が月菜の体を貫く。


 吐血しながら落下していく月菜。それを見て陽菜はとアリスはとっさに急降下。


「月菜ああああぁぁぁ!!!」


 力なく落下する月菜を抱きとめる陽菜。


 そのまま地上へ降り立つ。


 月菜はまだ意識があるようだが、けがは決して軽い物ではない。


「ぐっ・・・」


「喋らないで!!フェニックス!!」


 その言葉と共に陽菜の背後に彼女の契約守護神である炎の不死鳥――フェニックスが顕現。聖なる光で月菜の腹の傷を癒そうと試みる。


 だが、その治りは遅い。


「血が止まらない。どうして?!フェニックスの力はこんなものじゃないのに」


「呪いがかかっているのよ」


 焦る陽菜の側に現れたのは紫の本。その中からとんがり帽子をかぶった美しい茶色の髪の魔女が現れたのだ。


 それを見たフェニックスは驚きを隠せない。


――お前は始祖の魔女リリス・・・色欲の魔神であるお前がどうして契約を!?


「詳しい話はあと。この子は死なせたくないの」


 魔女は月菜に手をかざし、その傷にから黒い靄のようなオーラを取り除いていく。


「呪術の類は任せてあなたは治療に専念しなさい」


――――わかったわ。私の力だけは呪術には対応できない


 魔女は治療しながら告げる。


「私の名前はリリス。始祖の魔女にして七つの大罪――色欲を司る魔神。私の子孫であるアリスと契約をかわしている。この子にはアリスが大変お世話になっているの。だから救うことを手伝わせて」


 魔女リリスの言葉がきっかけでその場にいる皆が一致団結で月菜を助けるべく動く。


 治療のために動けない二人にまた別の矢が飛んできてそれをアリスのタクトがはじく。


「・・・不意打ち。位置がわからないわね」


「それはそうですよ」


 クライムの体に巻き付く無数の鎖。


「魔封じの鎖の味はいかがですかクライム?」


「死神・・・」


 彼の側に現れるのは大鎌を手にしたスーツ姿の男。


 其れはすべての元凶。クライムを復活させ、月菜とアリスを操り、肉親を殺させた男――死神である。


 その姿を見た月菜とアリスの表情が怒りに歪む。


「ぬけぬけと我の前に姿を現すだけのことがあるということか」


 彼はクライムの逆鱗にふれ、撤退している。洗脳させての行為はそれだけ許せないことであったのだ。


「我が主がお前の能力が欲しいというのですよ。データに分解させてその能力だけ取り出してほしいと」


 動けないクライムに鎌をステッキのように回しながら迫る死神。


 その鎖を引きちぎろうともがくクライム。


「さあ、世界を滅ぼしうる力を手に入れさせ貰いますよ。邪魔な契約者はそのあとで始末させてもらいましょう。今は足手まといの治療のおかげで動けないでしょう?」


「悪辣な手を」


「月菜を救ったら待っておれタナトス!!お前にはいろいろと聞きたいこと、ぶつけたい恨みがあるのでな!!」


 彼に対して魔女すらも怒りをぶちまけている。リリスですらも怒りを隠していない。


「ごめ・・・ん・・・みんな」


「あなたは悪くない。でも・・・あいつ!!」


 アリスが必死でどこからともなく飛んでくる閃光の様な矢から後ろ二人を守る。


 クライムの首を刈り取らんとする死神。


 その鎌がクライムの首を捉える前に・・・


―――――そんな馬鹿なことをさせると思ったか?


 クライムの体から突如出てきた手に摘ままれて止まっていた。


「えっ?」


―――――ずっと・・・ずっとお前を探していた


 クライムの体から出てくる別の声。その声がもたらす威圧に死神は引こうとして鎌が全く動かないことに気づく。


―――今までお前がしてきたことに対する礼をするために。それに加えて月菜を傷つけたな・・・陽菜を泣かせたな?


 その声が伝えてくるのは圧倒的な怒り。


 その怒りと共に天から黄金の稲妻が無数に落ち、クライムを拘束している鎖を打ち砕く。


「なっ、なんだ?クライムは一体何と契約・・・」


――――エキドナ・・・来い!!


