真夜中の恋情

はなねこ

貴方をを想う。

暑い季節をすぎ、すっかりすずしくなってきた頃。私の部屋の時計は午前2:36を指していた。私はベッドにもぐりながらのことを考えていた。明日は木曜日。当然とうぜん仕事はあるし寝なければならない。でも、日頃ひごろの疲労を吹き飛ばすくらいにあの人が好き。


「もう寝なきゃ......」


そうつぶやきつつも思考をやめることはできない。

松井翔太まついしょうた。それが私こと中村澪なかむらみおの好きな人の名前だ。

でも私の気持ちは彼には届かない。彼には私よりも素敵すてきな彼女さんがいるから。

だからこの気持ちは忘れなきゃ。すべて洗わなきゃ。


時刻じこくは午前7:15。


「そろそろ会社に行く準備しないとな......」


結局一睡いっすいもできなかった。一晩中ひとばんじゅう彼のことを考えていたから。

いつものようにテレビをつけ、ニュース番組を見ながら歯磨きをする。

そんな日課をこなしているとスマホから通知音が鳴った。

ピロリンッ!でも、確認するのは面倒くさかったから確認しなかった。そう。私は面倒なことは避けるように生きていた。喧嘩もしたくないからただ指示に従うだけ。会社でも恋でも。


支度を終えてテレビを消そうとしたとき、星座占いがやっていた。

普段は全く気にもとめないのに今日はなぜか気になってしまった。


「えーと......おとめ座は......」


9月15日生まれの私はおとめ座だ。


「今日もっとも運勢の悪いのはおとめ座のあなた~」


気になって見た日に限ってこれだ。


「でも大丈夫、そんなあなたを助けるラッキーアイテムは思いを伝えることです~」


それラッキーアイテムじゃないじゃん。っていうツッコミはおいといて......


「想いを伝えるか......私には無理だな......」


真夜中に考えていたことを思い出す。私の中では思いを伝えるじゃなくて、想いを伝えるということ。友達としての好きなのか、恋愛的にその人のことを好きなのか......

でも自分の気持ちを伝える勇気は変わらずない。

ガチャ。戸締りをしっかりして私は会社へと向かった。


電車に乗り、2駅ほど後に降りて5分程歩けば、私の勤めている会社がある。

電車に乗っているときはいつも電子書籍で本を読む。そうしていると3秒でつくような感覚だ。


会社に着くといつもの景色が広がっていた。

いつもと変わらない社内の雰囲気。いつもと変わらない社員。

その社員の中に私が想っている人、松井翔太まついしょうたはクールな表情でコーヒーを飲んでいた。真夜中のことを思い出し、自然と彼の方へと視線がいってしまう。

そんなときビチャ!という音が鳴った。その音の正体は彼がコーヒーを溢したということだった。コーヒーは白いワイシャツを黒く染めて、大変なことになっていた。

周りの人が大丈夫?と声をかける前に私は彼の近くに寄りハンカチで黒に染まったワイシャツを拭いていた。想いを伝えることもできない臆病な私だけど今この瞬間は彼のことをここにいる誰よりも想って行動している。言葉で伝えた訳じゃないけど、行動で伝えることはできたかもしれない。


「ありがとうみおさん。でもハンカチが......」

「ハンカチなんてどうとでもなります。それよりも松井まついさんは大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ。本当にありがとう。そうだ!今度必ず何かお礼をするよ」


私たちの会話は客観的に見て短かったが、私は人生の中で1番長く感じた。

勤務時間を終え、駅まで向かって歩いていると後ろから走ってこちらを向かってくる人がいた。松井さんだ。


「ハアハア......やっと追いついた。もう帰っちゃったかと思ったよ。」

「どうしたんですか松井さん?お礼ならいらな......」


私がお礼はいらないといいかけた瞬間彼は私のことを抱きしめた。

いろんな疑問が頭の中でぶつかり合って頭が痛い。


「君の事が好きです!澪さん!」

「......!!!!!」


言葉が出なかった。私は嬉しさのあまり膝から崩れ落ちてしまった。

ポロポロ......本気で泣いたのは何年ぶりだろうか。


「泣かせるつもりはなかったんです......でもどうしてもこの気持ちを伝えたくて......!」


彼は慌てた姿でそう私に言ってきた。


「アハハ!」

「何が面白いんですか!」


私の涙は次の瞬間には違うものに変わっていた。


「好きだよ!翔太しょうたくんっ!」


笑顔でそう想いを伝える私の声はまだ涙声から戻っていないようだった。

後日私たちは付き合うことになった。翔太に彼女がいたということは嘘。友達に会社の同僚に彼女いるの?と聞かれたときに意地を張ってそう答えていたらしい。笑えるよね。そして入社当時から私のことを好きだったらしい。

想いを伝えるということは決して言葉だけじゃない。私はそう感じた。












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