 その言葉にクライムの側に現れるのは黄金の本。それが開かれ、黄金の竜が出てくる。


「いきなりお主が消えたからどうしたのか思えば・・・また奇妙なことになって・・・うむ、なるほどのう逆鱗というわけか」


 エキドナが当たりを一瞥し彼の怒りの理由を察する。


「ひっ?!もしかしなくてもあの竜は・・・」


――――お前に滅びをもたらしてくれよう


<サモン・ザ・ガーディアンズスピリット!!>


 力のある言葉とともにクライムの中から現れたのは黄金の契約者。


「ひっ、なんで黄金の魔王がここに?!」


「そんな馬鹿な・・・第七の契約者だと?」


 驚き、戸惑う死神とクライム。


「・・・その名を知っている?どういうことだ?」


 死神の発言に黄金の魔王のはせられる圧がさらに強まる。


 その視線が死神を射抜き・・・見抜く。


「お前・・・タナトスか。生きていたとはな・・・」


―――正確には何らかの方法で蘇ってきたと考えるべきじゃのう。あれだけ完膚なきまでに滅ぼしたはずじゃのに・・・生きていたとはのう。そして、それがこの世界での災厄にかかわっているとなれば・・・


 契約者の後ろに現れる黄金の龍――エキドナの口からも怒りが漏れてる。


「・・・そうか・・・そうか・・・はははははは」


 すべてを悟った黄金の魔王ことーー星矢は笑う。


「あーはははははははは!!」


 まるで狂ったかのように。


「鴨が葱を背負ってやってきたというわけか。怒りの対象が一つにまとまるなんて、向けるべき怒りが増して頭が可笑しくなりそうだぞ?」


 その言葉と共に掴んでいた大鎌を握りつぶす死神ことタナトス。


「なあ・・あ・・・」


 武器を砕かれよろよろ後ずさるタナトス。


「・・・月菜を撃ったやつはそこか」


 視線をとある山に向ける。それと共に山の一角が黄金の大爆発を起こして消滅。


「な・・・あ・・・ああ・・・」


 その光景を見たタナトスは恐怖のあまりにがたがた震えながら後ろに飛びのく。


『覚悟はいいか?』


「ひっ・・・ちぃぃぃぃ!!」


 その言葉に対して死神が行ったのは逃走。


 それもまだ伏せていた援軍による無数の矢。そしてその矢から放たれる無数の爆音と閃

光。


 さらにとこから転移も使ったのだろう。綺麗に姿は消えていた。


「・・・一度滅びを体験したせいか。逃げ足だけは速くなったようだ。忌々しい、今度会ったら弟達と共に討ってくれる」


 逃げたことに軽く憤慨しつつ、星矢は今の状況の整理を始める。


「強いと思っていたが、ここまでとは。全盛期の我でも相手にならんな。どうやらとんでもない相手と契約を交わしてしまったらしい」


 クライムは己の動きを封じた第七の契約者の実力の一端を見て、素直に称賛を送る。


「勝手に契約してくれて。お前にはついてきてもらうぞ。おかげでこの姿を彼女達に見られてしまった。その補填を行わないといけない」


 星矢が視線を下に向けると、そこには唖然とした様子の陽菜、月菜、アリスの姿が。


「・・・そうだな。今更逃げるつもりはない。お前と契約をしたのは他でもない我だ」


―――潔いのう


「一度ならず二度も敗れた身だからな。それに興味もある。我が初めて契約した相手故。それに聞きたいこともある」


 エキドナがクライムの周りを飛び回りながらクライムとともに転送の準備に入る。


 その中で星矢の視線が真下で唖然とした様子で見上げる陽菜達に向けられる。


「なによ・・・あんたら」


 陽菜のその言葉にどう答えたらいいのかわからない星矢は考える。


―――できれば、この姿を見られたくなかったな


 この次のためにどうすればいいのは想定していた、


――――だが、見られたからには計画を次の段階に進めないといけないか


「本当は表に出るつもりはなかった。だが、こうして顔を合わせてしまったからには仕方ない。だが、挨拶は次の機会にさせてもらう。こちらも立て込んでいるのでな」


 そのための布石を置き、彼は姿を消す。


 黄金の魔法陣が彼らの足元に展開され、星矢達はその場から消える。


 その光景を陽菜達はただただ唖然と見ることしかできなかった。




 帰還した星矢を待っていたのは更なる事態だった。


「恩返し・・・という意味では間違っていないが」


 とある部屋の中で翔矢と勇矢がとある人物を連れてきていたのだ。


「ベルゼブブを助けることになるか。報告を聞かせてほしい」


 ボロボロの状態で眠り続けるベルゼブブ。それを連れてきた二人の報告を星矢は聞くことにした。

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